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既知感(白雪)

白雪は、海人が姿を消したことに一瞬だけ驚いたが、目の前に居る敵に集中することを決めた。今まで数々の死線を一緒に潜り抜けてきた海人が、簡単に負けるはずがないと信頼している。海人は自分よりも強いと白雪は心の底から思っているのだ。


 どこかに飛ばされた海人のことを心配しているのも事実だが、信頼が勝っている。召喚者として最高峰の武器を持ってる海人が簡単に負けるはずないと……一緒に特訓してきた海人が負けるはずないと心から思っているのだ。


 仮にクリスが強く、勝てない可能性が存在しようとも、私が助けに行けば問題ない……目の前のニールという謎の存在を。


「海人……」


 今思うと海人が一緒に居ない戦いなど久々かもしれないと思い出す。〝魔女〟の時は一人で挑んだが、最後には海人は居た。それ以外、基本的にはいつも隣に海人という心強い存在が居た。何かあっても大丈夫だと信頼できる相手が居た。


「けど、今回は一人……」


 クリスが海人の相手をしているだろう。こうして、直接襲い掛かってくるろいうことは相当自信があるからのだろう。だが、白雪にはどう考えてもクリスは役者不足に思えた。〝第二次開放セカンドアクセス〟を使える海人と、使えないクリス。普通の戦いであれば勝者は明確だ。


 どの召喚者に聞いてもクリスと答える召喚者は存在しないだろう。それほどに力の差が海人とクリスには存在している。クリスも召喚者であれば、対峙した瞬間に自覚するはずなのだが……。


「なにか隠している可能性が高いわね……心配してもしょうがないわ。今はこいつを何とかしましょう……」


 ニールは白雪を鋭い目で見据えている。まるで、獲物を見つけた虎のような目だ。だが、白雪も全ての動きを見逃さないように見据える。筋肉の動きや心臓の動き、そして魔力の動き……。


「っ!」


白雪はある異変に気が付いた。本来であれば魔力の動きがなんとなくだが理解出来るのだが、出来ないことに。そして、出来ない理由が白雪には衝撃的だった。本来であればありえないことだったからだ。


「魔力が少しも感じない……」


 召喚者にとって魔力というのは一番大切な物だ。魔力がなければ戦うことは勿論のこと、〝魔術閉鎖空間イージス〟に入ることすら出来ない。そもそも魔力が無ければただの人間だ。そして、目の前に居るニールからは一切魔力を感じ取ることが出来ない。


 気配を消すことや、魔力を抑えることは決して不可能ではない。〝瞬間放火ゼロファイア〟だった水瀬は、教室に一緒に居たにも関わらず、存在を見抜くことは出来なかった。魔力を感じ取ることが出来なかった。


 だが、あれは〝第三次開放トリプルアクセス〟という召喚者で最も高みに上った存在だからできることだ。認知されている中では十人も居ないとされている〝第三次開放〟を使える存在だからこそ出来る芸当。


「まさか、この男……」


 白雪は額の汗を拭った。この距離で魔力を探れない相手など世界に数人しか存在していない。〝第三次開放〟という白雪には未知の領域の相手だ。今の自分では勝てないことは一番理解している。それに、海人が居ない状態では手も足も出ないということも自覚している。


 〝呪縛歌ナイトメアソング〟に勝てたのは海人が覚醒したからだ。凜奈を殺された怒りから海人は〝第三次開放〟に近い存在になった。自分の攻撃が当たったのも海人に気を取られていた以外にはない。自分では一人では勝つことは出来なかった。


 だが、今は海人も隣には居ない。この状況は絶望的という表現しか出来ない状況だった。


 白雪は足元に魔法陣を展開し、武器である鎌を召喚する。だが、自分から仕掛けることは出来ない。相手が格上であれば、尚更自分で行くことは出来ない。確実に殺されるからだ。


 ここで、殺されたら願いを叶えることは出来ない。お母さんが蘇生してからであれば死んでも悔いは一切ないが、蘇生させる前に死ぬなど考えるだけで、体が震える。だが、行動することは出来ない。


 ニールは武器を召喚したというのに依然として鋭い目で見据えている。まるで、白雪から仕掛けてくるのを待っているように見える。


 全く目を離すことが許されない状況。仕掛けることさえも出来ない状況では相手を見据えるほか出来ることはない。殺される可能性を犯してまで仕掛ける勇気は白雪には無かった。


