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約束(エンゲージ)  作者: 千歳瑠璃
幻獣創造
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秘密

互いに想いを交わしてから二日が経過した。俺達の日常には、ほとんど変化は無い。


 〝約束〟を通じて知った互いの想いを言葉にしたことによって、変化したのは二人の関係だけだった。俺達は〝約束〟で結ばれたパートナーである以前に、恋人同士になった。


 生まれて初めての彼女と呼ばれる存在……それが、一番大切で、守りたい者である白雪なのだから、嬉しいという気持ちと幸せだという気持ちが混じって、舞い上がってしまうのは無理ないのだが、夢のような時間は終わった。


 これからは、二人で生き残るために……二人の願いを叶える為に浮かれてはいられない。敵は今だに強大……俺達二人でも勝てないような敵が存在しているのだ。恋人同時になったからといって、特訓をしない訳にはいかない。


 この幸せな時間が、永遠に続くようにするためには、戦う以外に方法はない。自分達に出来ることをしないで、殺されるなど後悔しか残らない。それに、もう大切な人を失うのは絶対に嫌だ。


 白雪は召喚者として強いが、それでも女の子だ。そして、俺は白雪のパートナーでありながら恋人……男なのだから大切な人を守らなくては、俺という存在が意味の無くす。


「だから、これからは気を抜かないようにしないと……」


 学園に行く準備を終えた俺は、待ち合わせ時間まで、ベットで寝転んでいた。土曜日の出来事はまるで夢のような出来事だった。いや、たぶんこれからあんな幸せな一日を過ごせる日は無くなるだろう。


 きっとこれからさらなる戦いに巻き込まれていくに違いない。遊んでいる暇など、一切なくなってしまうだろう。


 だから、俺達に出来ることは絶対に負けないようにすることだけだ。こうして、互いに想いを伝えることが出来たのだから、負けて死にたくは無い。俺は白雪に命を預ける……白雪も俺に命を預けてくれることを信じて、戦っていく。


 これから先は信頼無しでは絶対に生き残れないだろう。二人で協力して、特訓して負けないようにしていくしかない。俺が死ぬと白雪も死んでしまう……〝約束エンゲージ〟はそういう効果があるため、決して死ぬことは許されない。


「これから気を引き締めていかないと」


 一度、大きく深呼吸をしてから、頬を両手で叩いた。学園に行くからといって、全く安全ではないため気を引き締めて行かなくてはならない。もはや、気の休まる所は一切存在しない。


 寝ている時でさえ、警戒を怠っては行けないのだ。今まで以上にしっかり寝れる機会は無くなってしまうだろう。


「だけど、仕方ないか……寝込みを教われて死ぬなんて絶対に嫌だからな……」


 戦わずに負けるなど、絶対にあってはならないことだ。戦って負ける訳には行かないが、それでも前者よりは断然マシだろう。


「いや……マシも糞もない。何があっても負ける訳には行かない。例え、誰を殺そうとも負ける訳には行かない」


 甘い考えはとっくの昔に捨てた。今は白雪を守るためならば誰だって殺すし、何だってする。戦争に参加している者であれば、容赦はしない……全力で殺しにいく。


 仰向けのままで、決意を固める。上に手を伸ばし、拳を握り締める。浮んでくるのは、小さくて、可愛い白雪の姿。戦っている時の姿や、笑っている時の姿……照れて頬を赤くしている姿や、二日前に見せてくれた俺しか知らない白雪の姿……その全部を握り締めるかのように、強く、強く拳を握る。


 この手に握り締めている物は、決して失う訳には行かない物だけだ。俺の手の平で守れる物は、白雪だけと決めている。


「そろそろ行くか……いい時間だし……」


 ベットから起き上がり、学園指定の鞄を持つと、部屋を出る。白雪に早く会いたいから自然と進む速度も速くなる。


 昨日は、特訓が終わってから白雪の姿を見ていない。もう、十時間以上経過しているため、姿を早く見たかった。今まではこんなことを思う事などほとんど無かったが、今では胸の半分を占めている。


 先ほど、決意を固めたにも関わらず、この浮かれよう……恋人に会いたいと想うことは決して悪い訳ではないが、俺達の境遇は普通ではない。召喚者という化け物と殺し合いをしているのだ。浮かれている暇などない。


 深呼吸すると、歩く速度はいつも通りになっていた。これから何が起こるかわからない状況なのだ。一切の油断は禁物だ。


 寮を出ると同時に、白雪の姿が視界に入った。学園のシンボルである巨大な木は、少しづつ色褪あせている。季節が変っていくたびに、世界の色は少しづつ変化していく……人だってそうだ。心の変化で……想いで変化する。


