魔女
用事のため一週間ほど更新できずにすいませんでした。
俺の強化を始めて一週間が経過した。白雪は相変わらず武器を召喚せずに素手で俺と戦っていた。初めは手も足もでなかったのだが、今は何とか回避出来るところまでにはなった。
だが、それはものすごく遅い成長らしいので喜んでいる余裕などはまるでなく、今日からさらに速度を上げてやることになっている。
「武器は召喚したわね?それじゃ今日は少しだけ速度を上げるわよ?」
「ああ」
学園が休みなので朝から魔術閉鎖空間を張り、白雪と修行……と呼べばいいのかわからないが、模擬戦のようなことをやっている。魔術閉鎖空間の中では時間の経過が停止する。なので、何時間居ても現実では朝なのだ。しかし、体力などの疲労は蓄積されるのでずっと中に居られることはない。微量だが魔力も使うので白雪にも負担が掛かってしまう。
いつ他の召喚者が襲ってくるかわからない状況では出来るだけ疲労は蓄積しない方がいい。今は模擬戦となって命の危機は訪れないが、他の召喚者と戦えば命賭けの戦いになる。白雪曰く、召喚者を一番成長させるのは命が掛かった緊張感がある実戦だというのだが、こればっかりはどうしようもないので模擬戦になっている。
召喚した武器を正面に構えると同時に白雪の姿が眼前から消える。模擬戦を始めた頃は絶対に避けられないなど考えていたが、今は眼に見えなくても人というのは段々動きや早さに慣れてくるものなので、少しすれば白雪の姿を微かに捉えることが出来るようになるだろう。
しかも白雪は攻撃をパターン化してくれているので見えなくてもある程度防いだり出来るようになる。これは初めて出会った召喚者と戦うことになったら相手の攻撃パターンを読んで事前に回避出来るようになる練習だと白雪は言っていた。なので俺も白雪の攻撃パターンを読んで攻撃を回避する。
姿が見えない白雪の蹴りを体をそらすことで回避。立て続けに右左とジョブを入れてくるが、片一歩はうまく回避してもう片一方は少し当たってしまい、肩にかすり傷が出来たが気にせずに錆びた剣を振るう。
だが、俺の攻撃が白雪に当たることなどなく華麗に回避されたが、いつものことなので気にせずに剣を振るう。
白雪は俺の攻撃はパターンが決まっていて一回見たら全て軌道が読める言っていた。なので毎回軌道を変えて攻撃しているのだが、それでも白雪の姿を捉えることは出来ない。
攻撃は避けれるようになっても自分の剣が当たらないと敵に勝てない。毎回完璧に避けてもいつから力技で押し切られると白雪は言っていた。そのことは俺も自覚していて少し焦っているのだが、落ち着いていても当たらない攻撃が焦って当たるはずもないと自分に言い聞かせて剣を振るう。
大きく振ってしまったため、隙が出来てしまい足を掛けられた。回避出来ることもなく前からこけそうになる体を無理やり右に捻り、受身を取って白雪から距離をとろうとしたが、そんなことさせてくれるはずもなく捻った方から蹴りが飛んできてなすすべもなくビルに叩きつけられた。
「っ!」
体全身に激痛が走ったが何とか声を抑えて立ち上がろうとした瞬間、白雪は俺の懐に侵入しており、そのままみぞうちを殴られて再びビルに叩きつけられた。
全身に再び激痛が走ると同時に衝撃に耐え切れなかったビルが崩れ落ち、俺の上から降ってきた。全身痛くて動けない俺に瓦礫を回避する方法などなくそのまま下敷きになってしまった。
「海人?大丈夫?」
俺をこんなにした本人は特に罪悪感を抱くことなく、普段通りの顔だった。
「大丈夫じゃない……」
全身痛くてロクに動くことも出来ない。それに瓦礫も上から圧し掛かっているのに大丈夫な訳がない。
「わかった。今助けるから」
そう言い、上にあった瓦礫を軽々持ち上げて、倒れている俺に手を伸ばした。取った手は小さく柔らかい。
なのにどうしてそこまで力が強いのか訳がわかならい。召喚者として覚醒してから何週間か経過したけど、男の俺より遥かに力が強いなどありえない。だが、覚醒した時期が俺よりかなり早かったので何か努力でもしていたのだろう。あるいわ体の体重移動などが極端にうまいか、魔力を使っているかのどちらかだろう。
「はぁー。やっぱり全然成長していない」
少し速度が上がっただけでこのザマだ。命を賭けた実戦など程遠い。
「そんなことなかったわよ?少しだけだけど成長しているわ。それに初めて見せる速度なのに体は反応していたわ。落ち込むことないわよ」
