正義者(ヒーロー)
時間ギリギリに教室に戻った俺達は、各自の席に座った。話しが思った以上に早く終わったので、なんとかHRには間に合うことが出来た。遅刻をしない事はありがたいことだった。
席に座ってから一分程度でHRの開始を告げるチャイムが鳴り響く。それと同時に担任の先生が扉を開けて教室の中に入ってくる。まるで、チャイムが鳴るのを見計らっていたかのようなタイミングだ。
「おーい、早く席に付け。HR始めるぞ」
そう言われて急いで席に座るクラスメイト。座るのを見計らって名簿を開き、出席を取っていく。全員分の出席をとり終ると、先生は名簿を閉じて口を開いた。
「えっと……急な話だが、今日からこのクラスに転校生が来た」
先生の言葉にクラスメイトがザワザワし始める。クラスメイト達はローネに関しての記憶を失っているので、転校生は初めてだと思っている。そのこともあり、教室内が少し騒がしくなる。
確かに初めての転校生となると少しだけどんな人か気になるが……それはあくまでも人間だった頃の話だ。一人目の転校生であるローネは、人間のように振舞っていたが、中身は〝英雄〟の〝約束〟を結んだ相手である召喚者だった。
さらに、俺達はそれに気がつくことが出来なかった。そのような出来事が一度体験しているので、無邪気に転校生を喜んだりすることが出来ない。警戒心を怠ることは許されない。
「ちょっとまってくれ。今呼んで来るから」
白雪に視線を向けると、目があった。ローネの事があったので白雪も警戒しているようだった。
普通の転校生だというのが一番良い結果なのだが、〝第三次開放〟の使い手である可能性が高いため、一瞬で殺される可能性が存在する。疑っていた方が安全だろう。
「おい、ジャック。紹介するから中にはいってこい」
「はーい」
適当な返事に先生は苦笑い。だが、透き通るような綺麗な声だ思った。男の声だが……。
扉が開き、転校生の右足が教室に入ってくるのが見えた瞬間、今まで気がつかなかった大量の魔力を感じ取り、バックステップで教室の後ろに飛び、その最中に〝魔術閉鎖空間〟を展開した。
教室から一瞬でクラスメイトが姿を消し、転校してきたジャックと呼ばれた男と、俺達二人だけになる。その時には、ジャックは教室の中に入ってきており、不敵な笑みを浮かべていた。
「並の召喚者であれば、全く気が付かないほど魔力を抑えていたのに……素早い反応だ。〝魔女狩り〟と〝三日月雷鎌〟が〝第三次開放〟に至ったのは間違いないか……」
教卓の前に来た男は、イケメンだった。染めているようには見えない金髪の髪に、全体的に整った顔立ち。スラリとした体は、無駄な筋肉が一切付いていないように見える。肌は白く、瞳の色は紅い色をしている。間違いなく日本人ではない……転校生というより、留学生というのが正しいだろうか。
教室の外に居たときは全く感じなかった魔力だが、今は大量の魔力を感じることが出来る。〝第二次開放〟では到底持つことが出来ない魔力の量……間違いく〝第三次開放〟に至った召喚者だ。
「そんなに警戒するなって!別に戦おうと思って来た訳じゃないし……」
ジャックは、爽やかな笑みを浮けべて両手を上に挙げる。戦うつもりはないという合図をしているらしい。だが、俺達がそれを信じると思っているのだろうか?〝第三次開放〟に至っている召喚者なら考えなくても分かるだろう。
「それなら動かないで。動いたら敵対していると見なして、攻撃するわ」
右足を一歩前に進めようとしたジャックよりも先に白雪が釘を刺す。一歩でも動ければ俺達を殺す事が出来るかもしれないからだ。
「わかったよ……動かないから!ほらこれでいいだろ!?」
立ち止まり、両手を首の後ろに回し、攻撃する意志はないことを再び証明している。だが、それでも尚、信じる事は出来ない。いや、信じる者は存在しないだろう。
