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魔法狩り

伝わってくる思いは俺の抱いている思いと全く同じだった。それと同時に俺の思いも白雪に伝わっているはずだ。光輝いている“約束”は互いの思いを伝えてくれる。


ずっと隣で戦ってくれた白雪……同じ、現実では叶えることができない願いを叶えるために命を掛けて戦った仲間だ。様々な死線を越えて、〝魔術蒼石〟を集めてきたパートナー……今まで気が付かなかった方が可笑しい。


 自分の願いを叶えるために結ばれた〝約束エンゲージ〟だが、俺達は一緒に戦って、努力をしてここまで来たのだ。そして、いつの間にか、自身の願いよりも大切な物が出来ていた。だが、互いに認めることをどこかで拒んでいたに違いない。


 白雪は母親を蘇生させるという願い、俺は〝みんなが笑顔で居れる世界〟という願いを叶えたかった。白雪は十年前から叶えたかった願い。俺は、召喚者になる前から叶えたかった願い。簡単に諦められる訳なかったのだ。


 だが、今は気が付いている。右手の甲にある魔法陣……〝約束〟の魔法陣が光り輝いているというのは気が付いている証だ。結ばれた関係だからこそ、光り輝く魔法陣。互いの思いが伝わったからこそ、光り輝いているのだ。


「私達はここで……」


 光に目を奪われるクリスは無意識に呟いていた。クリスとニールの目的は俺達に気が付かせることだったのだろう。俺達の本当の願い……抱えている想いに気が付かせることだったのだろう。


 そして、俺達は気が付いた。〝約束〟が光輝いているということはニールも役目を終えたということだ。そして、白雪も高みに上る証だ。〝第三次開放〟という召喚者の高みに俺達は上るのだ。今の俺にはそれが理解出来る。


 クリスは〝第二次開放〟にも至っていない召喚者だ。召喚者で言えば弱い部類に入るクリスが、俺を圧倒出来ていた理由はたった一つだけだった。だが、その一つがあまりにも強かったからこそ、〝第二次開放〟である俺を圧倒できた。


「私の想いは、負けたのか……」


 俺は自身の願いを叶えるという想いで戦っていた。召喚者というのは想いの強さが重要だ。戦争に参加している召喚者は皆、総じて願いという物を持っている。願いを原動力にして戦うのだ。


 〝みんなが笑顔で居れる世界〟というのは立派な願いだろう。他の人が笑顔で居れる世界の望む物が世界で一体何人居るだろうか。少なくとも俺の周りには一人として居なかった。そんな、人を愚弄するような願いを持っているものなど一人も居なかった。


 聞こえだけで言えば良いかもしれない。しかし、それは他人を思っての願いではなかった。ただ、俺が〝みんなが笑顔で居れる世界〟を見たかったというだけだったのだ。本当の願いだったかもしれないが、想いは軽い。自分だけが幸せになる願いでは軽すぎる。


 だが、戦っていたクリスは違っていた。剣に込められた想いは、軽い想いではなかった。だからこそ、剣は今までに経験したことがない重さに変化していたのだ。


「負けたのは悔しいが……お前が気が付いたことが何よりも嬉しい」


 クリスは想いだけで戦っていたのだ。誰にも譲れない強い、強い想いが存在したからこそ、戦えたのだ。だが、クリスには召喚者になることは出来ても、それ以上の素質は無かったのだろう。


 大切な物を、譲れない物を見つけていて尚、召喚者として弱い。〝第二次開放〟に至らないほどに弱い。素質の無さを、想いという絶対に譲れない物で補っていた。だが、大切な物に気が付いた…・・・自分の本当の想いに気が付いた俺は、さらなる高みに上る。


 ほとんどの召喚者が至ることが出来ない高みである〝第三次開放〟という高みに至ることが出来る。才能と、本当に守りたい物、大切な物を見つけた召喚者でも一部しかなることが出来ない高みに俺は上る。


「私に見せてくれ……私がなりたかった高みである〝第三次開放〟を見せてくれ。そして、証明しろ。お前の想いが、私が抱えている想いよりも価値がある物なのかを証明してくれ。お前の〝第三次開放〟を私に見せてくれ!!」