「何か勘違いしているようだが、俺はただの人間だ。〝第三次開放〟を使える化け物と一緒にするなよ」


「っ!!」


 なぜ、考えていることが理解出来たのかは気にならなかった。それよりもニールが言った言葉があまりにも衝撃的すぎて。


「人間……?ありえないわ。〝魔術閉鎖空間〟の中は召喚者しか入れないはず……」


 魔力を持つ者以外は〝魔術閉鎖空間〟に入ることは出来ないというのは召喚者の中では一般的な……買い物にはお金が居るという知識ぐらい常識的なことだ。魔力を持たない人間は一切入ることが出来ないというのもそうだ。


 だが、ニールは自分を人間という。それは白雪にとって〝第三次開放〟を使うことが出来る相手以上に未知の存在だ。今までに見たことも聞いたことも一切ない。


「普通であればそうだ……だが、俺は紛うこと無き人間だ。魔力を一切体に宿していない。キサラだって俺の魔力を感じることは出来ないだろ?」


「ええ、けど、まだ相手が〝第三次開放〟という方がありえる話だわ……」


 人間で〝魔術閉鎖空間〟に入ることが出来る存在と存在が確認されている〝第三次開放〟を使える者。どちらの方がありえる話だと聞かれれば間違いなく後者だろう。


「だが、事実だ。けど、普通の人間じゃない。クリスは俺を〝壊れ者〟と呼んでいる」


「壊れ者……」


 白雪には言葉の意味を深くは理解出来ないが、確かに人間の身で〝魔術閉鎖空間〟に入ることが出来るのであれば間違いなく壊れているだろう。体は人間でも、別の何かが人間ではないという意味だからだ。しかし、クリスは、たかが、〝魔術閉鎖空間〟に入ることが出来るだけでその呼び名を付けた訳ではない。


 はしてや、〝第二次開放〟に至った召喚者を三人相手にしても圧倒したからでもない。ニールという男は根本的に壊れている。性格やなどではなく、人間として壊れているのだ。召喚者でも持っている者はいない物を持っているからだ。


「まぁ、そんなどうでもいいことはもういいか……それよりも、早く始めようか……」


 腰に掛けてある鞘から剣を抜く。白雪は警戒心を強くして、鎌から魔力を放出させる。雷を纏わせる鎌は、周囲に雷鳴を迸らせながら白雪の体を包む。雷をまとうことで速度をさらに加速させそうとしているのだ。


 だが、ニールが抜いた剣で白雪は地面を蹴り、後ろに後退した。抜かれた、白銀に輝く剣が一目で異常な物だと理解したからだ。人間が扱える代物ではなにことは勿論だが、ニールが抜いた剣は白雪の鎌以上の密度を感じる。


 召喚者が扱う武器より異常な密度を感じる剣に警戒しない方が可笑しい。そして、白雪は目の前に居るニールは、自分が思っている以上の相手だということに今気が付いた。人間という認識を捨てなければ勝てないと理解した。


「ロー……あの剣……」


〝うむ。神話時代の剣……〝クラウ・ソラス〟だ。相手は普通じゃない〟


「言われなくてもわかってるわ」


 神話時代というのは神々が居たとされている時代の武器だ。様々な物が存在しているが、どれも強大な力を持っている。召喚者の武器は魔力という物で強化され、想像出来ない力を秘めている。だが、それは神話時代の武器とて同じだ。


 いや、召喚者が召喚する武器よりも遥かに強力だ。魔力を帯びているのは勿論のこと、歴史という長い年月をかけて、力が蓄積されていく。だが、神話時代の武器というのは、使用者を選ぶ。召喚者でも扱うことは不可能とされている。人間など触れるだけで気が可笑しくなってしまうだろう。


 だが、ニールは〝クラウ・ソラス〟という神話時代の武器を使用することが出来る。光の剣と言われている神々の剣を自由に扱うことが出来るのだ。だが、本来の性能は遥かに劣る。人間が発揮できる力は神に比べて微々たるものだからだ。


