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41 サラガ《憎悪》

 次の目的地は東に進んだフォルティカ王国。クーランド大陸で魔道具作りがもっとも盛んな国だ。


「俺の魔改造を見せてやる!」


 と息巻いていたアルだったが、その前にいきなり襲われた街に様子を見に行った。

 前回は逃げるように出ていったがあれから何ヶ月か経っているのだ。ほとぼりも覚めているだろう。




 だがそんな甘い期待は数分で打ち砕かれた。広場に辿り着く前にまたアルは囲まれたのである。


 しかしこの時のアルは一味違った。

 なんせ先生に鍛えられたあとなのだ。

 簡単に逃げ出すわけにはいかない。


 それにちょっぴり魔法で『躾』をするのに憧れてしまったようだ。

 だから今のアルは歩く非常識そのもの。

 触るな危険である。



「遅い! エアーインパクト」

「「「ぐぁー」」」


「その程度か! ファイアボール」

「「「ぎゃあー」」」


「格の違いを思いしれ! ブリザード」

「「「ひぃーー」」」


 やりたい放題である。

 おそらく先生が見たら「再教育だ」と叱っただろう。だが執拗に追いかけ回した街の者にも非はあるのでおあいこかもしれない。


 とにかくアルは当初の目的を忘れ、スッキリした顔で街を堂々と出ていった。

 それからお偉い人が来てギャーギャー騒いだのは言うまでもない。




◇◇◇◇



 フォルティカ王国へは東に行って入国する道と、北東に進んで入国する二つの道がある。

 北東からの方が早くフォルティカ王国の王都に着くが、山道が険しく一般的ではない。

 だから普通はすこし遠回りでも東の道を選ぶ。


 それに山道の険しい道は魔物が多くて今は誰も通らないらしい。


 だが道を進むのはアルだ。彼が山道の険しさや魔物の多さなど気にするはずがない。


 だからアルは迷うことなく山道の険しい北東の道を選んだ。なんならご褒美くらいに思っていたかもしれない。



 しかしそんなアルが今は後悔をしている。

 はっきり言ってアルは自惚れ過ぎた。


 特級迷宮の最深部以外の魔物なら勝てると甘く考えてしまったのかもしれない。

 だからまさか国境付近にこんな化け物がいるとは思わなかったのだろう。



 相対するのは黒いオーラに包まれた人型の化け物。

 それ以上の情報は得られない。

 なぜならその人型に輪郭はない。

 人型らしき形に不気味なオーラが漂っているが、その内側に体を構成する何かはない。


 そして何よりも気味が悪いのが化け物の顔だ。

 顔を構成するパーツはないはずだが、目と口の位置のオーラだけは漂うことなく深い闇のように黒く固定されている。


 まるで見開いた目と半開きの口のように見えて、呪いにでもかかっているようだ。



 とにかく相手にしてはいけないと本能が叫んでいる。しかしこいつを野放しにしていいとも思えない。


 そんな正真正銘の化け物を前に、アルは地上に降りて初めて逃げたいと思った。

 それでも最後まで逃げる事を選ぶことができず、アルは化け物と戦うことを決意した。





「ファイアウォール」


 それから謎の化け物と戦い続けるアルだが、弱点も勝ち筋もまったくと言っていいほど見つかっていない。

 魔法で一時的に弱体化できてもすぐに再生されてしまう。


 化け物はときおり黒いオーラを鞭のようにしならせてアルを襲ってきた。アルにとってそれを避けることは難しくないが、武器だろうとアレに直接触れることにためらいが生まれる。


 実際に鞭のようなものが地面に当たる度に瘴気が飛び散っている。

 それほどに禍々しいのだ。


 だからといって逃げたくない。野放しにしてはいけない。

 その思いだけで数時間も戦い続けているアルの精神力は、修行の成果だけとは言えないほど鬼気迫るものであった。


 


