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約束(エンゲージ)  作者: 千歳瑠璃
幻獣創造
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初デート

屋上でデートに誘った翌日の土曜日に俺達はデートをすることになっている。今まで何度か一緒に出かけたことがあったが、今回は正真正銘のデートと呼ばれる物だろう。互いに想いを知っている状態で、二人で出かけるというのは、一般的にも俺的にもデートに値する。


 集合時間は午前十時に駅前ということになっている。寮の前に集合していけばいのだが、折角デートをするというのこなので、しっかりと待ち合わせをして、雰囲気を出すことに決めたのだ。


 今までに一度の経験したことがないデート……好きな人と一緒に出かけることなど生まれて初めてのことなので、どうしたらいいのは全く分からない。とりあえず、デートの雰囲気だけ出そうと決めた俺は、街の広場で待ち合わせすることに決めたのだ。


 基本的にデートは男が女のリードして行うものだ。人それぞれ形はあると思うが、俺も男なので、リードしたいと考えている。動物園に行った時は、たまたま壁に貼ってあったポスターを見つけて向かったが、今回は行き当たりばったりではなく、しっかりと計画を練っている。


 だが、時間が少なかったためにそこまでしっかりとした計画ではない。時間の進みがない〝魔術閉鎖空間〟の中で考えようと想ったほどの時間の無さだったが、白雪に怒られそうだったので展開しなかった。


 結局、今まで一度のデートの計画など立てたことが無い俺からすれば、全く持って未知の体験だった訳で、うまく出来るとは初めから一切思っては居なかった。


「これで準備の方は終りかな……」


 寮を出る二時間前に目を覚ました俺は、今までずっと準備をしていた。何をしていいか分からないので、早めに起きた俺だが、結局早く起きてもするとこが分からないので、手順の確認などを行っていた。


 上級者になると、色々な場所に連れて行ってあげたり出来るのだろうが、俺にそんなスキルは一切ない。なので、今回は少し遠出をして、移動時間などで、色々な場所をカバーすることにした。


「そろそろ出るか……全力で走ったら一瞬だけど、白雪を待たせる訳には行かないし……」


 経験がない俺にも、女の子より早めに集合時間に集合するという基礎の基礎は知っている。三十分前から待っていたとしても、「今来た所だから」というのがマナーになるらしい。


 実際に、三十分前から待っていることを言われたら少し申し訳ない気持ちになるのは否めない。白雪に限ってそんなことを気はしないと思うが、デートという雰囲気を作るためには必要不可欠な事だと思っている。


「服は着た、顔は洗った、歯は磨いた、財布は持った……よし、行くか!」


 再度、自分が準備したことを確認すると、俺は寮の出て駅前に向かうことにした。






**************






 集合時間の三十分前に駅前に到着した俺は分かりやすい場所に腰を下ろした。遠くからでも見える高い時計の下……時計を囲むように出来たベンチに座って白雪を待つことにする。


 凜奈を待たせることが多かった……凜奈は来るのが早すぎることもあったが、言い訳にはならないだろう。だから今回は絶対に白雪を待たせないようにしたかった。


「よし、俺の方が早かったようだな」


 白雪を待たせるようなことにならなくて安心し、深い呼吸を一つした。自分でも不思議なくらいに緊張していた。理由は簡単だが、きっとこれは普通の感情なのだろう。好きな人を待つ……ただ、それだけの事なのに、俺は緊張して体が震えそうだった。


 互いの想いは理解しているにも関わらずに、緊張する。白雪の言葉を直接聞いて居ないだけなのに、言葉よりもっと確かな約束で感じたはずんはのに心配で仕方が無かった。不安で仕方がなかった。


「白雪もきっとこんな気持ちだったのか……」


 結局の所、人というの感じていても、理解していても言葉で聞かなければ不安を感じ、心配になったりするのだ。心や感情がある人だからこそ感じる物に違いない。


 ベンチに座り、周囲を眺めながらそんなことを考えていた。人の感情というのは決して簡単な物ではないことを再確認した。皆が理解していそうで、実は理解出来ていないであろう感情という化け物。


 この感情というのは、良い方向に向ければ大切な物で、きっと唯一無二の物なのだろう。だが、感情というのは決していい方向だけに向く物ではないことをみんな知ってる。怒りや憎しみといった感情……これは決して人を幸せにする物ではないし、自分も幸せになる物でもない。


 怒りや憎しみ……負の感情は、絶対に他者を傷つける。そして、傷つけた先に待っているのは、何事も感じなくなる脱力感だけだ。自分に一切の得などありやしない。


「難しいな……今まで考えたことも無かった物だけに……」


 今胸にある気持ち……感情は決して良い物ではない。なぜなら、俺は白雪を守るためならば人を殺すことを躊躇わない。少し前のように、〝みんなが笑顔で入れる世界〟など全く望んでいない。


