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47 フォルティカ《夕食》

「すみませんでした」

「なによ急に」


 俺はまず頭を下げた。

 理由はなんだったかな?

 クヴェルト帝国の兵士達が怒っていた気がするけど。


「まぁいいわ。大臣から言付けよ。ありがとうってね」


 大臣ってあの落ち着いた魔法使いかな?

 許してくれたのかな?

 怒ってないのならそれで満足だ。



 唐突に会話をはじめた俺たちを見上げて、キャルちゃんが不思議そうに聞きてきた。


「お知り合いでしたか?」


 するとリラは妖しい笑みをして答える。


「えぇ。姉弟だったかしら? ふふ」


 それ言ったの俺じゃないならね?

 いや、姐さんとか呼んでるから俺のせいでもあるが。


 キャルちゃんはわけもわからず首を傾げている。この子は純真なのだ。変なことを言ってからかわないでほしい。


「それで護衛ってついていけばいいの?」

「そうよ。あきらめなさい」


 相変わらず内容がわからない。

 そしてなぜか拒否権はない。


「お嬢ちゃん。そういうことだから契約成立よ。そうね。部屋は同じでもいいわ」

「「えっ?」」


 俺とキャルちゃんはハモった。

 何言ってんだこいつ?


「だっ、だめです! 結婚もしてないのにそんな……」

「これが追加料金とチップよ」

「はい。確かに頂きました。いつもご利用ありがとうございます」


 キャルちゃん?

 君の純真が裸足で駆け出して行ったぞ?


 そして相変わらずリラは挑発するように笑っている。俺の反応はそんなに楽しいか?


「何度も同じ夜を過ごしたじゃない」


 リラの発言にキャルちゃんは少し俯いてこちらをチラチラと見てくる。

 よかった。この子の純真が帰ってきた。


 だけど子供の前で言うような発言ではない。

 それにリラが言ってるのはただの野宿だ。やましいことなどなかった。


「はぁ〜」


 思わず溜め息が漏れる。

 どうせ俺の意見など通らないのだ。であれば考え方を変えよう。


「まぁ先生と何ヶ月も二人っきりで過ごしたんだし今更か」


 女の人だからと意識しなければどうってことはない。

 俺は自らを納得させたのだが彼女は不機嫌になった。


「先生って誰よ」

「へ?」

「その女は誰かって聞いてんのよ」


 俺は何故か冷や汗が止まらなかった。





 結局不機嫌になったリラとは部屋を分けた。

 だって怖いからだ。


 そして食堂で一緒に夕飯を食べることにした。

 鶏肉が串に刺されて美味しそうだ。

 とりあえず軽く現実逃避をしてみる。


「少しは背が伸びたみたいね」


 肉を頬張りながら話すリラの機嫌は少し良くなっている。どうやら鶏肉料理が気にいったらしい。


「二年もたったからね。リラは……」


 俺はさっきまでのリラの立ち姿を思い返すが、たぶん身長は伸びていない。

 だが背が低いわけではないのだから構わないだろう。


 そして目の前のリラをじっと見るが、目は鋭く隈も相変わらずだ。

 魔法使いのようなローブも昔のまま。


 つまり昔と変わらないのだ。

 それが妙に嬉しくて俺は笑いながらリラに答えた。


「リラは、大きくならなかったね」

「……あ?」


 ――――ユラリ


「「「っ!?」」」


 急にものすごい殺気が放たれた。

 俺だけでなく、他の客達も思わずのけぞっている。

 食べ終わったお皿を運んでいたキャルちゃんはその場でへたりこんでしまった。



「……どこが、大きく、ならなかったって?」


 やばい。

 魔王様はお怒りだ。

 だが下手な言い訳はしてはいけない。


 俺は決して胸の話をしたわけではない。

 服装を見たあとにたまたま料理を見ていたから視線が下にあっただけだ。



 だからここは沈黙で耐えるんだ!



 しかし俺の作戦はリラには通じなかった。


「口がきけないんなら、無理やり開けてあげようかしら?」


 リラはゆらりと右手を俺に向けた。

 その腕には美しいブレスレットがつけられている。


 だが美しいのは見た目だけだ。

 アレからはやばいオーラが漏れている。


 その力をリラは惜しげもなく使った。


「シルバークロウ」

 ブォン


「「「ひぃ〜〜〜〜」」」


 リラが呪文を唱えるとブレスレットが妖しく光った。そして目の前の空間が揺れたと思った瞬間、鋭い一本の爪が突如現れて俺の首元に添えられていた。


 まったく反応できなかった俺は、体中から汗を吹き出して硬直してしまった。周りの客も悲鳴をあげながら椅子から転げ落ちている。



 それにしてもこの爪はヤバすぎる。

 頑張って修行しましたなんてレベルのものじゃない。


 俺では受け流すなんて到底できない。

 間違いなく真っ二つにされる。

 それほどの魔力を発しているのだ。



 そんな危険な物を、リラは簡単に放った。

 物が危険なら、使う者もまた危険なのだ。

 そんな俺の焦りを見たリラは満足そうに妖しく笑う。


「いいでしょ? これ」


 洒落にならない笑い顔だ。

 首に添えられる爪はおそろしくやばいが、俺はこの気配を知っている気がする。


「まさか……あの時のミスリル鉱石と、あの爪を」

「ふふ、よくわかったわね。……そうよ。キングベアーの爪よ」

(((聖獣っ!?)))


