表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/107

雷光武具変生(ライトニングアーツ)

頭の中に浮んでいるのは、母親の笑顔ではなく、ずっと一緒に戦ってくれた海人の顔だった。戦争に選ばれ、母親を蘇生させようという倫理にそむく行為を行おうとしながらも、傍で一緒に戦ってくれたパートナーの顔だった。


 今までずっと一緒だった。数々の死線を共に越えてきた海人は、白雪にとって最も大切な人になって居たのだ。海人と過ごした時間は決して長くない。凜奈に比べたら何事も無い時間だ。しかし、過ごしてきた密度が違う。


 海人と過ごしてきた日々は、幼い頃、母親と一緒に暮らした平和な日々よりも濃く、大切な存在なるには充分過ぎるほどだった。自分のために命を掛けて戦ってくれる海人を、好きにならないなどありえなかったのだ。


「まさか、教えて貰って初めて気が付くとはね……」


 白雪の表情は変わりない。だが、どこか満足した表情に見えるのはニールだけではないだろう。白雪自身、今までで一番満足していると実感しているのだから。


「やっと気が付いたか……」


 ニールは初めて笑顔を白雪に向けた。今までは失望の目でしか見ていなかったニールだが、事実に気が付いた白雪を見て嬉しくなったのだ。だが、ニールの笑顔は一瞬だけだった。不覚にも嬉しさのあまりに笑顔になってしまったのだ。


「へー……あんたも、そんな顔で笑えるんだ……」


 だが、白雪は警戒心を弱めない。今は命を掛けた戦い中である事実は全く変らないからだ。そして、白雪はニールがとてつもなく強いということを身をもって体験している。警戒心を弱めるなど出来ることではない。


 しかし、ニールは違った。クリスから言われていた目的を達成出来たニールにすれば、自分の仕事は終わったのだ。これ以上、戦う必要もないのが事実だが……それ以上に、ニールは実感していた。


 今のニールでは、白雪の相手にはならないということを。そして、今から起こることを、この目で目の当たりにしたいという気持ちもあった。目の前の白雪は今、本当の意味で〝三日月雷鎌ライトニングムーン〟になるのだ。


「本当に感謝しているわ……私達はこれで前に進める」


「私達……?」


 ニールは不思議そうな顔をしている。だが、白雪には理解出来ていた。これから起こることが決して自分だけではないということを。右手の甲で光輝いている〝約束エンゲージ〟がそれを証明している。


 〝約束〟は二人でなければ意味がない。一人では決して結ぶことが出来ない。だからこそ、理解出来るのだ。海人もことを起きているということが。それに、聞こえるのだ。海人の想いが、自分と同じだと感じるのだ。


「私達は戦争の勝者になるわ……あなたが気づかせてくれた想いを胸に、私達は勝者になる。あなたが勝てなかった〝第三次開放トリプルアクセス〟の使い手全て倒して前に進む」


「ああ、そうしてくれ……お前なら……いや、お前達なら出来るだろう。先代が出来たことがお前達に出来ないなどありえない……」


 ニールにははっきりと言えることがある。〝約束〟で結ばれた二人は、今日、先代を越すと。白雪から感じる爆発的な力と魔力は、〝死者軍勢ネクロマンサー〟と比較しても大差ない。


「海人……大好きだよ。私達は二人ならどこまでだって進める。私達は決して負けない。戦争の勝者になって、新しく出来た願いを叶える……」


 白雪の言葉に、右手の甲で光る〝約束〟の証である魔法陣が答える。甲で魔法陣が回転し、眩い光を放つ。そして、白雪は唱える。今、感じている想いは同じだと。この胸に抱いている想いが最も大切だと。今、頭に浮んでいる人が最も大切な存在であると。


「私は今を生きる……お母さん、ごめんね……でも私は前に進むから」


 幼い頃、〝魔女〟に殺された母親を蘇生させようとした白雪。ずっと認めたくなかったのだ。もう一度大切な人と過ごす時間が欲しかった。召喚者になって初めて気が付いた何気ない生活の幸せ。母親と過ごした日々は暖かすぎたのだ。


 大切な人がずっと傍で笑ってくれて、愛情を注いでくれた幼い日々。感情という物を全て理解していた訳ではない幼い日々。けれど、幸せだったとは今でも言える。そんな日々が欲しいと今でも言える。


