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48 フォルティカ《謝罪》

「で、なんで行き先が冒険者ギルドなのよ」


 俺は王都でひと月ほど過ごしたが、宿屋と冒険者ギルド以外にはどこにも行ったことがない。

 だから案内できるのはここだけなのだ。


 リラはジト目で見てくるがどうしようもない。仕方がないからあてもなく歩こうかと思ったその時、後ろから声をかけられた。


「おいおい! こんなとこでいちゃいちゃしてんじゃねえぞコラー!」

「そうだそうだ!」


(はっ! この掛け声は!)


 俺は期待に満ちた顔で振り返った。

 そしてそこにはいた。

 俺が恋い焦がれた人達が。


「「「「げっ!」」」」


 逆に彼らは俺の顔を見た瞬間口を大きく開けて呆然としていた。


 さっきまでの威勢はどうしたと言いたいが、それこそが彼らの魅力なのだ。

 どこまでも王道に忠実なのだ。



 ただ、彼らは王道らしく逃げ出すのかと思ったが、急に不敵に笑いだした。


 そんな反応王道らしくないじゃないか。

 そんな君達は見たくなかったのに。


「へっ! 今日はこの前みたいにいかないぞ」

「そうだそうだ!」


 セリフは王道だが、彼らに再戦する根性などあるはずがない。

 口先だけになってしまった彼らに俺はなんだかがっかりしてしまった。



 しかし俺は彼らの真の実力を見誤っていた。

 彼らはそんじゃそこらの王道ではなかったのだ。


「こいつがお前らの言っていた生意気なガキか」

「へい! 親分!」



 ……なんだって!?



 この前やられた四人組の後ろから男が現れた。

 しかもそいつはでかい。上にもそこそこでかいが横にもかなりでかい。その体型はまぎれもなく太っている。


 まさか彼らは俺の期待を上回るというのか!?


「はっ! 観念するんだな! 親分は用心棒をやってて負けなしなんだぞ!」


「そうだそうだ!」


 ワッキー君は見事なヨイショを見せてくれた。

 ソーダ君の掛け声も心なしか弾んでいる。

 そして最後は君の番だ!


「うちのもんが世話になったな。軽くひねってやるから観念しな」


(キタ――――!!!)


 ついにやられ役のヤッキー君の登場だ!!


 これだよこれ!


 この世に生まれて救世主を目指していたけどこの世界は俺に厳しすぎた。


 それがどうだ。

 彼らは当然のようにやられ役として現れてくれた。

 そしてワンパンでやられるのだろう。

 それでも彼らは俺の前に立ちはだかる。


 そんな彼らのあまりの優しさに俺は思わず泣きそうになる。だからせめてもと俺は精一杯拍手をした。


 パチパチパチパチ


「なっ、舐めてるのか!」


 するとヤッキー君は顔を真っ赤にして拳を振り上げて殴りかかってきた。


 しかし彼は遅い。

 なぜなら彼は太っているからだ。

 巨漢という利点を無視して迫ってくるヤッキー君を見て、俺はとうとうクライマックスなのかと寂しくなった。


 だが俺は彼らの思いに応えなければならない。王道らしくヤッキー君を倒すのだ!


 迫りくる太った男を倒す方法は王道的には二つある。


 一つは下から殴り上げて、遥か後方まで吹き飛ばす方法だ。しかも着地地点を狙い、子分達をヤッキーで潰すことまでできればさらに高得点となり、拍手喝采間違いなしだろう。まさに王道だ。


 しかし俺はもう一つの方法で倒す。

 彼らが親玉を送り出してきたのならば、こちらも同じ方法で撃退するという返し技。その名もそっちが親分ならこっちも作戦。


「えっ? ちょ、ちょっと?」


 俺はリラの肩を掴むとすっと抱き寄せた。リラも驚いた演技を入れてくる。


 これは期待できるぞ!


「姉御。あとはお願いします!」

 トン

「なっ!?」


 俺はリラの背中をそっと押す。


 するとリラは三歩ほどつまづくように進んだあとこちらを振り返った。

 その表情は驚きから怒りの形相に変わる。


 俺の思い描いた王道とすこし違う反応だが、きっとアドリブなのだろう。

 臨場感が増すというやつだ。



 ヤッキー君はリラに合わせるようにドシンドシンとゆっくり迫ってくる。


 さすがだ。


 随分前に出発したはずなのなにまだ辿り着かないというこちらに都合のいい気配り。


 さらにヤッキー君は「ぅお―!」と叫んでリラに近づいていることを教えてくれている。


 さてはかなり場数を踏んでるな?


「……す」


 だというのにリラは下を向いて小さく呟く。

 ここはラストなのだから前を向いて大きな声で言ってほしいな。

 後ろにはいいお手本もいるんだし。


「っぶ、ころ――す!!」


 だがリラは俺の期待に応えるように空に向かって吠えた。


 それだそれ!

 すごい迫力だ。


 さらにリラが右手を空に掲げると、周囲の空気がすべてリラに収束するほど取り込まれて、そこには魔力で圧縮された三本の爪が現れた。


 それは月に照らされ、神々しいほどうつくし……く……?