男からは殺気を感じられないが、警戒しない訳がない。突然現われた召喚者を信じることが出来る訳ない。疑って掛かった方が安全だ。
武器を召喚して、いつでも戦える準備をする。後手に回らないように先手先手で行動をする。相手のペースに飲まれたら全くいいことはないだろう。悪い方にしか進まない。
「警戒強いな……まぁ、仕方ないか。逆の立場なら間違いなく警戒するし、もう攻撃しているからな~」
だが、武器を召喚して尚、男は軽い……まるで、友達を話しをしているかのように軽い。全く俺達に対しての警戒心がないように見える。それも、作戦の内なのかもしれない。
「それで?一体用件はなんだ?何が目的で俺達に接触してきた」
仮に戦う意志が無いとしたらワザワザ転校という形で俺達に接触する意味がない。相手は間違いなく俺達の事をしっている。勿論、〝戦争〟に参加している事も知っているだろう。
今まで戦ってきた召喚者は、俺達の事を知っていた。先代が〝戦争〟の勝者だったため、有名だったのが理由だろうが、今はそれ以外にもある。そう、俺達はこの間〝第三次開放〟の使い手になったことだ。
〝第二次開放〟から〝第三次開放〟に至る時に、大量の魔力が外に流れていたはずだ。普通の人間ではその魔力に気がつくことが出来ないが、〝魔術閉鎖空間〟に居たからといって、〝第三次開放〟の使い手であれば俺達の魔力に気がつく事など分かりきっている。
だが、それでも接近してきたという事は、自分の強さに自信があるということと、戦争に参加しているという事の頷けだろう。〝戦争〟に参加していなければ、俺達に危険を起して近づく必要など皆無なのだ。
ジャックがいくら自分に自信があっても、〝第三次開放〟の使い手が二人も居る場所に、一人で乗り込んできたりはしないだろう。それも、〝魔女狩り〟と〝三日月雷鎌〟であれば尚更だ。
「別にお前ら二人が戦争に参加していようが、してまいが関係ない」
俺達の考えている事など容易に想像出来るのだろうジャックは、先に釘を打ってきた。だが、それであればますます俺達に接近してきた意味が理解出来ない。戦争関係でなければ理由がないはずだ。
「それなら一体何のようなのよ?私達は今、現段階で一番〝魔術蒼石〟を持っているわ。そして、こうして接近してきた理由が〝戦争〟関係でなければ、危険を冒して来た意味がないじゃない」
俺達にはジャックの考えている事が理解出来なかった。もし、仮にジャックの言葉が本当だとしたら、まさしく意味のない危険な行為。苦渋八苦、この男は〝戦争〟の参加者だ。魔力がそれを物語っている。
それなら余計に俺達が持っている〝魔術蒼石〟が欲しいはずだ。願いを叶えるためには絶対に必要な物だ。俺達を殺せば一気に四つ手に入るのだから、殺しに来た以外の余裕など存在しないはずだ。だが、ジャックは嘘をついているようには見えなかった。
「いや、こうして会いに来ただけ意味はあった。俺の思った通りだった。お前達は他の召喚者とは全然違う……敵である俺とでも話をする事が出来る召喚者だ……」
ジャックは少しだけ嬉しそうに口を上に上げ、笑った。不敵な笑みではなく、少し楽しげな笑み……明らかに何か裏があるようにしか見えなかった。
「話が出来るね……私達と話すために会いに来たっていうの?」
それもにわかに信じがたい話だった。こんなどうでもいいような話をするために接近してくるなんて……。
「何か勘違いしてないか?俺は別にただ話すために来た訳じゃない。ただ、少しだめ妙な話を聞いて……いや、これは確定事項だ。だから、俺はそれを止めるためにお前達に話をしに来たんだよ」
楽しげな笑みから、急激に真剣な顔に変化する。どうやら目的の内容はこれから話すようだ。