「けど……」


 それはもう来ない。前に進むという決心を決めた白雪は今を見る。ニールに気づかされて、自覚した想い。戦争に投じした時からずっと隣に居てくれた大切な人。それが、居ることを自覚した。同じ想いで居ることを今日知った。


 今日、白雪は……十年という月日を得て、母親との暖かな日々を思い出にすることが出来た。母親という存在を、心の中だけの存在にすることが出来たのだ。前に進むために、思い出に変えることを決めた。


 白雪の足元には魔法陣が浮ぶ。ニールは警戒する様子もなく、ただその様子を眺める。目の前の白雪が、本物になる瞬間をこれから生まれるであろう世界レベルの召喚者を見逃してはならないと心から感じているからだ。


 白雪を中心に吹き荒れる魔力。魔力は以前の白雪の物とは比べ物にならないほどの密度だ。爆発的に吹き荒れる魔力だが、クリスは再び笑顔を浮かべる。楽しいことを見ているかのように。


「雷光の光よ……雷光を司るインドラ神の雷光を我に与えため」


 白雪は唱える。〝第三次開放〟という召喚者の高みに行くために、戦争で勝者になる力を得るために唱える。


「雷光を纏う者は我である。全ての雷光を司る我は神の雷さヘも武具にする」


 吹き荒れる風に、白雪は白い光に包まれる。〝約束〟が輝いている光ではなく、もっと濃密な力の光。強大な魔力を纏った光が、白雪の体を包み込んでいるのだ。


「変生する……我は雷光へ変生する。それが、さらなる力になることを信じて……」


 足元に浮ぶ魔法陣、回転しながらさらに魔力は高まっていく。クリスは目の前の白雪を笑みを浮かべながら見ている。だが、同時に内心は恐怖に染まっていること事実だった。


 ニールは壊れた人間だ。〝第二次開放〟の使い手である召喚者を容易く殺すことが出来る壊れた人間だ。反応速度は召喚者以上、身体能力も召喚者を凌ぐほどだ。だが、〝壊れ者〟と言われるニールでも限界は存在する。


 それが、〝第三次開放〟の使い手。それは、ニールとて到底相手に出来る存在ではない。そして、今ニールの目の前には〝第二次開放〟から〝第三次開放〟に至ろうとしている白雪がいる。後者が強いことなど実際に戦ったニールは充分に知っていたはずだった。だが、ニールは自身の誤りに気が付いたのだ。


(召喚者というのは……ここまで変化する者なのか……)


 白雪を見ていれば明らかだった。先ほどとは比べ物にならない魔力を放っている白雪。詠唱を唱えている今も魔力は膨れ上がる。〝第二次開放〟から〝第三次開放〟に上がるというのはこういうことなのだと目の当たりにした気分だった。


(力が上がる……というレベルではない。まるで別人のような力を付ける……これが、最も召喚者で高みに上った存在の力)


 〝三日月雷鎌〟である白雪の素質を疑う者居なかった。戦争が始まってから強くなって行く白雪は間違いなく召喚者の素質がある。だが、今までそれが開花していなかっただけなのだとニールは知った。


 目の前に居る召喚者は紛うことなき化け物だと自覚した。人間の身でありながら召喚者を殺すことが出来る自分よりも、さらに化け物だと今ここで改めさせられた。


「第三次開放、開放!!」


白雪が詠唱を唱え終わると、白雪を纏っていた光がが、もう一度輝きいて消えていく。ニールは眩しさのあまりに瞳を閉じてしまう。そして、光が消えると同時に目を開けたクリスは目を見開く。


 そこに居た白雪は、先ほど戦っていた白雪とはまるで別人だった。魔力や力は勿論のこと、姿までもが違っていた。足、手、胴体には武具が装備されているのだ。足からは雷光の翼が生えている。全体を纏う雷は、〝第二次開放〟で纏っていた雷とは質が違うことはニールの目から見ても明らかだった。


 鎌には変化はないが、体に装着されている武具が、白雪の存在感を放っている。武具は、鎌と同じ魔法によって作られた物であることは容易に理解することが出来る。


 〝雷光武具変生ライトニングアーツ〟と呼ばれる武具は、白雪の速度は極限まで加速させることが出来る。足に生えた翼は、短時間であれば空をも支配することが可能だ。


 体全身を纏う雷は、魔力で作られた雷ではなく、本物の雷……インドラが纏う雷光だ。雷と司る雷光は、魔力を込めている雷とは比較にならない威力を発揮し、白雪の速度は今まで以上に加速させる。これが、白雪の〝第三次開放〟だ。