 しかし、微々たる力でも強大な力を発揮する。それは、対峙している白雪が一番理解している。剣から発している雰囲気は異常以外の言葉では表すことは困難だからだ。


「でも……やるしかない。ここが分岐点だとすれば……逃げる選択肢はないはずだから……」


 谷崎が言っていたことを思い出す。全てを信じた訳ではないが、本名を知っていたことと、そして、襲い掛かってきたクリスとニール。信じるには充分すぎる内容だろう。


(ただの人間とは思わない……〝第三次開放〟と同じレベルと思い込んで戦う……)


 一切の油断が許されない戦いだということは充分に理解出来た。人間と召喚者という本来であれば成立することがない戦いだが、白雪はただの人間を警戒する。それが、分岐点を越える一番の道だと信じるているからだ。


 先に動き出したのは白雪だった。数秒の対峙の後に先手を打つ動きで攻撃を仕掛ける。雷速に近い速度……並の召喚者では回避することも難しい速度の前にニールはどう行動するかと試したのだ。


 一切の相手の技量が掴めないので、先手を打ち、試す。回避することは当然だが、どのような動きで回避するのかが気になってる。筋肉の動きが判ればそれだけで動きを読むことが出来るからだ。


 僅か一秒にも満たない速度。距離が開いていないのでさらに速度は速く感じる。だが、ニールには雷速程度の動きは問題なかった。


 地面を強く蹴り、正面から鎌を首に目掛けて振るったが、そこにニールの姿は無かった。召喚者である白雪が人間であるニールの動きを目で追うことが出来なかったのだ。


(早い!)


 反撃に備え、振るった鎌を前に進む力を利用して回転し、背後に振るう。死角である背後から攻撃がくると予想したためだ。迸る雷鳴で攻撃の範囲をさらに広げるが、そこにニールの姿は無かった。


「遅い……」


 ニールの声は驚きの方向から聞こえた。ニールは白雪の目の前に居たのだ。見失ったと思っていたニールは実は白雪の死角に隠れていた。鎌で見えなくなる死角に姿を潜めていた。


 姿を確認したが、遅かった。ニールは低い体勢から右手を大きく上に振るう。白雪の顎部分に当たり、鈍い音が鳴ると同時に白雪の顔は上を向く。魔力が込められていない一撃……だが、召喚者の物と同等の威力があった。


 顎を殴られたことにより、一瞬だけ脳が揺れる。召喚者であれば直ぐに直る脳震盪だが、その一瞬がさらに追撃を許す。もう一度顎を右で狙い、脳震盪を起させ、右足で回転して横腹に回し蹴りを入れる。


「ぐっ!」


 鈍い音と共に吹き飛ぶ白雪。だが、反撃として雷鳴を放ったが、まるで来る場所が理解出来ているかのように回避される。全く何も出来なかった白雪は、相手を見失わないように見据える。


「最後の一撃の時、地面に鎌を刺して威力を殺したのは流石の一言だ……何が起こったかあまり理解出来ていない状況下の中で、冷静な判断が出来ている証拠だが……まだ足りない」


 そう、白雪には何が起こったのか正しく理解出来ていない。相手の動きが全て自分の判断より上を行くことなどほとんど経験がない。全てにおいて行動を予想されるなど初めてのことだ。


 今まで戦ってきた召喚者よりも強いのは確かだが、それだけでは説明することは出来ない何かがあると白雪は踏んだ。だが、その何かがまるでわからない。未知すぎる。


「キサラ……お前の力はそんな程度じゃなだろ?本気を出せよ……それでは大切な人を守ることは出来ないぞ」


「余計なお世話よ!」


 再び地面を強く蹴り、加速する白雪。足に魔力を込めて、爆発させさらに速度を加速させた。先ほどよりも早い動きでニールに襲い掛かるが、それでも足りない。動きを止めるために足を狙ったが、鎌の軌道とは反対側に軽く足を動かしただけで回避され、繋ぎで雷鳴を放出しながら首を狙い鎌を振るうが、雷鳴は回避され、首を逸らして鎌も回避される。


 振りかぶったことによる隙で、右手で顎に一撃を貰い、流れるような動きで左手で再び顎を殴った。脳震盪を起し、一瞬だけ出来た隙で、蹴りが当たり吹き飛ばされ激突する。


 ニールはまるで剣を使う様子はなく、完全に白雪を舐めてかかっている。だが、誰が見ても力の差は歴然だった。何をしても行動を読まれているように回避され、隙が出来れば攻撃させる。ニールが、〝クラウ・ソラス〟を振るっていたら今頃生きては居ない。