「お前達二人にとっても悪い話じゃないはずだ……内容を聞いてから考えるのも悪くないだろ?何より情報は必要だ」
「そうだな……」
ジャックが言っていることは、間違っては居ないように感じた。嘘を言っているようには見えないし、嘘を付くようにも見えない。何より、武器を召喚している召喚者二人と対峙して、全く恐怖や殺気……魔力の乱れがないのが不思議だった。
目の前の男は、俺達の事をある程度内面的なことまで知っているように感じる。だからこそ、一切の恐怖も魔力の乱れも無い。自分が持っている情報に食いつくのが理解出来ているのだ。
敵対している召喚者が食いつくほどの情報をジャックは持っているということになる。それであれば、聞くだけであれば問題ないように感じる。ただで情報をもらえるのであれば、こっちからすればありがたい話だ。
「駄目よ。その情報も確かな物かは判断できないわ。もしかしたら騙されるという可能性もあるわ……だから、あなたの情報は耳に入れることは出来ない。これでいいかしら?」
殺気を込めて、睨むようにしてジャックを見る。白雪の考え方は俺とは間逆の考え方で、ジャックという男の事を一切信頼していない。確かに、信頼はしていないが、嘘を付くような男には見えない……だが、万が一が存在する。
もし、本当のような内容で、嘘が混じって居たら俺ではその嘘を見抜く事が出来ない。白雪もジャックが嘘を付くようには見えないかもしれない……しかし、本当の事に紛れ込まれた嘘を見抜くのは容易いことではない。
〝戦争〟に参加しているであろう召喚者の嘘など容易に見抜ける物ではないだろう。もし、その嘘で大きな損害を受ける事があってからでは遅いのだ。死ぬことなど許されていないのだ。
だからこそ、ジャックが言っている事を全て嘘と仮定して話しを進める。そうであれば、一切言ったことを信じることはないし、相手の話を聞く気にもならない。何も情報を得ることもなければ、今までと何も変らない……ただ、それでは駄目なこともある。
「いや、ここは素直に話しを聞いたほうが良い……仮に全て嘘だとしても、ジャックという男と戦うよりはずっとマシだ……」
そう、話を聞かなければジャックが襲ってくる可能性が存在する。今は話しをするという目的が存在するため、俺達を狙うことはないかもしれない。可能性の話になるが、かもしれないと、確定事項では大きな違いが存在する。
〝第三次開放〟に至って居る召喚者二人の前にして、平然としているジャックは、言われなくても強いに違いない。俺達二人を相手にして勝てる自信があるのだ。
そんな男と戦うよりは話を聞いて、戦いを回避したほうが賢明な判断だ。いずれ戦うことになるかもしれないが、不意打ちと、備えて戦うのでれば、後者の方が勝ちの確率は上がる。話しを聞くほうが俺達にとって得になるのだ。
「だから、お前達とは戦うつもりはないって!けど、話を聞いてくれるならいいか……」
そういうと手を翳すと、右手から〝魔術蒼石〟が二つ出てくる。ジャックはやはり、戦争に参加している召喚者だ。それに、一人の召喚者を殺している。
「信頼を得るためにはまず自分の手を晒そう……分かっていると思うけど、俺は〝戦争〟に参加している召喚者だ。現在持っている〝魔術蒼石〟は自分のを合わせて二つ……殺した召喚者は〝空気操作〟だ」
「〝空気操作ね……」
「知っているのか?」
「ええ、そこまで有名な召喚者じゃないわ。ただ、空気を操るから厄介だと聞いたことがあるけど……」
「そうだな。召喚者とて、息を長時間しなければ死んでしまう。人間と圧倒的に違う部分が多いが、体の作りなどは大きな変化はない……単純に、息をしなくて、生きていられる時間が長いか、短いかの違い程度だな」
