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約束(エンゲージ)  作者: 千歳瑠璃
幻獣創造
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三日

「こいつの名前は、ジャック.キースだ。転入生に見えるが、他の学校からの転校生だ。仲良くしてやってくれ」


先生が黒板に名前を書きながら説明する。突然過ぎる転校生に戸惑っているのが少し、そして何より、ジャックの整った顔に驚いている者が多い。特に女子なんかは口が開いて塞がっていない者もいる。


俺から見てもイケメンだと思うのだから、女子視点から見ればさらにすごいのではないだろうか。この学園には、ジャックほどのイケメンは存在していないはずだ。少なくとも俺は見たことはない。


「初めまして、俺の名前はジャック・キースだ。こんな見た目だが、日本に来てかなり長いから日本の事についても知っているつもりだ。けど、この学園の事は全然しらないから、出来れば色々教えて欲しい。よろしく。」


 自己紹介の後に爽やかな笑顔をクラスメイトに向ける。一切の意図がないような笑顔に、女子だけではなく、男子までもが少し見惚れている。そほどに、屈託の無い笑顔だった。


「はい!彼女は居ますか!?」


 最後列に居る女子が急に立ち上がり、質問をはじめた。他の女子達も気になって居た事だったらしく、みんながジャックに視線を向ける。召喚者であるジャックに彼女なんて居る訳ない……俺が言うのもなんだけど。


「居るよ。けど、君も可愛いから、もしかしたら心変わりするかも」


 だが、俺の考えとは予想外な答えだった。〝正義者ヒーロー〟と呼ばれるジャックも、守りたい人が居るようだった。けれど、ジャックが前の俺と同じような願いを持っているのであれば矛盾している……そんな思いで〝第三次開放〟に至れる訳ないのだから……。


「あ、ありがとうございます!!」


 クラスの中でも元気で、人気のある加藤さんが、顔を真っ赤にして席に座る。勿論、その反応に他の男子は面白くなさそう顔をするが、何も言わない。転校早々で、男子の敵になったようだ。


「まぁ、とりあえず、ジャックは空いてる席に座ってくれ」


 空いている席は俺とは反対側だった。俺が座っている場所は、窓側なのでジャックの席は廊下側になる。まだ、聞きたいことがあったので離れるのは少し面倒だ。


「先生、俺は海人の隣がいいです」


 断られると思っていなかった先生は少しだけ驚いた顔をした。だが、もっと驚いたのは名前を呼ばれた俺だった。


「なんだ、海人とは知り合いだったのか?」


「はい、困っている所を助けて貰いました」


 まるで呼吸をするかのように嘘を付くため、嘘を言っているように感じなれない……逆に爽やかなので、本当の事を言っているようだった。


「そうなのか海人?」


 クラスメイトの視線が一斉に俺に向けられる。ここで、否定するのは簡単だったのだが、ジャックも召喚者……それも〝幻獣創造〟を一緒に倒す協定を結んだ相手だ。出来るだけ近くにいた方が良いだろ……もし何か起こった時に対処しやすい。


 それに、まだ完全に〝正義者〟を信用できていない部分も存在する。白雪はジャックの事を信用しているようだったので、俺も一応は納得しているが、いつ変な行動をしてもいいように、隣に居るのは決して悪い事ではない。


 近くに居ることで、俺に危険があるかもしれないが、関係の無いクラスメイトに危険が迫るよりマシだろう……それに、席が隣だと話しをしていても不審に思われないはずだ。


「はい、そうです。昨日街の方で……」


 あんまり嘘を付くのは得意ではなかったが、ジャックが先に言ってくれたお陰で、不審だったとしても何も言われずにすんだ。


「わかった。それじゃ、席移動してくれるか?」


 隣に座っている女子に頼む先生だが、いきなり席を替われといわれても納得できるものじゃないだろう。女子も少しだけ困った顔をしている。そんな様子に気がついたジャックは、近づいてきた。


「わがままで悪いけど、席変ってくれないか?頼む!」


 得意の爽やか笑顔を向けると、直ぐに頬を赤く染めた女子は、「はい!」と、先ほどの表情が嘘かのように元気な声で認めてくれた。この世界はイケメンに優しいと証明された瞬間だった。


 席を移動し、ジャックが隣に座ると笑顔を向けてきた。こいつ、さっきまでの笑顔とか全て狙ってやっていたようだった。


「とりあえず、落ち着いたな。それじゃ、HRを終りにする」


 そう告げると教室から出て行く先生。姿が見えなくなると同時に教室が騒がしくなる……いや、実際は俺の隣に居るジャックの周りが騒がしくなったのだ。


 転校生特有の質問攻め……で、あればいいのだが、周りに集まっているのは女子だけだ。男子は遠目で見ているだけで一切集まっていない。さっきのやり取りで完全に敵になってしまったようだった。


