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約束(エンゲージ)  作者: 千歳瑠璃
幻獣創造
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魔力を高めてから僅か数秒で戻ってきたジャックは、壁に貼られている札をじっと見つめていた。


 俺と白雪では全く何をは理解出来ない。仄かに魔力の反応があることから、人間が貼ったのではなく召喚者が貼った事には間違いない。ただ、一体どの召喚者が札を貼ったのか?目的などは一切分からない。


 この札が一体どのような効果をもたらすかも俺と白雪は理解する事は出来ない……結局俺達の三人の中で一番〝幻獣創造〟に詳しいジャックに見て貰う他ないのだ。


 札には黒い文字で日本語らしき文字が書いてあるが、全く読めない。もしかするとその日本語らしい文字が、この札の効果を示している可能性がある。だが、ジャックや白雪は別として、日本人である俺が読めない文字を読めるとは思えない。もしかすると、日本語とは全く関係がない可能性もあるが、今の俺には全く分からない事だった。


 ジャックじっと見つめたり、角度を変えて見て見たりと工夫しているが、決して手で触れることはしなかった。触れてしまうと何が起こるか全く理解出来ない状況で安易に触れる事は出来ないのだろう。


「この札何か分かる?」


 数分間札を見つめるジャックに、耐え切れなくなったのか白雪は聞いた。俺達には分からないのだから、ジャックが分からなければ現状では誰もこの札の正体を理解する事は出来ない。


 俺は自分の無知さを実感しながら、札を見つめるジャックを見つめ続ける。


「魔力を微かに感じるから、召喚者が貼った物だというのは分かるが……詳しい事はわからない。正面に書いてる文字も日本語に見えるが、書いてある事は日本語ではないように見える……古代の文字か何かに見える……」


 古代の文字と聞いてふと思い出すのは、〝英雄ジークフリード〟が使っていた塔……古代の兵器だった。確かサクとローが言っていた古代の兵器……日本語らしき文字といい、可能性は少なからず存在するはずだ。


〝サク……この札は古代の兵器と関係あるのか?〟


 最近全く声を聞かなくなったサクに呼びかける……だが、俺の呼びかけにサクは応じることは無かった……ここ何ヶ月声を聞いていないので、俺は急激に心配になってきた。


「なぁ、白雪?」


サクだけではなく、最近ローの声も聞いていないので、白雪に聞くことにした。初めの頃は毎日聞いていた声だったが、サクもローも全く声を聞かなくなってしまった。


〝第二次開放〟の時はたまに声を聞いていたが、〝第三次開放〟に至ってからは全く聞かなくなってしまった。何か関係あるのだろうか?


「どうしたの?ローになら聞いてみたけど、返答はないわよ。最近どうしたのかしら?」


「俺も気になっているんだ。全然声も聞かなくなったし……」


二人は決して死ぬことはないので、消えたということはまずありえないはずだ。武器が壊れない限り決して死ぬことはありえない……そう理解していながらも、やはり心配になるものだ。


「わかんないわ……けど、返答ないから今はこの札のことに集中しましょう」


「ああ、そうだな……」


 サクとローの事は心配だが、今はこの札のことに集中しなければ。サクとローとは違い、人間は召喚者の手に掛かってしまうと何も出来ずに殺されてしまう。それも一度に大勢の人間が死んでしまう……見過ごせない。


 ジャックはまだ札を注意深く見ている……だが、どれだけ集中して見つめたとしても、全く札に変化はない……仄かに感じる魔力も一定量を保ち、変化は訪れて居ない。


 札の意味や効果などは分からなくてもいいが、〝幻獣創造〟の仕掛けた罠なのか、それともそうでは無いのかだけは知りたい所だ。それだけでも分かれば対策を寝ることは可能だ。優先順位を〝幻獣創造〟にして、他は全て後回しにすればいい。


 〝魔術閉鎖空間〟が使えない相手を優先するのは間違いではないだろう。被害の拡大を防ぐためには他の召喚者に構っている暇はおそらく無い……この札を仕掛けた召喚者が、〝幻獣創造〟以上に危険な召喚者で無い限りは……。


