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66 ミスタリキ《努力》

「「「ありがとうございました!」」」 

 

 少年達は恐怖から解放されてもとの元気を取り戻していた。アルも周囲の気配から危険はないと認識し、今はゆったりとした雰囲気を漂わせている。


「兄ちゃん凄かったな! アレどうやるんだ!?」

「魔法ですか!? 魔法ですよね!?」

「もしかしたらすごい魔道具じゃないかな?」


 三人は興奮が冷める様子もなく来た道をアルと並んで歩いた。

 本当は遠くからアルの戦いを観察するだけのはずだったが、気がつけば戦いの中心地でアルの強さに触れたのだ。胸が熱くなるのも仕方がない。


「あれは能力とは違うんだよ。地脈の力を借りてるからまったく違うわけじゃないけど」


 その言葉に少年達はさらに驚く。能力が使えずにあれほどの芸当ができると誰が想像できるだろうか。


「すげぇ! どうやってやるんだ!? 俺にもできるかな!?」

「能力がなくてもあんなに強いなんて」

「かっこいいです」


 少年達は能力に憧れをもつ反面、能力が使えない自分に僅かな劣等感を持っている。だから、思わず本音がこぼれてしまった。


「やっぱり能力なんていらないんだよ。能力が使えるってだけで大人は偉そうにしてるけど、関係ねぇんだよ」

「そうだね。能力が使えるからって強いわけじゃないんだ」

「うん。能力使いたかったらもっと修行しろって言うけど、そんなの関係ないです」


 少年達は自分達に言い聞かせるように次々に言葉を発しが、アルの言葉でその表情は固まってしまった。


「それは違うよ。能力を使える人は例外なく強い。そしてその能力も、同じく強い」

「え?」

「能力は血の滲むような努力と修練の末に手に入れるものだ。運がよかったり才能によって使えるものじゃない。だから、それを乗り越えた人は心も体も強い」


 アルの言葉を聞いて三人の少年は下を向いてしまった。少年達はアルなら同調してくれると思ったのだろう。それを真っ向から否定されたのだ。

 だが、子供達がそんな言葉で素直に納得するはずがない。


「そんなのわかんねえだろ! あんただって能力なしでも強いじゃねえか!」

「そうですよ。それに他にも強くなる方法があるかもしれません」

「うん。それに無駄な修行はしたくないです」


 アルは少年達の言葉を最後まで聞いた。

 そして、心のうちを探るように静かに言葉を投げかけた。


「君達は、能力を使いたくはないのか?」

「そ、それは……」


 端切れの悪いその言葉は肯定を意味していた。


 少年が能力に憧れを持つのは仕方ないことだ。例え大人になろうとも、能力を発動できなかった人生を悔やむ者は多い。能力さえ使えればもっとできた、幸せになれたと。


 そしてかつてのアルもそうだった。

 能力に憧れ、能力を使えなくなった自分を恨んだ。

 だからこそアルは大切なことに気がついた。


「さっきも言ったけど、能力は強い。でもね、それは能力を使えるようになるまで努力した人への武器みたいなものなんだ。だから、努力が足りない人ではその武器を使いこなせない。君達は、強い武器がほしいのかい? それとも、強い自分になりたいのかい?」