 ……リラさん?



 ……それ出すの?



 ……しかも三本って!?




 余りもの魔力にヤッキー君はもちろん、周囲で見物していた人達も失神していく。

 放たれる殺気も宿屋の時の比じゃない。

 あきらかにオーバーキルだ。


「やり過ぎだリラ! こんなの王道じゃない!」


 俺は必死にリラに呼びかけるが彼女の怒りは収まらない。シルバークロウとやらを空に掲げると、怒りをあらわに睨みつけてきた。


「これのっ……どこがっ…………デートだ!」


 叫びとともにリラは腕を振り下ろす。

 しかも標的は俺だ。



 そして俺は瞬時に気がついた。

 助からないと。

 仮に避けられたとしても、その斬撃で街は大破するだろう。



 だがそんなことをさせてはいけない。

 誰かを巻き込むなんて許されない。



「頼むバラン! 力を貸してくれ!」


 ピカ――――ン

 ズダダダダタダダダダ


 ……………………。




 この日俺は地上に降りてから二つ目の結界を発動した。


 おかげで王都は守られた。

 俺はちゃんと守ったはずなのだ。



 だけど俺が何か悪いことをしたと言うのなら反省する。だから、牢屋から出してほしい……。


 俺とリラは仲良く捕まった。




◇◇◇◇



「報告します。海岸沿いは大きく裂け、まるで河のようになっていました。あの亀裂がもう少し手前から始まっていれば、相当な数の民が被害にあっていたでしょう。それに彼の島にも被害が出ていると思われます」

「……だ、そうだ。何か言いたいことはあるか?」

「「すみませんでした」」


 俺とリラは王城で取り調べを受けている。それも仕方ない。それほどにリラの放った一撃は凄まじかった。


 俺も頑張ってバランの結界を張ったが、強力過ぎてすべては防げなかった。リラの放った斬撃は俺の結界を滑るように進み、街をかすめてどうやら海岸まで届いたようだ。


 人的被害がなかったとはいえ、お咎めなしとはいかないだろう。


 その証拠に俺とリラは騎士達に囲まれている。

 しかもここって謁見の間じゃないのか?

 王様が座りそうな椅子は空席だが、ただの部屋ではないはずだ。



「アルは、関係ないんです。私が悪いんです」

「……リラ」


 彼女はしおらしく反省している。

 たぶんこれは演技ではない。リラは態度ほど悪い人間じゃないのだ。


「いくらそう言われても解放はできん。その男は《死神》と呼ばれ、ここ最近王都で問題ばかりおこしているのだ。冒険者でもないから誰も罰せない。まったく厄介なやつだ」


 知らなかった……。


 というか俺何かした?

 キャルちゃんのお願いを叶えるか、冒険者ギルドで訓練してただけだよ?


「なぜお前が驚く。お前のせいでここらの生態系は一気に変わった。おかげてこっちは調査のために毎日駆り出されているのだぞ! 見たこともない魔物だって現れる! お前を死神と呼ばずしてなんと呼ぶ!」


 どうやら俺のせいだった。

 魔物の討伐しただけだったのに。

 クヴェルト帝国では感謝されたのに。

 国境を越えるとこんなにも違うのか。


 もちろんリラひとりを残すつもりはなかったが、俺も簡単には解放してもらえそうにない。




 しばらく説教のような取り調べを受けたのち、周りが慌ただしくなってきた。

 どうやら事態が動きそうだ。


「おい。今から入ってくる御方に口答えはするなよ。会えるだけ光栄だと思え」


 取り調べをしていた男がそう告げると、俺とリラは頭を抑えられ、無理やり地面に伏せる形になった。


 ここまでしなければならない相手なんて限られている。やはりここは謁見の間だったのだ。そして俺たちは犯罪者扱いだ。


「陛下の御膳である。頭を下げよ」


 騎士の声が響き渡ると、一際きらびやかな男が部屋に入り、一段上の椅子に座った。


 まだ頭を上げれないので顔は見えないが、強者の雰囲気を漂わせている。


「面を上げよ」


 威厳のある声が響いたあと、姿を見て納得した。

 彼らは血を重んじてきたのだろう。能力の優秀な者だけで引き継がれてきた王位は伊達ではない。


 目の前の男はすでに六十歳を超えている。

 しかし衰えは見えない。それは肉体的にではなく、気配が違う。オーラもさぞ濃いことだろう。


「思っていたより若いな。強くなるのは構わんが、責任について一度しっかり考えろ」


 陛下は諭すように語りかけてきた。

 怒られるとばかり思っていたから少し驚いてしまう。


「それでそなたがクヴェルト帝国からきた《無慈悲の魔女》か?」


 ?

 魔女?


 俺はリラをちらりと見るが、リラは口を尖らせただけで答えない。

 代わりに陛下の言葉に周りも驚いている。


「あれが聖獣を従えているという魔女か」

「クヴェルトの兵士も従えてると聞いたぞ」

「なんでも禁断魔法にまで手を出しているとか」


 間違ってはないな。

 というかそんな事ができる女が何人もいてたまるか。



 再び陛下が話しだしたので場は改めて静かになる。


「そしてお主が死神か。まったく。とんでもないやつばかり集まる」


 え?