◇◇◇◇



「何がそんなに憎いんだ?」


 俺はこいつの正体が気になった。

 生き物でないことは見た目でわかっているが、感情を持っているようにも見える。


 だがこいつは間違いなく滅ぼすべき敵だ。このまま見過ごしていい存在ではない。


「焼き尽くして浄化してやる。フレイム」


 何度目になるかわからない魔法を叩きつける。もちろん火力が足りないのはわかっている。



 だから俺はあの技に改めて挑戦することにした。最後に先生と戦った時に放った最大威力の攻撃。


(あれから何度試しても答えてはくれなかった。だがこいつだけは倒さなければいけない)


 まだ足元の存在を十分に感じとれていないがそれでも俺は唱えた。


「力を貸してくれ! ブレス!」



 そして両手から凄まじい勢いで突風が放たれて上空で渦巻きだした。その威力はあの時と同じくらい強い。


 だが前回とはあきらかに違う。

 その風は制御できずに俺を取り込むように降りかかってきたのだ。


(なんだ!? まったく言うことを聞いてくれない!)


 ズババン

「ぐっ!」


 手を突き出して制御しようとしたが逆に俺の腕は一瞬で血まみれになった。


 それでも吹き荒れる風を抑えこもうとさらに力を込めようとする。



 だがその時、俺は凄まじい悪寒を感じた。


 目の前の化け物は虚ろな表情をしていたはずだが、まるで意思を取り戻したかのように表情を浮かべたのだ。


 それはダメージによる苦痛ではない。

 攻撃に対する抵抗でもない。


 怒り。

 憎しみ。



『――――――』


 そして叫ぶように暗い口が大きく開かれた。



 すると吹き荒れる風は俺の制御を完全に離れ、化け物のもとに集まった。


 その現象が一瞬理解できなかったがすぐにまずいと気がつく。



「制御が、奪われる」


 吹き荒れていた風は化け物の中にどんどん吸い込まれていく。攻撃を受けているのではなく、まるで吸収しているようだ。



 その吸収力は徐々に力を増す。

 すでに俺の放ったブレスなどとうに吸い終わっているはずなのに、まだなにかを吸い込もうとしている。



 当然その目的は俺だ。


 俺は体が吸い込まれないように剣を地面に突き刺して身を屈める。

 しかし踏み留まれない。



 やがて剣を突き刺した地面は割れ、俺は化け物の体に取り込まれてしまった。

 









『憎い 死にたくない』



 低い唸り声のような言葉が響く。



 俺は化け物の中で渦に呑まれるように翻弄されていた。


 時間の間隔が曖昧になっていく。取り込まれてから数秒のようにも思えるし数時間たっているとも感じる。


 まるで体が溶け出すようだ。


 手足をバタつかせる気も失せてきた。

 なぜ俺が戦っているかもよくわからない。


「……疲れたな」


 思わずそんな言葉を言った。

 強くあろうとするあまり弱音らしい弱音を最近は吐いてなかった気がする。



 だからもういいじゃないか。

 そんな気になった。



 そうやって自分に言い訳をして俺が目を瞑ったその時、心の奥から懐かしい声がした。




『その程度なの?』



 その声はさっきまで聞こえていた唸り声とは違う。

 厳しい口調ではあるが、どこか優し気にも感じる。



(俺にはまだできる事はあるのか? ……わからない。魔法も物理攻撃も効かなかった。俺に残された力は、あとは……)



 声の主を思いながら俺はそっと手を伸ばす。

 それに反応して俺の体が薄く緑色に光る。


 付与する対象はこの化け物だ。

 俺はその対象となる化け物を理解しようと意識を集中させる。




 その時、俺の脳裏にある男の姿が映った。

 それはフォルティカ王国の騎士団と共に竜と戦う男の姿だ。


 この世界で竜と戦うなど無謀以外の何者でもない。そもそも竜はこの地を護る者であり、戦うべき相手ではないのだ。



 ではなぜこの男は竜に挑んでいるのか?



