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57 フォルティカ《修羅》

「残念ながら、まだ意識は戻っておりません」


 冥界の洞穴を攻略したアル達だったが、城に戻ってきてもリラが目を覚ますことはなかった。


 アルも城の治療を受けたが黒い痣を消し去ることはできず、解決の糸口も見つからない。


「フォークスさん、トード。すみませんでした」


 ベットで治療を受けるふたりに頭を下げるアルを誰も責めることはできなかった。彼が救いたかった者は未だに眠り続けているのだから。


「俺も自分の力が及ばなかったと反省している。だからお前が謝るな」


 フォークスの言葉を聞いてもアルの心は晴れない。もちろんフォークスもそのことをよく理解している。


「それよりもお前はこれからどうする気だ?」


 アルはフォークスを見て少しためらったが、観念したように答えた。


「リラが目を覚ますまで迷宮を倒し続けます。瘴気がなくなれば、リラも目を覚ますかもしれないので」


 アルの返事にフォークスだけでなく騎士達も溜め息をはいた。

 普通なら口先だけだと思われるが、アルなら本気でやるだろうと思っている。

 だからこそ、報われない。


「わかった。それについては止めはしない。ただし、俺もついて行く。それが条件だ」

「いえ、これは俺の問題ですので」

「ふざけるな。俺はお前を死なせないと言ったんだ。最後まで面倒を見させろ」


 アルが自分の意志を曲げないように、フォークスもまた自分の意志を曲げる人間ではない。

 それがわかっているアルは頷くしかなかった。


「俺もついていきますからね。師匠が二人とも行くんだから」

「師匠なんかやった覚えはねぇよ」

「えー! 俺の勘違いですか!?」


 トードは笑っていたが、フォークス以上にアルのことを心配していた。トードにとってアルは憧れの人でもあるのだ。そのひとの役にたてるのなら、危険とわかっていてもついていかずにはいられなかった。


「ふたりとも、ありがとう」


 そんなふたりにアルは素直に頭を下げた。

 彼が完全に憎しみに支配されていないのは、仲間と呼べる者達がいつも側にいたからだった。







 だが、彼は孤立してしまった。



 三人は一年をかけてフォルティカ王国内のすべての迷宮を攻略したが、それでもリラは目を覚まさなかった。


 その事実にアルは荒れ、行き先も告げすに王都から姿を消した。



 当然皆は探したが、彼の行方はわからなかった。




 そして数ヶ月後、王都に風の噂が流れてくる。


 国境付近でひたすら素手で魔物を狩る男がいる。その姿はまさに修羅のようだったと。


 そしてその男はついに、国境を越えてしまった。


 その国境とはフォルティカ王国の南東にあるオルフスタとの国境。

 オルフスタは未だに特級迷宮に支配された亡国である。


 修羅はすべての迷宮を消し去るために、一人で迷宮が支配する樹海に消えていったのだ。




◇◇◇◇



 オルフスタはクーランド大陸の東に位置する場所だ。


 昔は砂金が採れる国として栄えていたが、特級迷宮が発生して以来森はどんどん深くなった。やがて旧国は樹海に飲み込まれ、人々は樹海によって追い出されてしまった。


 今となっては貴重な素材の採取や討伐のために冒険者が訪れる程度で、積極的に足を踏み入れる場所ではない。


 しかし、一年前に彷徨うにようにやってきた男は今もオルフスタを根城にしている。

 もっとも平穏を求めてやってきた者ではない。その証拠に、男の体はいつも傷ついていた。


『ゴガァ―!』

「はぁ!」

 ゴシャ


 服は傷つき、既に修復機能は働くことをあきらめている。そして彼自身、いつしか老師に教わった感謝の心も捨ててしまった。


 心にあるのは憎しみだけ。

 だがどうすればその憎しみが晴れるのかわからない。


 そして今更愛する者が目覚めても、この血塗られた手で抱きしめていいのかもわからない。

 