満面の笑みを浮べる白雪はとても可愛かった。白雪は駄目な所は駄目ときっぱり言うので、褒められると素直にうれしい。それに俺を褒める時に見せる笑顔のためと思えばもっと頑張ろうという気持ちも沸いてくる。
「まぁ、今日の所は終わりにしましょう。あんまり長く続けてもあれだし。今日はお休みにしましょう」
そういい、魔術閉鎖空間を解いた。瞬間、今まで居なかった人などが突然現れ、止まっていた時間が動きだした。
「さぁ、海人。寮に帰るわよ」
握っていた手を離し先に歩いていってしまう白雪の背中を見ながら俺は駆け足で追いつき、隣に並んで寮に帰る。
数十分歩いて部屋に戻った俺は今日の反省点を思い浮かべていた。これは白雪には言われていないのだが、自分自身で考えて駄目だったところはないかと判断してその反省点と今後どうしていけば直るかなど考えている。実戦でもなく模擬戦でもないが意味のないものだとは思えなかった。自分の弱さを知るのも強くなる秘訣などと何かの本に書いてあったのでそれを試しているのだが……。
「俺は弱すぎて駄目だ……」
自分の弱さを知るという行為はある程度強い者がする行為であって元から弱い俺は自分の弱さなど知るところか、探さなくても嫌なほど出てくる。強いところなどまるで出てこないので一緒なのだが、やっているのとやっていないのでは気持ちの持ちようなどでは違いがでるので一応やっているのだ。
しかし、すぐに自分の情けなさに嫌気が指してやめてしまう。自分より小さくか弱い女の子にめったうちにやられる光景など何度思い出しても虚しいだけだ。仕方ないと頭の中で理解していながらも気持ちの部分はついてこない。幼稚園児に喧嘩を負ける中学生のような気分だ。
「何しけた顔してるのよ?」
トイレに行っていたのだろう白雪はハンカチで手を拭きながら座布団の上に座った。そして、ダンボール机の人差し指で軽く二回叩いてこちらに視線を向けた。
「はいはい……」
覚醒してから白雪と同居しているので今のが何を指す行動なのかなんとなくわかる。あれは何か飲み物を用意しろと言っていたのだろう。自分で用意したらいいのに白雪は全く自分から動こうとしない。しかし、白雪に模擬戦などしてもらって助かっているのも事実なので何も言わずに立ち上がり、コップ二つにお茶を入れて机の上に置いた。
「ありがと♪」
可愛らしい笑みを浮けべて一口でお茶を飲んで空のコップを机の上においてこちらに視線を向けた。
「どうしたんだ?」
「別に用事はないのよ。ただ、気にならないのかなって」
「気になる?」
一体何のことを言っているのか良くわからない。どうしてそんなに小さくてか弱い体で馬鹿力が出せるかは気になるが、別にそれは俺が弱いだけでたぶん他の召喚者も出来ることなのだろう。
「そうよ。海人は気にならない?私の願いについて」
「……」
気にならないと言えば嘘になるが大体察することが出来る。白雪はたぶん……いや、間違いなく自分の大切だった人を殺されている。事故などではなく、人の手によって……しかも白雪、本人の目の前で大切な人を殺されている。
「その顔を見る限りだいたい察しているみたいね?まぁ、あれだけヒントがあって察せなかった方がどうかしているけど……」
そう、白雪は十三個が同じ場所に揃うとどんな希望や願いも超越する大魔術にその人の蘇生を願うつもりなのだろう。死者蘇生などゲームではアイテムなどを使えば勝手に生き返るのだが、現実ではそうは行かない。死んだ人が生き返らないのは世界の理だ。それは召喚者とて同じでどんだけ魔力をつぎ込んでも死んだ人を蘇らせるなど出来ない。だから何でも願いが叶う戦争に命を賭けてまで戦うことが出来るのだろう。
「私は六歳の時に目の前で大切な人……私のお母さんが召喚者によって殺されたわ」
予想通りだった。召喚者に殺されたのはわからなかったが、大切な人……白雪は十年ほど前に召喚者として覚醒したと言っていたので、まぁ自分の肉親だろうと予想はしていた。
「お腹を刺されて、手足は切断されてあたりには血が飛び散ったわ。そして最後に首を切断して私も殺そうとした」
それはどんだけショックだったのかなど俺には理解出来なかった。体験などしたことがないし、自分の大切な人が目の前でバラバラにされる光景など見たくもないし想像するだけで吐き気がする。しかし、白雪はわずか六歳という幼さでそれを生でも見て、未知の者に自分の命までも狙われたのだ。
「そして、私はお腹を裂かれて死に掛けた」