 共に白雪と笑顔で居れたらそれでいい。他は何もいらない、この願いを邪魔する者は全員殺す。それが、俺の選んだ道だった。


「白雪はきっと俺が……」


「私がどうしたの海人?」 


考え事をしていると、聞き慣れた声で名前を呼ばれたので、振り返ってみると、そこには天使が居た。白銀の髪を持っている天使が俺の目の前に居たのだ。


 普段着ている服とは全く別物の服……白いドレスのような服ではなく、どこにでも居るような女の子の服装をしていた。髪型も少し変化しており、ただのショートヘヤーではなく、少しだけ網が入れてある。


 白が主な色になっていることは変化ないが、今までの白雪とは全く別人のように見える……率直に言えば物凄く可愛い。テレビに映る女優さんや、モデルなど全く敵わないほどに可愛い。誰がどうみても可愛いと口を揃えて答えるだろう。


「どうしたのよ……そんなに変??」


「あ、いや……」


 変なんてことある訳がない。似合いすぎて、白雪以外が目に入られないほどだった。これほどまでに可愛らしい女の子は今まで見たことが無い……好きな人という補正は入っているだろうが、それでも俺からすれば文句のつけようが無い。


「何よ?正直に言いなさいよ……」


 下を向き、落ち込んだ雰囲気を出す白雪。デートするということで、気合を入れてきているのは服装を見れば理解出来る。俺の反応があまり無いために、気合入れてきた、服が似合ってないと勘違いしているのだろう。


 だが、白雪は気が付いていないのだろうか?土曜日ということもあって、駅前にはたくさんの人が居る。子供連れの家族や、俺らと同じようにデートする雰囲気がある男女の二人組み、そして、友達と遊びに行くのであろう男女の集団……様々な人が、一度は白雪を見ているということに、気が付いていないのだろうか?


 カップルで歩いている男も、友達同士で居るであろう男も、全てが白雪に視線を向ける。それは紛れもなく、白雪が可愛いからだろう。俺も、こんな子が街の中を歩いていたら何度も見てしまう。今の白雪はそれほどまでに魅力的だということに、気が付いていないのだろうか?


「似合ってない訳ないだろ?可愛すぎて言葉が出てこなかっただけだ……」


 嘘を付いても仕方が無いので、俺は正直に口にする。普段も可愛いが、今日は特に可愛い。見惚れてしまうほどに可愛い。


「そ、そう?それなら良かったわ……なんか、すごく視線を感じるから不安だったのよ……これで、似合ってないとか言われたら、私、泣いて帰っていたわ」


 頬を林檎のように赤く染めながら、笑う白雪。その笑顔では地上に降りた天使そのものだった。それ以外に表現の仕方が思いつかなかった。


「仮に似合って無くても、白雪だから何でも可愛く見えるよ。少なくとも俺はな……」


 少し臭い台詞だったのは自覚していたが、それだけは伝えたかった。今の白雪は確かに魅力的で可愛いが、普段の白雪も可愛いということに。白雪だったら何でもいいのだということを知っていて欲しかった。


「馬鹿!早く行くわよ!!海人のことだから行く場所決まってるんでしょ?」


「ああ、決まっている。とりあえず、電車に乗ろうか……」


 駅に向かい、目的の場所行きの切符を買う。デートというのは男が奢るのが普通らしいが、あいにく、一般家庭で、寮暮らしの俺にお金などある訳もない。生活費だけで厳しい状態なので、先に各自自腹で払うと決めた。


 電車代ぐらいなら全然だせるが、仮に俺が奢ると言っても白雪は決して頷いてくれないだろう。まだ、一年も一緒に居ないとはいえ、一緒に戦ってきた関係なので、それぐらい予想は付く。


 逆に白雪が奢ると言い出しても、俺は断る。俺達は先に〝約束〟で結ばれたパートナーだ。どんなことであれ、白雪の負担になるようなことは絶対にしたくない。白雪もきっと同じ考えだろう。


 前に動物園に行った時とは反対方向に向かう。一度は、再度動物園に行こうか悩んだのだが、同じ場所に行くというのは、デート的にもどうなのだろう?と悩んだ結果、違う場所に行くことを決めたのだ。


「ところで、どこに行くの??正直、こっち方面初めてだから、何があるのか全く分からないわ」


「たぶん、到着したら直ぐに分かるから、それまでの楽しみってことで」


「……別に今言っても、後で言っても同じだと思うのだけど……」


 納得していない様子だが、雰囲気から少し楽しみにしていうのが分かる。いつもより、ソワソワしている白雪……単純に、デートだからかは理解出来ないが、少なくと退屈はしていないだろう。てか、初めてのデートが退屈だと言われたら、ショックのあまり数日は部屋に引きこもるだろう。