 神話時代の剣に選ばれたニールは、〝第二次開放〟という高みに上った召喚者さえも圧倒する。〝第二次開放〟に至った召喚者三人同時に殺したニールにとっては一人相手なのだから当たり前かもしれないが、白雪にとっては当たり前ではない。


 自覚はしていたが、一人では何も出来ないことを痛感させられる。今までは、海人が居たお陰で、戦略の幅というのは大幅に増えていたが、一人ではどうしても限界がある。


 事実、今の白雪は得意の速さを生かした攻撃がまるで通用しない。海人が居ればなどという言い訳ではないが、海人が居れば有効に使えるはずの速度が生かせてない。雷鳴もまるで役に立っていない状態だ。


 そして何より……ニールは白雪よりも圧倒的に強い。召喚者より強い人間が居ることなど世界中でも知られていない事実だが、これで確定した。先ほどから全く魔力を使わないニールは人間で……召喚者よりも強い。


 それが、〝三日月雷鎌ライトニングムーン〟……前回の戦争勝者の武器でありながら歯が立たないほどに強い。手を抜かれているにも関わらず、全く手が出ない。本気だせば確実に殺されるのは目に見えている。


「もしかしてその程度なのか……?前回の戦争勝者の武器だと期待していたのに……とんだ肩書きだけの存在だな。弱すぎる」


 白雪には否定することは出来なかった。事実として肩書きだけというのは理解していた。どんだけ先代が有名で、強かったとしても白雪自身は弱い。人間であるニールよりも……少し前に召喚者になった海人よりもだ。


「そんなこと理解しているわ……けど、ここで諦める訳には行かない。私にはまだ叶えたい願いがあるんだから……!」


 鎌を構え、鋭い目つきでニールを睨むが……睨まれたニールは覚めた目をしていた。まるで、楽しかった遊び道具が直ぐに壊れてしまったかのような目……興味を失った目だ。


「なるほどな……通りで弱い訳だ。クリスが言っていた意味が理解出来た……」


「一体どういうことよ……?」


 白雪には言葉の意味が理解出来なかった。だが、ニールには白雪が弱い理由が理解出来ていた。どうして、人間である自分に勝つことが出来ないのかも全て理解していた。


「才能を持ちながらなぜ弱いか……理出来ていないのか……」


 殺気を込め睨んでいる白雪が居るにも関わらず、まるで警戒心を見せないで一人は話すニール。白雪から注意を逸らしているのだから大きな隙になるにも関わらず攻撃することが出来ない。


 いや、どう攻撃してもニールには回避されるというイメージが頭にこびり付いている。注意を逸らしていても回避され、攻撃されてしまうだろう。


 それもそのはずだ。ニールは壊れている。クリスが〝壊れ者〟と呼ぶ由来はそこにある。〝クラウ・ソラス〟という神話時代の剣を使用することが出来る由来もそこだ。


 ニールは全て知っているのだ。今の白雪の実力を。そして、攻撃してくる場所やタイミング、方法を全て知っている。この世界には既知感という物が存在している。


 初めて行った場所なのに来たことがある感覚。初めて会った人なのに随分前に出会っているような感覚。飲んだことないお酒を飲んだことがある感覚。見たことが無いテレビ番組。その他色々に当てはまる感覚。それが既知感という物だ。


 何をしても新鮮な尾驚きが無い地獄のような既知感にニールは襲われているのだ。何をやっても何を食べても全て経験したことがある感覚に陥る。そして、戦いでも同じだ。


 ニールは白雪の動きが見えている。鎌の軌道や動きも全て既知感で判断している。今までの戦いで外れたことがない感覚だからこそ、命を掛けた戦いで身を委ねることが出来る。だから白雪の動きは読まれているが如くに回避される。だからこそ、死角なども全てニールはわかるのだ。


