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34 サラガ《牢屋》

 アルはナリキ諸島から東に歩いて隣の国を目指した。

 その地はナリキ諸島と同じく特級迷宮によって滅ぼされ、すでに国として機能はしていない。


 それでもいくつかの人が住める大きな拠点はある。隣接する東のフォルティカ王国と南のクヴェルト帝国が物資と人を送り、防衛拠点を作り上げたのだ。


 そして滅びたはずの国は今も戦い続けている。元の国の名を残し《迷宮国家サラガ》として。




◇◇◇◇



「誰か戦ってるなぁ」


 俺は道なき草原を歩きながら呟いた。

 ナリキ諸島と迷宮国家サラガは国として機能していないため、街道のように整備された道はない。


 だからここがまだナリキなのかすでにサラガに入ったのかもわからない。だって国境みたいなのがないから。


 つまりここは人の手が行き届いていない危険な場所なのだ。そんな場所にいるだけですでに自己責任と言える。



「「ぅわ〜〜!」」

『ヂュウア――!』



 魔物の雄叫びや掛け声が林の中から聞こえるが俺は気にしない。

 だって俺は自分勝手になると決めたのだ。

 昔の俺だと思うなよ?


 そうやってワイルドな自分に酔いながら俺は颯爽と草原を歩いた。

 颯爽と雑草て似てるよね?

 ふふ。余裕のある男は違う。



 そんな甘い考えでいられたのは数十秒後までだとも知らずに。




「林を抜けたぞ! 急げ!」


 振り向くと声の主達が林から飛び出してきた。

 イチ、ニ、サン人だ。

 パーティを組んでる冒険者かな?

 ふふ。頑張りたまえ。



 俺は気にせず前を向いて歩きだした。

 もし助けを乞われても応じる必要はない。

 ただ、どうしてもというなら仕方ないけど助けてあげないでもない。ふふ。


「あっ! 人よ!」


 女の声がした。

 見つけてもらって少し安心したぜ。

 だけど簡単に助けて貰えると思うなよ?

 ただ、どうしてもというならやぶさかではないけどな。ふふ。



 こちらに走ってくる三人の足音が聞こえてきだした。

 そして俺の心臓も少しずつ高鳴る。

 急いでる急いでる。

 慌てるな慌てるな。



「なぁあんた! 助けてくれ!」


 男は息を切らしなが助けを求めてきた。

 だけど俺は自分勝手な男なのだ。

 そう簡単には助けてやらん。


 そして十秒前から準備していた言葉を振り向きざまに投げかけた。


「自分の力でどうにかするんだな」

「あぁそうかい!」



 バシャン!



 ん?

 むしろなんか投げつけられた?



「はっ! お前こそ自分の力でどうにかするんだな!」



 そんなことを叫びながら三人組は俺を置いて走っていった。


 そして気が付く。

 あいつらやりやがった。

 俺は付与を使えるからこれがなんなのかわかる。



 匂い玉だ。

 魔物の好きな匂いを俺につけて囮にする気か?

 自分勝手に生きようとしたらこんな目に合うのか?

 罰か?

 早くない?

 俺なんにもしてないよ?



 そんな俺の疑問に答えるように林から魔物達が飛び出してくる。それはもはや数える気になれないほどの大量のネズミ型魔物だった。


「くっそ〜! 自己チューめー!!」


 俺はやけになってネズミの討伐をはじめた。







 最初は面倒事を押しつけられと思っていたが、大量のネズミを倒すのははなかなかに爽快だった。


 はじめは徒手でまとめて吹き飛ばしていたが、さすがに多過ぎていろんなところを噛まれる。


 徒手がだめならと風魔法で振り払うがいまいち効いてない。



 そこで炎に切り替えたのがよかった。相変わらずネズミ共は狂ったように襲ってきたが、ファイアウォールで背中を守れば前だけに集中できたので余裕も生まれた。



 さらに戦い続けるうちに思いついた。

 ファイアウォールを身に纏えばいいんじゃない? しかもそれって格好良くない?


 さっそく俺はネズミと戦いながらチャレンジしたが上手くいかなかった。身に纏ったようにみえてもその場から動くと炎だけが置いていかれてしまう。



 そして何度もチャレンジするうちに俺は他の方法を思いついた。


「魔法を俺に付与したらどうなるんだ?」


 ネズミがいくら襲ってきても俺には関係なかったから、普通に噛まれながら試してみた。


(付与のコツはその対象を正しく認識すること。対象となるものに寄り添うように……なんだこれ?)