「そして召喚者になったのか?」
召喚者として覚醒するには自身の死が一番効果的だ。それが召喚者に殺されかけたなどとなったら余計に覚醒するはずだ。俺は白雪に襲われて覚醒したように。
「そうよ。そしてローと出合った」
少し悲しそうな、だけど優しい笑みを浮べて右手に嵌めているガントレットを優しく撫でた。それに反応するように雷を思い浮かべる球体は仄かに点滅した。
「だから私はローに誓ったの。お母さんを殺した召喚者を私が殺すって」
単純な復讐。自分の大切な人を殺されたから今度は殺し返す。これは召喚者だけの話ではなく、普通の人間でも良くあることだ。
「でもね、今年最大のチャンスがやってきた」
強い決意を宿した眼で俺を見る。すぐに何のことか理解出来た。それは召喚者同士が十三個……魔術蒼石を奪い合う戦争。勝者はどんな不可能な願いでも叶えなれる。死者蘇生や人の心を思いのまま操ったり、世界を一瞬で壊す力だって手に入る。そんな数百年に一回の頻度で行われる戦争が俺や白雪が居る時代に第二回目として行われることになった。
「私はお母さんを殺した召喚者を許せない。けど、それよりお母さんを蘇らせることにしたの。たぶん、喜んでもらえないかもしれない……けど、今の私はそれを見失ったらたぶん立ち直れない。だから、絶対に優勝する。何が何でも、どんな奴でも邪魔をするなら殺すわ」
一つの目的のためならば他者を殺すことも躊躇しないなど他人からすれば馬鹿げていると言われて認めてもらえないだろう。しかし、それは他人だから言えることなのだ。その人が失ったモノや目指すべき目的がどれだけ大切かなど本人以外誰もわからない……いや、わかってはいけないはずだ。それはその人の唯一無垢の気持ちだから。なので他者にその強い思いを否定することなど絶対に出来ない。それが間違いとわかっていながらも肯定してやるしか何もいえることなどないのだ。
「だから私はお母さんを……」
刹那、俺は驚いてただ眼を見開いた。人は完璧ではなく、心の支えがなければ生きていけない生き物だ。故、誰もが強い想いを抱き、感情を持っている。白雪は感情を持っているがそういうものには疎いのだと勝手に決め付けていた。
「…っ…うっ……」
白雪が涙を流して泣いていたのだ。
それはあまりに綺麗な涙だった。何かを誰かを大切で自分の命より大切な物を持っている者の涙が汚いはずがなく、ただ一筋にその人のと幸せを願った故に流れる涙。俺は白雪の様子をみて胸が熱くなるのを感じた。
同情や貰い泣きなどといったものではなく、白雪がそういう感情を持っていたことに対しての喜びでもない……そう、俺は白雪に守られているだけだは駄目だと心の底から感じたのだった。
俺はみんなを幸せにしたいなどといった空想めいた願いを叶えようとしている。その中に白雪が入っていなかったことに対しての怒りなのか、手を硬く握っていた。そして決めた。俺は絶対に強くなって約速通り、パートナーを務めると。
未だに泣き止まない白雪に近づいてそっと頭を撫でた。さらさらとした女の子らしい髪。そう、白雪は召喚者として強いがただの女の子なのだと感じた瞬間だった。
泣き編まない白雪に対して俺は静かに口を開いた。
「お前の想いは届いた。次は俺の想いも聞いてくれ……俺が叶えたい願いを」
涙を拭き、俯いていた顔を上げて視線を合わせる白雪。白雪は自分の想いを俺に伝えてくれた。ならば俺の想いも白雪には聞いてほしかった。約速を結んだパートナーとして。
「俺は、みんなを幸せにしたいんだ……」
「……」
何の反応も見せずにただ、視線逸らさずに俺を見る。俺が続きを言うのを待っているようだった。
「この世界には幸せな者も居れば不幸な者も居る。生まれる環境などは平等ではないが、幸せな者が居ることは不幸な者も居るってことだろ?」
この二つは絶対に対峙しながら人に付き纏う。昨日はとても幸せだったのに今日になると不幸になるなる。昨日は不幸だったのに何かが起きて一気に幸せになるなど、この世界では日常茶飯事だろう。誰かを落とし自分が上に上がる、友達同士で同じ人が好きで片一方がその人と付き合ったりなど、万人に幸せなどなく万人に不幸など訪れない。生まれた瞬間難病に犯される人も居れば、健常者として普通に生きていける人も居る。そう、この幸せと不幸は常に対峙している。
「そんなことはわかっているんだよ。でも、みんなが幸せの世界を望むことは決して悪いことではないはずだ」