 嫌な予感は当たった。

 周りの客達も目を見開いて驚いている。


 だが俺の嫌な予感はまだ続いている。あの程度の爪でこんな代物が造れるはずがない。


 考えるのに必死で驚かない俺の様子にリラはなぜか満足そうに笑っている。


 そしてその目は雄弁に語っている。

 その通りだと。


「キングベアーから貰った爪は貴重だったけど、か弱い私が戦うには足りなかったわ。だけど、なぜかキングベアーは帝都にのこのことやってきたの。しかもありがたいことに銀の城に居座ってくれた。だから、ね、譲ってもらったのよ。……新しい爪とミスリル鉱石を」



 俺は絶句した。

 客も絶句した。



 はたして聖獣をここまで好き勝手に使った人間が今までいただろうか?

 しかもキングベアーは人助けを積極的にする優しい聖獣だぞ?

 正気か?


「そ、それでもおかしい。その爪の放つ魔力は相当なものだ。それを使いこなせる魔力はリラにはないはずだ」


 それが俺の本当の嫌な予感だった。

 こればかりは予想がつかない。

 だが危険なものだと理解できるほどやばい。


「さすがね。常識はないけど戦う事については鋭いわ。ええ。あんたの言う通り、私にはこれを制御できる魔力はないわ。……だから、使ったの。……ブラックシーサーペントの魔石を。まだあと二本増やせるわよ?」



 ……はは。無理だ。



 この武器は俺に太刀打ちできるものじゃない。

 聖獣と伝説級の魔物の素材を使った武器だぞ?

 普通に神器だぞ?



 助けを求めて周りを見渡すが、他の客は首を振って俺にどうにかしろと訴えてくる。

 ここは俺がどうにかするしかないのか?

 俺にできるのか?


 それでもやらねばならない。

 あたって砕けろだ。


「リラ。まずはその武器をしまおうか。それはこの程度で使っていいものではない」


 俺はとりあえず武器をしまってほしかった。

 たから素直な気持ちを伝えたのだ。


 ただ、やっぱり俺に説得は無理だった。

 普通に玉砕した。

 というか事態は悪化した。


「この程度?

 何がこの程度なのかしら?

 あんたにとって何がこの程度なのかしら?

 ねぇ、何がこの程度なの??」


 ブォン


「「「〜〜〜〜〜っ」」」


 まさかの二本目追加だった。

 客の何人かは失神した。

 キャルちゃんに至っては虚ろに笑いながら宙を見ている。


 宿屋の外からも悲鳴や動物の鳴き声が聞こえてきた。確かにこの程度で終わらせていい事態ではなくなった。



 何故こんな事になったのだろう?

 俺のせいか?


 客達はお前のせいだと言わんばかりに睨んでくる。やはり俺のせいなのか。



「…………リラさん」

「なにかしら?」

「夜の街をデートでもしませんか?」

(((なんじゃそりゃーー!)))


 客達の総ツッコミが聞こえた気がしたが、俺にはもう正常な判断はできていなかった。

 ただ逃げたいだけの発言だったが、リラはしばらく考えて爪を消してくれた。


「ちゃんとエスコートしなさいよ」


 こうして宿屋の危機は乗り越えたが、代わりに危険が街に迫っただけだった。






「リラ様いってらっしゃいませ」

「「「いってらっしゃいませ」」」


 キャルちゃんだけでなく、なぜか客達にも見送られて俺とリラは夜の街に出た。


 どこからともなく悲しげな歌が聞こえてくる。前にもこんな事があったな〜、なんてぼんやりと考えてしまった。



「悪かったわね」


 隣ではリラがしおらしくなっていた。

 不機嫌ではないのだろうが、口がすごしとんがっている。


 どうしたものか。


「久しぶりに知ってる人に会ったから……すこしはしゃいじゃったのよ」


 アレをはしゃぐと言っていいのかわからないが、リラは反省しているようだ。

 それに知り合いに会えて嬉しいのは俺も一緒だ。思わずハメを外すのも仕方ないのかもしれない。


「久しぶりで驚いただけだよ。今思えばさっきのだってリラらしい行動だったよね」


 そうだ。

 彼女のバイオレンスは今更ではない。

 気絶させられたことだってあるし、彼女はいくつになっても変わらないのだ。


「なによそれ」


 リラはそっぽを向いたが、尖っていた口は元に戻っている。少しは機嫌を戻してくれたようだ。


 こうして俺たちは夜の街を歩いた。


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