 俺の中で、魔力が爆発的に高まっているのが理解出来る。〝第二次開放〟では感じることが出来なかった魔力を今感じている。これは、白雪との新しい願いを叶えるための力。自分一人の願いでは決して得ることが出来なかった魔力だ。


 以前、〝呪縛歌ナイトメアソング〟を殺した時に出た力。ずっと一緒に居てくれた凜奈が殺された怒りによって引き出された魔力と、〝第三次開放〟を圧倒した時よりもさらに膨大な魔力を感じている。


(凜奈……)


 凜奈はずっと俺のことを想っていてくれた。小さい頃からずっと一緒に居る幼馴染だが、ただの幼馴染ではなかった。誰よりも仲が良く、普段の生活でも凜奈が居なければ出来ていなかったほどに大切な幼馴染。隣に居ないことが不安になるほどに近くに居た存在なのだ。


 ずっと、隣に居てくれたからこそ、俺の願いを応援してくれた。頭がいい凜奈のことだ。きっと、俺の願いでは戦争の勝者になることが難しいと理解していたに違いない。一人が満足する願いではきっと戦争に勝ち抜くことが出来ないと理解していたに違いない。


 だが、それでも凜奈は応援してくれたのだ。俺の願いを最優先にして、俺の気持ちを理解して応援してくれたに違いない。確証などは全くない。今、俺の隣には凜奈は居ない。聞くことなど到底出来ることではない。


 この考えも、俺の推測で本当は全く違うかもしれない。しかし、ずっと小さい頃から傍に居たからこそ、言えるのだ。凜奈はずっと俺のことを考えていてくれたと言えるのだ。


 今は隣には居ない。けれど、今は白雪が居る。幼馴染であった凜奈の代わりなどこの世界に一人として存在しない。それは、隣で戦ってくれていた白雪だって変りにはなれない。その逆も、なることは出来ないのだ。


「俺は高みに上る……大切で、大好きな白雪と願いを叶えるために……もう二度と大切な人を失わないように俺は戦争の勝者になる。俺達二人なら前に進めるはずだ。凜奈もきっと応援しているに違いない」


全てを理解していながらも応援してくれた凜奈には申し訳ないが、〝みんなが笑顔で居れる世界〟というのはもう、決して叶うことは無くなった。俺が弱いせいで、殺されてしまった凜奈を蘇生させる願いでもない。だが、凜奈はきっと許してくれるだろう。今、胸にある想いを……新しく出来た願いを応援してくれるに違いない。


「凜奈はそういう奴だ……俺が一番知っている」


ずっと隣で見ていたからこそ確信できる。あいつは俺が決めた答えであれば絶対に否定したりしない。俺が、凛奈決めた答えであれば絶対に否定しないように……。


ずっと応援してくれるだろう。笑顔で応援してくれるに違いない。居なくなった今でも凛奈の存在は俺の中で大きい……いや、居なくなってから余計に大きくなっている。


「俺は白雪が好きだ……最も大切な存在だ」


今までは幼馴染みである凛奈と、自分の願いしか見ていなった俺だが、今日初めて気がついた本当の気持ち。まがい物でもなく、一時期の感情に流されたわけでもなく、心から好きだと言える。


「俺達なら前に進めるはずだ。自分の願いではなく、本当に大切なことに気がついた俺達ならどんな障害も、召喚者も乗り越えていけるはずだ」


「そうだ!お前達なら乗り越えていける。大切なことに気が付いた者ならばきっと前にすすめる!!私は何も出来なかった……だが、お前達には力がある!大切な者を守るために命をかけて戦え!!約束(エンゲージ)たいうのはそういう物だ!!!」


「ああ!俺は白雪が大好きだ!!今度は白雪に命をかける!そして守って、二人の願いを叶える!!」


まるで、俺の高まりに応じるかのように爆発的に魔力が膨れ上がる。風が巻き起こり、クリスは吹き飛ばされないように足に力を入れているのが、理解できる。だか、勢いは増していく。


右手の甲に浮かぶ魔法陣が光り輝く。魔力を浴びた光に包まれ、さらに魔力が増える。体内には今までに感じたことがない魔力が蓄積されている。


「高みに至れ!!白雪を守るには〝第二次開放〟程度ではどうにもならない!これから戦う相手は怪物ばかりだ!お前も〝第三次開放〟に至るしかない!!」


高まる魔力が、さらに膨れ上がる。クリスは足に力を入れて耐えるのが精一杯な状態だ。だが、関係なく、俺は1つ上の高みに上る。世界で数人しか確認されていない高みに上る。