 季節は十一月に突入している。この地域は比較的暖かく、まだ半袖で行けないこともないが、そろそろ制服が冬服指定になる季節……俺達はそんな季節に大切な物に気が付き、そして〝第三次開放トリプルアクセスに至った。


 何か大切な関係性があるかもしれないし、たまたまかもしれない。季節の変わり目に俺達も変化したのだ。


「白雪、おはよう」


 他の生徒が歩いている中、少し離れた場所に居る白雪の声を出して、挨拶をした。白雪は手を上げるだけだったが、伝わったようだ。


「遅れて悪いな」


「遅れてないわ。私が速く来ただけよ」


 二日前の白雪は存在していなかった。目の前に居たのは、母親を蘇生させたいと願っていた時と同じ目をした白雪。俺と同じで、何かしらの決意を固めてきたのだろう。


 五分という短い時間を並んで登校する。だが、恋人同士の雰囲気ではなく、今まで通りの俺達だった。付き合う前と全く変化していない俺達だった。


 叶えたい願いがある俺達には浮かれている暇など全く無い。恋人同士になったからといっても、今は戦争中で、完全に召喚者に切り替わっている。仕方ないと理解しているが、少し寂しかった。


 これでは、互いの想いを伝えただけで、それ以外は変化していないかのようだった。だから、行動に出る。少しでも……ほんの少しだけでも白雪と付き合っているという実感が欲しくて……浮かれている暇など無いと理解していながらも、行動に出る。


「!!!!」


 少し手を伸ばせば触れ合える距離で歩いていたため、手を繋いでみた。デートの時も繋いでいたが、学園で繋ぐのとは訳が違う。白雪も驚いたのが理解出来た。


「これぐらいいだろ?」


 先ほどまでとは別人かのように頬を赤く染めている姿は、可愛かった。白雪も自分なりに覚悟を決めて、そして俺と同じ考えに至った。浮かれている暇などないという考えに……だが、こうして会って、白雪が隣に居ると、それはひどく寂しい感じがした。


 互いの想いが通じあっているにも関わらず、まるで何も知らなかった時のような態度で一緒に居るのは、寂しかった。こうして、手を繋いで、触れ合うことで、白雪が大切な存在であるということを実感したかった。


「うん……寂しかったから…嬉しい」


 頬を赤く染めて、満面の笑みを浮かべる白雪に、心臓が止まりそうだった。俺は、白雪が好きだ。だが、召喚者が……戦争が……などといって居たら、その言葉も嘘になる。


 ただ、白雪が好きなだけだ。白雪がずっと笑顔で居てほしい……母親より、俺を選んでくれた白雪が、笑顔で傍に居てくれるようにしたい。だから、俺達のやり方は間違っていたのだ。


 確かに、浮かれないのは大切なことだろう……しかし、俺にとっては白雪が最も大切なのだ。ずっと、俺と一緒に居たいと思ってほしい。何よりも大切な白雪が、そう想ってくれるようになりたい。


「俺も寂しかった……だから、こうやってメリハリを付けようか」


 恋人同時の時間も大切にする。だが、決して召喚者の時はその感情を持ち込まない。気持ちの切り替えをしっかりとすることによって、恋人の時間も作れるようにするのだ。


 少しだけで、寂しいと感じたのにずっとこのままでは戦いにも支障が出るかもしれない。それに、白雪には寂しい想いして欲しくない。俺の隣に居る間だけでもして欲しくないのだ。


「うん……特訓の時とか、戦う時は一切持ち込まない…けど、恋人同士の時間も作るってことね?」


「ああ」


 手を繋いで歩く五分間。様々な視線を感じるが、不思議と気にはならなかった。ただ、小さい手から伝わる温もりや、柔らかさなどに夢中だった。


 手を繋いだまま下駄箱まで行くと、流石に人の視線も多くなり、渋々手を離すことに。俺は別に繋いでも問題ないのだが、白雪が恥ずかしいらしいので、離すことにした。


 そのまま、自分達の教室に向かっていると、三日前に見覚えのある姿が見えた。授業が始まろうとしているにも関わらずに、屋上方向に向かっている姿は谷崎の姿だ。


「私も行くわ」


 口を開こうとした瞬間、白雪が口を開いた。俺が言おうとしていることが、谷崎の姿を見て理解出来たのだろう。三日前の同じような光景だったので、分からない訳ないが……。


「わかった。一緒に行こうか」


 今の時間に行けば、HRホームルームに遅れることは確定だったが、三日前に背中を押してくれた谷崎が居たからこそ、今こうして白雪と恋人という関係になれているのだ。たぶん、谷崎のことだろうから知っていると思うが、直接言いに行くのが礼儀だろう。