 騒がしくなる教室……噂を聞いたのであろう他のクラスの女子も教室に集まっていた。今だ見たことが無いほど教室の女子が集まっている。列を作って話しをするのを順番待ちしている。


「全く馬鹿ね……人間はすぐにこれだから……」


 騒がしかったので、少し席から離れた俺の隣に白雪が来た。ジャックの正体が〝正義者〟という召喚者である事実を知っている白雪は、全くジャックに興味を持っていないようだった。


「仕方ないだろ?女子は基本的に中身よりも顔重視だろ……知らないけど」


 まぁ、そこは男子も基本的には変らないだろう……どんなに性格が悪くても可愛ければいいっていう人も居るだろう。逆に、不細工でも性格が良ければそれでいいって言う人も居るはずだ。その辺は本人次第なので、何も言えない。


 それよりも、相変わらず白雪はそういう事に興味がないようだった。女の子であれば、イケメンな転校生が来たら質問しに行くものだと思っていた。まぁ、そんなことになったら悲しいけど……今の白雪の反応は俺からすれば嬉しい限りだった。


「……どうしたの?少し嬉しそうな顔して……」


 そこで、白雪の顔が急に笑顔になった。まるで、楽しいことに気がついた時のような顔になった。


「まさか、海人は私が〝正義者〟の所に行かなくて、それが嬉しいの?」


 心の中で考えていた事を言い当てられて、「え?い、いや……」と焦ってしまい、うまく返事が出来なかった。だが、その様子を見て白雪はますます笑顔になり、体を寄せてきた。


 急激に広がる白雪の甘い香りと、暖かい体温。なにより、みんなの視線がある中で密着することの恥ずかしさで、顔が赤くなるのを感じる。


「私は海人が居るもん……だから、誰が来たって関係ないわ。私には海人しか居ないから……」


 誰にも聞かせられないような事を耳ともで言う白雪に、さらに頬が赤くなるのを感じる。耳に掛かる息が暖かくて、少しこそばい。


「そんなの俺だって同じだ……白雪以外の女の子なんて一切興味ない……お前が居なきゃ俺は駄目だ」


 これは紛れもない本心だった。たぶん俺は一生白雪から離れることは出来ないだろう……それは物理的なことではなく、心がずっと白雪を思い続けるということだ。


「海人……」


 頬を赤く染める白雪の顔が少しずつ迫る。世界が俺と白雪だけになる……はずだった。


「そこ!!教室で何しようとしてるんだ!!」


 その大声で、俺達は我に帰った。遠目でジャックと女子達を見ていた男子の一人が教えてくれたのだ。危うく、教室の中でキスしてしまうところだった……。


「全く……分かってたけど、やっぱり付き合ってるのか……」


 少し悲しそうな顔をしたていたのが気になったが……気にしない事にする。こいつが、白雪にどんな思いを抱いていたのかなど関係ない。俺はただ、白雪共に居るために守るだけだ。それは俺にしか出来ないことだ。


 一時限目までの時間が近くなると、教室は落ち着きを取り戻していた。他のクラスの人達が居なくなったために、かなり静かになったように感じる。たぶんだが、数日はあの状態が続くような気がする。


 教室の扉が開くと、担当の先生がやってきた。全員席に座ると、授業が始まった。






************





 午前の授業が全て終わり、昼休みになった。休み時間のたびに違うクラスから女子が押しかけるため、ずっと教室の中には大勢の生徒が居た。当然、人数が多いのだから、関係ない者は全く休めない状況だった。


 話しをしに来ているのだから仕方ないと言えるが……さすがにアイドルが来た時のような声を上げな話すのはやめて欲しい。うるさくて仕方が無い。


「くっそ……またあいつの場所に行ってるし……」


 ジャックが冗談で言ったであろう「可愛い」という言葉を真に受けているのか知らないが、毎回加藤さんはジャックの元に一番に駆けつける。クラスが同じで、席も離れていないので、毎回のように話をしているのだ。


 クラスでも人気があるであろう加藤さんが毎回ジャックの下に行くのは、クラスの男子からしてもそう、面白い事ではないだろう。反対側で、集団になっている男子から聞こえる声は明らかに嫉妬の声だった。


 今までのその男子が加藤さんと話をしている所など数回見たかどうかと少ない回数だったが、好きなのだか?もし、そうだとしたら積極的に話しをしにいかなかった自分が悪いのだが……そんな事は関係なのだろう。


