第116話
本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。
お忙しい方は、会話文「 」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。
「何を申す… 私には、そなたしかいないのだ。
神であろうが人であろうが、私の心をこれほどまでに震わせ、至高の一滴を醸し出させてくれたのは、世界中でそなた一人なのだ」
ディオニュソス様は、アリアドネの小さな手を、壊れ物を扱うかのように優しく、しかし決して離さないという強い意志を込めて包み込みました。
その真っ直ぐな瞳には、もう古いギリシャの支配的な影など微塵もありません。
「は……はい。お受けいたします、ディオニュソス様……」
アリアドネは、目にいっぱいの嬉し涙を溜めながら、弾けるような、世界で一番幸せな笑顔を咲かせました。
「よっしゃ!!!」
静まり返っていたリビングで、誰よりも先に歓喜の声をあげたのは、エプロン姿の素戔嗚尊様でした。
「おめでとう、アリアドネちゃん! ディオニュソス様も、よくぞ言った!」
「もーっ、本当にごちそうさまじゃのう! 最高にキュートなプロポーズだったわ!」
天照大御神様も自分のことのように大はしゃぎで冷酒のグラスを掲げています。
イザナミ様は、そっと目元を拭いながら、どこまでも深い大母神の慈愛に満ちた微笑みを二人に向けました。
「ふふ、これでやっと安心じゃのう。主、その真っ直ぐな誓い、生涯……いや、永遠に忘れるでないぞ?」
「はっ! 決して忘れません、イザナミ様!」
ヘラ様もまた、自国の若き神の素晴らしい成長と、自立した二人の新たな門出を、これ以上ないほど誇らしげに、うっとりと見守っていました。
台所から大国主様が「お祝いの、特製生ハムとチーズの特大プレートですよ!」とおつまみを運び込みます。
湘南の澄んだ夜空の下、七里ヶ浜の白い家には、極上のワインと日本酒が次々と注がれ、神話の壁を完全に超越した、どこまでも温かくかしましい「婚約お祝い大宴会」の笑い声がいつまでも響き渡るのでした。
「なんじゃ、妾が磐長姫ちゃんを呼んで、永遠の命を授けようと思っておったのじゃが、ゼウス様もヘラ様や妾達に鼻の下を伸ばすばかりではないのじゃのう!」
天照大御神様が冷酒のグラスを片手に、ケラケラと本当に楽しそうに笑い声をあげていました。
白いワンピースが、その動きに合わせて軽やかに揺れています。
「さようよな。全知全能と自ら申しておったり、ヘラ様にこっ酷く叱られておったりするので、中々に痛い男じゃと思うておったが、流石はギリシャの主神なのじゃなあ」
イザナミ様がお猪口を傾けながら、随分と身も蓋もないことをのたまうと、その隣でヘラ様もまた「まったく、その通りですわ!」と言わんばかりに、ケラケラと上品に、しかし本当に楽しそうに笑っていました。
「あの夫も、身内の手柄や頼みとなれば急に主神らしい顔をしたがる男でしてねえ。
ディオニュソスの功績を前にしては、意地を張ることもできぬでしょう」
ヘラ様がそう言って、素戔嗚尊様が炙ってくれた子鯖を愛おしそうに口に運びます。
アリアドネは、大好きな日の本の神々と、自分をこれ以上ないほど大切に想ってくれるディオニュソス様が並んで座っているその光景が嬉しくてたまらないようです。
ほんのり頬を染めたまま、輝くような笑顔を浮かべていました。
ディオニュソス様もまた、自ら買ってきたチーズや生ハムがみんなに大絶賛されるのを見て、喜びを全身で噛み締めています。
ギリシャの絶対的な理と、日の本の温かな日常が、極上のワインと小鯖の香ばしい匂いの中で、これ以上ないほど完璧に調和していました。
そうしてかしましく、温かいお祝いの夜はどこまでも更けていき、その日はディオニュソス様も大切な新しい家族の一員として迎え入れられたのでした。
次の日、ディオニュソス様、ヘラ様、アリアドネの三柱は、イザナミ様にペルセポネ様が待つ冥界へと送り届けられました。
そこからアリアドネ一行は時空を越えて、古代ギリシャ、オリュンポスの神殿へと帰還を果たします。
テセウスが築き上げたアテナイの繁栄と、ディオニュソス様が持ち帰った日の本の土産話は、驚きを禁じ得ませんでした。
ディオニュソス様はゼウス様の前で凛とした態度で宣言しました。
「私は彼女と愛を誓った。父上、アリアドネに神としての永遠の命を授けていただきたい」と。
かつて日の本でヘラ様に「三行半」を突きつけられそうになったゼウス様にとって、今のヘラ様の機嫌を損ねることは死活問題です。
そして何よりも可愛い我が子であるディオニュソスの頼み、ゼウス様は二つ返事で快諾し、その権能を以てアリアドネに永遠の命を授けました。
こうして彼女は、クレタ島の王女から日の本の神子を経て、正真正銘のギリシャの神々の一員として迎え入れられることとなったのです。
ヘラ様は全能の神たる夫を鋭く、しかしどこか楽しげな瞳で見据え、詰め寄りました。
「そなた、まさか忘れてはおらぬでしょうね? あの時、日の本で誓った『お詫びの城』の話を。約束の城は、まだなのですか?」
「ひ、ひえぇ……! わっ分かっておる、分かっておるともヘラよ! 今まさに、ヘパイストスに最高級の大理石を切り出させておる最中なのだ!」
ゼウス様が慌てて言い訳をするその横で、アリアドネはディオニュソス様の手を優しく握り、ニコッと輝くような笑顔を浮かべていました。
かつてナクソス島で絶望に暮れていた少女は、今やオリュンポスで最も幸せな女神の一人として、新たな神話のページを綴り始めました。
いつもご愛読いただき有難う御座います。
ディオニュソス様の男前なプロポーズから大宴会、そしてオリュンポス帰還後のアリアドネ神格化と最高の大団円を迎えました。……が、その裏ではヘラ様から「お詫びの城」の進捗を詰められ納期に追われる全能神ゼウス様が。。
「めでたしめでたしの裏で城の納期に追われる全能神、自業自得だけどまあ頑張って」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。




