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79 最終章《旅行》

「先生は帝都に来たことあるの?」

「何回もあるわよ」

「リラは久しぶり?」

「フォルティカ王国出てからクヴェルト帝国に入ったけど、帝都に寄らなかったから久しぶりよ」


 火山島でしんみりした三人だったが、落ち込んでても仕方ないと話し合い、適度な速度で北上した。

 そして最初の目的地であるクヴェルト帝国の中心地、その帝都の門までやってきた。


「悪いわね。新婚旅行にお邪魔してしまって」

「いえいえお義母様と一緒で嬉しいですよ。そうだ。今夜の宿はお義母様と同じ部屋にしますわ」

「あら、いいわね」

「え? 俺は?」

「そうね。昔の知り合いにでも会いにいったら?」

「え〜」


 あまりにも雑な扱いにアルはショックを受けた。これがマリッジブルーかと。多分間違ってるが。

 そんなことを気にする様子もなく先生は周囲を見回した。


「それにしても門に並ぶ人が多いね。やっぱりフォルティカ王国から流れてきてるのかしら」


 先生の言葉につられてふたりも目の前に続く行列の先を眺めた。

 いつもであれば商人が大半なのだが、今は老人も子供も偏りなく並んでいる。そしてその者の多くが、たいした荷物も持たずボロボロの服のままだった。


 なかには怪我をしているのか、支えられながら歩く人もいる。それを見つけたリラは鞄を背負い直すと、なにも言わずに列から外れて前に歩いて言った。


 当然それをふたりは止めない。

 手伝うことも考えたが、リラが助けを求めない限りはむやみに手を出さないほうがいいと判断した。



「大丈夫ですか? もしよかったらその傷跡を見せてください」

「いや、おれたちはお金を持ってなくてな。悪いがほかをあたってくれ」


 足を引きずっていた男は子供も含んだ家族連れだったが、お金を理由に断った。ここで治療費を払って門に入れなくなれば、家族にまで迷惑がかかると思ったのだろう

 しかしリラはその程度ではひかない。むしろその意味に気がついて、火がついてしまったのかもしれない。


「今はお金なんて取りません。その変わりフォルティカ王国でなにがあったか教えてください。情報と薬の交換ならいいでしょ?」

「そんなのでいいのか?」

「ええ。私も今は情報がほしいので」


 男はリラの提案に驚いたが、リラの鋭い目つきになんとなく断りずらさを覚えて素直に従った。


「この鋭い傷跡は……剣?」

「ああ。おれは王都よりも少し西に住んでたんだが、ある日突然空が曇ったかと思ったら大きな地響きがしてな。その時はなにが起こったかわからなかったんだが、急に地面から黒い影が浮いてきて、それが兵士みたいな形に変わって斬りつけられたんだよ」


 薬を塗りながらリラはほかの者たちも観察した。たしかに男の言うとおり、目に見える怪我は切り傷ばかりだ。


「こんな話で本当によかったのかい?」

「ええ。それに他の人の話も聞いてみますわ。それではお大事に」


 それからリラは数人の怪我を治療しながら情報を集めたが、おおむね最初の男と同じものだった。多少の見た目の違いはあれど、地面から黒い人型のものが現れ、武器を持って襲ってきたと言っている。



 そして情報と交換しながら治療を行うリラの姿は、少しずつ注目されていった。もちろん温かい目で見る者もいるが、獲物を見つけたように下卑た笑いを浮かべる者もいた。


「へへ、親分。いいカモを見つけましたぜ」

「ほお。こんなところで奉仕とはいい心構えだ。よし、変な奴らが寄ってこないように俺が守ってよろう」


 五人組の男達は列を離れるとゆったりとした動きでリラに向かって歩いた。それを見たほかの者たちはリラを心配したが、それ以上のことはできなかった。



「おいおい、大層な薬を持ってんじゃねぇか」

「そうだそうだ!」


 脇役が現れた。



「ぎゃひ!」

「ぐえ!」


 ふたり減った。


「「「え?」」」


 元五人組の男達は話しかけた二人がやられてすでに三人になっている。

 だが理解できていない。

 なぜなら目の前の女は動いていないのだから。



 では誰が?

 やはりアルか?

 嫁が狙われて思わず手を出したのか?



