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どちら様ですか?~ナクソス島に置き去りにされたギリシャ王女、日本の神々に溺愛されました~【第一部完結済】  作者: 夜見猫
第八章 ディオニュソスの昼想夜夢

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第107話

本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。

お忙しい方は、会話文「  」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。

「なっ……! なんだこれはぁーーーーっっ?!!」


あまりの衝撃と旨味の暴力に、ディオニュソス様は己の立場も忘れ、食堂中に響き渡るような大声を出してしまいました。


獲れたてのシラスの、あの微かなほろ苦さと、生姜醤油のピリッとした爽やかさが完璧に調和し、噛むたびに口の中で海の生命力が弾けるような美味。


その大声を聞いた素戔嗚尊様は「くっくっく」と肩を揺らして静かに笑いました。


だが、その声に気づいたイザナミ様は、一瞬だけ目を見開いたものの、すぐに冷ややかな「ジト目」になり、離れた席のディオニュソス様を無言のまま、じーーーっと見つめています。


「あっ……やってしまった……」


ディオニュソス様はガシッと顔に手を当て、深いため息をつきました。


周囲の注目を集めるような大声を出してしまった己の失態に、今更ながら頭を抱えてます。


離れた席からは、天照大御神様が


「むっ? なぜあやつがここにおるのじゃ?」


という顔で不思議そうにこちらを眺めてます。


「素戔(すさ)……其方(そなた)の仕業じゃな?」


イザナミ様が、すべてを見透かしたような低い声音でささやき、隣の男神へ視線を向けました。


「いや?俺は奴にここが美味いって話しただけですぜ?」


素戔嗚尊様はわざとらしく両手を広げ、口笛でも吹きそうな顔で知らんぷりを決め込んでいます。


当のアリアドネは、急に響いた大声に一瞬だけ驚いたように肩をすくめたものの、怯える様子など微塵もなく、興味深げにその様子を見つめ、どんぶりを持ったまま悪戯っぽく微笑みます。


「ふふっ! ディオニュソス様も、やっぱり日の本のB級グルメの魅力には敵わないのですわ!」


アリアドネが誇らしげに、そして本当に楽しそうに声を弾ませると、イザナミ様のジト目も、徐々に柔らかなものへと変わっていきました。


「ふふっ、確かにあやつも、これはたまらんじゃろう。


……わざわざここまで、のこのこと付いて来たからには、少しは反省したのやも知れぬのう」


「はっ! しまったわ!」


その時、ヘラ様が自分のどんぶりを前にして、ポンと小さく膝を叩きます。


「奴の顔を見たら、お酒を頼むのをすっかり忘れていたことに気づいてしもうた!」


女王が服を揺らしながら愛嬌たっぷりにそう悔しがってみせると、イザナミ様も思わず「ぷっ」と美しく吹き出しました。


「アハハ! ヘラ様ったら、本当に日の本の宴に馴染むのが早いわね!」


天照大御神様もケラケラと笑い声をあげています。


ディオニュソス様の驚きの声で一瞬だけ凍りつきかけた食堂の空気は、女神たちの温かい笑顔と、ヘラ様の粋な一言によって、あっという間にいつもの和やかな日常へと戻りました。


離れた席でその笑い声を聞きながら、ディオニュソス様は、胸の奥がじんわりと温かくなるような、不思議な安心感に包まれています。


イザナミ様が一旦箸を置くと、遠くの席のディオニュソス様へ向けて指先をちょいちょいっと動かしました。


ディオニュソス様は一瞬、昨夜のあの世界の底に引きずり込まれるような圧倒的な恐怖を思い出し、全身を硬直させました。


しかし、ここで背を向ければそれこそどんな恐ろしい目に遭うか分かりません。


葡萄酒の神は意を決し、スプーンと丼をかかえ、おそるおそる5人の待つテーブルへと歩み寄り、促されるまま同席しました。


「心配するでない。このような場所で貴様をどうこうするつもりはない」


イザナミ様は、波一つない静かな海のような声で告げました。


「じゃがな、アリアドネちゃんに何か言うことがあるのではないかえ?」


その真っ直ぐな問いに、ディオニュソス様の喉が小さく上下します。


「まあまあ、ヘラ様のご指摘の通り、少し酒でも入れましょう」


緊迫した空気を察した素戔嗚尊様が、すかさず店員を呼んで地元の冷酒を注文しました。


手際よく全員の前に小さなお猪口が配られ、素戔嗚尊様が透明な液体をなみなみと注いでいきます。


イザナミ様は、そのお猪口を躊躇いなくクィッと一口で飲み干しました。


そして、静かに器を置くと、再びじぃーっとディオニュソス様を見つめます。


その圧倒的な威厳に気圧されつつも、ディオニュソス様もまた、手元のお酒を口に含みます。


すると、米のふくよかな香りが喉を通り、胃腑がじんわりと温まり、不思議と先ほどまでのパニックが消え、落ち着きが戻ってきました。


葡萄酒の神は、隣で小さくなっているアリアドネを真っ直ぐに見つめ、静かに頭を下げました。


「……すまなかった」


その一言に、アリアドネは「えっ……」と息を呑み、目を見開きました。


絶対の存在であり、人に頭を下げることなどあり得ないはずの古代ギリシャの神が、ただの人間の少女である自分に謝罪したという事実は、彼女にとって計り知れない衝撃でした。


そこへ、素戔嗚尊様がディオニュソス様の背中をバンっと力強く叩きました。


「ほらっ! なんであんなことを言ったのか、ちゃんと説明してやれよ!」


その男気溢れる促しに、ディオニュソス様は小さく頷きました。


イザナミ様は、神としてのプライドを捨てて素直に謝罪した彼の態度、そして弟の素戔嗚尊様が何か事情を知っているらしいことを察し、お猪口を指先で弄びながら、ふっと声音を和らげます。


「ほう。あの高圧的な発言には、理由があったと言うか。……ならば、申してみよ」


大母神の瞳に、ほんの少しだけ、彼のことばに耳を傾ける温かい光が灯りました。


いつもご愛読いただき有難う御座います。

スサノオ様のアシストと冷酒の力で、神のプライドを捨ててアリアドネに謝罪した酒神が、いよいよ真意を語り始めます。


「絶叫即バレ連行される酒神、テセウスと同レベルだな」と思った方は【評価(★)、ブックマーク登録】をお願いします。

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