三手
そして、ジャックが〝幻獣創造〟が来ると予想した三日後になった。
ショッピングモールで札を発見してから他にも無いかと探してみたが、結局見つかった札の数は変らずに一枚のままだ。周辺の大きな建物や、人が多く居そうな街の広場など、色々な場所を死やに入れて探してみたが見つからなかった。
一枚見つかったので、他にも札があるのではないかという不安を残したが、ジャックが予想した三日後になったので、俺達は行動せざる得なかった。
時刻は深夜十二時……まだ、三日後になってから一分も経過していない。俺達は明日になると同時に行動を開始したのだ。
「〝幻獣創造〟はいつ、どの時間滞にやってくるか全く予想が付かない。人間が多い時間の可能性が高いが、万が一に備えてこの時間に集まってもらった」
ジャックは一週間以内に来るのは確実だと言っていたが、時間滞までは全く予想することは出来ない。相手の行動すべて読み切る事など不可能に等しい。特に現われる時間など、先が見えなければ読み切る事など不可能だ。そして、俺達に未来を観ることが出来る召喚者は存在していない。
「ええ、分かってるわ。〝幻獣創造〟は私達に分からないように札をショッピングモールに貼った……という事は、寝ている時間滞に来られれば私達はたぶん気がつく事が出来ないわ……」
「そして、魔力に気がついた時には既に敵から遅れを取っているという状況になる」
俺が白雪の言った言葉に被せるように言う。あらかじめジャックから理由を聞かされていたが、召喚者であれば誰でも考え付く発想だろう。相手に遅れ取らないようにする事など一つしかない……それは俺達が先に行動するということだ。
先に行動をとって送れを取る可能性は充分に高いが、準備が出来ている状態と出来ていない状態では戦う時に大きな差が生じる事になる。そして、俺達が気づかない内に姿を現すというのは、一番悪い状態だ。
理由は明確で、俺達の準備が全く出来ていない状態になるからだ。気持ちの面ではいつでも戦える準備というのはしてるが、それでも急に現われたのとでは大きな違いが生じる。
〝第三次開放〟の使い手が三人居る状態ではかなり有利といえるが、相手は無制限に〝幻獣〟を創造出来る召喚者だ。数では圧倒的に不利になる状態で、遅れを取る訳には行かない。
「それなら、決めた通りに分かれるか……俺と〝三日月雷鎌〟でショッピングモールに行く。そして、海人は一番高いビルの上で待機していてくれ。見晴らしのいい場所なら仮に〝幻獣創造〟が違う場所に現われても見つけることが出来るだろう」
「そうね……あの、一ついいかしら??」
配置の確認をしたジャックだが、白雪は少しだけ不満そうだった。配置については充分話し合った結果、全員が納得したのでこの配置になった。それは、白雪も同じはずだが……。
「どうして海人は名前なのに、私は武器名なのよ?」
「不満だったのはそこか……」
けど、確かにジャックは俺の事は名前で呼ぶが、白雪の事はほとんど名前で呼ばない。呼んだ事あるもしれないが、三日しか経過していない中で覚えが無いという事は呼んだ事ないのだろう。
「別に意味はない。ただ、なんて呼べばいいんだ?」
「なんて呼べばって……別に普通に呼べばいいじゃない」
確かにその通りだ。いちいち〝三日月雷鎌〟など呼んでいたら長くて仕方が無い。何か名前を呼ばない理由でもあるのだろうか?