「……」


 アルはふたりの姿を思い出す。

 竜王の故郷でバフォメットを倒したあと、リラは能力が使えなくても騎士達を救ってみせた。

 そしてパネェはオルフスタで黒いオーラに包まれたアルを生身の肉体だけで倒してみせた。


 彼女達は強かった。

 だが、彼女達はそれに満足することなくさらに己を磨き続けた。おそらく今も、留まることなく修練を積んでいるだろう。


 それにアルが気がついたのもつい最近のことだ。

 アル自身、誰よりも修練を積んでいた自信があった。だからそれに応えてくれなくなった能力を恨みもした。


 いつの間にかアルは、能力を鍛えることが強さだと思うようになっていた。

 それは間違いではない。

 だが、今のアルはひとつの答えに辿り着いていた。


「能力は戦うための武器でしかない。結局のところ、自分がなんのために強くなりたいかを知らないと意味がない。君達は、なんのために強くなりたいんだ?」

「なんのために……」


 その言葉に少しずつ少年達の目に力が宿る。拳を握り、鼓舞するように想いを口にした。


「俺は、俺はこの村を守りたい! 魔物なんて蹴散らせるくらい強くなりたい!」


 二人の少年も同じく頷いてみせた。


 それを見てアルは安心する。

 きっとこの少年達はもう逃げないだろう。明確な意思は動くための原動力になるとアルは知っているから。


 そしてアルも改めて口にした。

 今の自分の目的を。


「俺は世界を救いたい。そして好きなひととずっと一緒にいたい」


 アルは自信持って口にしたが、あまりにも突飛な言葉に思わず少年達は笑った。


「兄ちゃん。世界と好きな人とを同じ目標にするのはどうかと思うぜ?」

「そうですね。最初の世界を救いたいはかっこよかったですけど」

「うん。最後の好きなひととずっとってのは普通だよね」


 少年達が言うようにこのふたつを同列に置く人間はそういないだろう。

 だがそれを言ったのがアルだから仕方がない。


「うるせえな。大人になればわかんだよ」

「いや、大人になっても世界を救いたいなんて言ってる奴そうそういないぜ? ちょっと痛い奴だぞ?」

「せめてどこかの国で最強になるとか、もうちょっと現実を見たほうがいいですよ? それともこんな辺境の地にくるくらいだから、街ではそんなに強くないんですか?」

「うん。それに好きな人と一緒にいたいなら、こんなとこにいないで街にいたほうがいいですよ? それともモテなくてこんなとこまで嫁探しに来たんですか?」

「うるせえ! うるせえー!」


 少年達に諭されながらアルは心に刻む。

 彼はそのふたつを叶えるまで止まるつもりはない。

 例え能力が使えなくても、アルはもう二度と嘆くことはないだろう。








「クレイジーモンキーの生き残りも退治したし、俺はこれで行くね」


 アルは村で最初に話しかけたお婆さんに挨拶をした。するとお婆さんはすこし待つように言って家の中から小さな箱を持ってきた。


「これはの、しばらく前に村にきた付与師から頂いた薬じゃ。お前さんには世話になったし、お礼にすこしばかり貰ってくれ」


 お婆さんは箱から大切そうに薬を出した。

 アルは箱を開ける前から中に何が入っているかわかっていたから驚かないつもりだったが、とあるものを見つけて自然と手を伸ばした。


「お婆さん。その付与師って、二回に分けてここに来たの?」

「おや。なんでわかったんだい?」


 アルが手に摘んだのは貝殻に入ったリラの薬だ。

 今までここに来るまでで貝殻を使った薬は見なかった。それに道中はずっと山道で海が近くにあるわけでもない。

 だからアルは不思議に思った。


(リラが天空の塔に現れたのは間違いない。ただその前後でどこかに寄り道したのか? 海に?)


 このミスタリキにはクヴェルト帝国やフォルティカ王国のように馬車で移動できる区間は多くはない。


 日頃から鍛えているリラでも海まではかなりの日数がかかる。それはもはや寄り道という距離ではない。


「その付与師ってどこの海に行って戻ってきたか知ってる?」

「あぁ。ここから南東にある紅島じゃよ」

「紅島?」


 アルは知識を思い返すがその島に覚えがない。その表情を見たお婆さんは続けて説明してくれた。


「紅島にはの、聖獣が棲んどると昔から言い伝えられておるんじゃ」

「……聖獣」

「あぁ。紅く燃える聖なる鳥。フェニックスじゃよ」


 アルはその言葉を聞いて行き先を変えることを決心した。リラが聖獣を求める理由など決まっている。


「フェニックスが、フェニックスの素材が危ない!」


 こうしてアルはフェニックスの安否確認の旅に出かけた。


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