「普通に見るだけでは何も分からないな……よし、少し強引だが魔法を使ってみる……これぐらいなら武器を召喚しなくても何とかなるだろ」


 そういいと、ジャックは札から目を離して俺達の方を向く。それで理解した俺達は距離をとって、人間が来ないか見張ることにする。札が貼ってある場所は通路から死角になっている場所なので、近づいてくることはないかもしれないが……人間にもし見られてしまうと説明するのが面倒だ。


 通路に出て、ジャックの姿が見えないように壁になるように立つ。警備の人に見つかると立っている場所を指摘される可能性があるが……タイミング悪く警備を人が来ることはないだろう。


 俺達を確認すると、ジャックは札に手をかざし始めた。手にま濃縮された魔力が込められており、近くに召喚者が居れば間違いなく俺達の存在に気がつくほどの魔力だった。


 手に濃縮されている魔力はさらに高まり、手が光輝いているように見える……魔力を使って一体何をするのかは理解出来ないが、ジャックは〝第三次開放〟に至っている召喚者だ。全く策もなくこのような行動をするなどありえないだろう。


 しばらく手をかざすと、ジャックはかざしていた手を下に下げた。魔力も全く感じない事から考えるに、ジャックは札を調べ終えたのだろう。


「何か分かったか?」


 元の場所に戻り、ジャックに札の事を再度聞く。効果まで分からなくても〝幻獣創造〟が仕掛けた罠なのかどうかさへ分かれば、成果としては充分過ぎるだろう。


「ああ、まず初めわ……」


 ジャックが口を開いた瞬間、こちらにまっすぐ近づいてくる気配を感じた。間違いなく人間の気配だが、一直線に向かってくるので警戒は必要だろう。もしかすると隠しているだけで、召喚者の可能性もある。


「移動するか?人間相手だったらこの距離でも見つかる事はないぞ」


「いや、調度いい。確かめたいことがあるからこのまま遭遇しよう……それさへ確認できれば、この場所に居る必要もなくなる」


 ジャックの言葉に反対しようと口を開きかけたが、強引に閉ざした。この札の事を一番理解しているのは間違いなくジャックだ。そのジャックが調べたいことがあるというのだから試してみる価値は充分ある。


 ジャックの事を全て信じた訳ではないけれど、こうして協力してくれているのだから俺から口出しする事は出来ない。少なくとも、札が見つかった時点でジャックの話は現実味を帯びてきている。


 〝幻獣創造〟の可能性も、他の召喚者の可能性も存在しているが、少なくともこの一帯に召喚者が現われるという情報は確かなのだ。これ以上疑うのもこれからに関わってくるだろう。


「ここで何をしている?まさか、また万引きか!?」


 五十を越えていそうな男が目の前に姿を現した。警備を服を着ているので警備員なのは間違いない……それと人間なのも間違いないようだ。近づいても全く魔力を感じることは無い。


 見回り中にたまたまこの場所に立ち寄ったのだろう。警備員の言葉から最近万引きが増えているようだから……通路から死角になる場所に三人居るのだから怪しいに決まっている。


「そんなどうでもいい事は後にして、おっさん。ここに何か見えるか?」


「万引きがどうでもいいだと!?立派な犯罪だぞ!!」


 ジャックの適当な返しに警備員が怒鳴ったが……気にしたようすもなく、


「俺達は鞄も持ってないのにどうやって万引きするんだよ。それより、ここに何かあるか見てくれ」


「確かに……万引き出来る装備でもないな……疑ってすまなかった」


「いいから早く!ここ見てくれ」


 ジャックが指挿した場所は札が貼ってある場所だった。遠目から見ても十分すぎるほど分かる札だが、警備員は目を凝らして札を見ている……いや、これは見えていないのだ。


 警備員を俺達を押しのけて、ジャックが指差していた場所に顔を寄せる。壁との距離は数センチしか存在しない。


「やっぱり、何も無いじゃないか……?」


 振り向いた警備員……だが、俺達は既に移動しており、その場には警備員しか居なかった。






**********





 ショッピングモールから移動して、寮である俺の部屋にやってきた。学園は今通常通りに授業を行っているので、少しぐらい話をしても見つかることはないだろう。


「それで、一体何が分かったの?あの様子だと、札は人間に見えないのは知っていたみたいだけど……」


 あれだけ大きなショッピングモールに仕掛ける罠だ。通路から死角になっていようが、人間に見えてしまったら一日で見つかってしまうのは間違いない。そして剥がされてしまう可能性も充分になる。