「いきなり女性に対して名前で呼ぶのは抵抗がある……苗字は知らないしな」
そう言われてみると、俺達は一度もジャックに対して名前を名乗ったことはない。たぶんだが、俺の名前が海人だというのも、白雪が呼んでいたからという理由だろう。男子である俺になら初めから名前で呼べるという事だ。
一方、白雪は女性なので名前を呼ばなかったということらしい。クラスメイトに可愛いやら言っていた奴が言う言葉とは思えなかった。
「私は桜白雪っていうの。別に呼び方は強制しないけど、出来れば武器の名前で呼ぶのではなくて普通に呼んで欲しいわ。〝幻獣創造〟を倒す間だけだけど、一応協力してるんだしね」
「ああ……そうだな。それなら桜と呼ばせてもらう。さすがに白雪と呼ぶのは慣れなれ過ぎるからな」
「私は気にしないけど……分かったわ。桜でお願い」
ジャックと白雪の距離が少し近づいた所で、俺は時計に目を向けた。時刻は午前十二時二十分だ。寮の俺の部屋に集まってから既に二十分という時間が経過している。早く移動した方がよさそうだ。
「それじゃ、そろそろ移動するか?」
俺の言葉に二人とも時計に目を向け、頷いた。〝幻獣創造〟がいつ現われるか全く予想出来ないので、速めに配置についたほうが良いだろう。もしかすると、俺達が話しをしていた二十分間の内に既に姿を現している可能性も無くはない。
ショッピングモールという近い距離でも〝幻獣創造〟の存在に気がつく事が出来なかった俺達だ。きっと、今居るとしても俺達が気がつく事は出来ない可能性が極めて高い。
「そうね。札周辺は特に怪しいから早く監視しないと行けないわ」
「そうだな。〝幻獣創造〟がいつ姿を現してもいいように準備もしなければならない」
真剣は表情に変化し、二人の気配が濃くなる。これから起こる戦いは決して召喚者だけの問題では終わらないはずだ。〝魔術閉鎖空間〟が機能しないとなると死んだ人間や、壊れた建物は決して元に戻ることは無い。
〝魔術閉鎖空間〟内で壊れた物でなければ意味がないのだ……〝幻獣創造〟を倒した後に〝魔術閉鎖空間〟を展開しても、壊れた物を元に戻すことは不可能だ。あくまでも展開した状態でなければ全く効果はない。
「よし、それじゃ行動するか」
「そうね」
「おう!」
真っ暗で寝静まった学園……この辺一帯に〝幻獣創造〟が現われるのであれば、きっと学園も無事ではすまないだろう。一緒の学園に通って居る生徒……普段授業をしてくれている先生。そして、クラスメイト達が今日という日に、二度と会えなくなる可能性がある。
きっと、被害は最小限に抑えたいが無理な場所がどうしても存在するのもまた確かだ。だが、速めに倒して戦いを終わらせる。
寮の窓をあけて、俺達は各自の配置に移動することにした。
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海人と分かれたジャックと白雪は、ショッピングモール前に居た。
深夜十二時を回ったからといって、決して人が居ない訳ではない。仕事帰りのサラリーマンや、酔っている人などまだ多くの人の姿が街には存在する。勿論それはショッピングモール前でも同じだ。
比較的駅から近い位置にあるショッピングモール前は、仕事帰りの人が多く通る。夜に集まっている若者などの姿も少し見受けられるが、基本的には仕事帰りの人が多い。
人の姿があるということは、ジャックと白雪の姿も見られているということだ。そして、今は深夜十二時を回っている。当然、昼間のようにショッピングモールに入れる訳もなく、中にある札を監視するには中に入る以外の方法が無い。
札の貼ってある場所は一度確認しているので、ジャックと白雪は札から感じる仄かな魔力を察知することは可能だが、危険を承知の上でも、すぐに札の場所に行けるようにショッピングモール内にいた方が賢明と言える。
「中に忍び込むのは簡単だけど、人の視線が気になるわね……」
暗くて遠目からでは見えない物影に隠れる二人は、ショッピングモールの中に入るタイミングを見計らっていた。時間を消費するのは非常に問題ある事など理解しているが、二人には人に見られてはならない理由が存在している。