 彼は無意味と知りながら、ひたすら魔物を倒し、迷宮に潜った。

 その間アルの能力が戻ることもなく、ただただ拳を握りしめて戦った。それは努力でも修行でもなく、ただの憂さ晴らしのようなものだった。







「はぁ、はぁ、はぁ、お前が守護者か。随分と派手な角じゃねえか」


 アルは迷宮の最深部で、幾重にも重なる大角を生やした鹿と相対していた。

 その魔物の名はソリッドホーン。

 

 ソリッドホーンの角は硬質で、何度砕かれても再生してしまう強敵だ。

 本来であれば遠距離から魔法で体力を削らなければいけないが、今のアルにその能力は使えない。


「硬いからなんだって言うんだ!」


 アルは無謀にも正面から殴りかかるが、ソリッドホーンの魔法によってできた石の壁で踏みとどまる。仕方なく石の壁を叩き割るが、今度は叩き割った破片がアルに襲いかかってきた。


「魔物のくせに細けえことやってんじゃねえよ」


 アルは至近距離から放たれた破片を左右の拳で撃ち落とす。致命傷にならないと判断した石礫はそのまま生身で受けるが、気にすることなく迎撃した。


 今のアルは傷を負ってもポーションを作れないが、その緊張感がよりアルの神経を敏感なものにさせた。


 ソリッドホーンもアルにこの程度では致命傷を与えられないと判断し、威力の高い魔法を連発した。

 アルはそれらを避けることなくすべて正面から迎え撃つ。

 あまりにも無謀である。


 それでも一歩ずつソリッドホーンとの距離を詰める。

 ソリッドホーンは近寄らせまいとさらに魔力を込めるが、アルは一度も後退することなく真正面から打ち砕いた。



 そして先に折れたのはソリッドホーンだった。

 ソリッドホーンは逃げることもせず、魔法を打ち砕いたアルを睨みつけた。

 もっとも距離をとったところでアルからは逃げられない。ソリッドホーンの魔力が尽きるまでアルは生身で打ち砕くだけだ。


「もうお終いか?」


 アルの挑発にソリッドホーンは最後の力を振り絞る。地響きはやがて壁まで伝わり、地と壁に亀裂が入った。


「なんだ、迷宮ごと道連れか。おもしれえやつだな」



 ガラガラガラ――――



 迷宮が崩れるなか、アルは笑いながらソリッドホーンの首を獲った。

 そこには達成感も喜びもない。

 やはりこれは彼にとっては憂さ晴らしでしかないのだ。







「ふ〜。やっと地上か」


 異空間が崩れ、地下から這い上がったアルは周辺を見て笑った。



「はは。結局今回も死ねなかったな」



 アルはいつか強敵と出会い、力及ばず仕方なく死ぬことを望んでいる。


 だがそれを叶えてくれる魔物はそうそういない。そうやってアルは誰とも出会わずにオルフスタで一年を過ごした。

 その間、リラがどうなったのかをアルは怖くて知れずにいた。結局アルの行動は逃げているのと一緒なのかもしれない。







 迷宮を攻略したことにより、周辺の魔物達は姿を消した。


 アルは気にしていないが、アルの無茶な攻略のおかげでフォルティカ王国との国境は魔物の発生が少ない安全な場所へと変わっていった。


 それ以前にアルとフォークス、トードの三人がフォルティカ王国のすべての迷宮を攻略したおかげで、フォルティカ王国は大陸で最も安全な場所と認識されている。


 もっとも樹海にこもったアルはそんなことを知らない。フォルティカ王国ではアルを勇者として迎え入れる準備をしているというのに。




「もう、夏が終わるな」


 焚き火に薪をくべながら、誰に言うでもなくアルはポツリと呟いた。

 彼が思い描く景色では、満点の星の下でリラが笑っている。


 それはいつか本当に見た景色のはずだが、アルには現実だったのか区別がつかなくなっていた。



 だからだろう。



 誰もいないはずの樹海を歩いてくる者を幻だと認識したのは。


 目の前の炎から音のするほうに首を振ったアルは、その姿を見て思わず目を見開いてしまった。


 その目には、そばかすのある親しみやすい表情に、オレンジ髪の女性が映っている。


 そしてその女性はいつかのように笑っていた。


「見つけたよ。アル君」

「なんで……ここに」


 そこに現れたのは、ナリキ諸島で共に戦った英雄、パネェだった。


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