第十四章 農村
ベルタを出る前夜、問題が起きた。
ルカが雇われていたグリード卿の配下——フードの男が宿に乗り込んできたのだ。
「ルカ。約束が違う。なぜまだアリアを引き渡さない」
俺とルカは宿の二階から窓を蹴破って逃げた。
「すみません、窓は弁償します!」
宿の主人に叫んだが、返事は聞けなかった。
街道を全力で走りながら、ルカが言った。
「報告が遅いから確認しに来たんだろ。もうあいつには戻れない」
「ですね」
「俺も指名手配されるかもな」
「なりますね、たぶん」
「……まあいいか」
ルカはあっさり言った。
「もともと好きな仕事じゃなかった」
こうしてルカも追われる身になった。
二人合わせて懸賞金、金貨七十枚以上。
我ながらすごい額だ。
次の街、ドルムまでの道は三日かかる。
地図で確認すると、途中に小さな村があった。名前はカルタ村。人口百人ほどの農村だ。
「一泊させてもらえるかもしれない」
「交渉は俺がする」
ルカが言った。
「お前は目立つから黙ってろ」
「銀髪がまずいですか」
「手配書にそう書いてあったろ」
俺は頭巾を被った。不格好だが仕方ない。
カルタ村に着いたのは、夕方だった。
最初に気づいたのは、静かすぎることだ。
農村なら夕方は一番賑やかな時間のはずだ。家畜の声、夕飯の匂い、子供の笑い声——そういうものが全部ない。
「なんか変だな」ルカが小声で言った。
「同じことを思ってました」
村の入口に、老人が一人立っていた。背が曲がり、杖をついている。俺たちを見て、警戒した目をした。
「旅人か。今は村に人を泊める余裕がない。先へ進んでくれ」
「何かあったんですか」ルカが聞いた。
老人は少し黙ってから、重い声で言った。
「三日前から、村の東の森に魔物が出る。夜になると村まで来て、畑を荒らす。昨夜は家畜小屋が壊された。もう手がつけられない」
「どんな魔物ですか」俺は頭巾の中から聞いた。
老人が俺を見た。「……なんだ、子供じゃないか」
「子供じゃないですが、まあいいです。魔物の話を聞かせてください」
老人はしばらく俺を見てから、諦めたように話し始めた。
大きな熊型の魔物が一頭。体が岩のように硬く、村の男たちが農具で立ち向かっても傷一つつかない。冒険者を呼ぼうにも、この村にそんな金はない。
「三日以内に何とかしないと、村を捨てるしかないかもしれん」
老人の声が震えていた。
俺はルカを見た。ルカが小さくうなずいた。
「解決します」俺は言った。
老人が目を丸くした。
「……お前が?こんな小さい子が?」
「小さくないですが、まあいいです。一つ聞かせてください。その魔物、夜だけ出るんですよね」
「そうだ。昼間は森の奥にいる」
「了解です。今夜、やります」