みんなが不幸になる世界などは誰が聞いても悪いことだ。しかし、みんなが偽りの笑顔ではなく心から笑って過ごせる世界を望めばそれは誰が聞いてもいい世界だと口を揃えるだろう。
確かに区別は必要だろう。抽選などでは当たり外れはあって当たり前で抽選に参加した人全員に当たるなど面白みもない。それとは違うもっと本質的な不幸や幸せを失くしたいのだ。
「俺はみんなを笑顔にしたい。落ち込んで膝を抱えている人や白雪のように泣いている人を笑顔にしたい。ヒーローなんて思われてもいいし言いたい奴には言わせて置けばいい」
だけど、俺がそれを望む限りそれは決して間違いなどではなく、正しいことだといい続けるだけだ。
「みんな幸せで笑顔の世界なんて間違っているかもしれない……だけど、俺はそれを願い続ける」
この戦争に参加した理由はそれ一点のみだった。普通の方法ならば白雪の死者蘇生より難しいかもしれない望みは、何もかも超越する大魔術……願いを叶える魔術に賭けるしかないと思ったからだ。俺一人……いや、世界中の人がどんなに頑張っても出来ないことを俺は人の心を操ることで成し遂げようとしているのだ。
白雪のように大切な人のために命を賭けるのとは違い、俺は自分が住みやすい世界に作り変えようとしているだけなのかもしれない。だけど、どんな世界どろうとそれはみんな幸せで笑顔で暮らせる世界なのだから良いに決まっている。
「これが俺の叶えたい願いだ……どう思ったって構わない。ただ、俺はこの戦争に勝利して必ず叶える。白雪も幸せ……いつも通りの可愛い笑顔にしてみせるよ」
その言葉に目を見開き、そして静かに口を開いた。
「全く……私達二人ともとんでもない願いを持っているわね……だけど、それを強く渇望している。二人揃って馬鹿みたいだけど、本気で望んでいるなら絶対に勝つわよ」
そういい笑顔になった白雪はとても輝いていて瞳には強い意志が宿っていた。そして俺はそんな笑顔を見たことがなった。
「ああ。絶対に勝つ」
そして俺は決意を決めた。約束は守ってもらうのではなく、二人が協力してパートナーとしてやっていくために結ぶものだ。俺はこの白雪の今のような輝いている笑顔を守っていこうと決めた。
今はまだ弱くて守られるかもしれないが、いつかきっと守れるようになろうと決意したのだ。
**********
今日は学園の日なので凜奈に起されて学園に向かった。あの日以来、凜奈は何事もなかったかのように学園にきている。凜奈の連休が終わり、クラスに入
った時に様々な人から大丈夫だった?とか聞かれてうれしそうに大丈夫だったと答えていた。
そして生きていて良かったと満面の笑みで言われて、俺までも笑顔になってしまった。凜奈が居なくなれば悲しむのは俺だけではなく、凜奈と仲の良い友達なども悲しむということを凜奈は知ったようだった。これは普段から凜奈がどれぐらい友達と仲良くしていたかを知る良い機会になったのではないだろうか。
朝のHRが終わり、午前の授業が終了して昼休みになった。俺は凜奈の持ってきたお弁当を抱え、凜奈と共に屋上へ向かった。
屋上で謎の黒いローブを被った召喚者と接触した時は屋上に行くことを躊躇っていた凜奈だったが、俺が召喚者として既に覚醒しているので、そのへんは気にならなくなったようだった。
屋上の扉を開けると、いつも通りたくさんの生徒で賑わっていた。その中には脇下に赤いラインが入った制服を着ている一年生の谷崎の姿も見られた。たが、谷崎は友達と一緒ではなく、一人で水を貯めるタンクの陰に隠れてお弁当を食べていた。
俺はこの前のお礼を言うために凜奈と共に近づいた。谷崎のお陰で凜奈が張った魔術閉鎖空間の存在に気づき、助けることが出来たのでそのお礼を言うためだ。
あれから何度か校内を探し回ったのだが、一度も見かけなかったのでお礼を言う機会がなかったのだ。だが、こうして機会が巡ってきたのだからお礼を言わなければならないだろう。
「谷崎、一人で何してるんだ?」
無言で箸を動かしていた谷崎が俺の声に反応してこちらに目を向けた。そして、ニタっと笑みを浮べた。
「こんにちわ、先輩!それと夏目先輩」
隣に居た凜奈にも挨拶をした谷崎は少しだけ凜奈の方に視線を向けていたが、直ぐに俺に視線を向け返した。
「良かったですね?夏目先輩を助けることが出来て」
「ああ。お前のお陰だよ。ありがとうな」
谷崎が居なければ今頃凜奈は隣に居なかったかもしれない。そう考えると谷崎には感謝してもしたりない。
