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74 ガルラマ《酒癖》

「それでね! お姉様ったら間違えて城を壊しちゃったのよ!」

「……はは、お茶目っすね」

「他にもね! 剣鬼が剣聖を名乗ってた時、お姉様がつけてくれた名前が気に入らないって言ったのよ。だからお姉様はあいつのお気に入りの剣を全部折ってあげたの! それで格好良くこう言ったのよ! 『剣のないあんたが剣聖を名乗れるわけないじゃん』って! ふふ! 痺れるでしょ!」


 魔王改め魔子は上機嫌でアマラの事を話した。そして魔子視点ではアマラの行いは全て美化されていた。

 それを死んだ目で聞き流すアル。


「……ふふ、痺れますね」

「それであいつ顔真っ赤にしちゃってさ! 本物の鬼みたに! ぷぷ! それであいつお姉様に殴りかかったのよ! ステゴロでお姉様に勝てるはずないのに! ぶっふ〜!」

「……はは、でもなんで師匠はそんなことしたんですかね?」

「さあ? お酒飲んでたしそんなのたいした問題じゃないわ!」

「……」


 アルは空を見上げて天空の塔で剣鬼と再会した時の事を思い出していた。


(剣鬼は強くて、優しかった。俺だけは、いつまでもあなたを尊敬しています)


 そしてアルは一筋の涙を溢しながら勝手に誓った。


 こうして聞きたくもない話を延々と聞かされたアルだったが、ようやく救いの者が目覚めた。


「ん、ん〜」

「あっ、やっと起きた?」

「……魔子様……」


 先生は魔子の姿を確認したあと、正座をしながら酌をするアルを見た。

 そしてお互いになんとも言えない表情で見つめ合う。


 そこに言葉などいらない。

 拳を交わした者同士ならば言葉などなくともお互いの気持ちがわかるのだ。


(さっさと終わらせるよ)

(了解しました)


 まさに以心伝心だった。





「それでこの子がうだうだしてるから〜」

「魔子様その話はいいですって。何回同じ事を言う気ですか?」

「はは……どうぞ」

「うむうむ! それでどこまで話したかな? そうそう、お姉様が間違えて城を〜」

「魔子様。それも何度も聞きましたよ」


 二人がかりでも駄目だった。

 むしろ話しがあっちにいってこっちにいってと余計に収集がつかなくなっていた。

 そんな無駄な時間を過ごして気がつけば日も暮れていた。


「ん〜? じゃああたしが華麗に特級迷宮を滅ぼした時の話を」

「それも何度目ですか」

「は!? なによ! このあたしに意見する気!?」


 ドッカーン


 魔子が不機嫌になると同時に火山が噴火した。それを見てアルは遠い目をする。

 いったい魔子の機嫌と噴火にどんな因果関係があるのだろうか?

 魔法なのか?

 無駄に魔法に長けるとそういう使い方ができるのか?


