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21 クヴェルト《遠征》

 夏の終わりを迎えアルは帝都を出るための準備をしていた。



 特に冒険者ギルドには訓練やら食事やらでお世話になったので、受付に挨拶に行ったらなぜかギルドマスターの部屋まで案内された。


「やはりこの国を出るのですか。残念です。十八歳になったら必ず冒険者になってくださいね?  クヴェルトでなら私の力ですぐに上級冒険者に認定しますから」


 ギルドマスターは残念そうに言った。


 ギルドマスターがアルを大事にしてくれたのは、冒険者でもないのに各地のそれなりに強力な魔物を討伐して回ったからだ。


 もっともアルにはそんな自覚はない。

 アルはリラに命令されて採取(討伐)していただけなのだから。


 しかし本来であれば冒険者に討伐報酬を払わないといけないところを、アルの場合は本人が勝手に討伐しているのだ。

 ギルドとしてはお金を払う義務はない。


 だがそれではあんまりだということでそれなりの現金報酬を渡した。

 しかしアルがまったくお金を使わない様子から、お姉さんに回収されているのだろうという結論にいたった。



 もちろんリラはまったく関係ない。

 例のごとく宿屋の机の上に置いてたらなくなっただけである。宿屋もアルのチップに応えるために一生懸命食事の質と量を上げていたので、誰も不幸にはなっていない。

 いや、リラが風評被害にあっていた。

 


 そんなことがあって、アルはギルドの酒場の飯はいくらでも食べていいという措置がとられた。

 そして飯代だけでいいのなら、ギルドにとっては格安で済む。


 ただ捕獲や部位採取の依頼はどうしようもない。アルはすべてをリラに納めているのだ。

 だからそこは冒険者ギルドもどうしようもないと諦めている。


 そのアルが帝国を出ていけば格安労働者がいなくなるのだ。

 当然残念に思われるだろう。



「すみません。これからはお役にたてなくて」

「いえいえアルさんが気にする必要はないですよ。それにここ数日、魔物に襲われたけど大熊が助けてくれたという報告が各地から来ているのですよ。ここ最近そんな話は聞いてなかったから帝国の民も喜んでいまして」


 彼は頑張っているらしい。

 彼の思いは別にありそうだが、リラに届けばいいな。





 あとはシルバーナイツに挨拶をした。

 キッカについては泣いていた。

 鼻をすすりながら「無事に終わった」と噛み締めていたが何も終わってない。


 なぜならふたりの関係は《マイフレンドフォーエバー》なのだから。







 こうして帝都の用事はほとんど終わった。

 そもそもアルに知り合いはあまりいない。


 残す用事はリラの言った夏の最後のイベントだけだ。その内容についても少しわかった。



 目的地は帝都から南西にある島々が連なった半島だ。


 アルの次の目的地であるナリキ諸島はその半島から海を越えた北西にある。

 その半島から船でナリキ諸島に渡れるので現地解散ということになった。



 リラは兵士達と一緒に帝都に戻ってくるから大丈夫と言っていたが、兵士を送迎に使うってこと事態が謎だ。


 前に一度「実はお姫様?」とアルが聞いたが「嫌味か?」と殺気を放たれたので違うのだろう。


 兵士達は怖くて言うことをきいているだけかもしれない。







「忘れものない? ってあんたに聞いても無駄か」

「そうだね。全部身につけてるし」


 次に行くナリキ諸島は迷宮のせいで国として機能してないからお金は使えない。

 だからアルにも優しい場所だ。



 目的地の半島までは小さな島をいくつか渡るため、何度か船に乗り換える必要がある。



 そして帝都の門をくぐってアルは驚いた。


 帰りは兵士と一緒とリラが言っていたから、一緒に兵士も行くのだろうくらいには思っていたが、なんせ数が多すぎる。


 三百人くらいいる。

 しかもみんな騎乗してビシッとしている。



 アルが兵士達を見て思わず固まっていると、見覚えのある人が近づいてきた。


 いつかの大臣だ。


「今回は私も着いて行きますので、よろしくお願いします。それではあちらの馬車にどうぞ」

「それは殊勝な心がけね」


 リラはさらりと言ったのでアルは驚いた。

 大臣も気にした様子もなく頷いている。


「リラってやっぱり……」

「なによ。またお姫様なんて言ったらぶっ飛ばすわよ」

「え? じゃあ何者なの? 殊勝な心がけって目上の人に使っちゃいけないんだよ?」

「!?」


 アルの知識はなぜか敬語については詳しかった。そのせいで他の常識が薄いのかもしれない。


 それを指摘されたリラは驚いた顔をしたあと、顔を真っ赤にして「失礼致しました!」と素直に頭を下げた。


 そんなリラを見ていると余計に何者かわからなくなる。






「リラさんには我々帝国部隊に薬を納品して頂いていたのですよ。かれこれ二年くらいになります。効果が大変よく、兵士の者からも好評でしてね」


 馬車の中で大臣は説明してくれた。


 リラは本当にただの薬屋だったらしい。今は顔を赤くして俯いているが。


「他にも組み手の訓練もつけてくれまして」

「……へ? なんで?」

「リラさんの組み手は理論的で勉強になるんです。だから定期的にご指導頂いているんです」

「……付与士なのに?」

「ええ。それにやり過ぎてもリラさんのポーションはよく効きますので」

「……はは、ははは(チラッ)」

「組み手は私の師匠が教えてくれたのよ。それで大きくなったら兵士で練習しろって言ってたからやっただけよ」


(……どうりで兵士達が怯えるわけだ)





 そして今回はそのよく効く薬が大量に必要になるくらい大変な遠征らしい。


 なんでも毎年この時期に海から魔物が上がってくるのだが、数日前にナリキ諸島側から大量の魔物が移動しているのが見つかったらしい。



 当初の夏のイベントは大イベントにまで昇格し、兵士は予定の数倍にまで増えた。


 さらに大臣自ら出陣するという緊急事態。

 大臣からは強い魔法のオーラを感じるから戦力として戦うつもりだろう。




 そして話に飽きたアルはいつものように馬車を出た。

 今回はたくさんの馬たちと走れてとても楽しそうだった。




◇◇◇◇



「噂には聞いていましたが、本当に走って目的地まで辿り着くとは」

「途中は泳ぎましたよ?」

「いえ、船に乗ってない時点で同じです」


 大臣はやや疲れた顔をしている。


 普段遠征なんてしてないのに、この程度の疲労で済むのはたいしたものだ。

 その横ではリラが兵士に肩を揉ませている。



 これからは目的の入江付近に拠点を作って待機だ。この島には大きくて村もあるので不自由はない。



 魔物の襲撃が何日後かわからないが、その日まで兵士達に対多人数戦の稽古をつけてもらおうとアルはのほほんと考えていた。

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