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13 クヴェルト《帝都》

 陽が昇り、アル達は馬車に揺られて帝都を目指していた。


 相乗り馬車は徒歩の二倍ほどしか速度がでないが、それでも重い防具や武器を担ぐ冒険者達にとっては有り難い存在だ。


 だからこの馬車では体を休めるのが普通なのだが、アルは馬車から降りて走り続けている。



「あいついつまで走ってるんだよ」


 最初こそ初めての馬車に浮かれていたアルだったが、数分もしないうちに飽きて外に出て走り出した。

 今では走るだけでは飽き足らず、左右にステップを踏みながら右へ左へと駆け抜けている。


「キッカさんも走ろうよー」

「……」

「キッカさーん!」

「……」


 キッカもシルバーナイツのメンバーもアルの相手をするのが疲れたようだ。


 それでも彼らには任務がある。

 アルを帝都まで連れて帰るという任務が。

 だからアルが街道沿いにある森の中に走り込んでしまっては流石に無視できない。


「おい! 何やってる!? 戻ってこい!」


 幌の窓からアルを横目で見ていたキッカが大声で叫ぶ。それが気になって同乗者達も外の様子を気眺める。



「ぐわ!」

「なんだっ!」

「ぎゃ!」



 そして目を向けた森の中からは複数の叫び声が聞こえてきた。


「今度はなんだよ〜」


 キッカの苦労はまだまだ終わらないようだ。





 キッカは御者に止まるように頼んで外に出ると、同乗していた他の冒険者達も一緒に降りてきた。

 それからしばらくしてアルは戻ってきたが、その肩には二人の男が担がれている。


「……なにしてる」

「人助けです!」

「わからんわ!」



 どうやらアルは盗賊に捕まった商人を助けたらしい。


 盗賊は襲った馬車で荷台ごと森に入り込み、持ち運びしやすいものを物色していた最中だったようだ。

 そこに音もなく突撃してきたアルにたいした抵抗もできず一瞬で制圧されてしまった。



 捉えた盗賊は今日泊まる街に引き渡すことになり、盗賊達は元々キッカ達が乗っていた相乗り馬車に縛って乗せた。


 盗賊を捉えたお金は相乗りしたみんなと山分けと言っているので誰も文句は言わない。

 盗賊よりも分ける人数が多いのでたいした収入にはならないが、今日の夜は自分の財布を使わずに楽しく過ごすくらいはできるだろう。



 商人の馬車を森から引きずりだしたあと、商人はお礼をするからと帝都までの護衛を依頼してきた。もちろん商人はアルに聞いてきたが、財布の中身が怪しくなっていたキッカがアルを差し置いて了承の返事をした。


 自分の功績なのにと怒るアルだったが、昨日宿に泊めてもらった恩はすでに忘れているようだ。





 それから問題なく予定の街まで着いたが、アルは相変わらずうろちょろと走リ続けた。


「最後まで走りやがった……」

「明日一緒に走ります?」

「勘弁してくれ」


 先に到着していた相乗り馬車の人と宿で合流し、盗賊の分前をもらったアル。

 初めての現金収入だ。





 そして次の日、昨日の商人と相乗り馬車は足並みを揃えて移動していた。その方が安全なのでそれ自体は問題ないのだが、問題はアルだった。


「秘剣!竜巻剣三連!」

 ヒュヒュヒュ!


「奥の型!大車輪!」

 ガッバ―――ン!!