「はぁ。元気があり余ってますね」

「ふん! 最近までうだうだしてた奴に言われたくないわ!」

「はいはい、そうでしたね」


 遠い目をするアルに比べて先生は適当に魔子をあしらう。その姿を見てアルは懐かしい日々を思い出していた。


「おふたりは仲がいいですね。先生はいつから魔子さんに弟子入りしてたんですか?」


 だからアルは当たり前のように質問したご、その問いにふたりは同時に顔を向けた。

 そんなところまでそっくりでアルは思わず笑ったが、ふたりからの返事は期待したものとまったく違った。


「仲がいいわけないでしょ! 喧嘩売ってんの!?」

「そうですね」

「え?」

「そもそも弟子なんかとった覚えはないわ!」

「私も弟子入りした覚えはないわね」 

「は?」


 これだけ息がぴったりなのにそれを否定するふたり。アルにしてみればどこからどう見ても仲のいい師弟だ。


「いや、だって同じ魔法使いですし」

「違うわよ! こいつがあたしの真似してんのよ!」

「はあ。能力は生まれつきですよ? そんな事も忘れてしまったんですか?」

「むっきー!」


 ドッカーン


 いちいち噴火する火山にアルはびびりなからも質問を続ける。


「そ、それならいつからの知り合いなんですか? というかなんの知り合いなんですか?」


 なんの質問が噴火の原因になるかわからないアルは慎重に質問を選んだ。そしてそれは正解だっらしく、ようやく魔子は静かになった。


「ふん。こいつが小さい頃から勝手にここに来てただけよ」

「……」

「なんか言いなさいよ!」


 ドッカーン


 全然静かになっていなかった。

 これ以上は無理だと会話をあきらめようとしたアルだったが、先生は穏やかな声で語りだした。


「……小さい頃にね、夢を見たんだよ」

「夢ですか?」

「ああ。今思い出してもしょうもない夢だよ。大陸一の魔法使いが世界を救う。そんな夢物語さ」

「……世界を救う」

「だから、憧れたんだよ」


 アルはその言葉を聞いて特級迷宮を出る時に交わした言葉を思い出した。


(あの時先生はなんのために強くなるのかを聞いてきた。その質問に俺は世界を救うためだと答えたけど、そんな夢物語を先生は笑わずに聞いてくれた。あの時は不思議だったけど、先生も本気だったんだ)


 アルの表情を見て薄く笑った先生は言葉を続ける。


「そして小さかった私はここにやってきた。歴代最強と呼ばれる魔法使いに挑むためにね」

「ふ、ふん!」


 魔子はわかりやすい程に照れながらそっぽを向いた。薄いピンク色の髪も相まってフェニックスを思い出さずにはいられない。


「だけどね、私に才能はなかった。魔子様を一度も傷つけることができず、負けてばかりだったよ」

「当たり前よ! だってあたしは強い! そしてあんたに才能なんてないんだから!」

「そうですね。だから、私は弟子には認められなかったのさ」

「え? いや、そう言う意味じゃ」


 急にしおらしくなった先生に魔子はおろおろと狼狽えだした。その態度を見る限り魔子は悪い子ではないようだ。


 現に今もアルの方をチラチラと見て助けを求めている。

 アルとしてはもうすこしそれを見ていたい気もしたが、火山に噴火されると心臓に悪いので助け船を出す事にした。


「先生、魔子様はそんな事思ってませんよ」

「う、うむ! まぁ、うむ!」


 アルがせっかくフォローしても魔子は使い物にならないほどポンコツだった。自分でもそれがわかっているらしく、涙目でさらに助けを求めてくる。


 男としては涙目の少女をほっとくわけにはいかないが、目の前の少女の本質は魔王だ。アルとしてはさっきのフォローで義理を果たしたつもりだが、このままでは先生が報われないと感じてもう一度だけ助け船を出すことにした。


「ほら、魔子様もそんな事を思ってないって言ってるじゃないですか」

「う、うむ!」

「それに魔子様はこうも言ってましたよ」

「うむ?」

「うちの子に何してくれてんだって」

「ひっ!?」

「これはもう弟子宣言と一緒ですよね? ね? 魔子様?」

「ちっ! 違う! 違う! 違ーう!」


 ドカン!

 ドカン!

 ドッカーン!


 見事な火山三連発を放ちながら魔子は否定するが、それは見ようによっては肯定だった。


「ふふ。そうなんですか? 歴代最強の魔法使いに弟子入りさせて頂けるなんて光栄の極みです」

「ふ、ふん! 精々精進しなさい!」

「じゃあそろそろ禁断魔法を教えてもらおうかね。そうしたらこのうるさい火山も消しされるかしら」

「駄目よ! 破門よ! 破門ったら破門なのー!」


 ドカン!

 ドカン!

 ドッカーン!


