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25 ナリキ《奪還》

「必殺!回転拳風三連!」

 ヒュヒュヒュ!


「奥の型!大車輪落し!」

 ガッバ――ン!!


「キャー! 流石勇者様!」

「よっ! 大陸イチ!」


(新鮮だ! いつも俺の修行は迷惑がられていたのにこの島の人達はなんと優しいのだ。捗る。これは捗るぞー!)


 島の人にノセられたアルはチョロかった。


 散々勇者と呼ぶなと言いながらも、後ろの黄色い声援に気をよくして魔物を殲滅しまくっているのだから。




 アルは目覚めてから能力が使えないことを自覚していたが、能力が発動できるまで待機するという考えは持ち合わせていなかった。


 もともと能力を持たずに戦い続けたのだ。それにアマラにしろ剣鬼にしろ、能力のあるなしでどうにかなる相手ではない。


 だからアルはあまり能力に頼る癖がなかった。憧れは人一倍強かったのに、それに頼る戦いをしてこなかった。


 クヴェルト帝国でも対人と言えば剣と勝手に解釈していたくらいだ。

 アルだから仕方ない。



 そして剣はクヴェルト帝国で満足したからとアルは徒手を選んだ。もともとアマラと特訓していたので問題ないと考え、ひたすら魔物を撲殺した。



 そんなアルを見て島の人達は知らず知らずクヴェルト帝国の兵と同じ戦法を選んだ。


 勇者を最前線に一人残したのである。



 だが彼らは魔物が怖かったわけでも勇者にだけ戦わせようと思ったわけでもない。その証拠にアルの両翼では男女問わず戦う島民の姿がちゃんとある。


 アルを孤立させたのは近くで戦うと徒手で吹き飛ばされた魔物達があちこちに飛んできて危ないのだ。


 つまり邪魔だったのだ。



 とはいえ一人は可哀想だからと後方から応援をしてあげたが、それが功を奏した。


 クヴェルト帝国の兵士から怒鳴られていたと勘違いしているアルは黄色い声援に感動し、五割増しで働いた。単純な男である。



 もちろんクヴェルト帝国でも女性の前で魔物を倒しまくっていたが、その女性はリラだったので仕方ない。


 むしろリラの側に魔物でも飛ばそうものなら罵倒されただろう。

 そんな過去をもつアルは黄色い声援に耐性もなかったのかもしれない。




 そして今日は《四つの島奪還作戦》の最終日。浮島の魔物に奪われた四つの島は、ひと月とかからずに人のもとに戻ったのだ。




◇◇◇◇



「肉は焼けたかー!?」

「酒だ! 秘蔵からなにまで全部用意しろ!」


 島の人々は賑やかに祭の準備をしていた。


 これからやらなければならないことはたくさんあるが、これまで我慢し続けてきたのだ。

 こんな時でないと発散できないと、勇者を称える事を理由に祭を開催することにした。



「では勇者アル殿の武功に感謝をし、乾杯!」

「「「乾杯〜!」」」



 翁の掛け声に合わせて皆が酒を飲む。


 これからの不安や苦労が脳裏を霞めたが、目を瞑るように飲み干した。

 今は希望が目の前にあるのだと言い聞かせ。



 翁は皆の顔を見たあとに「一言でいいから」とアルに話を振った。


 翁にも島の人々と同じく不安はある。

 いくら島を取り返したとはいえ、現状はひと月前に戻っただけだ。


 それに、もし勇者が旅立ったらどうしようかというのもある。



 繋ぎ止める何かがほしい。


 そしてこの席で翁は自分の孫娘を勇者の隣に座らせた。このまま酒に寄った勇者と関係を結べればと考えたのだ。



 もちろんそれをすんなり実行できるほど翁は無感情ではない。ただ島の存続と孫娘を天秤にかけ、どうしようもない気持ちで決断した。



 だが孫娘にそれを伝えてみると、彼女はそれを喜んで受け入れた。


 孫娘は勇者を応援するために戦いの場にいたのだが、一騎当千を目の当たりにして夫となる男があれほどに強ければ心強いと考えたのかもしれない。


 人としてではなく戦力に惚れた。

 孫娘にはアルが強い武器かなにかに見えたのかもしれない。



 そしてそう考えた者は翁の孫娘だけではない。自ら志願した娘達は勇者と同じテーブルに座ったのだ。


 もちろんここに座る前にすでに前哨戦は行われている。どんな内容かは語るのも恐ろしいほどだったらしい。


 その前哨戦で負けた娘達は隣のテーブルで虎視眈々と隙を伺っている。

 それを余裕の笑みで睨み返す本戦出場の娘達。


 ここはまさに戦場だった。


 娘達からは謎のオーラが漂っている。

