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65 ミスタリキ《少年》

 ザシュ



 座り込む少年達の頭上を掠るように飛んだ斬撃はクレイジーモンキーが反応するよりも先に下半身と上半身を切り離した。


 滑るように崩れ落ちるクレイジーモンキーの体を見た少年達は顔を青くして固まっている。

 淡い好奇心を抱いただけで死にかけたのだ。

 そんなつもりではなかったとでも思ったのだろう。

 だが、側まで駆け寄ったアルの言葉を聞いてさらに血の気を引かせた。


「囲まれたな。今度は変異種だけじゃない。遠くから普通のクレイジーモンキーも迫ってきている」


 アルは周囲を見回して淡々と言うが少年達は気が気じゃなかった。もしここでアルがひとりで逃げだせば間違いなく少年達は殺される。

 当然アルはそんなことをしないが。


「俺の判断ミスだ。君達がついて来ているのは知っていたけど奴らに誘われて深入りし過ぎた。だから、すまなかった」


 アルは少年の頭にポンっと手を置いて笑った。

 その顔に悲壮感はない。

 むしろこんな時だと言うのに優しげに感じられた。


「こ、怖くないの?」


 アルは少年の言葉を受けて少し考えこんだが、決意したように言葉に力を込めた。


「そうだな。もし怖いことがあるとすれば、君達が傷つくことだ。だから心配するな。絶対に護ってやる」


 アルは遠くを見据えるように顔をあげた。

 その姿を少年達はただただ見つめた。

 脳裏にやきつけるように憧れの眼差しで。





 アルは周囲を取り囲む気配に集中した。

 おそらくクレイジーモンキーは今のアルの動きを見た以上、近づいて攻撃をしてくることはないだろう。


 だから注意すべきは毛針のみ。

 ただ問題は三人の少年をどう守りきるかだ。


(毛針は囲むように飛んでくるはずだ。今までみたいに躱してたんじゃここ子達を守れない。それなら、アレを実践で試すか)


 動きやすいように足を肩幅に開いて息を吐く。握っていた拳は緩み、自然体ともいえる佇まいでアルは周囲を見回した。すべての毛針を撃ち落とす事に神経を尖らせる。

 そしてついに一斉攻撃がはじまった。



 フォォォォオン



「ひっ!」

「なんだ! なにが起こってんだよ!」


 少年達は目を丸くして周囲を見渡すが、何が起こっているか全く理解できない。

 目の前にいるアルは細かく足を捌き、すぐそこにいるはずなのに三人にはブレる姿しか確認できない。

 そして周囲から飛び交う毛針は三人のはるか手前で何かにぶつかって砕け散っている。


「の、能力か?」

「でも、オーラがないよ」

「じゃあこれはなんなんだよ!」


 三人の少年が驚くのも仕方がない。

 アルは毛針を撃ち落とすためにとある技を放った。それは空刃の変形型。際限なく続く投石にたいしアルが選んだのは連打のきく刺突型だ。 


 アルは毛針の軌道を正確に読み取ると、素早く踏み込んで貫手を放った。当然貫手が毛針に当たる距離ではないが、アルの腕先からは矢のような空刃が飛び出して投げられた毛針を打ち砕いた。


 それを左右交互に絶え間なくアルは繰り出し、一針も通すことなくすべての毛針を宙で破砕した。


 他者であれば数えきれないほどの毛針を同時に読み取るだけでも難しいが、アルはそれをすべて撃ち落とすことができた。それもこれもすべて、アルにとっては修練の成果でしかない。


(師匠の威力はこんなものじゃなかった。先生の連射はもっと早かった)


 アルは鍛えてくれた恩師達を思い浮かべ、さらに素早く、さらに力強く腕を降った。そしてアルの踏み込みが鋭くなるにつれ毛針が砕ける場所がどんどん少年達から遠ざかっていく。

 少年の目には見えない壁に守られているように映っているだろう。

 だがアルはまだ止まらない。

 ひたすらに己の限界に挑み続ける。


(まだだ。もっと、もっと鋭く)


 スパン

『ギ!』


 アルの神速の突きから放たれた空刃は毛針を打ち砕いたあとも衰える事なく突き進んだ。

 そして空刃は投擲を終えたクレイジーモンキーの肉体すらも貫通した。


 思わぬ反撃に周囲のクレイジーモンキーの動きが止まる。

 しかしアルが止まることはない。クレイジーモンキーの一瞬の隙きをついて空刃は魔物を襲った。


『ギギィーー』


 木の陰に隠れようともお構いなしにアルは空刃を繰り出した。余りもの猛攻にクレイジーモンキーはついに撤退をはじめる。

 そしてそれを予期していたアルは、一度大きな溜めを作って最後の一撃を放った。


「空刃 周!」


 アルは溜めを作ったあとに空刃を全方位に放つために腕を振りながらひと回りした。それはまさにバフォメットとの戦いでリラが放ったものと同じ軌跡だった。



 ズババババババーーーー


『ギルラァ――――』


 全方位に繰り出された空刃は木々を切り倒しながらクレイジーモンキーを引き裂いた。

 運良く木に登っていた数匹は斬撃から免れたが、群れのほとんどはこの一撃で葬り去られた。


 生き残ったクレイジーモンキーは絶望の表情でアルを見て悟った。こいつに関わってはいけないと。


 生き残った数匹は泣き叫びながら森の奥に走っていく。それはもはや撤退ではなく敗走だった。

 恐怖を感じたクレイジーモンキーがこの場に現れることは二度とないだろう。

 アルの新たな技により、少年達は死地から脱した。


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