 俺の死神って定着してるの?

 それ大丈夫なの?


「お前達には此度の責任をとってもらう。なに、捕らえて牢屋に押し込むわけではない。我らの手伝いをしてもらうだけだ」


 なるほど。

 戦力として使えるものは使おうってことか。

 こちらも牢屋に押し込められるよりマシだ。


 こちらの表情を確認した陛下はその内容について話しだした。


「騎士団数名と共に調査に向かってもらう。場所は……《竜王の故郷》だ」


 陛下の発言はどこか歯切れが悪かった。

 そしてフォローするように重鎮が口を挟む。


「失礼ですが陛下。予定では《冥界の洞穴》もでしたが」

「よい。元々これは我らが負うべき責務だ。それに、勇敢な若い者を失うのは……老体には堪える」


 陛下は傷心気味に呟いたのを見て、俺はこのひとの事を誤解していたことに気がついた。


 このひとは王家としてオーラを重視するあまり、無色の第三王子のことをそれほど気に留めていなかったと勝手に解釈してしまった。


 もし第三王子がオーラを発動できていれば、危険な戦地からこのフォルティカ王国に連れ戻していたと考えていたからだ。


 しかし彼の表情を見て考えを改めた。

 陛下は自らの発言で、思わず誰かを思い返してしまったのだ。

 そしてそれはおそらく第三王子のことだろう。


 彼は王である前に、一人の親なのかもしれない。





 それから陛下は退出し、今後について説明があった。


 長い夜だった。

 というかこれもう昼だろ。


 俺とリラはトボトボと宿屋に戻る。

 精神的に疲れた。


 魔物との戦いなら一晩中大丈夫なのに。リラも疲れているようで隈が濃くなっている。



 それでも足取り重く宿屋に帰り着くと、キャルちゃんが爽やかに出迎えてくれた。


「……昼チュン……」


 全然爽やかじゃない。

 それになんかいろいろと間違っている。


 とりあえず今日は寝て過ごそう。

 ふたりは突っ込みもせずに部屋に入った。




◇◇◇◇



 コンコン



 部屋をノックされる音で目が覚めた。

 窓の外を見るが暗い。そういえば今日は昼から寝ているから時間の感覚がわからない。


 とりあえず朝になればわかるだろうと思って二度寝しようとしたがそれを許してはもらえなかった。


「ちょっと! 何無視してんのよ!」


 廊下からリラの叫び声が聞こえてきた。

 俺の精神はもうすり減っているのだが……。




「なによ」


 廊下で叫ばれても困るので部屋にいれたが、なによって逆になんだよ。

 俺は呼んでないぞ?


 とは言い返せない。

 怖いからではない。


 リラの目が赤く腫れているからだ。


「……ごめんなさい」


 かすれた声で謝る彼女の目からは、新しい涙が溢れていた。

 それを見て、俺はリラのことをまだ理解しきれていなかったのだと思った。


 リラはいつだって強くあろうとしているだけだ。

 だが、弱音を吐く相手がいないというのがどれだけ辛い事かを俺はパネェさんとの旅で知ったはずだった。



 なのに、俺は勝手にリラは強い人なのだと決めつけ、思いやることができなかった。

 それに気がついても、俺はリラになにも言えずにいる。






 それから随分と時間が経ったが、結局俺は最後までリラを泣き止ますことができなかった。

 気の利いた言葉も、和ませることもできず。そもそもなぜリラが泣いてしまったかもわからなかった。


「ふぅ。変なとこみせたわね。とりあえず謝りたかっただけよ……それじゃあ、戻るわ」


 リラはそれだけ言うと、立ち上がって扉に向かった。


 俺は口を開け、手を伸ばすが……それ以上なにもできない。




 パタン




 そしてリラは振り返ることもなく扉を閉めた。



 それからもしばらく俺は扉を見つめた。

 リラが戻ってきてくれないかと考えていたのかもしれない。叶うなら、いつものように憎まれ口でも言ってほしいとも考えていたかもしれない。



 この感情をどうすればいいのか俺にはわからなかった。

 ただわかわったのは、自分は戦うことでしか相手の想いに応えられないということだった。


 では、戦う力を持たない者にはどうすればいいのか。無理やり戦わせて強くなれと言えばいいのか。


 そもそもこの世界には戦えない人の方がはるかに多いというのに。世界を救うと宣言しながら、ひとりの女の子も救ってあげられない。


(リラは、これかも誰にも頼る事なく生きていくのか……)




◇◇◇◇



 この時、アルは気がついていたのだろうか。

 戦うこと以外で、誰かを救いたいと思ったのが生まれてはじめてである事を。


 きっと彼はまだ辿り着かない。

 しかしそのきっかけをくれたのは、二年ぶりに再会した女性だった。





 そしてアルは気がついただろうか?

 アルの部屋からリラが出てくるのを目撃し、薄暗い廊下でひとり顔を赤くする十歳の少女がいたことを……。


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