「別にいいですよ。いつも助けてもらっていたお礼だって言ったじゃないですか」
「言っていたが……そんなもので釣合うとは思わない」
大切な幼馴染の命を救ってくれたのだ。たかが、荷物を運ぶぐらいで釣合うわけがない。だが、谷崎がいいと言っているのでその話はここで終わらせることにする。本人が善意でやってくれたことにいちいち口出しするものではないと思ったからだ。
「ありがとう、谷崎さん」
凜奈は頭を深く下げてお礼をする。召喚者でもない谷崎がどうして魔術閉鎖空間の存在に気がついたのか気になるはずなのに、ただ自分がこうして生きていることは谷崎のお陰だとわかっているので何も聞かないのでろう。
「私は別に何もしてないですよ……それじゃ私行きますね」
空になったお弁当箱を抱え、笑顔で去っていく谷崎の背中を見送った後、屋上についているベンチに座り昼食を摂った。
いつも通りおいしいお弁当を食べ終わり他愛もない会話をしていると、何かに包まれるような感覚を覚えた。凜奈は直ぐに立ち上がり、戦闘態勢をとったが俺には誰の結界か瞬時に判断することが出来た。
「大丈夫だ。白雪の結界だ」
召喚者はそれぞれ別の魔力を持っている。なので結界を張るときに感じる魔力で誰のかを判断出来る。俺の強化のために魔術閉鎖空間を張っている時に感じる魔力と同じだったので白雪と判断できたのだ。
「良くわかったわね?」
上から声がしたので見上げると、フェンスの上に仁王立ちしている白雪の姿があった。
「どうしたんだ?」
用事もないのにわざわざ人払いの結界を張り、会いに来ないだろう。
「特に用事はないわ。ただ、海人はどうしてるかなって思っただけよ」
「一体どういうことだ?」
俺の様子を見るためだけに人払いの結界を張ったのか?様子を見るだけなら普通に顔を見せればいいのに。
「深い意味はないわ。しいて言えば何か居る気配を感じたのよ」
「何か居る気配?けど召喚者は俺達以外いないはずだ」
白雪に凜奈、それに俺を合わせた三人だけで他は召喚者どころか人一人だって居ない。ここは今、普通の人が入って来れないようになっているのだから当然といえば当然だが。
「うーん。何か感じたんだけどな……今はもう居ないみたいだけど」
顎に手を添えて可愛らしく考える白雪。その姿を凜奈は少し警戒した様子で見ていた。
「警戒しないでも白雪は何もしないさ」
「海人?」
俺の言葉に驚いたのか凜奈は少し声色が変だった。しかし、事実なのだから仕方ない。俺は白雪の戦争に賭ける想いを知ってしまったのだ、だからこんなに優しい奴が無抵抗で意味のないことなどする訳がない。
「そうよ。別に何もしないわよ。私だって意味のないことはしたくないわ」
「そういうことだ。だから凜奈も落ち着いて座ったらどうだ?」
未だに立ったまま戦闘態勢をとっていた凜奈に座るように言う。立ったままだと落ち着いて話も出来ないだろうからだ。
「あなたとはあの時以来だったわね?」
あの時とはきっと二人が命を賭けて戦った日のことだろう。毎朝来る凜奈とできるだけ顔を合わせないようにしていたので今日が久々の顔合わせとなる。
「怪我はなかった見たいね。これからは命を大切にしなさい。勝てない敵と戦うなとは言わないけど、戦う気のない相手に喧嘩を売らないことよ」
そう言い視線を俺に戻した白雪は笑顔で「海人も厄介事には巻き込まれないようにね?」と言い、姿を消した。瞬間、張っていた人払いの結界が解けて屋上に人が入ってくる。
「本当に何のために来たんだ?」
「私にわかるわけないよ」
不思議な気持ちのまま、教室に戻った俺達はチャイムが鳴ると同時に席に着いて午後の授業が終わると同時に寮に戻った。
女子寮前で凜奈と別れたので一人で部屋に入ったが、そこには白雪の姿は見られなかった。白雪はいつもこの時間には部屋に居ない。外が暗くなり、七時頃になると何事もなかったかのように帰宅して夕食を食べ、テレビを見て寝る。これが白雪の生活リズムだった。
学園が休みの日などは家に居ることが多いが、俺が学園に行っている時は必ずどこかに行っている。一回どこに行っているのかと聞いてみたのだが、適当に答えられて信用していない。
「まぁ、いつも通りの時間に帰ってくるだろう」
帰ってきたら模擬戦をしなければならない。また、白雪にやられるのだと想うと気が重いが、俺はこの戦争で勝者になると決めたのでやめる訳にはいかない。それに白雪をいつか守れるようになると決意したのだから、弱音など吐かずに続けるしかない。