「ヒヒーン!」

「やり過ぎだバカヤロー!」

「さっせ〜〜ん!」


 馬車の外には御者に怒られながら走り続けるアルがいた。


 ステップを踏みながら走るのに飽きたアルは、興がのってありもしない技名を叫びながら剣を振っている。

 本人は遊んでいるつもりだろうがそれは達人が見ても納得するレベルの技だったが。



「なんだよあのふざけた強さは」

「噂じゃ若武者は防御特化じゃなかったのか?」


 相乗りしてるいる冒険者達は呆然と眺めている。

 昨日盗賊を無傷で制圧したと聞き、子供だがやはり噂通りの腕はあるのかと認識を改めていたが、それでは足りなかったようだ。



 しかし無邪気過ぎる。

 あれほどの力を持った者が、笑顔でその力を振るったと考えると嫌な予感しかしない。


「あんなのを帝都に連れ込んでいいのか?」


 パーティメンバーが心配そうにキッカに尋ねたが、キッカは最早外など見ていなかった。

 両手で顔を覆って下を向いている。


「……俺のせいじゃないもん」


 絞り出すように出てきた言葉は、三十歳が言っていいものではなかった。




◇◇◇◇



「帝都だー!」

「!? 待て! お前はまだ行くなー!」


 帝都の城壁を見て走りだしたアルにむけて御者が必死に叫ぶ。たった二日ではあるが、彼もアルの危うさがよくわかったようだ。



 帝都の城壁は高く、外部にも強さを誇示しているのだろう。


 実際クヴェルト帝国は強い。

 クーランド大陸最強と呼ばれている。


 もっとも元は七つあった国も、現在機能しているのは二カ国に減ってしまったが。


 そんな帝都を見つめるアルの目は輝いていた。

 それは高い城壁でも門の入り口に並ぶ馬車の行列のせいでもない。


「あれが《銀の城》か」


 それはクヴェルト帝国が特級迷宮を攻略した証である。






 昔からこの大陸は潤っていた。


 気候は温暖で冬でも山間部にしか雪は積もらない。おかげで平地では冬をまたいで作物を作る事ができ、食料に困る事などなかった。


 山間部が多く人の行き来は大変だったが、山の恵みに大地に広がる川と、何不自由なかった。



 さらにこの大陸には土地を護るように七匹の竜がいた。


 ある竜は高い山の上に。

 ある竜は深い森の中に。

 そしてある竜は離島に。



 そんな竜を人々は崇拝した。

 なぜなら竜は時には旅人を魔物から助け、病で苦しむ村人を竜の血によって救ったからだ。


 そして人々はその恩恵を授かろうと、竜の住処からほど近い距離に街を作り、やがてそこは国の都となった。





「だからこの大陸には竜に合わせて七つの国が誕生したんですね」

「あぁそうだ。それにお互いの国は竜を崇拝してるんだ。他国を侵攻するって事は竜を怒らせるって事だからそんな真似はできない。だから国同士の争いなんて基本的にないんだよ。政治的にはあるだろうがな」


 御者はアルを隣に座らせて説明してくれた。帝都に入る為にはまだしばらく待っていないといけないからだ。





 そんな豊かな大地ではあったが、三千年ほど前、この大陸で大きな異変が起こった。



 クヴェルト帝国の南西にあるミスタリキ国で、突如大型迷宮が生まれたのだ。

 その迷宮はやがてミスタリキ国を滅ぼすほどの魔物を生んで手がつけられなくなった。



 さらにその五百年後、今度はクヴェルト帝国の南にあるガルラマ国でも大型迷宮が発生した。

 ミスタリキとガルラマの者達は土地を諦めクヴェルト帝国に移住したが、それから三百年後、ついにクヴェルト帝国にも大型迷宮が発生した。




 これによりクーランド大陸は南側半分を魔物に奪われてしまったのだ。


 大型迷宮は魔物だけでなく、派生の迷宮を次々に生み出し続けた為、国を滅ぼした三つの迷宮は特級迷宮と名付けられた。



 迷宮が支配した土地は瘴気によって土地が枯れ、人々は追われるように北に逃げた。


 そして今の修行の地を境に大陸の防衛戦を張り、二百年間魔物の侵攻を止め続けた。



 その二百年に及ぶ戦いは修行の地の地脈を活発なものに変え、そこで戦い続ける兵士にやがて強い能力を発動する者が増えた。


 そして力を蓄えた人類はやがて魔物を押し返し、クヴェルト帝国の特級迷宮を攻略。

 その勢いのままミスタリキ国とガルラマ国の特級迷宮も攻略したのだ。




「だから修行の地に人が集まってくるんですね」

「なんでこんなことも知らずにあそこにいたんだよ……」


 御者は呆れているがアルの知識にそれはなかった。

 この世界を救うと言ったのだからもっと有益な情報をくれればよかったのにとアルは愚痴ったが、アルが知識をもらったのは世界を救う宣言をする前なので仕方がない。


 それに気がついていないアルが残念なだけなのだ。




「そして特級迷宮だったものを攻略して、あの銀の城という遺跡が残ったんだ。遺跡からは魔物は出てこないが、貴重な資源がたくさん出てきたそうだ。今はもうそんなにとれないらしいが、数百年に渡りこの国を潤したんだとさ」


 自分の知識を疑いだしたアルは御者に質問をする。


「ミスタリキ国とガルラマ国にも遺跡があるんですか?」

「あぁ、その二つにもある。だがその二つの国は特級迷宮によって滅ぼされた期間が長すぎて、今も国としては機能してない。だからミスタリキとガルラマと呼んで国はつけないな。今でもそれぞれの集落で独自に生活しているらしく、王様みたいなのもいない。もっとも商人も冒険者も出入りしてるからそこまで閉鎖的でもないさ」


(それならいつかはミスタリキとガルラマの遺跡にも行ってみるか)


 大陸を旅するというアマラとの約束を思い出しながらアルは銀の城を見つめた。




「次の馬車」


 そしてようやくアル達の順番がきたが、アルはそこで大事な事を思いだす。


「キッカさん! 俺金もってない!」

「なんでだよ! 盗賊の懸賞金あんだろ!」

「宿に忘れた!」

「アホか! 物をもつことを覚えろ!」


 それでもキッカは渋々アルの入門料を出してくれた。


 そんなキッカの為に、いつか役にたとうとちょっとだけ思ったアルだが、本編でそれは確認できなかった。

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