 男の体は異様に黒く染まり、ほとんどの騎士達はすでに倒れている。


 それでも男は叫びながら剣を振り上げた。

 その顔に絶望は伺えず、執念にも似た何かを感じる。



 だがその男が助かることはなかった。

 竜は男と騎士団のほとんどを焼き尽くすと、黒い翼を羽ばたかせて大空に飛んでいった。


 生き残ったのはたったひとりの騎士。

 その騎士は焼け焦げた大地に跪き、涙を流しながら男の名を呼んだ。


 そこで俺は竜に挑んでいた男の正体に気がつく。



『第三王子』



 それは十数年前に迷宮国家サラガとフォルティカ王国の国境で姿を消したはずの男だ。




◇◇◇◇



 カカカン

 

 キキーン 



 俺の意識はほとんどなかった。

 なにかに呑み込まれて夢を見ているようだった。


 しかし俺の意識とは別に体は剣を振っている。


 そこに技などない。

 ただ力を込めて叫びながら振り回しているだけだ。

 まるで何かに怒りをぶつけるように。


 俺は体も心も黒い何かに侵されていくのを自覚したが、それをどうすることもきなかった。

 ただただ俺はそれを受け入れるしかないように感じていた。



 そして自分ではどうしようもない以上、あとは目の前の男に委ねるしかないのだとぼんやりと考えた。



「やばい気配がしたから来てみたが、お前とは昔会ったことがあるよな?」


 大剣を担いだ男は俺の剣を軽々と避けている。

 いくら技を使っていないとはいえ、素のスピードだけでも俺は早い。

 そこらの剣士に引けはとらないはずだ。


 だがその剣をたいした苦労もなく避ける男を見て俺は納得していた。

 この男にこんな戦い方で勝てるはずがないと、もうろうとする意識でも理解していた。



「答えれないなら別に構わんがな」


 そう言って男は大剣の背で俺を大きく薙ぎ払った。剣が両刃であれば間違いなく真っ二つになっていただろう。



 しかし俺の体は勝手に立ち上がり、再び男に襲いかかった。

 そんな俺を見た男は溜め息をついたあと、大剣を地面に突き刺して大声で叫ぶ。


「おい坊主! 目を覚ませ!」


 男の拳からは火が燃え盛るかのように真っ赤なオーラが噴き出している。

 そしてその拳を俺の胸に叩きつけた。


「闘拳!」


 その拳を受けた俺の体は火にあぶられたように赤いオーラに包まれた。


 だが焼けるようは痛みはない。

 代わりに俺を包んでいた黒いオーラは少しずつ溶けていく。


 そして俺の意識も鮮明になってきた。

 さらに自分を取り返すために俺は目を閉じて自分の内側に集中する。


 心の中はまだ暗い闇の中だが、自分にできることを探し潜り込んだ。




 体の感覚は薄れ意識だけの世界に入り込む。

 そこは光のない真っ暗な空間だった。


 その空間には誰もいはいはずなのに、俺の耳には様々な怨嗟の声が聞こえてくる。

 本当は耳を塞ぎたがったがそれをすべて聞き入れた。



(せめて、安らかな死を)


 そう願いながら俺は拳を握る。

 その時、俺の耳は新たな声を捉えた。



「ありがとうございました」



 振り返ると暗い闇の中に騎士が立っていた。

 それはやがて数人に増え、しばらくすると部隊と呼べるほどまで増えた。


 先ほどから聞こえていた怨嗟の主なのだろうか。

 だが騎士達の顔に恨みの表情はない。

 むしろ毅然とした態度だ。


「ご武運を」


 最後に騎士はそう言うと、すべての騎士は闇と共に消えた。



 果たして彼等は救われたのだろうか?


 俺にはその答えはわからない。

 だがこれからもあの憎しみを抱き続けることはないのだろう。


 黒いオーラの化け物はすでにいない。

 俺の内側にあった黒い何かも感じない。



 俺は手足を動かし、自分の体を取り返したことを実感した。


 いずれにせよ一命はとりとめた。

 だがら現実の問題に戻ろう。


 目の前では大剣を地面から引き抜いて不敵な笑みを浮べる男がいるのだから。


「問題も解決したみたいだし、いっちょやるか」


 俺を救ってくれた男は、改めて俺を倒したいらしい。


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