第二章 鏡よ鏡、これは冗談か
最初に気づいたのは、髪の長さだった。
顔にかかる銀色の長い髪。次に気づいたのは、体の軽さ。そして声。「あ」と声を出したら、鈴を転がすような高い音が出た。
俺は部屋の隅にある姿見をゆっくり、非常にゆっくりと確認した。
そこには、銀髪で青い目の、小柄な女の子が立っていた。
年齢で言うなら十四歳くらいか。細い手足、白い肌。どこからどう見ても美少女だった。そして、どこからどう見ても男ではなかった。
「……まじか」
あまりのショックに呆然と立ち尽くす。
まずは状況を整理しよう。この子の記憶が流れ込んでくる。
どうやらここはアルテリア王国という国の貴族の家らしい。小林悠人ではなく「アリア・フォン・シルヴェスト」という名前らしい。両親はすでに亡く、遠縁の親戚が後見人として屋敷を管理しているという。
つまり俺は——いや俺は、という一人称がもうすでに正しいのかどうかわからないが——ひとまず裕福な孤児として転生したらしい。
「アリア様、お目覚めですか」
ノックとともにメイドが入ってきた。年は三十前後、きびきびした動作の女性だ。
「あ、うん。起きた」
メイドが微妙な顔をした。「……『うん』、ですか。いつもと随分お言葉が違いますが」
しまった。前のアリアがどんな喋り方をしていたか知らない。俺は取り繕った。「ちょっと夢を見ていたもので。気にしないでください」
「左様でございますか。本日、魔法学院からお迎えが参る予定でございます。ご入学の手続きのために」
魔法学院。その言葉に、俺の心臓が跳ねた。
来た。ついに来た。これだ。これが俺の求めていた展開だ。
「わかった。準備する」
「かしこまりました。ただ……アリア様、体調が優れないようですが、大丈夫でしょうか」
「……大丈夫じゃないけど、大丈夫です」
メイドは首を傾げて部屋を出ていった。俺は再び鏡の前に立った。
女の子だ。やっぱり女の子だ。なんか……慣れない。すごく慣れない。鏡の中の女の子も、同じように困惑した顔をしている。当然だ。同一人物だから。
「まあ……魔法が使えるなら、なんでもいいか」
俺は開き直ることにした。元ニートの特技は、現実から目を背けることだ。