 動きは雷光のように早く、圧倒的な速度で相手を瞬殺することが出来る。並の召喚者では動く間の無く殺されてしまうだろう。〝第三次開放〟の使い手でも目で追うことは困難な速度だ。


「これが……〝三日月雷鎌〟の素質……」


 ニールは想像以上の力にただ驚きを隠せない。小さな体の中に濃縮されている魔力は底がまるで見えない沼のような深さ。体に纏う雷は雷光に変化している状態。まるで、〝死者軍勢〟を相手にした時のような圧倒的な存在感。


「先代を軽く超えている……」


 それは誰の目から見ても明らかだった。先代は〝第二次開放〟の使い手だった。極限までに極めた〝第二次開放〟で、戦争参加者を殺してきたのが白雪の先代だ。だが、今目の前に居る白雪は〝第三次開放〟の使い手だ。先代を超えていることなど見れば理解出来るだろう。


「これが……〝第三次開放〟の力……すごい、今までとはまるで違う」


 今まで何度か見てきた〝第三次開放〟の力だが、自分で至り、実感するとより違いがはっきりとする。〝第二次開放〟の時とは比べ物にならない。体が羽のように感じていた。


「本当にありがとう……私はこれで勝者に近づく……」


 戦いは終わったという雰囲気を出す白雪に、ニールは殺気を込める。反応する白雪は、無意識に戦闘態勢に入る。だが、白雪はどうして殺気を向けられているか理解出来なかった。


 白雪の考えでは、ニールとクリスは、自分達に気が付かせるために襲ってきた。谷崎が言っていた分岐点というのは、ここで気が付くか、それとも殺されるかの二択だったのだろう。気が付いたら〝第三次開放〟に至ることができるという分岐点。


 だが、白雪は大切な物に気が付き、〝第三次開放〟に至ることが出来た。ニールとクリスの目的は達成されたことになる。〝約束〟から流れてくる海人の想いが何よりの証拠だ。しかし、ニールは殺気をこめて来た。〝クラウ・ソラス〟を構え、戦闘態勢に入っている。戦う理由などもう無いにも関わらず。そのことが白雪には理解出来なかった。


「まだ、終わってない。戦いはまだ終わってない。何一人で終わったと勘違いしているんだ?俺はまだ負けていない」


 確かにニールは負けていない。先ほどまでは白雪相手に圧勝していた。だが、それは〝第二次開放〟までしか使えなかったからだ。しかし、今の白雪は先ほどとは比較にならないほど強い。


 〝第三次開放〟という高みに上った白雪は、ニールが戦える域を越している。このまま戦ってもニールは白雪に手も足も出ない。だが、そんなこと本人であるニールが一番理解していた。目の前に居る白雪には勝てないことなど、初めから理解していた。


 〝第二次開放〟の時は勝てるが、大切な事に気が付いた白雪に勝てないことなど、日本に来る前から理解していたのだ。それは、同じクリスも同じだった。


 白雪自身もニールでは自分の相手をすることが出来ないことを理解していた。自分の中に泉のように溢れ出ている力は自身でも底が見えない。二人は同じ土俵に立ってすら居なかった。


「どうして……目的は私達を〝第三次開放〟に至らせることでしょ?それならもう達成したのに……」


 〝魔術蒼石マテリアルブルー〟を持った召喚者であれば白雪は手加減しないだろう。戦争に参加しているのだから殺さなければ〝魔術蒼石〟を渡す訳がないのだから。


「石を持っていない相手なら、もう戦う理由は……」


 ここで二人が戦いを続けても意味は全く無い。結果が見えている戦い……勝っても負けてもいいことなど一つもない戦いだ。白雪からすれば、戦う意味など無いのだが、ニールは違った。


「戦争の勝者になりたいのだろう?そんな甘えは捨てろ、自分の前に立ちふさがる者は全て殺して進め。たとえ、意味の無い戦いだろうが、相手が人間であろうが、邪魔する者は全て殺せ……お前達はもうそういう段階に来ている。俺の予想だが、残っている召喚者は全て〝第三次開放〟の使い手だ。甘さなど持っていては勝てない」


 真剣な表情のニールに、白雪の気配が変化する。それは、戦っている最中の緊張感、警戒心。ニールの言葉は理解出来た。これから〝第三次開放〟しか残っていないことも、甘さを捨てろという意味も理解出来たのだ。