 普通は札など貼ってあったら、子供の悪戯か何かと勘違いして剥がしてしまう可能性が高いだろう……魔力を感じることが出来れば話は別だが、人間では召喚者の魔力を察知することなど不可能だ。見えない方が効率がいい。


 少し考えれば分かることだが、札を見つけた事によって、冷静さを少し失っていた俺と白雪はその事実に気がつくことが出来なかった。一方、ジャックは見えない事に気がついていたのだろう。


 だが、確証が無いため魔力で調べ、保険をかけて近づいてきた人間相手に試したのだろう……〝第三次開放〟に至っている召喚者だけあって、用心深い。成り立ての俺達とは肝が違う。


「ああ、気がついていた……だが、あの札は普通の人間だけに見えない訳ではない。召喚者全般には見えなくなっているだろう」


「どういうことだ?召喚者にも見えないのであれば、俺達にも見えないじゃないか?」


「ああ……でもそれは〝第二次開放〟の場合のみだ」


「なんでそんな事したの?召喚者なんて人間に比べれば数が圧倒的に少ないのだから、気にしなくてもいいのに……」


「普通であれば気にする事ではない……けど、万が一の可能性もあるから……だから〝幻獣創造〟は〝第二次開放〟の召喚者も見えないようにした……けどさすがに〝第三次開放〟の使い手には効果は無かったようだがな」


 けれど、普通の人間と〝第二次開放〟までの召喚者に気が付かれないのであれば、見つかる可能性は極めて低くなる。〝第三次開放〟に至っている召喚者は世界で十人いるかどうかという少ない数しか存在しない。


 そうなれば、この札が見つかる可能性があるのは世界中で多くて十人程度。しかも、普通のショッピングモールの一角に貼られているとなれば、ほとんどの場合気が付くことが出来ない。


 世界で十人いるかどうかしか存在しないのであれば、普通は見つかる可能性はほど無いに等しい。この札を貼った召喚者は限りなく見つかる可能性を低くしたのだ。そして、そんな事が出来る召喚者は当然〝第三次開放〟の使い手……。


「この札を貼ったのは〝幻獣創造〟で間違いないの?」


「確証はないけど、かなり確率は高いと思う……〝第二次開放〟にはこんなマネ絶対に出来ないだろ?そうなれば〝第三次開放〟の使い手以外にありえない事になる。それが〝幻獣創造〟かはわからないけど」


「確かにそうね……いつ来るかは分からないけど、この一帯に〝幻獣創造〟が来る可能性は高くなったわ」


「そうだね。札を見つけた事によってほぼ確定とまで言えるほどに可能性は高くなった……ということは、ショッピングモールは極めて危険ということになる」


「〝第二次開放〟の召喚者までにも隠そうとした札だ。〝幻獣創造〟からしてもかなり重要な仕掛けになって居る可能性が高いんじゃないか?」


「そうね。少なくとも、二日後はショッピングモール内に居ることが一番良さそうね」


「それはどうかな?」


 ジャックは白雪の意見を否定する。一番危険な場所に居るのが一番効率がいいはずだ。


「仮にその札が罠だとしよう……俺達に見つかる事は想定済みで、当日ショッピングモールに集まらせることが目的だとしたら……俺達はまんまと罠に嵌ったという結果になる……召喚者は人間の何百倍も速度が速いが、当日は周りに人間も居る……それに〝幻獣〟も多数存在しているはずだ。普通に移動するのは困難だと思ったほうがいいだろう」


 この札自体が罠だとすれば、ジャックの言い分は全て正しい……しかし、これが罠ではない場合どうするのだろうか?一番危険なショッピングモールは人手不足などという状態に陥るのではないだろうか。


「しかし、罠ではない可能性も存在する……罠ではなかった場合は、大勢の被害と人間を殺してしまうだろう……弱い〝幻獣〟でも大勢の人間を殺すことが可能だ。罠ではなかったら、ショッピングモールに居る人間はほとんど殺されるだろう……」


