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どちら様ですか?~ナクソス島に置き去りにされたギリシャ王女、日本の神々に溺愛されました~【第一部完結済】  作者: 夜見猫
第八章 ディオニュソスの昼想夜夢

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105/129

第105話

本作は情景や心理描写を丁寧に描いているため、長めの文章構成になっています。

お忙しい方は、会話文「  」、キャラクター名、心の声( )を中心に追っていただくだけでも、テンポよくストーリーをお楽しみいただけます。

「ディオニュソス様よ、ちょっと付き合ってくれ」


素戔嗚尊様はポケットから手を抜くと、そう言って海岸線を歩き出しました。


夜の波音がザザンと足元で砕ける中、ディオニュソス様はその背中に導かれるように、黙って砂を踏みしめていきます。


しばらく歩くと、砂浜のすぐ近くに佇む落ち着いたホテルの灯りが見えてきました。


素戔嗚尊様はフロントへ手続きを済ませると、部屋の鍵をディオニュソス様に手渡し、静かにこう告げました。


「やっちまったもんはしょうがねえ。


だがよ、あんたの愛が本物だって言うのなら、しばらくここで過ごし、よく考えるといい。


そして、アリアドネちゃんを遠くからでも、彼女が姉貴達とどう過ごしているかを、よく見るといい」


ホテルの窓からは、七里ヶ浜の海岸線が一望できました。


遠くには、先ほどまでいたあの温かい白い家の明かりがぽつんと小さく輝いています。


「俺もカミさん(奇稲田姫様)を守る身だ。

おまえさんの気持ちはよく理解できる。


だが、お前さんはアリアドネちゃんの気持ちは、まだ理解できてねーんじゃねーのかな?」


素戔嗚尊様は、少しだけトーンを落としてそう語りかけました。


ディオニュソス様と同じように一途な愛を抱く男神としての、芯の通った言葉です。


「まあ、説教がましいのは神に対して失礼だったな」


素戔嗚尊様がふっと自嘲気味に微笑むと、ディオニュソス様は慌てて首を振りました。


「そっ……そんな、貴方様ほどの神が何を言われますか。……有難う御座います。


頂いた時間を大切に使い、彼女のために何が良いのかを、もう一度考えます」


葡萄酒の神の瞳には、先ほどの恐怖の震えではなく、自らの内面を見つめ直そうとする静かな光が宿り始めていました。


「ふふっ、その気持ちがあれば、きっと通じるさ」


素戔嗚尊様は短くそう言って彼を送り出すと、夜の冷たい海風を浴びながら、大切な女神たちが待つ白い家へと一人戻っていきました。


翌朝、キッチンには、トントンと小気味よい包丁の音と、出汁の優しい香りが漂います。


エプロンを身に纏った素戔嗚尊様が、いつも通りに朝食を作ってました。


「よう、アリアドネちゃん。よく眠れたかい?」


素戔嗚尊様が振り返り、穏やかな声をかけます。


「はい。おかげさまで、本当によく眠れました。


……あの、本当に昨日はすみませんでした。


私がもう少し、自重していれば良かったんです」


アリアドネは、少し申し訳なさそうに視線を落としました。


「おいおい。そんなこと言うと、姉貴達が悲しむぜ?


姉貴達はアリアドネちゃんと一緒に過ごすのが、何よりも楽しいんだからな!」


そのぶっきらぼうでありながら温かい言葉に、アリアドネの胸がいっぱいになります。


「えいっ! ハグです! どうですか?! 日の本の闘神様!」


アリアドネは素戔嗚尊様の背中へ勢いよく飛びつき、泣きそうな顔をぎゅっと押し付けました。


「ぐあっ?! ちょっ、ちょっとたんま!


姉貴達に続いて、そんなに俺をいじらないでくれー!」


素戔嗚尊様は狼狽し、耳まで真っ赤にして照れまくっています。


そのコミカルな反応に、アリアドネの胸の仕えがすっと消えていきました。


「ふふっ! やっぱり、私はまだまだですね!」


アリアドネは背中から離れると、いつものニカッとした弾けるような笑顔を向けました。


本当は、素戔嗚尊様の大きな背中の温もりにドキドキしてしまっていたのですが、照れ隠しで子供のふりをしてました。


「おいおい、そんなキュートな顔されちゃ、手元が狂って指を落としちまうよ!」


「へへっ! やっぱりスサノオ様は、本当にお強くて紳士でお優しいですわっ!」


すっかりいつもの元気を取り戻したアリアドネ。


リビングの入り口からその様子をそっと覗いていたイザナミ様と天照大御神様は、顔を見合わせてホッと深い安堵の息を漏らしました。


昨夜の重苦しい影は消え、七里ヶ浜の白い家には、またいつも通りの温かく眩しい朝が訪れました。


朝食を終えた一行は、今日の目的地である江ノ島へ海産物を買い求めるため、賑やかに歩き出しました。


驚くべきことに、ヘラ様もすっかりこの湘南の気候とスタイルが気に入ったようで、軽やかなファッションに身を包んでます。


今や女王様はプチプラ服すらも気品高く着こなしていらっしゃいました。


そんな中、素戔嗚尊様はさりげなく歩くルートを調整し、ディオニュソス様が宿泊しているホテルの前を通り過ぎます。


窓の向こうへそれとなく目配せで合図を送ると、案の定、物陰から距離を置いてディオニュソス様が静かについてきているのを背中で確認し、一同はそのまま楽しく散歩を続けました。


海岸沿いを進むと、江ノ電の踏切にたどり着きました。


そこにはアニメの聖地巡礼に訪れた大勢の観光客たちが、カメラを構えてポーズを取っています。


「キャーッ! ここです、ここですわよ天照様、お姉様! ここが例の有名な踏切ですわ!」


アリアドネが目を輝かせ、観光客たちに混じって満面の笑顔でポーズを決めます。


イザナミ様も天照大御神様も「ほう、ここがそうかえ!」「じゃあ妾も一緒に!」と、少女のようにはしゃいでスマートフォンのメモリを埋めて行きます。


ヘラ様はさすがにその輪の中に入るのはまだ少し恥ずかしいようで、一歩引いたところから


「まったく、騒がしい人たちね!」


と呆れつつも、その口元からはケラケラと楽しげな笑い声が漏れてました。


いつもご愛読いただき有難う御座います。

スサノオ様の粋な計らいでホテルから反省観察モードに入ったディオニュソス様をよそに、すっかり元気を取り戻したアリアドネちゃんたちは江ノ電の有名踏切で聖地巡礼を満喫中。


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