「……なにやってんだよ」


 しかし犯人と思われたアルは呆れた表情で列からその様子を眺めていた。

 どうやら彼ではないらしい。



 ザッ



 そして三人は足音に反応して振り返った。

 そこには年のいった女が武器も持たずに立っている。それを見て三人は余裕を取り戻した。さっきのは不意をつかれただけだと。


「はっ! 観念するんだな! 親分は用心棒をやってて負けなしなんだよ!」

「そうだそうだ!」


 どうやら二人やられたが、残った二人は彼らと同じポジションらしい。

 替えのきく便利な連中だ。

 そして親分は一人。ここに代役はいない。


「うちのもんが世話になったな。軽くひねってやるからあきらめ」


 ドン


「「「ぎゃー!」」」



 横に大きな親分はセリフを最後まで言う事ができず、脇役二人と一緒に大空に舞った。

 もちろん彼らの意思ではない。


 確かに彼らは少しだけ悪い事をしよう思っていたかもしれないが、今のところ声をかけただけだ。その仕打ちがこれでは罪と罰のバランスがとれていない。

 だが仕方がない。

 相手が悪かっただけだ。



 ひゅ〜〜



「おやぶーん!? だめだ! 気を失ってる!」

「ひ〜! おれもうわるいことしないから〜!」




 ひゅ〜〜〜〜 すとん



「はぁっ、はぁっ、はぁ、生きてる。生きてる!」

「かみさま〜、ありがと〜」

「…………」



 無事に着陸できた二人は喜びを分かち合った。気を失った親分は白目のままのびている。だが彼らが本当に許されるかどうかはまだ決まっていない。

 なぜなら生殺与奪の権利を握っているのは結局この女なのだから。


「……あんたら、うちの娘になにしてんだい? ん? 答えてごらん? ん? それとももう一回死ぬかい?」


((ガクブルガクブル))



 震えているのは脇役だけではない。列に並ぶ大勢の一般市民も震えている。なかには腕に覚えのある冒険者もいるようだが、一律に震えている。


「もう、お義母様ったら。私は気にしてませんよ」

「そうかい? だが、躾はしないとね。またどっかで馬鹿をするだろうから」

「そうですね〜、それなら私に任せて下さい」


 思わぬ助け船をだしてもらったことで、脇役二人は感謝するようにリラを見た。

 そして固まった。


 なんせその女はフォルティカ王国を壊滅させそうになった無慈悲の魔女なのだから。なんならその時にこの五人は消されそうになっていた。


 とんでもない大物に逆に目をつけられたことで彼らは震えあがった。


「ひっ、命だけは」

「あら、命以外はいいのね? でもそれじゃ足りないかしら。だってあんた達は私のデートを邪魔したことがあるんだから」

「「「ひ〜」」」


 ここまでいくとかわいそうである。

 その時ちょうど門から騒ぎを聞きつけた男達が走ってきた。

 それを見てアルは列を離れて歩きだす。


「おい! 嬢ちゃん大丈夫かい?」

「?」


 リラはその男の顔を見て首を傾げた。

 そして男もリラの顔を見て首を傾げた。



((……見たことある))



 お互いに思い出せないままじっとしていると、脇役達がその男の足に抱きついてきた。


「たっ、助けてくれ兵士さん! おれもうわるいことしないから!」


 大の大人が恥じることなく思いっきり抱きついてきたのだ。さすがに男も寒気を感じたのだろう。


「やめろ! それに俺は兵士じゃねえ! まったく、男ならもっとシャキッとしろ!」


「あれ〜?」

「!?」


 男は足元の脇役に檄を飛ばしたが、間延びしたアルの声を聞いて体を強張らせた。


 そして息をひそめながらゆっくりと顔をあげる。まるで幽霊でも見るかのように。


「あ〜、やっぱりキッカさんだ。久しぶり〜」

「あ、ある〜?」


 そしてキッカは震えだす。

 アルと過ごした日々でも思い出しているのだろうか?

 ろくな思い出はなかったと思うが。


「ば、ばかやろう。い、今までどこに」

「よかった。今日寝るとこ探してたし泊めてよ」

「……は、はは、は、はは」


 キッカはアルのニコニコとした表情を見てこらえきれずに空に叫んだ。


「なんでだよ!(よー)(よー)(よー)」


 どこからともなくかえってくる自分の叫び声を聴きながら、キッカは清々しく笑った。


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