「〝幻獣創造〟と戦う時には〝魔術閉鎖空間〟は使う事が出来ない……つまり、一般人にも召喚者という存在が居ることを漏洩してしまう事になる」
この周辺に居る召喚者で〝幻獣創造〟と渡り合える召喚者は、海人、白雪、ジャックの三人だけだ。他の召喚者も数名存在しているが、どれも三人には到底敵わない召喚者ばかりだ。
〝幻獣創造〟は〝第三次開放〟の使い手だ。普通の召喚者では話しにならないのは召喚者であれば誰でも理解している。ということは、周辺に居る三人以外の召喚者は傍観しているだけだろう。
わざわざ死にに来る馬鹿が居ないのと同じで、死にたくない状況で死を選ぶ行為など絶対にしないはずだ。そうなると、戦う事になるのは三人だけという事になる。
「戦うのはいい……けど、顔が明るみになるのは避けなければならない」
顔が見られてしまうと三人は普通の生活を送ることは不可能になる。人間からすれば化け物である召喚者を野放しにするほど人間も馬鹿ではない。警察も動き、面倒な事になるからだ。
召喚者である三人が人間相手にどうにかなるはずなどないが、どこに言っても追われるということには変わりは無い。今までなんとか送れていた普通の生活も送れなくなってしまうのだ。
深夜を回っているとはいえ、街自体も近辺では大きいため、中々人が途絶える瞬間が訪れない……一層のこと、召喚者の力を出して、ショッピングモールの中に入ればいいのだが、それも今の二人には出来ないことだった。
「私立ちの事に気づかれてしまうわ……」
今この瞬間も〝幻獣創造〟は白雪達を監視している可能性は充分に存在する。海人と白雪がこの一帯に居ることは多くの召喚者に割れている情報なので、今更気にもしていないが、ジャックの場合は違う。
「俺がここに来ることは誰にも言ってない。俺以外には知らないはずだ」
〝幻獣創造〟はジャック……〝正義者〟が居ることを知らない可能性があるのではないかと、白雪とジャックは踏んでいるのだ。そんな甘い相手ではないと理解はしているが、少しでも有利な状況に持っていけるのであれば持って行くべきだ。
〝幻獣創造〟はそこまで甘い召喚者ではない。ショッピングモールまで侵入を許しても尚、存在に気がつかないような召喚者だと白雪は思っている。絶対に〝正義者〟の存在に気がついていると理解している……けれど、気がついてない可能性……気がついていなければきっと有利に進むと思っているのだ。
実際にそれは事実で、〝第三次開放〟の召喚者相手に第三次開放〟の使い手が一人でも増えれば、勝てる確率は大幅に上がる。だが、もし気がついていればこの時間は単純に〝幻獣創造〟に時間を与えただけになる。
「……そろそろ動こう。俺の事に気がついているという仮定で動いた方が賢明だ」
「ええ……そうね。気がついている確率の方がずっと高いわ。その仮定で行きましょう」
ジャックと白雪は行動を始める。十数人人がショッピングモール周辺に居るが、足に力を込めて地面を蹴る。
人間では捉えことすら出来ない速度で、ショッピングモールの死角に逃げ込み、昨日細工していた場所に向かう。
「ここね……」
誰にも見えないように薄い切り込みを窓ガラスに入れていたのだ。普通に人間の力では押したりしても全く変化は訪れないが、召喚者である白雪が窓ガラスに力を加えると、人が一人通れるほどの穴が空く。
「入るぞ……」
中に入ると、一瞬で移動してカメラにも映らないように移動する。当然警報にも仕掛けをしているので鳴らない。なった所で〝幻獣創造〟が現われると全く意味を成さないが、ここに人間が集まる事を考えると警報を切る方法しかなかったのだ。
少しでも巻き添えを食らわないようにしないと、この街の人間の大多数が死んでしまうことになる。一人でも殺させないためにはショッピングモール内に人を入れる訳には行かない。
札のある三階に一瞬で移動して、札が見える位置に姿を隠す。何度確認し、この場所にはカメラでも映らない死角になっている。姿を隠すには最適の場所になる。
「魔力は相変わらずね……」
札から感じる魔力は相変わらず変化はない。一番初めに札の存在を認知してから一回も魔力反応が増えていない。同時に減っても居らず、ずっと平行を保ったままだ。