 俺はまぶたを閉じて自分の中身を見つめるが、輪郭が上手く掴めない。今まで足元の地脈を意識するばかりでこういった修行はしてこなかった。


「いい修行を教えてもらったな」


 まだすぐには習得できそうにないが、この修行は大きな成長に繋がりそうな気がする。

 これからも頑張って修行しよう。


「とりあえず終わらせるか」


 俺は炎の魔法を連発しながら林ごとネズミを殲滅した。テンションが上がってやり過ぎたかもしれないが仕方なかったのだ。







 それから俺はネズミを狩り尽くしてからも魔法を連発、いや、乱発していた。もう林どころか隣の森もなくなりかけているし今更関係ないだろう。


 それに久しぶりに一人になったおかけで色々と能力について考える時間ができた。



 例えば強化。

 俺は今まで威力のある攻撃をしようとした時は体を捻って溜めを作っていた。しかしこれでは隙が大きくなるし攻撃を当てるチャンスも減ってしまう。


 この解決のヒントをくれたのはパネェさんだ。

 彼女も体を捻って溜めを作ってから衝撃弾を放っていたが、決闘した時の最後の一振りにはそれが当てはまらなかった。


 俺に受け流されたハンマーは地面を打ちつけるはずだったが、パネェさんはその力の向きを無理やり回転方向に変えたのだ。


 本来であれば腕が悲鳴をあげ、十分な威力は得られなかったたろう。だがそれを成したのはおそらく剣鬼と同じ技のおかげ。


 その名は《瞬転》


 剣鬼は右に振り抜いた剣をなんの予備動作もなく切り返して左まで振り抜いていた。

 それはまるで見えない壁に打ち返されたかのように、一瞬も止まることなく力の向きを反転させていたのだ。

 おかげで一秒刻みで刻まれていたが。



 ちなみに剣鬼にとってこれは技でもなんでもないため、名などなかった。

 だから俺が勝手に瞬転と名付けたが、剣鬼は嫌がらなかったので公認されたのだろう。



 そしてパネェさんはあの時、地面に打ち付けるはずの力を瞬転のように回転力に変えたのだ。誰かに教わることもなく、宙に浮くという不安定な状態で。



 俺はまだ瞬転を使えないが、この技を覚えれば受け流しで流された剣を反転させ、そのまま相手に叩き込める。

 

 物理の法則から外れた攻撃。

 強くなるための新たな力だ。




 他にも魔法でも新しい発見があった。

 今まで意識していなかったが、自分の魔法で自分が傷付くことはほぼないらしい。


 うん。ほぼね。

 ちゃんと怪我したよ?


 天界では最終的に氷と雷の上位魔法まで使えるようになっていたから試してみたが、まったく制御できないまま発動されてしまった。


 氷魔法は俺を氷漬けしようとするし、雷は体に張りついてビリビリして離れなかった。

 確かに俺は魔法を纏おうとしたがそういう意味じゃないんだ。と思ったところで俺は気がついた。


(失敗だったけど、なんでこの二つは纏えたんだろう?)


 上位魔法だから纏えたのか?

 違う気がする。


 イメージが足りなかったのか?

 やっぱり違う気がする。




 久しぶりの疑問に俺は無我夢中で更に魔法を乱発した。

 それはそれは楽しい時間だった。

 食べる事も寝る事も忘れて一晩中訓練をした。



 ただ俺はこのあたりの地理に疎いのだ。

 だから知らなかったんだ。街があるなんて。

 だから許してほしい。



 もちろん許されることなく俺は、迷宮国家サラガの義勇兵と名乗る男達に連行された。




◇◇◇◇



「俺は自分の信念に基づいて生きてるんだ! 誰にも邪魔させない!」


 俺は格好良く義勇兵に言いつけてやった。

 しかし奴らは動じない。


 俺が檻に入ってるからって舐めるなよ?


「なんであんな事したんだ?」

「楽しくて」

「反省する気あるのか!?」


 義勇兵さんはめちゃくちゃ怒ってる。

 だが俺も無意味に森を焼いたわけではない。最初は理由があったはずだ。


 なんだっけかな?


「あっ! 思い出しました! 魔物を寄せつける匂い玉をぶつけられたんですよ! ひどいやつらですよね〜? だから仕方なかったんですよ」

「……」


 義勇兵さんはもう相手をしてくれないようだ。





 俺は時間がもったいなく感じたので一人組み手を始めた。魔法は怒られるだろうし武器は取り上げられている。



 まずは深呼吸。

 それから型通りに体を動かす。

 最初はゆっくりと踏み込んで、力の流れを意識して。



 うん。いい感じだ。



 俺はそれからずっと一人組み手をやり続けた。もはや俺は捕まっている事も忘れていたかもしれない。

 いや、忘れてた。


 それから少しずつ、動く速さを、力を上げていく。



 シュパパパン!


 いい音が響く。

 石に囲まれているので反響がきれいだ。

 うん。楽しくなってきた。

 もっと。もっと。


 俺は一心不乱に拳を、脚を振った。

 そしてその時ふと思った。「いける」と。


 右足を大きく前に踏込み、俺は右手を左腰まで回した。鉄格子に向けて半身になった俺は右手の手刀に力を込める。


 その右手は徐々に熱を持ち、陽炎によって輪郭を失っていく。


 不思議な感覚だった。

 強化とも魔法とも言えぬ力が湧いてくる。

 そしてその力に意志を宿す。



「はぁー!空刃(くうじん)!」


 キィン!


 まるで抜刀のように振りぬかれた俺の手刀からは影のような斬撃が放たれ、そのまま鉄格子を切り裂いてしまった。


 これは強化でも魔法でもない。

 よくわからないがはじめてできた技に俺は思わずあの人を思い出した。


「パネェさん。俺ついにやったよ。今度会った時は衝撃弾と勝負しようね」



 一人天井を見つめながら呟く俺に義勇兵は椅子から転げ落ちてガクブルしていた。

 そして俺の立場がもっと悪くなったのは言う間でもない。






「森を燃やし、さらには脱獄まで企てた凶悪犯というのは貴様か?」

「そんなつもりはありませんでした!」

「じゃあなぜこんな真似をした!」

「楽しくなったから?」

「貴様――!!」


 俺は義勇兵のお偉いさんからめちゃくちゃ怒られていた。

 確かにお偉いさんの言う通り結果だけみると俺は凶悪犯だ。訓練をしていただけだと言うのに。


 だから素直に謝ったのだがいくら悪気はなかったと言っても聞いてもらえない。仕方なく訓練しようとしたらまた怒られてしまう。


 だがこの程度で俺の訓練は止められない。

 今度は瞑想をして地脈との繋がりについて研究をすすめた。



「やっと静かになったか」



 義勇兵さんが何か言っているが気にしない。

 いや、気にしないということは気になっているということか?


 よし。もっと集中して何にも動じないほど地脈と繋がろう。


 俺は五感をすべて殺すという新たな境地を目指した。辿り着けたかどうかは俺にはわからなかったが。

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