 昼休みなってから数分だが、もう他のクラスから女子が集まってきている。教室に居るとうるさいので、お弁当を抱えて逃げ出す男子の姿が多く見かけられる。


「俺達も行くか」


「そうね。ここに居たら落ち着いてお弁当も食べれないし……」


 今はたまにだが二人でお弁当を作って、学園に持ってきている。今までは凜奈がずっと作ってくれていたが、今は居ない。しかし、少しつづだが、料理を作るようにしている。


 一週間に一回か二回だけだが、それでも作って貰っている立場だった俺達が作る側になったのは大きな成長だろう。ほとんどが冷凍食品だが、それでも構わないだろう。


 女子の声を聞きながら教室を後にすると、俺達は屋上に向かった。季節は十一月のため、少し肌寒い。魔力を使えば問題ないが、使う必要性もないのでそのままで行く。


 肌寒いだけあって、いつもより人が少ない。少しづつ日にちが進むにして、気温が下がってきているように感じる。そろそろ、本格的な冬になりそうだった。


「今日はベンチ使えそうだな」


「ええ、そこに座って食べましょ」


 屋上に設けられている数少ないベンチが空いていたために、俺達はそこに座り昼食を食べることにした。持ってきたお弁当を広げる。


「やっぱり、いつ見てもあまりおいしそうじゃないわね……」


「白雪のだってそんなに大差ないだろ?」


 お弁当は二人で作っているが、週に一回づつ決まっている。少し前は白雪に作ってもらったので、今日は俺が作ってきたのだ。勿論、手作り弁当とは呼ばない冷凍食品ばかりのお弁当だ。唯一自分で作ったのは卵焼き程度だ。


「卵焼き……真っ黒なんだけど……」


「…………」


 黄色く、おいしそうな卵焼きが理想だが、全くうまくいかず結局一番上手に出来たのを入れたが……それでも焦げ目が大きい。食べたら体に悪そうだった。


「わるい……別に食べなくてもいいよ」


 作った本人が言うのもなんだが、全くおいしそうじゃない。他の全ては冷凍食品なので、食べれると思うが、卵焼きは食べないほうがいいだろう。


「食べるわよ……鼻つまんで食べれば味しないだろうし……」


「そこまでして食べなくてもいいだろ!」


 思わずツッコミを入れてしまった。確かに鼻をつまむと味はしないが、ジャリジャリした触感はするし、体に悪い事は変わりは無いだろう。召喚者に影響があるのかは分からないが……。


「海人が作ってくれたものなんだから、食べるに決まっているわ。逆に海人は私が作った物は、美味しくなさそうでも全部食べるでしょ?」


「そりゃ……昔はパートナー、今は恋人が作ってくれる物だからな……」


 そこで気がつく。それは白雪と全く同じなんだと。


「そいいうことよ、だから関係ないわ」


 そう言いながら箸で嫌そうな顔をしながら小さな鼻をつまんで、真っ黒な卵焼きを口に入れる。顔が段々歪んできているようにも見えるが、鼻をつまみながら黙って咀嚼をする。


 そして、飲み込んで、お茶を一気に口の中に流し込む。これで一切卵焼きの味を感じることなく、食べきることが出来たということになる。


「おいしかったわ」


「いや……そんな嘘言わなくても」


 食べている顔からは一切そのような事は感じなれなかった。むしろ、食べて後悔していた顔だった。


「海人も食べたら?」


「いや……俺はいらないわ」


 自分で作ったものだから別に食べなくても問題ないだろう。美味しくないのは白雪の反応を見れば一目瞭然だ……いや、卵焼きの状態を見れば誰だって美味しくない事に気がつくだろう。


「なんでよ!私だけ食べて馬鹿みたいじゃない!」


「今更気がついたのかよ……」


 真っ黒な卵焼きを食べる奴なんて、馬鹿しか居ないだろう……馬鹿でも食べないか。俺ならどれだけお腹が空いてても絶対に食べない……初見では、卵焼きだと気がつかないだろう。


「うるさいわ!いいから食べなさい!それとも食べさせて欲しいの……?」


 急に頬を紅く染めて、恥ずかしい事を言ってきた。少ないといっても周りには生徒が居るため、俺は無意識に周囲を見渡した……誰にも聞こえていないようだった。


「白雪……恥ずかしくないのか?しかもこんな所で……」


「恥ずかしいに決まってるじゃない!けど、一回してみたいの!あーんって!!」


 白雪が可愛い……いつも可愛いが、今日はなんだか特別積極的だ。教室でもキスしようになったし……。


「わかった……してくれよ」


 俺も恥ずかしかったが、次いつ白雪がこんな事を言ってくれるか分からないので、ここで逃すと一生後悔するかもしれない。人の目があるが、幸い今日はそれほど多くない。ジャックの転校もあるので、それほど大きな噂にはならないだろう。


「それじゃ、してあげる」


 箸で真っ黒な卵焼きを掴み、口元に運んでくる。


「はい、あーんして」


 白雪も同様に口を開け、真っ赤な顔をしながら食べさせてくれた。周囲から視線を感じるが、それでもなんだか幸せな気分だった。美味しくない卵焼きが美味しく感じる。


「まっず」


 けど、やはり味は変化せず、シャリシャリと音を立てるまずい卵焼きだった。けど、幸福感は最高だった。


「あの……ラブラブしてるのはいいけど、これからの事で話いいかな?」


 急に声が聞こえて、振り向くと教室で女子に囚われていたジャックが屋上に居た。こいついつからここに居るんだ?