「そうだな……それが逆に不気味だが……」
ジャックと白雪は同時に札に視線を向けた……その瞬間、二人は同時に異変に気がついた。先ほどまで平行していた魔力だったが、二人が札を確認した瞬間に魔力に乱れが生じた。
「急に魔力が!?」
札から発せられる魔力が急激に増加しはじめた。初めから今まで一切変化の無かった札は青く光り輝きながら魔力を放つ。まるで、札自身がジャックと白雪がこの場に来るのを待っていたかのようなタイミング…・・・この時点でジャックと白雪は判断ミスしていた事に気がついた。
「この札は〝幻獣創造〟の罠ではなく、目だったのか!?」
〝今更気がついても遅い……この札の存在に気がついた時に考慮に入れておくんだった〟
突然響いた男の声……少し低い声は静かなショッピングモールで響き渡る。札の青い光もさらに輝きを増し、数秒単位で魔力が急激に増加をしていく。
「ここに集めるのが罠だったのか……だけど、それだけじゃない。元々三人同時では分が悪いと分かっていたからこその行動か!」
この札は誰にも見つからないように貼ったはずなのに、貼ってある場所が比較的分かりやすいのだ。
普通、誰にも分からないように札を貼るのであれば、わざわざショッピングモールなどという人が大勢通る場所に札を貼る意味など存在しない。〝第三次開放〟にしか見えないようにし、人があまり寄り付かない三階……廊下から死角の場所……。
確かに隠されているように見えるが、隠す必要があるのであれば人が通らないもっと人気が無い場所に貼るはずだ。そして、〝幻獣創造〟はそうはしなかった。いや、そうする事では意味が無かったのだ。
この札の場合だけは見つからない訳には行かなかった。だからこそ、この一枚だけはわざわざ見つかるように貼ったのだ。そして、〝第三次開放〟にしか見えないようにする事で、この札の重要性を強調する。
だが、札が貼ってある事を見つけても尚、〝幻獣創造〟は俺達が罠だと考えると読んでいた。そして、全員が札の場所に集まるという行為がどれほど危険かを三人は容易に想像できた……だが、それ自体が間違いだったのだ。
万が一に、札が一枚見つかれば他にも数枚あるのではないか?という結論に至る。〝幻獣創造〟というあまり情報が出回らない召喚者の唯一の情報がこのワザとばれるように貼った札だ。だが、見つからないように貼った風に見せた札は、三人に他にもあるという可能性を植え付けた。
実際に札は後二枚存在する……だが、そう簡単に見つかる場所には貼っていない……故に三人は見つける事が出来なかった。一枚目の札が建物内の死角に貼ってあったために、他の札も建物内にあるという誤解を生んだのだ。
だが、わざと見つかるように貼った札とは別の札は、見つからなかった……だから、一枚目の札に戦力を集中させずにはいられない。だが、全員が向かわせる訳にはいかない……結局、〝魔法狩り〟である海人が必然的に相手との相性が良くなるので、外で待機という形になる。
だが、この場に海人を近づかせる訳には行かなかった……。
「見つけた当初は何が起こるか全くわからないから海人の〝魔法狩り〟で斬るという考えも浮ばなかった……けど、今は違う。この札の意味が理解できた今でなら海人は札を斬ることが出来る……けど、札の付近に海人はいない!」
初めから罠だった……白雪達はこの札が罠だと初めから理解していた……けれど、勘違いしていたのだ。この札はショッピングモールに戦力を集中させるための罠ではない……三手に戦力を分担するための罠だったのだ。
〝さぁ、これからこの街で一体何人が死ぬだろうか?何人救えるかはお前達の頑張り次第だ〟
〝幻獣創造〟の言葉が終わると同時にジャックは〝魔術閉鎖空間〟を展開しようと魔力を練る。
〝遅い!〟
瞬間、街の端の方に強大な魔力は二つ現われたのが二人は感じた。それと同時に多数の魔力が街中に姿を現した。
〝さぁ、戦争の始まりだ。生き残った物が勝者だ〟
その言葉と同時に札から魔力反応が完全に消え去り、変わりに街に強大な魔力も持った〝幻獣〟が動き始める。深夜十二時三十分……皆が寝静まった静かな町に巨大な咆哮が響き渡る。




