幻獣創造(モンスタークリエイト)
どこの国かも分からないような山の奥に一つの大きな屋敷が存在していた。大きさだけで言うと豪邸以上の大きさだが、見た目は古臭く、年代を感じさせる屋敷だ。周囲には木しかなく、屋敷には緑の蔦に覆われた屋敷。
一般人が屋敷を見かけると間違いなく無人だと勘違いするような古い屋敷に一人の男が存在していた。
豪邸のような大きさの屋敷に男は一人で住んでいた。使用人が居る訳でもなく、動物を飼っている訳でもない。屋敷の中にたった一人きりで住んでいる男からは只者ではない気配が漂っている。
屋敷で一番奥にある小さな部屋。小さいといっても一般的な部屋よりは遥かに大きな部屋だが、この屋敷では一番小さな部屋に値する場所で、木製の椅子に座っている男は笑みを浮かべていた。
灯りも付けずに座っている男は全身漆黒だった。黒い髪に、全身黒い服。肩からはマントを着ており、その色もまた黒。正面から見て色が違う部分は顔だけだ。見た目は三十前半の若い男。だが、気配から人間ではないのは明らかだった。
「この魔力……やはり〝第三次開放〟に至ったか……」
爆発的な魔力の持ち主である男は召喚者だ……それも、白雪と海人を除いて、世界で十人程度しか確認されていない〝第三次開放〟の使い手である。それも、戦争参加者である。
「才能は言うまでも無かったが、まさかここまで化けるとは……」
男は本当に驚いている声色で、誰も居ない部屋で話す。だが、同時に玩具を見つけたような、子供のような笑みも浮かべている。その姿は傍から見れば狂気染みている。
「だが、〝第二次開放〟にすら至っていない召喚者と、普通の人間が、〝第三次開放〟の扉を開けさすとはな……そんなこと出来るものなのか?」
実際に海人と白雪は、クリスとニールの手によって〝第三次開放〟という召喚者で最も高みに上った存在になった。本来であれば、格下の物に扉を開かされるというのは不可能なことだ。しかし、今回は〝第三次開放〟に至った。
召喚者は始めて発見されてから、今まで一度も無かった事例。男が不思議に思っても全く可笑しな話ではない。現に、世界中の召喚者も〝第三次開放〟に至ったことは知っている。大量の魔力が流れたことは〝第二次開放〟に至っていない召喚者でも確認できたほどなのだ。戦争に参加している召喚者は全員知っている。
「それにしても、偶然もたまには良いものだ。普段は偶然など全く信じないが、今回ばかりは偶然というもの満更ではない」
口元に微かに笑みを浮かべると、部屋の中に魔法陣が展開された。蒼く輝いている魔法陣は、回転してさらに速度を加速させる。この行動自体は別に不可解なことではない。召喚者が魔法陣を展開させることは出来て当たり前だ。だが、この魔法陣からは召喚者に大切なある物が感じられない。
魔法を発動するに当たって、召喚者は自身の体内の中にある魔力を消費する。それは、どの召喚者でも同じで、世界最強と言われている〝零世界〟でも同じく魔力を消費するのだが、男が展開している魔法陣からは魔力を感じない。
「たまたま、森の奥に住まわせていたドラゴンに、遭遇したのは偶然ではなく、何か別の力が働いているのかもしれないな……」
魔法陣の回転が止まると同時に、光輝く。暗い部屋では目を覆わなければならないほどの光が部屋を多い、消えるとそこにはドラゴンが居た。クリスやニールが倒したのとは別のドラゴン……全身が黒く、一回り大きい。
「ただの人間に私が生み出した〝幻獣〟を殺されるとは想いもしなかったが……いい情報の収穫出来たので問題はないか」
この男は〝幻獣創造〟と呼ばれる召喚者だ。自分が望んだ架空の生物を作りだせるとう魔法。魔力の消費が無いのは、幻獣自身に魔力が存在するため、本人は全く魔力を使わなくてもいいのだ。