「そうね……〝幻獣創造〟相手だったら、一人で戦うのはかなり厳しいはずよ。罠か罠ではないか……そのどちらかに掛けて、行動するしかないと思うわ。ちなみに私は罠ではないと思うわ」


 白雪はそう言った。どちらか選択を失敗すれば大勢の人間が死ぬ可能性がある選択肢で、迷いも無くそう宣言したのだ。


「理由を聞こうか」


「まず、第一にこの罠は手が凝りすぎているわ。世界で十人程度しか見つからないようにする手の凝りさ……ここまでする罠が珍しいと思うの。そして、ショッピングモールに札を貼りに来たというリスクよ」


「なるほどな……確かに、札が勝手にここまで来ることはまずありえない。となればここまで〝幻獣創造〟が貼りに来たという可能性が非常に高くなる……さすがに〝幻獣〟が貼りに来るという方法も使えない……目立ちすぎるからな」


「そういう事よ。私と海人はずっとこの街に居るわ。私達に見つかる可能性は少なからず存在していたわ。結果的に見つからなかったけど、それは結果論でしかないわ。見つかるというリスクは犯したという事よ。そして、そこまでした仕掛けが罠である可能性は低いと私は思った訳よ」


 白雪の理由は極めて単純だった。それは、手の凝りようさとリスクの話だった。ここまでした仕掛けが罠である確率は極めて低い……という結論だった。


「けど、その裏を読ませてなお、罠だったら?」


 しかし、ジャックは譲らない。ジャックはジャックなりに考えて、そして導き出した答えが、罠であるという答えになったのだろう。


「それは……」


 流石の白雪も、そう言われてしまったら言う言葉がないようだった。俺達がこういう話をして、白雪が話す結論でさえも読まれていたら白雪の話は全て意味を無くす。


「だけど、そんな事言ってたら全く結論ではなくないか?次は裏の裏を読まれていたら?とか、裏の裏の裏を……とか、いつまで経っても結論は出ないままだぞ。時間も無い……だから早く決めて行動に移した方が賢明じゃないか?」


「それもそうだが……」  


 ジャックは苦虫を噛み潰したような顔をした。今、ジャックと白雪が話しをしている内容は、永遠に終わらない話だった。裏の裏の裏の裏……そう考え出すとずっと続いてしまう。どこかで区切りをつけて結論を出さなければずっと続いていくだけだ。意味の無いやり取りになってしまう。


「俺達は三人しか居ない……それでも相手は大勢居るんだろ?そいれなら決断して行動するしかないだろ?まさか、当日になった相手の動きを見て決めるなんていう選択はしないんだろ?そうだったら、ここで話しをして、決めるしかないだろ?」


 相手の動き行動してしまうなど……召喚者同士の戦いでは絶対にしてはいけない行為だろう。出来れば、相手の行動を先回りするぐらいにしなければ有利な状況にたつ事は困難であろう。


「海人はどっちだと思うの?罠か罠じゃないか……」


「俺は……罠じゃないと思う……けど、全員がショッピングモールに行くとリスクが高いから、二人がショッピングモールにいって、一人が違う場所に居るという方法が一番いいと思う。結局、ショッピングモールしか俺達は〝幻獣創造〟の情報を手に入れていない。それなら、少しでも情報があるショッピングモールに二人行くのがいいと思うけど……」


 俺はちらりとジャックに視線向ける。たぶんだが白雪は俺の考えに賛成してくれるだろう。間違いであれば賛成しないだろうが、一番効率がいい方法をするはずだ。


 しかし、これは一人が否定してしまうと実行するのが難しい方法でもある。だからこの方法をするにはジャックの協力が必要不可欠になってくるのだ。


「わかった……その方法で行こう。三人が同じ場所で固まるよりはよっぽどいいだろう……とりあえず決まったし、まだこの札が貼ってある場所あるかもしれないし、他の場所も行くか?」


「そうね。それがいいと思うわ」


 ジャックが立ち上がると、白雪も立ち上がる。俺もそれに合わせて立ち上がり、窓をあけて飛び降りた。







 



 

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