第十二章 ルカ
翌朝。
「おはよう、アリア!」
ルカが明るい声で起こしに来た。昨夜の路地裏のことなど、まるでなかったように。
俺は目を開けて、ルカの顔を見た。
「おはようございます、ルカ」
「今日も一緒に行くか!」
「行きます」俺は起き上がった。「その前に一つ聞いていいですか」
「なんだ?」
「昨夜、誰かと話してましたよね。路地裏で」
ルカの顔が、一瞬だけ固まった。
一瞬だけ。でも俺は見逃さなかった。
「……聞いてたのか」
「全部」
沈黙が落ちた。
ルカはしばらく俯いていた。それから顔を上げた。さっきまでの元気な顔じゃない。少し、悲しそうな顔だった。
「……殺したりしないよな」
「しません。魔法は攻撃より実験に使いたいので」
「そうか」
ルカは息を吐いた。
「本当のことを言う。俺はグリード卿の配下に雇われてる。お前を見つけたら報告して、捕まえる手引きをする仕事だ。報酬は金貨七十枚」
「金貨七十枚」
「生活費が必要なんだ。親がいなくて、一人で食ってかないといけないから」
俺は少し間を開けてから言った。
「じゃあ聞きますが、俺を売ったとして——その後どうするんですか」
「また別の仕事を探す」
「また誰かを裏切る仕事?」
ルカは黙った。
「……楽しいですか、それ」
「楽しくない」
ルカは小さく言った。
「でも他に方法がわからない」
俺はノートを取り出した。
ルカの前に開いて見せた。
「俺と一緒に来れば、魔法で依頼を受けて稼げます。あなたは戦える。俺は魔法が使える。二人の方が稼ぎは増える」
「……なんで、裏切った俺を誘う」
「だって本当に危なかったら昨夜逃げてます。今もここにいるということは、まだあなたを信用できると思ってるからです」
ルカはしばらく俺の顔を見ていた。
「……お前、変なやつだな」
「よく言われます」
「でも——嫌いじゃない」
ルカは立ち上がり、手を差し出した。今度は昨日とは違う、真剣な目で。
「仕切り直しだ。改めてよろしく、アリア」
「よろしく、ルカ」
俺はその手を握った。昨日より、少し強く。
こうして逃亡仲間が一人増えた。元スパイ、現在無所属、特技は野生の勘と短剣二刀流。
信用できるかどうかは——まだわからない。
でも、旅は続く。