 そのオーラは屈強な島の男達が尻込みするほどで、娘達に惚の字だった若造どもは涙した。



 力とは、これ程までに残酷なのかと。



 奴らは今夜決める気だ。

 あの武器を手に入れたものがすべてを従える覇者となる。


 島の人々はそんなことを思った。


 もしかしたらさっきの不安は娘達のせいかもしれない……






「では〜」


 間延びしたアルの声が響いて島の人々は顔を上げた。翁に促されて立ち上がった少年はニコニコとしていて強そうに見えない。



 戦場でも飄々としていたが、相変わらず人の良さそうな顔をしている。


 多分尻に敷かれるタイプだ。

 おかげで強いはずなのに頼りなく見えてしまう。


 

 そんなアルを見て、これ以上彼に希望を抱いていいのかと島民達は後ろめたくなった。


 それに彼とて望んでこの戦いに参戦したのかわからない。ここで「じゃあ帰ります」と言われても文句など言えない。



 引き留める理由も同情以外に思いつかない。


 だから、この先はないのかもしれない。

 そんな思いを抱いていた。



 それでも勇者への純粋な感謝を示すため、誰もがアルの言葉に耳を傾けた。


 そして、アルの言葉を聞いた一同は目を見開いて声を失った。




「取り返しますよ。全部。

 そのために俺は戦い続ける」




 勇者は言いきった。



 島の誰もが「いつかは」と口にしながら戦ったが、それは遠い夢に対する願望のようなものだった。


 長い侵略に耐え続けた彼らは、大事なひとを護るために、次の者に繋ぐための戦いなのだと無意識に考えていたのかもしれない。



 だから四つの島を取り返しても彼らは素直に喜べなかった。また奪われてしまうことが怖かったからだ。



 だが勇者の言葉を聞いた者達は、自分の中の何かに気がついてしまった。


 それが悔しくて歯を食いしばり涙する者もいれば、熱い想いに闘志を漲らせる者もいた。

 年老いた者も、信じてきてよかったと、先祖も自分達も間違ってなかったと感極まった。



 そして島の誰かが呟いた。



「俺はやるぞ」


 

 はじまりはその一言だった。

 だが、堰を切ったように皆の感情が、言葉が溢れ出す。



「私が、取り返す」

「ああ! もう守るだけじゃ駄目だ!」

「そうだ! 俺たちは列島を取り返すんだ!」



 アルの一言で、島の気持ちは千五百年の時を経てまたひとつとなった。



 死ぬための戦いではない。

 すべてを手に入れるのだと。


「戦うぞ!」

「やるぞ!」



 皆が叫ぶなか、勇者は杯を掲げた。


 皆がその動きに呼応し杯を掲げ、勇者の言葉を待った。



「一年で取り返す! それまで止まらん! 明日の戦場を用意しろ!」

「「「ぅおおおおお!!」」」



 島は震えるほどに木霊した。

 勇者とならすべてを取り返せると信じた。

 夢は叶うとはじめて思えたのだ。



 そして勇者は杯を一気に傾けて飲み干すと、その場でテーブルに突っ伏した。



 既に明日に向けて休息に入ったというのか!?


 明日と言う言葉は例えではなく本気なのだと島の人々は期待に満ちた。





 それから祭りは長引くことなくすぐに終わった。


 各々は杯の中身を飲み干すと、力を蓄えるためにテーブルの食事をかきこみ、明日に向けて眠りについた。



 流石の娘達も勇者を狙うことをせず、休戦協定を結んだ。


 島の平和は守られたのだ。

 そして若造達にほんのすこしだけ希望が残った。






 この日から島民は信じられない速度で島を取り返していく。

 百を越える島を一年で取り返そうというのだ。普通ではない。


 しかし一年という極端に短い期間を示したことが幸を奏した。


 勇者が一年と言って先頭を走っているのだ。

 すべてを手に入れるため、島の人々はすべてを賭けてあとを追った。



 例え、アルが一年で取り返すと言ったのが能力の事だったとしても、それを知らない彼らには些細な事だった。




◇◇◇◇



 半年後



「右翼遅れてんぞ! 魔法部隊は中央を残しつつ両翼をしっかり狙え!」

「奇襲部隊が左翼裏に回り込みました!」

「後方支援からもカタパルト届きました!」

「よし! 盾兵は左右に広がりながら陣を伸ばせ! 包囲網を完成させるぞ!」

「「「おおお――!」」」

「殲滅開始!」



 列島の人って強いしタフだよな〜。

 なんでこれで島を奪われたんだろ?