テレビを見ていると扉が開いた。そこに居たのは白雪と凜奈だった。珍しい組み合わせで驚いたが、凜奈も今日は部屋に来ると言っていたし、時刻も七時頃なのでちょうど一緒になったのだろう。
今までは白雪の方が避けていたし、凜奈もあまり来なくなったので二人は会うことがなかったが今日、上で出会ったのでその辺は気にしないようにしたのだろう。
「海人!お腹空いたわ」
帰ってきた瞬間これだ。まるで小学生のようだ。
「俺だってまだなんだ」
いつも凜奈が作ってくれているので、今来たばかりの凜奈が料理をできるはずがない。もうしばらくは空腹のままだな。
「待ってね。今から作るから」
慣れた手つきでエプロンを着て台所に立つ凜奈。来る時間が少し遅かったのは買い物に行っていたのが理由らしく、凜奈の手には白いビニール袋がぶら下げてある。
何か手伝えることはないかと思い、台所に行こうと立ち上がったが、今更ながら俺が手伝った所で凜奈の邪魔になるだけの事実を思い出し静かに座った。白雪ははなから手伝うという考えがないようで、一直線に座布団に座り、机に置いてあるリモコンを取って自分の好きなテレビにチャンネルを変えた。
俺もそれに目を向けながら料理が出来るのを待っていると、台所の方から空腹のお腹をくすぐるいい匂いが漂ってきた。それを合図に俺は立ち上がり、料理内容を見てからお皿など食器を取り出して並べた。
「やっと出来たのね。待たせすぎよ」
何もしないでテレビを見ていただけなのに偉そうな白雪は持ってきた箸でお皿を叩いて「早く、早く!」とまたもや小学生のようなことをしていた。しかし、その姿はとても様になっていて少し面白かった。
凜奈が作ってくれた料理を三人で食べて、俺が食器を洗っている時だった。
「私、この番組結構好きなのよね」
不意に白雪がそんなことを呟いた。それは白雪がここに住み着いてから毎週見ている番組だった。視聴者からハガキが届いて、そこに書かれている不可能なことなどに芸能人が道具を使って挑戦していくという番組で、視聴率もかなり良いと噂の人気バライティだ。
「なんか、こう。普通の人間には絶対に出来ないのにそれに挑戦して見るっていうのがいいわね。それに失敗した時はおもしろいし」
今回の番組内容は人間はジャンプ一回でどこまで飛べることが出来るのかの測定だった。初めは普通に飛んでいたのだが、それでは一般的な記録しかでないので、トランプリンなど様々な道具を使って脚力の限界を見つけるというものだった。
「それすごくわかる。私もこの番組大好きだから」
以外だったのは凜奈がこういう番組を好きなことよりも、白雪の呟きを拾って返事を返したことだった。
「いいセンスしてるじゃない」
「あなたも良いセンスしてる」
殺され賭けて仲の悪い二人が以外に意気投合した瞬間だった。しかも内容が人気バライティ番組というのがまたおもしろい。
それから二人は放送しているテレビより、過去に放送していた内容の話に夢中になっていた。白雪は前からこの番組を見ていたらしく、結構前の放送内容
も把握していたので会話がものすごく弾んでいる。洗い物が終わった俺が戻りずらいほどに。
だが、仲の悪かった二人が共通の話題で話して仲良くなってくれると俺もうれしいので、二人の会話が終わるまで台所で二人の様子を見ることにした。が…
…それから一時間ほど経過したが話しを終える様子はなかった。
結局俺は台所に二時間近く居るはめになり、午後十時を告げるチャイムが鳴ると同時に話が終わり、凜奈は女子寮に帰ることになった。
********
何事もない日々が続いていたが、事態は急速に動き始める。あれから三日間何事もなかったが、ローの声によって白雪は顔色を変えた。
『出来たぞ、これで完成だ』
「ありがとう。これで準備は整ったわ」
これまでローがあまり話しをしなくなったのは白雪があるお願いをしていたからだ。それは対召喚者用の捕縛結界を三週間近くずっと張っていて、今日ついに完成したのだった。
あの夜に出合った黒い影の召喚者は白雪と実力差があまりないので慎重に時間をかけて練り上げないと気付かれてしまう恐れがあったのだ。なので、三週間という長い時間が経過してしまったが、慎重に張り続けた結果、捕縛結界の存在に気がついた様子は見せていなかった。
「これが初戦よ。あの相手に勝てないようなら優勝なんて出来ないわ」
『うむ。どんな武器を使うかわからない故、気を付けなければならないがな』