「どこから見てたかって顔だな?あーんしてる所ぐらいだから安心しろ。そこまでのやり取りは見ていない」


「全然安心出来ないわ……」


 かなり大きな声で話していたので、ジャックの耳には俺達の会話全て聞こえているはずだ。恥ずかしくなってきた……。


「それで、これからの予定を話しといていいか?」 


「ええ、お願い」


 先ほどの空気は無くなり、真面目な空気が支配する。周囲に普通の人間がいるが、小さく話しをすれば聞かれることはまずないだろう。聞かれたとしても何の話をしているかなど理解出来ないだろうし。


「まず、〝幻獣創造モンスタークリエイト〟はこの一帯に現われるという情報は耳にしたが、いつ現われるかは正確な情報はない。だが、俺の予想だが、一週間以内は確実だと思う」


 一週間……長いようで全然時間がない。無限に召喚する〝幻獣〟を相手にするには、事前に準備が必要となるだろう……それを考えると一週間というのは限りなく短い。


「だが、それは一番長く見積もって一週間だ。これも予想になるが、期限は三日だと予想している……今日を入れて三日だ」


「全然時間ないわね……」


「そうだ。全く時間がない……だから俺達に出来ることはほとんどないに等しい」


 〝幻獣創造〟は〝正義者〟や白雪ですら対した情報を持っていない。分かっているのは能力と〝魔術閉鎖空間〟が無効化されることぐらいだ。それだけでも厄介だが……。


「それじゃどうするんだ?〝魔術閉鎖空間〟は無効化されるし、準備もすることがほとんどない……かなり状況は悪いだろ?」


「ああ……それと、言い忘れていたけど、全ての〝幻獣〟が〝魔術閉鎖空間〟を無効化する訳じゃない。正確には、無効化出来る〝幻獣〟も居るということだ」


「そいつを殺せば〝魔術閉鎖空間〟は使えるようになるのか?」


「それも分からん……なんせ情報が少な過ぎる。今知っている情報も全て偽りかもしれない」


「それほどに〝幻獣創造〟は姿を隠していたのよ」


 〝第三次開放〟の使い手である召喚者が知らない情報というのであれば、ほとんどの召喚者は〝幻獣創造〟について知らないはずだ。聞いても確証的な情報を得ることが出来ないのだろう。


「とりあえず、今俺達に出来ることはない……三日後には〝幻獣創造〟が来るかもしれない……どうするんだ?」


 出来ることが無いとなれば俺達は確実に後ろに回ってしまう。相手の行動を見てからしか行動できなくなってしまう……強い召喚者にそれは危険すぎることだ。


「いや、出来ること……する事はある」


「それは一体何なの?」


「まず、この周囲で身を隠すのに最適な場所を見つけ出す。出来れば一番大きな建物がいい。そして、その中の道を隈なく覚えて、実戦で使えるようにするんだ」


「この辺りだとショッピングモールか?」


 街で一番大きな建物となるとショッピングモール程度しか浮んでこない。大きいだけではなく、様々なお店があるため、少しだけ複雑な作りになっている。


「そこだとしよう。〝幻獣創造〟は本体は絶対に隠れる。弱くないとしても俺達三人に同時に襲われればまず勝ち目はないと見るからだ。そうなると、一番いい場所は広くて、複雑な場所……そこだと、自分は見つかりにくいし、〝幻獣〟を大勢召喚することが出来るからだ」


「なるほどね……とりあえず、これからショッピングモールに行くのかしら?」


「いや、今日はいい。明日にしよう」


「時間が無いのにのんびりしてていいのか?」


 明日に行くのであれば〝幻獣創造〟が後二日で来る可能性があるということだ。学園は諦めて、そちらに専念する方が賢明だろう。


「いや、大丈夫じゃないが……」


「どうしたんだ?」


「そろそろ戻らないと、不自然に思われるからな」


「なるほど……」


「トイレに行くって言ってきてるから……そろそろ戻らないとな」


 それだけを言うとジャックが背を向けて屋上を後にした。




 





 

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