第十一章 新しい仲間?
マルクを出て三日が経った。
次の街、ベルタまでの街道は思ったより長かった。森あり、丘あり、たまに魔物あり。一人旅は孤独だが、魔物が出るたびに実験ができるのでむしろ歓迎だ。
「炎と風を組み合わせると……」
俺は走ってくる狼型の魔物に向かって手を伸ばした。焚き火のイメージ。そこに台風のイメージを重ねる。
炎が渦を巻いた。
魔物が吹き飛んだ。
「よし、炎旋風、成功」
俺はノートに書いた。
『炎+風の複合魔法:焚き火に台風を重ねるイメージ。渦状になって射程が広がる。名前は炎旋風にしよう。かっこいいので』
名前は大事だ。なろう小説でも、技に名前をつけると強くなった気がする。
ノートをしまって歩き出した瞬間——
「危ない!」
背後から声がした。
振り返る暇もなかった。何かが頭の上を飛び越え、俺の後ろにいた魔物に体当たりした。
砂煙が上がった。
煙が晴れると、魔物の上に少女が乗っていた。
赤茶けた短い髪、日焼けした肌、擦り切れた革の服。ナイフを二本構えて、魔物の首元に突きつけている。魔物がビクビクと震えて、ついに白目をむいて気絶した。
少女は立ち上がり、ナイフを腰のベルトに戻した。
「助かったな!」
満面の笑みだった。歳は俺と同じくらい、十四か十五か。全体的に野生動物みたいな雰囲気だ。
「……ありがとうございます」
「いやー、あの魔物は背後から来るタイプだからな!気をつけろよ!」
「気をつけます」
少女はずかずかと俺に近づいてきた。距離感がない。
「あんた、さっきすごい魔法使ってたな!炎が渦巻くやつ!あんなの初めて見たぞ!」
「まあ……自分で考えたので」
「自分で!?すごいな!名前は!?」
「……アリア」
本名を言ってしまった。まずいかな、と思ったが、この子の勢いに押されたのだ。仕方ない。
「俺はルカ!よろしく!」
「……女の子ですよね」
「そうだけど!」
ルカはぐいっと手を差し出した。俺はその手を握った。握力が強い。山で暮らしてるタイプだ、これは。
「どこに行くんだ?」
「ベルタまで」
「奇遇だな!俺も同じ方向だ!一緒に行こうぜ!」
「……どうぞ」
断る理由もなかった。一人より二人の方が魔物対策にもなる。それに——正直、少し寂しかった。
こういう理由で旅の仲間を受け入れるのは、なろう小説の定番だ。わかっていても、抗えない。
ルカはよく喋った。
「あそこの森には大きい魔物がいてな!」「この草は食べると甘いんだぞ!」「昨日は岩の下で寝た!」
俺は相槌を打ちながら、ノートを書き続けた。
「なんか書いてるな、それ」ルカが覗き込んできた。「魔法のやつか?」
「実験の記録。魔法の仕組みをまとめてる」
「仕組み?魔法って感覚でやるもんじゃないのか」
「感覚でできない人間もいる。俺は理屈で考えた」
ルカはしばらく俺の顔を見てから言った。「……変わってるな」
「よく言われます」
ルカは笑った。
こいつ、嫌いじゃないな。と俺は思った。
ベルタに着いたのは夕方だった。
マルクより小さい街だが、宿はある。二人で一番安い部屋を取った。
夕飯を食べながら、ルカが言った。
「なあ、アリア。お前、追われてるだろ」
俺はフォークを止めた。
「なんで」
「マルクで手配書を見た。銀髪の女の子。報奨金、金貨五十枚」ルカはスープを飲みながら、さらっと言った。「かなりの額だよな」
俺は黙った。
「安心しろ。俺には関係ない」ルカは笑った。「金より、お前の魔法の方が面白そうだから一緒にいる」
「……そうですか」
「そうだ!」
俺は警戒を少し解いた。こいつは正直者だ。裏表がなさそうだ。
でも——その夜、俺は気づいた。
寝たふりをしていたら、ルカが部屋を抜け出した。
俺は音もなく後をつけた。風魔法で足音を消すのは、もう朝飯前だ。
ルカが路地裏に入った。そこに誰かが待っていた。黒いフードを深くかぶった人物だ。
「見つけました。アリア・フォン・シルヴェストで間違いないです」
ルカの声だった。
「確かか」フードの人物が低い声で言った。
「はい。銀髪、青い目、魔法の腕は本物です。明日の朝、宿から連れ出します」
俺は路地の影で、その会話を全部聞いた。
胸の中で何かが冷えた。
スパイだった。
最初から、俺を捕まえるために近づいてきたのだ。魔物から助けたのも、わざとだったのかもしれない。
俺はそっと宿に戻った。
ベッドに横になりながら、天井を見つめた。
……悔しいとか、怖いとかより、なんか——すごくがっかりした。
やっぱり一人の方が楽なのかな。誰かを信用するから、こういうことになる。
でも——どうするか。
逃げるか。それとも——。
俺はノートを開いた。新しいページに書く。
『問題:仲間がスパイだった』
『選択肢① 夜のうちに一人で逃げる』
『選択肢② 正面から問いただす』
『選択肢③ 逆に利用する』
俺は少し考えてから、①と②と③全部に丸をつけた。
まだ決めてない。でも——ひとつだけ確かなことがある。
「明日の朝が楽しみだ」
俺は目を閉じた。
今夜くらいは、ちゃんと寝ることにした。