「そんなことはわかっているわよ。何のために十年間も召喚者で居ると思っているのよ」
『うむ。そうじゃったな。お前の十年間を近くで見ていたからわかる。お前の想いは本物だ』
母親が目の前で殺されてから十年近い月日が流れたが、今でも色あせない母親と楽しく生活していた頃の思い出が頭を駆け巡る。そして、再びそれを実現させるようにひたすら実戦を繰り返して、何人もの召喚者をこの手で殺してきて色々学んだ。時には白雪より小さく幼い子の命までも奪って今、ここに立っているのだ。
「私は負けられない。自分の願いを叶えるために。そして奪ってきた召喚者達のために」
『そうじゃな。絶対に負けられない』
白雪という女の子はとてつもなく優しい。それは心では誰であろうと殺すと決めているのに心の奥では殺すことに躊躇いを持ち、殺してしまった召喚者達には常に罪悪感を抱いている。凜奈を殺さないようにしていたのだって海人のためと心を納得させていたが、本当は自分が殺したくなかっただけなのだ。殺そうと思えば海人が助けに来た時にやめないで普通に殺せていたはずなのに。
だが、この戦争では人を殺すのは仕方ない。相手も自分を殺そうとして戦ってきているのに自分は殺さないように戦っていては殺されてしまう。仕方ないのだが、やはり躊躇してしまうのだ。
『それでどうする?今から戦いに行くのか?』
「そうね。私は今、戦いたいわ」
『うむ。でも海人は学園じゃ。今からつれてくるのか?』
時刻は十時を回った辺りで今は学園に居る海人。普通に授業を受けているだろう約速を結んだパートナーを連れて行くのか?と聞いているローに白雪は即答で答えた。
「連れていかないわ。私一人でやる」
互いに助け合うと決めたパートナーを置いていくという白雪にローは何も言わずに点滅した。今の海人では白雪と同等の力があると見られる召喚者と戦わせても勝てる見込みはない。もしくは早くもパートナーを失ってしまう可能性の方が高い。
「海人はたぶん、すごい召喚者になる。だけど今はまだ弱いわ」
白雪は常に感じていた。海人の強化をする時などに武器を召喚する海人からとてつもない力の流れを感じていたのだ。それは白雪だけではなくローも感じているはずだった。
『うむ。お前がそういうのならそうしよう。お前の言うとおりにする』
「ありがとう……」
心から感謝を言い、優しく球体を撫でた白雪。一回、目を瞑って再び開けるとそこには強い決意の宿った綺麗な目をしていた。
「それじゃ、捕縛結界を展開して」
『うむ』
黄色い球体が強く点滅すると同時に捕縛結界が展開された。白雪ほどの召喚者が三週間という時間をかけて張った結界は並大抵の召喚者では察知することは出来ない。海人はもちろんのこと、凜奈や谷崎も何も反応しないで普通に生活を送っていた。
『捕まえたぞ』
それは黒い影の召喚者が捕縛結界に捕まったという報告だった。
「場所わ?」
『前に戦った工場のあった場所だ』
「わかったわ!今から行く!」
海人の部屋に居た白雪は扉からではなく、窓から飛び降りてひと気のない部分の壁を乗り越えて学園の敷地内から出た。そして人間の目には映らない速度で移動しながら対策を練る。
相手は自分同等かそれ以上である可能性が高い。それに自分の武器の正体は相手にバレているが、相手の武器や能力などはまるで見当がつかない故、自分の方が圧倒的に不利であることを自覚している白雪は対策を練る方法はあまり多くないが、唯一知っている情報と言えば魔力のバリア見たいなことを張るということだけだ。なので、相手は防御型か一瞬考えたがその線はすぐに消えた。
もし、防御型などだったら初めに白雪に勝負を吹っかけてくるとは思えない。防御型は相方が居て初めて意味を成す存在だからだ。だが、白雪には相方が居るようには見えなかった。なので、相手は攻撃型であのバリアのようなものは能力の一部だと考えるのが一番正しいはずだ。
海人が二十分掛けて歩いていて道を一分近くで移動した白雪は廃墟になった工場の目の前に居た。そしてそこにはもう一人、黒いローブで全身を隠している召喚者が居た。
工場の周囲には捕縛型結界を張っているのでその周囲からは完全に逃げられない。普通なら少しは危機感というものを覚えるはずなのだが、白雪には黒いローブが微かに笑っているように見えたのだ。
「まさか、そちらから仕掛けてくるとは考えもしていなかったよ」
屋上で海人と出合った時のようにノイズが混じったような声ではなく、線の太い男の声だった。
