第四章 ぼっちなのは前世から
測定会が終わって三日が経った。
俺——アリアは今、完全に浮いていた。
廊下を歩けば視線が集まる。食堂に入れば声が止まる。授業中も隣の席の生徒が少しだけ椅子を遠ざける。
別にいじめられているわけじゃない。ただ——怖がられている。
「ねえ聞いた?シルヴェスト家のあの子、水晶を壊しかけたらしいよ」
「魔力が多すぎると暴走するって本当?」
「近くにいると危ないんじゃ……」
聞こえてるぞ。全部聞こえてるからな。
俺はトレーを持ったまま食堂の端の席に座った。一番端。窓際。誰も来ない場所。
「……まあ、いいけど」
別に友達がいなくても死なない。元ニートはぼっちに強い。引きこもり歴二年の俺に、孤独など恐るるに足らず。
でも——なんか、飯がまずく感じるな。
気のせいだ。
問題は授業だった。
実技の時間、俺はいまだに魔法が使えていなかった。
魔力はある。測定器をぶっ壊すレベルで、ある。なのに出てこない。
なぜか。
俺は三日間考え続けた結論を、昨夜ノートにまとめた。
「魔力って、筋肉と同じなんじゃないか」
つまりこういうことだ。
この世界の人間は、魔力を「感覚」で使う。生まれた時から体になじんだ力だから、理屈じゃなく自然に扱える。子供が歩き方を「理論」で学ばないのと同じだ。
ところが俺の場合、魂は前世の二十四歳の男だ。この体の「魔力の使い方」という感覚が全くインストールされていない。膨大な筋肉を持っているのに、その動かし方を脳が知らない状態だ。
じゃあどうするか。
「感覚でできないなら、理屈で再現するしかない」
俺はそう書いた。
魔法を科学として分解する。原理を解明して、手順に落とし込む。感覚じゃなく、ロジックで動かす。
前世でファンタジー小説を読み漁ってきたのは、実はこのためだったのかもしれない。
その日の夜から、俺は図書館に籠もった。
魔法理論の教科書、古い研究書、過去の魔法士の手記——片っ端から読んだ。
元ニートの唯一の特技は活字を読む速度だ。普通の人間の三倍は読める。引きこもり時代に培った、唯一無二のスキルだ。
読めば読むほど、奇妙なことがわかってきた。
この世界の魔法理論、根本的な「なぜ」がすっぽり抜けている。
「炎魔法は魔力を火属性に変換して放出する」とは書いてある。でも「なぜ変換できるのか」「変換の際に何が起きているのか」は、どこにも書いていない。全員が「感覚でわかるから」で済ませているのだ。
「これ、科学が発展する前の錬金術みたいなもんだな」
俺は呟いた。理屈より経験。再現より勘。
だったら俺が最初に理屈を作ればいい。