「我は全てを切り裂く剣士に変化する。誰も、我の邪魔をすることは出来ない」


俺は詠唱を唱える。これは、大切な人を守るための詠唱。もう二度と失わないという思いの込められた詠唱だ。凜奈を失った時の俺は弱かった……〝第三次開放〟に至るからといって、俺は今でもそう思っている。だが、以前とは桁外れな力を得る確証はある。


 守れなかった人……もう失わないために俺は一つ高みに上るために詠唱を唱える。


「全てを切り裂く剣を得る。それは、汝以外の全ても切り裂くことが出来る武器」


 右手の甲にある〝約束〟の魔法陣が眩い光を放ちながら回転していく。除々に速度を上げながら魔力は高まっていき、〝魔女狩り〟の剣が白い光に包まれている。その光からは今までに感じたことがない強い力と、強い想いを感じる。


「汝は見ることになるだろう。我の全てを裂く力を。全てを切り裂いてしまう力を」


 〝約束〟はきっと、二人を繋ぐ大切な絆だ。召喚者同士をパートナーとするだけではなく、互いの想いも繋げる物だ。そして、互いを大切だと想い合う気持で、想いで〝約束〟は反応する。そして、強い力を与えるのだ。


 俺達は互いに認め合った。自分の願いを捨ててまで、ずっと隣で戦ってくれた大切な人を選んだのだ。自分の願いよりも大切な人が隣に居るということに気が付いたのだ。自分達でではなく、気が付かされたが、それは関係ない。


 〝約束〟が反応したということは、俺達の想いは本物だということだ。決して他人が干渉出来る物ではなく、俺達二人しか理解出来ない想いがあるというこの証明なのだ。


「第三次開放、開放!!」


一瞬にして、強い想いに包まれた光が輝いた。目の前が真っ白になるほどの光。しかし、確かに俺は感じていた。今までの自分とはく比べ物にならない力を手にしているということに……。


 〝魔女狩り〟を包む白い光が消えると同時に浮び浮び上がるのは、以前と全く違う剣だった。〝魔女狩り〟は均等のとれた白銀の剣だった。まるで、聖剣を浮かべるような剣だったが、俺が持っている剣は、その面影は無かった。


 以前より強い力を秘めている剣は、聖剣のような白銀の剣ではなく、まるで魔剣を思い浮かべるような漆黒の剣だった。漆黒をベースに、中央に赤色のラインが入っている。形状は以前と変化ないが、明らかに〝魔女狩り〟とは違っている。


 全ての飲み込むような漆黒の剣。聖剣のようだった時の面影は一切ないが、俺は理解していた。この剣が、以前とは比べ物にならない能力を持っていることを理解していたのだ。


 召喚者は召喚した武器のことは無意識に全てを理解出来るようになる、それは、出来ることと出来ないことは勿論のこと、以前との違いなど全てがはっきりと……初めから知っているかのように頭の中に情報が存在する。剣が、扱う召喚者に合わせるように情報が頭の中に流れてくるのだ。


 剣から目の離し、クリスに目を向ける。クリスは目の見開き、俺が持っている剣を眺めている。以前との違いが大きすぎて戸惑っているのかと思ったが、一言で違うと理解した。


「その剣……見たことがある。確か、ルーブル美術館の奥にある、召喚社限定で入ることが出来る機密書庫で……」


 クリスは俺が持っている剣を知っているようだった。世界一の美術館には、召喚者限定で入ることが出来る機密書庫があるらしい。そこでは、様々な武器を見ることが出来るのだろう。


「〝魔法狩り〟だ……全ての魔法を切り裂くことが出来ると言われている剣。こいつ……馬鹿みたいな剣を……」


 〝第三次開放〟に至った俺の剣は〝魔女狩り〟から〝魔法狩り〟に変化したのだ。


 今までの〝魔女狩り〟では、魔力を使う物以外は切り裂くことは出来なかった。本物の雷や、魔力が関係してこない魔法を防ぐことは出来なかったのだ。だが、〝魔法狩り〟は違う。


