第三章 測定不能
魔法学院への馬車の中、俺はずっと窓の外を眺めていた。
石畳の街並み、露店、魔法で灯された街灯。異世界だ。本物の異世界だ。小説で何百回も読んだ光景が、今は目の前にある。
興奮する。すごく興奮する。でも——
スカートのすそが足にあたる。また現実に引き戻される。そうだった。俺は今、女の子だ。馬車の座席に行儀よく座る銀髪の美少女。鏡みたいな窓ガラスに映る自分の顔が、まだ信じられない。
「アリア様、もうすぐ到着でございます」
御者台から声がした。俺はこっそり深呼吸した。
よし。気持ちを切り替えよう。俺がずっと夢見てきた魔法の世界だ。女の子になったのは想定外だが、チートの膨大な魔力はある。ファンタジー小説で培った知識もある。
無双するしかないだろ。
魔法学院——アルテリア王立魔法学院は、想像の三倍はでかかった。
正門をくぐった瞬間、思わず首が上を向く。尖塔が空に突き刺さるような石造りの建物が、いくつも並んでいる。中庭では生徒たちが魔法の練習をしていた。炎が飛び、水が舞い、風が渦を巻く。
「すげー」
思わず素が出た。
隣を歩いていた案内役の職員が振り返る。三十代くらいの眼鏡をかけた男性で、名前はたしかリード先生と言った。
「ご感想は?」
「あ、いえ……素晴らしい学院ですね」
リード先生は少し目を細めた。「シルヴェスト家のご令嬢がそのようなくだけたお言葉を。変わった方ですね」
「……よく言われます」
嘘だ。言われたのは今日が初めてだ。
入学手続きはスムーズに終わった。問題は——その後だ。
「では新入生の皆さんには、魔力測定を行っていただきます」
大きな広間に、今年の新入生が集められていた。数えると三十人ほど。貴族の子弟らしき着飾った生徒から、庶民出身らしい緊張した顔の生徒まで様々だ。
中央に置かれているのは、透明な水晶球だ。これは小説でよく見た。手を当てると魔力量と属性が表示される、あれだろう。
「一人ずつ前に出て、水晶に触れてください」
生徒たちが次々と測定を受ける。「Cランク」「Bランク」「Bランク」——結果が読み上げられるたびに、本人たちが一喜一憂する。
中に一人、ひときわ目立つ男子生徒がいた。金髪を整え、制服をびしっと着こなした、いかにも「俺が主役です」という顔をした奴だ。
「Aランク!」
どよめきが起きた。金髪の男子が「ふっ」と口の端を持ち上げ、余裕の表情で水晶から手を離す。
嫌なやつだ。でもわかりやすいキャラしてるな。
「さすがレオン・ド・クロワ様です!名門クロワ家の御子息!」誰かがひそひそ言った。
ああ、そういうポジションか。俺の知ってる展開だと、こういう奴が最初のライバルになるやつだ。
「アリア・フォン・シルヴェスト」
名前を呼ばれた。俺は立ち上がり、水晶の前に進んだ。
手を当てる。
静寂。
一秒。
二秒。
三秒——
広間が光った。
眩しいほどの白い輝きが水晶から溢れ、天井まで届く光の柱が立つ。測定器の数値が一瞬で振り切れ、何も表示されなくなった。
誰も喋らなかった。
リード先生の眼鏡がずり落ちた。
「……S、Sランク超過」先生が震える声で言った。
金髪のレオンが初めて動揺した顔をした。「こいつ、シルヴェスト?あんな小さい女が?」
俺は涼しい顔を保った。内心では「よっしゃあああ!!!」と絶叫していたが。
神様、ミスの件は全部許します。