 早歩きで、廊下を歩き谷崎を追う。向かっている場所は分かっているので、急がなくてもいいが、先生に見つかると面倒なので、早く屋上に向かいたいのだ。


 扉を開けると、明るい光と共に、雲一つもない蒼い空が迎えてくれた。そして、その中間で立っているのは、谷崎だった。満面の笑顔で立っている谷崎の様子から、俺達の関係を知っている事が想像付く。


 普通の人間ではない谷崎は何故か全てを知っているかのように知っている。分岐点の事もそうだが、他にも色々知っている。世界最強の召喚者……〝零世界〟に付いても知っているのだ。


「とりあえず、おめでとうございます!先輩達!!」


 自分の事のように喜んでくれる谷崎。一体なぜここまで喜んでくれるのか……一体なぜ、色々助けてくれるのか……聞いてみたいが、きっと谷崎は答えてはくれない……いや、答えれることは出来ない。


「ありがとう……谷崎のおかげだよ」


 これは本音だった。谷崎が背中を押してくれたから恋人同士になることが出来た。白雪は事の展開を知らないので、少し不満そうな顔をしているので、後で説明しておこう。


「そんなことないですよ!先輩が頑張ったからです!!」


「本当にありがとな……」


「先輩には色々教わりましたから!」


 何をとは聞けなかった。基本的に笑みを崩さない谷崎だったが、少しだけ悲しげな顔をしたからだ。きっと、谷崎は俺達が想像している以上に色々な事を抱えているのだろう。


 だが、それを誰かに相談したり、話をしたりすることは出来ない……。誰にも話すことが出来ない悩みや秘密は、案外しんどいものだ。


「これから、きっと先輩達には様々な困難が襲うと思います……いえ、襲います」


 これから先の話なのに、断言する谷崎の顔から笑顔は消えており、真剣な顔に変化していた。嘘を言っているようには見えないし、嘘を言っているとは思っては無い。


 それは、充分に自覚していからだ。これから今まで以上に困難なことが起きるというのは、〝第三次開放〟に至った時から理解していた。今までの敵とは比べ物にならないほど強い召喚者が現われるということも理解していた。


「けど、先輩達ならきっと乗り越えることが出来ると思います……これは断言出来ません。出来れば断言したいけど……」


 申し訳けなさそうな顔をしている。だが、俺は全然気にしていなかった。


「いいよ別に……」


「断言される方が迷惑よ。決まった未来なんてごめんだわ」


「ありがとうございます!」


 再び、満面の笑みに戻った谷崎。やはり、谷崎は笑顔で居るほうが似合う。悲しい顔なんて全く似合わない。自分達のせいで悲しい顔をしていると思うと俺自身も少し悲しくなってくる。


「私の話はこれだけです。きてくれてありがとうございました!!」


 それだけを言い残し、走って屋上を出て行く谷崎に、俺達は無言で見送るしかなかった。




*********




 屋上を出た谷崎は、海人と白雪が訪れない場所に身を隠す。普通に考えれば、谷崎との用事が終わった二人は教室に向かうだろう。話しを早く済ませた谷崎は、二人が遅刻しないようにと気を使ったのだ……いや、違う。


「私はそんなに優しくない……」


 誰も居ない場所で、一人で呟く谷崎は、悲しげな顔をしていた。そう、白雪は自分がどのような存在かを理解しているからこそ、このような言葉を発したのだ。


「私に出来ることなんて、これぐらいだから……二人にして上げられることなんて……」


 谷崎は海人のことが好きだった。勿論、異性の好きではなく、人としての好きだ。性格や行動……そして何より、全然困ってなど居ない自分を助けてくれることが大好きだった。


 だからこそ、こうして色々教えて上げる……実際、それが自分の意志で教えているのか、教えられているのかは谷崎自身も理解することは出来ない。知っているのはこの世界で二人だけだ。


「先輩……注意してください」


 谷崎は、海人達に重要な情報を教えていなかった……いや、厳密には教えることが出来なかった。それは、谷崎にとって最も重い情報だったから。口にすることさえ……他人に教えようとすることさえ出来ないのだ。


「分岐点……やっと乗り越えた所なのに、また困難が待ってる……それも、過去最大級の困難が待っている」


 今まで様々な出来事に巻き込まれ、召喚者と戦ってきたが、今までとは比較にならないほどの困難が訪れることを谷崎は知っていた。そして、その出来事を知っているのは、世界で三人だけ……谷崎を入れて三人だけだ。


「この〝結果〟は私にも分からない……だから、どのような結果になるかはきっと誰もしらない……けど、またここも分岐点になる」


 そう呟く谷崎は、ひどく悲しい顔をしていた。


 




 


 


 


 




 

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