 息のあったふたりを見てアルは素直に笑った。そして不意に思ってしまった。自分も師匠とこうして笑っていたかったと。


「……アル」

「え?」

「ほら。これで拭きな」


 先生はローブの奥に手をやると、そっとアルに向けてハンカチを差し出した。

 それを見てアルははじめて気がつく。

 自分が涙を流しているのだと。


「あれ? はは。最近なんか泣いてばっかりで……おかしいな」


 アルは必死に誤魔化そうとするが自分ではわからない。

 なぜこんなにも涙が流れるのかが。

 その様子を優しく見守る先生がゆっくりと口を開いた。


「アル。それでいいんだよ。そうやって大事なものに気がついていくんだ。だから、それを大事にしな」

「大事なもの……」

「ああ。あんたにとって師匠は大事なひとなんだろ?」

「……はい」


 その言葉を聞いた魔子は静かに酒を飲んだ。彼女にとっての大事なひとを思い出すように。


「それともう一人、あんたには大事なひとがいるだろ」

「え、知ってるんですか?」


 先生が急に切り出してきたからアルは驚いた。アルは先生にその話をした覚えはない。


「ああ。あんたの探しているその子はこのガルラマの地にいるはずだ。だから、いつまでも待たせんじゃないよ」

「ーー」


 先生の言葉にアルは期待と落胆を感じた。

 この地にリラがいるとわかったのは嬉しい情報ではあるが、先生の口ぶりからしてその詳細まではわからなさそうだ。


 どうしていいかわからずにいるアルに、静かに酒を飲んでいた魔子が口を挟んだ。


「もう! 辛気臭い! それにあんたは何をくよくよしてんの! なんのためにそれを持ってんのよ!?」


 魔子は怒鳴りながらズビシッっと、アルの胸元を指差した。

 その先では地上に降りてからずっと身につけているアクセサリーが輝いている。


「え、これですか? これがどうしたんですか?」

「そうよ! それ七星の欠片でしょ! そんでその片割れをあんたが探してる女が持ってるんでしょ!?」

「?」


 魔子は早口でまくしたてるがアルには意味がわからない。確かにリラに渡しはしたが、それと今の話が繋がらない。


 そして反応が悪いアルの様子を見た魔子はさらにヒートアップした。


「あんた馬鹿!? 天界でそれを渡される時に説明を受けたでしょ!」

「!!」


 そこまで説明されてアルは思い出す。

 旅立ちの日、これを渡された時に博士が教えてくれた説明を。


「そうだった。これには結界の力ともうひとつの力が」

「そうそれよ!」

「牛に好かれる力が。つまり牛を追えばリラに会える!」

「違ーう! 誰よそんな説明したのは!?」


 ドッカ〜ン


 魔子の頭からも噴火するように湯気があがる。だがアルはそう博士から説明を受けたので仕方がない。悪いのは大事なところでふざけた博士だ。


「だっ、だって博士がそう言ってたから」

「あのアマー! 無駄に色気だけ撒き散らしやがって! あの時も! あの時にも〜!」


 怒りの矛先が違う気もするが、これ以上噴火されても嫌だからアルも先生も突っ込まない。


 ひとしきり騒いだ魔子は肩で息をしながらアルを睨みつける。

 思わずビクっとするアルだが、彼に責任はあるのだろうか?


「他に説明はなかったの!? 出合いがどうとか! 一年に一度とか!」

「あっ!」


 そこでアルはようやく思い出す。

 七星の欠片の本当の役割を。


「離れた場所にいてもお互いがどこにいるのかわかる。確かにそう言っていました。でも、一年で限られた時だけとも言っていました。俺はそれがいつなのかを知りませんが……」


 手が届いたように思えたが、あとすこしで届かない。

 そんなもどかしさをアルは感じた。そしてそれをみかねた魔子はお節介だとわかっていながら口を出した。

 同じ師匠を想うアルをすくなからず認めたのかもしれない。


「……ちょうどいい頃じゃない? それを握ってあんたがどうしたいのか願いなさい」

「え?」


 アルはその言葉を不思議に思いながらも、空を見上げる魔子に見習って夜空を見上げた。

 そこには数えきれないほどの無数の星が輝いている。


 それはいつかリラと見たあの夜空のようであった。



(俺の願い……それは、会いたい。リラに、会いたい)


 胸元の七星の欠片を握りながらアルは純粋な思いを告げた。


 リラに言いたい事がある。

 謝りたい事もある。

 でも、今は会えればそれでいい。


 純粋にアルはそう思った。

 そしてそれに応えるように、南の空にひときわ明るい星が流れた。


 キラン


「?」


 その星を見た瞬間、アルの胸が熱くなった。その感情がなんなのかはわからないが、本能的に感じとった。あの星の下にリラがいると。




 そしてその流れ星を見たひとりの女性もまた、胸元のアクセサリーを強く握った。


「……アル」


 ふたりは同じ夜空を見つめ合う。

 再び出会えると信じて。


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