 俺は列島の人達と数ヶ月共に戦って不思議に思った。


 まず精神的に強い。

 戦えない者までも戦場に赴き、倒した魔物の素材をその場で武器や防具に加工している。


 普通にすごい。

 怖くないのかな?



 さらに能力を持ってなかったはずの人達も、戦いながらどんどんオーラを身につけていった。


 これが師匠や剣鬼が言っていた死にかければ覚えるというやつか。

 悲しい事に実証されてしまったようだ。



 そしてなんと言っても休まない。


 昼も夜も関係なく魔物と戦い、島の魔物を狩り尽くすとすぐに船に乗って順次出発する。


 魔物がまた上陸するかもしれないが、また狩ればいいと笑って終わらせた。


 そんなノリで次の島に着いたら全力で魔物退治を開始する。おかげで船で寝る以外に休む姿をほとんど見てない。



 戦闘民族でももうちょい休むよ?

 若い女の子とか普通に混ざってるしさ。


 この前も一番小さな子に「大丈夫?」て聞いたら「すみません」て泣かれたけど俺なんかした?

 しかも二週間後には魔法ぶっ放してドヤ顔してきたけどほんとなんなの?

 普通に嫉妬するわ。




 そんな修行を煮詰めてギュッとしたようなツアーだったけど、今日は島に泊まることになった。


 島の魔物の討伐は陽が落ちるまでに終わったけど、この数ヶ月で、いや、この世界にきてはじめて俺はこいつに出会った。


 迷宮だ。

 この島には崖にそびえ立つようにひとつの塔が鎮座していた。




「列島での迷宮の言い伝えとかってあるの?」

「いえ、聞いたことないっす。この島が魔物に奪われてから数百年たってますし、たぶん誰も知らないっすよ」


 元気よく答えてくれたのはこの島で一番戦闘能力が高い双剣使いの元気君だ。


 彼は俺よりも年上だけど、いつも元気にハキハキ喋るので勝手にそう呼んでいる。

 ちっとも違和感はない。



 さらに俺たちの後ろには二人の戦士がついてきている。斧使いのおっちゃんとハンマー使いのお姉さんだ。


 おっちゃんは酒が好きそうないかにもおっちゃん。


 隣にいるそばかすでオレンジ髪のお姉さんは、昔から近所に住んでいて会うたびに気軽に話しかけてくるタイプのそんなお姉さん。


 もっとも俺にはそんな経験はない。

 せいぜい毎日蹴飛ばしてくる師匠がいたくらいだ。だから俺の勝手なイメージ。


 そしてそんな気さくな近所系のお姉さんは何故ハンマーを選んだんだ?





 とりあえず島の人達の認識では俺の役職は魔法使いという事になっている。

 最初は能力を発動出来なかったので徒手でやってたけど、そのうち能力は戻ってきた。


 魔法は使わなくても問題なく魔物達を倒せたけど、島のみんなのラッシュがどんどんすごくなって手がつけられなくなった。


 だから俺も獲物を取られないように先手必勝で魔法を使いまくっていたらいつの間にか魔法使いに認定された。



 そしてこの四人で何をするかと言えば迷宮攻略だ。迷宮は見た目と中の広さが伴わない異空間となっているらしい。


 ここにいない他の人達はこの島を今後の中継拠点として開発するそうだ。迷宮を攻略すると、その後は遺跡として有用な資源が数年から数十年採れる。


 ここは最初の島からも程遠いので、これからの修行の中継地点としてもいいのかもしれない。



 そんなことを話しながら島のみんなは拠点開発のために散らばった。

 誰も入ったことのない迷宮なのに、攻略できると疑わない程に島の人々は脳筋になってしまったのだ。



「さて、はじめての迷宮退治といきますか」


 俺たち四人は誰にも見送られることなく迷宮に足を踏み入れた。

土日以外は投稿しますので、明日もよろしくお願いします。

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