 戦いにおいて、甘さというのは邪魔以外の無い者でもない。一つの甘さで命を落とす可能性がある。もう一度、大切な人を失う可能性がある。やっと大切な物に気が付いたにも関わらず、失う可能性があるのだ。


「そうだ、それでいい……自分達の邪魔をする物は殺せばいい。一度襲ってきた相手を生かすなど馬鹿がすることだ。もう一度襲われる可能性は高い。一度勝つことが出来たからって、次勝てると誰がわかる?自分に害を成す者は全て殺せ。一度邪魔をしてきた者は必ず次も邪魔をしてくる……そうなる可能性を潰すためにも殺すのだ」


 白雪は鎌を構える。周囲にはインドラの雷光が音を立てながら迸っている。〝雷光武具変生ライトニングアーツ〟は周囲の雷光に答えるように、翼を大きくした。


 ニールは、〝クラウ・ソラス〟を構えながら笑顔を向ける。戦って勝てないと理解しておきながら、それを楽しんでいるように見える。日本に来る前に死ぬ覚悟は出来ていたのだ。


「あなたには感謝してもしきれない……けど、私は勝者になるためにあなたを殺す。自分の欲のために殺すわ」


「ああ……出来るものならやって見せてくれ……お前の力を見せろ!」


 地面を蹴り、一瞬で加速するニール。体勢を低くして、召喚者のような速度で白雪に向かう。〝第二次開放〟の時を圧倒した速度……召喚者の目でも追うことが出来なかった速度は意味を成さなかった。


 白雪の目には全て見えていた。先ほどは追えなかったにも関わらず、今は完璧に捉えている。目だけではない、耳や空気の抵抗などの全ての要素でニールの動きを読むことが出来る。


 加速したニールが白雪に接近し、剣を振るうまでの速度は並の召喚者では再現すること出来ない動き。先ほどまでの白雪ならこれで死んでいただろう。白雪は内心でそう思いながら回避する。


 白雪自身は、ほんの軽く回避したつもりだった。ニール相手に、今の自分はどこまで戦えるのかというのを試しているのだ。剣が当たらない周囲に回避出来ればよかった。


 だが、ニールからは白雪が一瞬で消えたように見えた。先ほどまでは目の前に居たにも関わらず、剣が当たる瞬間に消えたように見えたのだ。ニールの目には白雪の動きを追うことは出来なかった。


 勿論、既知感でも追うことは出来なかった。いや、厳密には既知感は発生した。だが、白雪の動きが速過ぎて体が反応出来なかったのだ。〝第三次開放〟の使い手の前に、既知感は役目の成さなかった。


 この一瞬で、白雪は今自分がどれほど戦えるか理解出来た。いや、ニールではそれを図ることが出来ないと判断した。今の白雪にはニールはあまりにも弱すぎた。軽く移動しただけで見失ってしまうほどに。


「行くわよ……今まで散々殴られた分を一撃で清算してあげる……」


 ニールは背後から強烈な殺気を感知した。それと同時に膨大な魔力も察知した。


 ここで、ニールは目を閉じた。感覚で白雪の攻撃を回避しようとした訳ではない。ここで、ニールは死を覚悟したのだ。この一撃で、自分は死ぬということが既知感で理解出来たからだ。


 今まで一度も外れたことが無い既知感だからこそ、抗うことは出来ない。だからこそ理解出来たのだ。自分がこの一撃で死ぬということを。


 都合のいい展開などは存在しない。既知感を崩すことなど出来ない。〝死者軍勢〟と戦った時も敗北するという既知感を崩すことが出来なかったように、白雪に敗北するという既知感を崩すことは出来ない。


「もし、生まれ変わることが出来るのなら、次は普通の人間で生まれて欲しいわ」


 白雪は雷光を纏う鎌を全力で振るう。鎌の軌道は一撃で殺すことが出来る首。雷光がニールの体を燃やし、振りかぶったと同時に周囲に鮮血が飛び散る。白雪にも大量に掛かる。


 だが、そんな血にも目もくれずに、そのまま胴体を真っ二つに切り裂く。地面に頭がおり、胴体は真っ二つにされたニールは死んだ。周囲を血の海に変えながら、〝壊れ者〟はこの世を去った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Twitterやつまているので、よろしければフォローお願いします!!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