北海道の森に居たドラゴンはこの男が作り出した存在だ。ほとんど人が住んでいない場所でドラゴンを放し飼いしていたのだ。そこにたまたまクリスとニールが居ということだ。
「それにしても……そろそろ本格的に動き出さないと勝者になることは出来ないかもしれないな……私の願いを叶えるためには、戦争の勝者になること以外にはないのだ……」
〝幻獣創造〟は戦争に選ばれてから一度も戦いに参加していない。古い屋敷の中で、他の召喚者の情報をずっと集めていたのだ。だが、今分かっている〝魔術蒼石〟の数は八つ。その内、四つは海人と白雪が持っている。
今最も勝者に近いのは数だけ見ると圧倒的に白雪と海人になる。今までは〝第三次開放〟に至ってなかったから、いつでも殺すことが出来た二人だが、今では容易く殺すことは出来なくなってしまったのだ。
世界中の召喚者が気が付くほどの魔力を持つ二人を簡単に殺すことなど出来る訳がない。それも、魔力だけではなく、能力も強力。特に、海人の〝魔法狩り〟は召喚者にとって天敵とも言える。
〝幻獣〟は魔力で出来ているため、〝魔法狩り〟で容易く斬ることが出来る。〝魔女狩り〟の時は力の差が圧倒的なので、斬ることは出来ないが、同じ舞台に上がったとなれば容易く斬ることが出来てしまう。
「それに……いつ、〝世界融合〟に至るか分からない。〝世界融合〟まで使われたら勝てる可能性がかなり低くなる」
〝幻獣創造〟の読みでは、これから〝世界融合〟に至る召喚者は、白雪と海人だけだ。そして、〝瞬間放火〟と〝死者軍勢〟が相手になると、自身が勝者になる確率はほぼないと思っている。
「この辺でそろそろ、行動に出ないと後から大変なことになるな……」
今の状態であれば勝てる確立は五分五分だ。白雪と海人……それも〝第三次開放〟の使い手二人相手に、五分五分だと思える自信が既に強い証拠だが、本人も詳しくは理解出来ない。
「行動に出るか……情報は充分に集まったことだし……」
座っていた椅子から立ち上がり、窓辺に移動する。部屋の中にいるドラゴンは、自身を創りだしてくれた主人に背中を見せないように移動する。〝幻獣創造〟で創られた幻獣は決して主人に逆らうことは出来ないようになっている。
幻獣は、自身の中に魔力が存在しているが、〝幻獣創造〟が居なければこの世界に出てくることは絶対に出来ない。架空や、想像上の生き物というのは、多くの人や長い年月を経て、存在しているかしていないかという不安定な存在になる。
不安定な存在が、この世界に実体を持って生まれることは決してない。霊能力者は居るが、不安定で、実体を持つことが無い幽霊に触れないのと同じ原理になる。不安定な存在である架空の生物は、この世界に不安定で存在してるために、実体を持つことが出来ないのだ。
だが、〝幻獣創造〟の魔法によって、不安定な存在が実体を持つことが出来るのだ。魔力自体は自身で兼ね備えているので、実体を表すことの手助けをしてるような物だ。魔力自体が存在するからこそ、魔力無しで、魔法を使うことが出来る。逆に架空でも無く、存在すらしない生物を創造する時は魔力を消費しなければならないのだ。
自身では決してこの世界に出てくることが出来ない存在だからこそ、創造してもらった主人には絶対に逆らうことは出来ない。それは、他者の魔力干渉を除いて例外はない。
「私は、決して人に心を開いたりしない……願いを絶対に叶えるために、戦争の勝者にならなくては行けないのだ」
窓辺から見える月を見ながら呟く男。その声を理解は出来ないが、ドラゴンが主人の呟く音を静かに聴いている。忠誠心しか存在しないドラゴンだが、男からすればそれが心地良かった。
「この世界は私にとって生きにくい。普通の者にとっては生きやすい環境かもしれないが、私にとって生きにくい……」
月を眺める男の目は、遥か遠い世界……決して普通では叶うことが無い世界を夢見ていた。