「とにかく!デートにはオススメの場所だと思うから」


「そう……まぁ、海人がそこまで言うのだったら、期待しておくわ……。それに、私はどこに行っても、海人と一緒に居られれば、何一つ文句なんてないし……」


 頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに言う白雪は、下を向いてしまった。恥ずかしかったら、無理して言わなくても……という無粋な考えが浮んでくるが、頬が緩むのを感じている俺は、言われて嬉しいと感じている。


 やはり、言葉というのは相手に伝えた方が絶対に良い。たとえ、〝約束〟で伝わってしまった想いだとしても、言葉で伝えるのとでは全く違うはずだ。今、こうして、雰囲気では察していたが、言葉で言われると、嬉しいという気持ちを感じる。白雪にも感じて欲しい気持ちだった。


「ところで、その服どうしたんだ?」


 白雪が普通の女の子のような格好をしているのは正直始めてみる。いつも、学園の制服か、始めに出会った時に来ていた白いドレスのような服しか見たことが無い。今まで普通の服を持っていることすら聞いたことがないので少し疑問に思っていた。


「……行ったのよ」


「……悪い、良く聞こえなかった」


 俺でも聞こえなかったということは、周りの人間は間違いなく聞こえていないはずだ。意図的に聞こえないように言ったのだろうが、気になる。


「買いに行ったの!!海人と始めてのデートだったから!!悪い!?」


 急に電車の中で大声を上げた白雪。周囲の視線を感じるが、今はそれどころではなかった。聞いた通りだとすれば……。


「ありがとな……」


 照れて顔が赤い、白雪の頭を優しく撫でる。白銀の髪は、羽のように柔らかく、梳いても一切引っ掛からない。普段から手入れしているのが、理解出来る。さわり心地も抜群だ。


「ふんっ。私だって楽しみにしてたんだから……」


 身長差があるため、頭が撫でやすい場所にあることもあり、数分間撫で続ける。嫌がっている素振りは全く無く、むしろ、自ら受け入れているように見えなくも無い。


無言のまま、撫で続けていると、停車駅に止まった。駅にはたくさんの人が並んでおり、扉が開くと同時に電車内は、いっぱいになる。奥の扉辺りに立って乗っていた俺達は、必然的に人の波に押される。


 どうすることも出来ずに、詰め込まれた俺達は、密着するような形になってしまった。身長は小さいが、年齢は同じ年だ。勿論、体は少し未発達な部分もある、だが、それでも発達してるのだ。密着すると、どうしてもそれを感じてしまう。


 暖かく、柔らかい肌。全身からは、まるで花のような甘い香りが漂っている。白雪が使っているシャンプーの香りだろう。


 そして、ないより、未発達だと思っていた胸の存在を認識させられる。服の上から見れば……失礼な言い方をすれば、まな板だと思っていた白雪の胸は、密着すれば、柔らかな感触が確かにあった。


今まで一度も触れたことがないような柔らかな感触……それも、好きな相手の胸となると、どうしていいのか全く分からなかった。白雪も当たっていることは充分に理解しているはずだ、だが、人が多くて移動することや、動くことが困難な状態だった。


 無理あり動かせば、人間である周囲の人が怪我をする可能性もある。こうして、普通にデートしているが、俺達は決して人間ではない。召喚者という化け物なのだと、忘れてはならない。


「白雪……大丈夫か??」


「ええ……大丈夫じゃないこともあるけど……一応大丈夫よ……」


「そっか……」


「ええ……」


 その体勢のまま、三十分ほど経過すると、目的の駅に到着する。すると、乗っていた人達が一斉に電車から降りていく。どうやら、向かっている場所は同じだったようだ。


駅から降りる頃には、頭が可笑しくなりそうだった。俺だって、年頃の男な訳で、好きな女の子と三十分密着していれば、変な考えや、妄想をしてしまうのは仕方が無いだろう。


 電車を降りることによって、白雪の温もりや感触、匂いなどが遠くなるのは少し、残念な気分になるが、ようやく目的の駅に着いたので、急いで移動することにする。


 先ほどの人だかりを見ていると、相当込んでいると見て間違いないだろう。土曜日ということで、人が多いのは予想していたが、もしかすると予想以上に多い可能性がある。


「どうしたの海人?早く行くわよ。行かないと置いていくわよ」


 こっち方面に来た事が無い白雪でも、流石にどこに向かっているのか分かった様子だった。電車内では、すごく疲れた顔をしていたが、今では電車に乗る前より元気になっている気がする。


「待てよ!本当に置いて行くつもりかよ!」


 大勢居る人だかりを、すり抜けていく白雪の姿は、忍者を沸騰させるほどの華麗さだった。

teitter始めました!連絡などそちらで出来たらいいと考えています!!


名前は千歳瑠璃です


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