「〝空気操作〟は、生きるために必要な空気を魔力で操る召喚者なの。勿論、目で目視することは出来ないし、相手が空気を操作している訳だから、こっは呼吸することが出来ないのよ。それで、動いたり、魔力を使ったりすると、疲労が溜まる速度も速くなるし、死ぬまでの時間が短くなる」
「そうだ。だから速めに倒さないと、大変なことになる厄介な敵だったが……」
ジャックは不敵な笑みを浮かべて口を開く。まるで、〝空気操作〟との戦闘を思い出すかのように笑っている。
「〝第二次開放〟程度しか使えない召喚者が、俺に勝てる道理など存在しない。仮に、〝第三次開放〟であろうと、俺に勝つことは不可能だがな」
「…………」
嘘や冗談を言っているようには見えなかった。ジャックは、同じ舞台に居る〝第三次開放〟ですら自分には勝てないと口にしたのだ。
「あんたは一体何者なの?」
「俺か?〝三日月雷鎌〟なら知っていると思うが、俺は〝正義者だ」
「っ!なるほどね……〝正義者〟か……話を詳しく聞かせてちょうだい」
男の事を聞くと急に話を聞くといい始めた白雪が理解出来ずに、視線を向ける。だが、そんな事態など慣れているかのように白雪も俺の方を見て、口を開いた。
「〝正義者〟……その名前の通り、この男はヒーローなのよ。簡単に言えば……昔の海人と似ているわ。そう、〝みんなが笑顔で居られる世界〟という偽りの願いを望んでいた海人に……」
「一体どういうことだ?」
「そのままよ。海人にとってヒーローってどんな存在なの?」
俺にとってのヒーローはいつでも正義の味方だった。小さい頃に良く見ていた戦隊物で、悪を倒すみんなの味方。敵を倒すためであれば、何度負けても、倒れても立ち上がってくる憧れの存在だった。
「この男は、本気で〝世界を救いたい〟と願っているのよ。だからこそ、〝第三次開放〟に至っているのよ」
「っ!!!」
目の前に居る男は、俺がなりたいと信じていた存在だったのだ。〝みんなが笑顔で居られる世界〟という壊れた世界を願った俺と、よく似ているが、似ていない存在。
〝世界を救いたい〟というヒーローのような願いが本物であるから故に、〝第三次開放〟という高みに到達しているのだ。偽りの願い、想いではない故に強い。
「そして、この男が願いを一時的に放棄して、対談の臨んだということは、何か良くないことが起きる可能性が高いのよ……私達にも……もっと、大規模な出来事が起きる可能性が高い……だから話を聞くことにしたのよ」
今まで数々の事件などを解決してきたからこそ、他の召喚者の間でも有名な存在になったのだと、白雪は付け加えて言う。
それは召喚者絡みだけの話ではなく、大勢の人間が巻き込まれる事件などを事前に解決し続けてきたからこそ、ある程度……普通の考えを持つ、召喚者からすれば信頼出来る存在だった。白雪とて例外ではなかった。
初めて〝正義者〟の話しを聞いた時は、理解出来なかったが、少しつづ時間がたてば、〝正義者〟が行った行動は多くの人間と、召喚者を救ったらしい。
「それで、話は聞いてくれるかい?」
「ええ、あなたが〝正義者〟という前提で話しを聞くわ。私の予想だと、嘘を言っているように見えないわ。そして、目撃情報と照らし合わせても、一致している部分も多いわ」
「感謝するよ……」
ジャックは少しだけお辞儀をすると、真剣は顔で俺達二人を見てくる。疑り深い白雪が話しを聞くというのだから、この男は信頼出来る男なのだろう。
「さっそくだが、ちょっと耳に入れた情報があって、それを手伝って欲しい」
「あなた一人では対処しきれないの?」
「いや、それは分からない。ただ、今まで一番厄介であるのは間違いない。だから、協力を仰ぎに着たんだ」
ジャックは深く深呼吸をすると、真剣な眼差しで俺達を見てくる。本題に入ったのだと理解できた。
「この街に……いや、この一帯に〝幻獣創造〟が来るという情報を入手した」