 魔力に囚われずに、全ての魔法を切り裂くことが出来るのだ。召喚された武器は切り裂くことは出来ないが、それ以外であれば全てを斬り、無効化出来る武器だ。今までに〝魔法狩り〟を扱える召喚者は誰一人として現われていない。


「完全に先代を超えたか……いや、先代なんて比ではない。〝魔法狩り〟などというデタラメな武器……〝零世界〟に匹敵するのではないか……」


 そう、この剣はデタラメ過ぎる。剣に触れることが出来れば全てを切り裂くことが可能な剣だ。クリスの〝空間操作〟も容易く斬ることが出来るだろう。


「俺達は前に進む。全てを切り裂いて、願いを叶える。先代が叶えたように、俺達は二人で願いを叶える」


〝魔法狩り〟を構えると、クリスも〝魔法剣マテリアルソード〟を構える。目的が達成されたのだから戦う理由な何一つ無いのだが、これから戦う相手達は甘えを残りして勝てる相手ではない。


 一つの行動で命取りになる戦い……それに甘えが加わると同じ事を繰り返してしまうかもしれない。


「俺はもう、二度と大切な人を失わないって決めたんだ。だから、甘えは消す。今後、少しでも邪魔になる可能性がある者は殺す」


 その言葉にクリスは驚きの目はせずに、少しだけ笑みを浮かべた。クリスの実力では決して今の俺には勝てない。強さに驕っている訳ではなく、単純な事実だ。どう頑張っても勝つことは出来ない。


 だが、クリスは笑みを浮かべている。まるで、楽しい事をしているかのような童心の笑顔。俺に少しだけその理由が理解出来る気がする。


「そうだ……殺す理由など、それで充分だ。自分の大切な人が危険になる可能性が存在するのであれば、殺せ。もう、二度と失わないと決めたのだろう?だったらそれだけで殺す理由には充分だ!」


 地面を蹴り、クリスが接近してくるが、軽く回避をする。もともと、クリスは動きは速くない。剣の実力は俺とは比較にならないほどだが、今は決定的に差は開いている。クリスの動きは止まって見える。だが、それでは駄目なのだ。回避するだけでは、この戦いの勝者になることは出来ない。


「受けてみろ!私の最後の一撃を!!そして、お前の一撃を私に体験させてくれ!どれほどの重さなのか体験させてくれ!!!」


 回避されたクリスは、体の重心と、足をうまく使い、再び剣を振るう。だが、俺はそれを軽く受け止める。完全に俺の想いが勝っているのだ。


 受け止めた剣をなぎ払い、弾く。だが、クリスはその程度でどうにかなる物ではない。弾かれた力を使い、地面を強く蹴って、俺から距離を空ける。そして、剣を構えて目を瞑る。


 精神統一……深呼吸するよう息を吐くクリスの空気が変っていく。この一撃でこの戦いは決まる。俺も、剣に自分の胸にある想いを全て込めるイメージをし、静かに目を閉じた。


 黒い世界で浮んでいるのは、〝みんなが笑顔で居れる世界〟でもなく、幼馴染の凜奈の笑顔でもなく、白雪の顔だった。もう、答えは決まっていたのだ。迷うことは絶対にないだろう。俺は、この想いを胸に戦争の戦い抜く。


 風の音だけが鳴り響く……クリスと俺の間には全ての障害物は無かった。ただ、互いの剣に込めた想いの重さをぶつけ合うためだけに剣を構えている。これが俺達の戦いの決着の仕方。


 互いに大切な想いがあるから負けられない。想いを通わせるために互いに剣をぶつけ合って、語り合うのだ。言葉は一切いらないだろう。剣がぶつかり合えば自然と相手の想いが伝わってくるはずだ。


 数秒が経過した……未だに風だけの音しか耳に入らない。神経が研ぎ澄まされていき、相手の呼吸の全てが理解出来る。相手がいつ仕掛けてくるのかも理解することが出来る。それはクリスも同じだろう。


 そして、どこかで音が聞こえたような気がした。実際には音は聞こえていないが、俺達は同時に地面を強く蹴り、互いに駆け出す。剣を構え、互いの剣の射程県内に入ると同時に振り下ろす。


そして、勝敗が決する。


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