「お前は本当に大切な物を理解出来ていない……いや、お前の願いは〝母親を蘇生させる〟というくだらない願いであっているのか?」


 なぜ、願いの内容を知っているのかは気にならなかった。今までも戦いの中で何度も言ってきているからだ。だが、ニールが言った言葉に怒りが抑えきれない。


「くだらない願い……?」


「ああ、そうだ。本当にくだらない。だからお前は弱い。母親が足枷になっているんだ」


 白雪はずっと母親と一緒に暮らしたかった。小さい頃なので覚えていることは少ないが、確かに幸せだった日々を送っていた。〝魔女〟に殺されるまでは本当に幸せな日々を送っていた。その日々をもう一度送りたい……願いはそれだ。


「何がくだならにのよ……」


 怒りに任せて高まる魔力。雷鳴もいつも以上に迸り、周囲の物を燃やしていく。だが、ニールは一切の焦りを見せない。絶対に負けることはないと断言できるからだ。今の白雪相手では絶対に負けないと。


「あんたには理解出来ないでしょうね!だけど、お母さんと一緒に暮らしたいって!幸せだった日々を取り戻したいって思うって何が悪いのよ!?願いが叶うかもしれない戦争に参加するには十分すぎるでしょうが!?」


 白雪を中心に、風が吹き荒れる。魔力の放出による風が、除々に強くなって行く。初めの頃とは比べ物にならないほどに膨れ上がっていく魔力。だが、白雪の力が上がっている訳ではない。


 〝呪縛歌〟の時の海人は怒りによって持てる力以上の力を発揮したが、白雪のは怒りに任せて魔力を放出しているだけだ。勿論、ニールにもそれが理解出来ているからこそ焦らない。魔力を放出させても何も変らないからだ。


「いや、くだない。まだ、世界征服など言っているほうがマシだ。大切な物を手に入れていて尚、大切な物を手に入れようなど、考えが甘い。だからお前は弱い!」


「うるさい!!私の願いが……お母さんと一緒に暮らすという願いが〝世界征服〟よりくだらないなんてありえない!弱いのなんてとっくの昔に理解している。けど、譲れない物なのよ!私は、お母さんと一緒に暮らしたいの!」


 まるで何かに縋るように言う白雪を冷たい目で見るニール。爆発的に膨れ上がる魔力だが、一切の変化も見せないニール。子供が親に対して駄々を捏ねているかのような光景だ。


「だったそれを俺に理解させてみろよ」


 その言葉で、一瞬で加速する白雪。だが、それすらも理解出来ているニールは、焦りもしなかった。確かに、白雪の動きは並の召喚者では目で追うことは出来ないだろう。魔力を爆発的に膨れ上がった状態なので尚早くなった。


 しかし、ニールの前では無意味だった。行動が全て理解出来る上に、動きが見えるため、回避できない道理はない。一人では単純な攻撃しか出来ない白雪が既知感の予想の上を行くのは限りなく難しい。


 一撃で決まる首を狙い、鎌を振るうが、体勢を低くして回避する。だが、その動きがあまりにも早いため、白雪にはニールが消えたように映る。見失ったのは一瞬だけだったが、それでも十分だった。


 地面を蹴り、上がる勢いで腹に右手で一撃を入れ、さらに押し込むように食い込ませ、左で同じ場所を殴る。


「ぐっ!!」


 痛みに顔が歪む白雪だが、ニールは動きを止めない。雷鳴を放出させるが、少し遅かった。連続で何度も体を殴られ、痛みに声を出しながらも耐える。五十を越えたあたりで、隙を見つけ、抜け出そうとするが、それは作られた隙だった。


 海人と特訓していた時に、自分で言った言葉だというのに引っ掛かる。それほどに、怒りに任せた白雪は判断力を失っており、ニールがワザと作った隙に飛びついた。


 隙を見つけたと勘違いして、後退した白雪の顔横に足が来ていた。そこで、初めて罠だと気が付いた時には、頬に強烈な一撃を貰い、吹き飛ぶ。召喚者と同等以上の一撃を受け続けた白雪は体に力が入らない。


 蓄積されたダメージが体に響いているのだ。だが、回復するのを待ってくれるほど優しい敵など存在しない。ニールは、期待していた物がただのゴミだった時のような目をして一言。


「期待はずれだから殺す」


 鞘に直していた神話時代の剣……〝クラウ・ソラス〟を抜く。綺麗な白銀に輝く剣……白雪には死神の鎌のように見えた。


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