「ローが結界を密かに張っていたのよ」
黒いローブの男の声に挑発的な笑みを浮べながら言う白雪。戦いは既に始まっているのだ。
実力が均等である二者の勝敗を分けるのは情報だ。相手の特徴や体の大きさなどの情報は戦闘でも大いに約に立つ。それに心理的優越が上であると戦いやすい。
「そうか。それは良かったな。ところで約速のパートナーは居ないのか?」
なぜ海人と約速を結んだことを知っているのか?などは聞かないでもわかる。相手も同じ町に居る魔術蒼石持ちの存在は注意しているので情報を揃えてくるのは当たり前なのであまり気にならない。
「ええ。置いてきたわ。足手まといになるから」
海人はいずれ強力なパートナーになるだろうと予想しているので置いてきている。こんな所で死なせる訳にはいかないから。しかし、相手にその情報を与えるようなことはしない。近くからでは意味がわからない情報でも遠くからでは重要な情報になったりする場合があるためだ。
「そうか。まぁあいい。一人だろうと二人だろうと大差はない。お前達では私には勝てないからだ」
多くの実戦を積んできたのかわからないが、かなり自信がありそうな男に少しだけ殺気を込めながら白雪は言った。
「本当にそうかしら?案外すぐ私が勝ったりしてね!」
瞬間、白雪の足元から淡く輝いている魔法陣が展開された。それはどんどん速度を上げながら回転しており、強い魔力の流れを生む。
「魔法召喚術式、魔法形成」
白雪がそっと手を掲げると、その手に白いシルエットが浮かびあがる。それは白雪よりも大きな鎌のシルエット。白雪の強い思いに答えて一つの武器が具現化する。
誰かを守りたいなど大切な人のためになどといったものは、想いという形で召喚者に大きな影響を与える。そして、白雪は大切な人を生き返らせて幸せな日々を送りたいという想いを叶えるために武器を召喚する。
それは白雪自身もしらないような最大級の練度で召喚される。
「我は雷鳴を司る者。我の願に具現せよ」
白いシルエットが消えて、鎌の全貌が見える瞬間に言った。
「召喚!」
鎌から大量に迸る雷鳴。白雪の周囲をバチバチと音を立てながら青白い雷が鎧のように白雪を守る。相手がどんな武器を使ってくるかわからないので雷である程度防げるようにするためにコントロールしているのだ。
「やっぱり、いつ見ても三日月雷鎌はすごいな。さすが、初代優勝した時の武器だ。すごい力を感じるよ」
「当たり前じゃない。伝説クラスの武器だから」
「そうだな。だが、召喚者が未熟では武器が可愛そうだ」
その言葉に少しだけ頭に来た白雪だったが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「未熟かどうか試してあげるわよ!」
瞬間、白雪は百メートルほどあった距離を一瞬にして縮め、黒いローブの男に鎌を振ろうとした。軌道は首、相手は完全に反応できていなかった。一撃で殺すことは出来なくてもこの攻撃は当たると確信した時だった。
物凄い風が起こり、一瞬にして元の場所まで飛ばされてしまった。勢いよく飛ばされたが、ただの風だったようで白雪に負傷は見当たらない。白雪自身もそれを確認してから男に目を向けると、男の周りには炎や氷、水が浮いていた。そして先ほどの強烈な風で男が何者であるかを察した。
「こいつ……まずいわね」
白雪は正確に男の正体を察したからこそでた言葉だった。男を倒すことがどれだけ大変なことかを知ってしまったからだ。
「まさか、魔女だったなんて……」
白雪はゆっくりとその言葉を発して、気合を入れ直した。魔女がどれだけ厄介な敵か知っているからだ。
『軽率だったか。まさか魔女だとは』
「本当にね。だけど私は負ける訳にはいかない」
大切な人を蘇らせるために敗北は許されないのだ。
読くださってありがとうございます。みなさんには大好きなライトノベルがありますか?小説家になろうで読んでいるってことはライトノベルも読でいる方も多いとおもいます。
私は退屈な日常でも大切に生きようと思った大好きな作品があります。有名な本なので知っている方も多いと想いますが「半分の月がのぼる空」という作品です。
読み始めたら一日で読んでしまった大好きな作品です。このライトノベルより面白い作品はでないだろうと思うほどに。
みなさんも興味があったりしたら読んでください。後、これも面白いよ!っていう作品があれば教えてください!




