回避特訓
広場で特訓を始めてから三日が経過した。俺達は今日も特訓をするために街の広場に向かっていた。
三日特訓したら強くなるなんてことは絶対にない。けれど、やらないよりは何倍もマシだ。強くなるため、戦争で勝者になるためには少しでも力を付けなければならない。今のままでは勝者になれないことは自分達が一番理解しているからだ。
今日は土曜日なので、朝食を食べてから広場に向かっている。平日の日には学園に行かなくては行けないので、ゆっくりしていられないが、今日はいつもよりは時間はある。
時間が少し遅いので、いつもより人通りが激しい街を並んで歩く俺達。特に会話もないまま並んで歩く光景は少し視線を感じるが、白雪が全く気にしていない様子なので、俺も無視をする。俺と同様に視線を感じてるはずだが、気にならないことに関心する。
散歩の老人や、犬の散歩をしている人達はいつもより多い。時間が少し遅いだけで、朝の広場は違う景色に見える。周囲に立っている木も普段と変らない。噴水からは水は出ていない。普段通りの光景で、少しだけ心が落ち着く。
時間というのは長いようで短い。変化というのは直ぐに訪れる。それは、肉体的な意味では成長はしない。だが、精神的な意味では変化というのは直ぐに訪れる。自分の心の中は日々変化していく中で、光景だけでも変化しないということは落ち着く。
この広場は街の人々の交流の場所だ。中心部にあるため、人が多く集まりやすいのだ。だからこそ、街で唯一の広場では街の人達が交流する。それは、知らない人達であろうと挨拶そいう形で。知り合い同士であれば、雑談をしたり、遊んだりと交流をする。
ここ最近の特訓場所は広場だ。白雪はどういう考えでこの場所を選んだのかは俺には理解出来ないが、理由はあるのだろうか?。〝魔術閉鎖空間〟を展開するとはいえ、ここは人が多く集まる場所だ。召喚者という存在は人間にはほとんど知られていないので、万が一に何か起こった時のことを考えて人が集まり難い場所の方がいいのではないか。
昨日、白雪に聞いてみたのだが、秘密と言われてしまい、聞くに聞けなかった。秘密言うのだから何かあるのだろうが、気になっ仕方ない。もし、特別な理由がなければ場所を変えた方がいいだろう。この場所に何か起こったら大勢の人が亡くなってしまう。かといって、さらに人が多い街の中でやるとなると被害が尋常ではなくなる。
俺と白雪が出会った場所であれば問題はないが、白雪はそこを選ばない。理由は理解出来ないが、やっぱり俺では考える事もできない。
「何を考えているの?特訓する前から難しい顔していると疲れるわよ?今日は新しい方法を試すから余計に……」
「新しい方法?」
昨日まではずっと木刀で戦い続けた。結局、今まで白雪に勝つことが出来たのは数回しかない。ほとんどが俺の負けという結果になっている。今日こそ勝つという気持ちだったのだが、少しだけ力が抜けた。
「まぁ、私がほとんど勝っていたら海人の心境も理解出来なくもないけど……私に勝つことが目的じゃないでしょ?」
白雪は俺の力が抜けた事を見て、そう言ってきた。まるで、仕草だけで心の中を読まれた感覚だ。
「ああ、そうだな!それで?どんな方法に変えるんだ??」
「そうね……今回のは海人にとっては過酷になると思う」
「一体どんなのするつもりだよ……」
特訓というのは手を抜いてやると強くはならない。全力で尚且つ、過酷であれば強くなって行くはずだ。だが、白雪と俺ではなく、どうして俺だけ過酷になるのだろうか。
「どりあえず、〝魔術閉鎖空間〟を展開させるわ。話は中で話しましょ?聞かれると困るし」
「分かった」
白雪から魔力を感知すると同時に体が包まれるような感覚が肌を刺す。周囲から人の気配が完全に消え、召喚者のみが入ることが出来る空間に変貌する。時間が停止した世界。時間が停止しているからこそ、侵入することが出来ないのだ。
体内に魔力も持ち、人間とは桁外れな身体能力や反射神経を持つ召喚者だからこそ、世界と切断された世界には入ることすら出来ず、存在自体に気が付くことさえも出来ない。
「それで、今日は何するんだ?俺だけ一方的に殴られるとかか?」
過酷という言葉から適当に言った言葉だったが、白雪は驚いた顔をして、
「どうしてわかったの?言い方は雑だけど、似たようなものよ」
「…………」
真剣な顔で言う白雪から嘘を言っているようには見えない。だということは、本当に一方的に殴られる特訓をするのか?俺はそんな性癖は持っていないのだが……。
「だから、言い方が悪いのよ。それに、一方的に殴るのではなく、一方的に攻撃するの。それは、私も同じ。私が一方的に攻撃するから海人は反撃なしで全て回避して。逆に海人が私に攻撃してきて、私は反撃無しの回避のみ。だから、別に殴られる訳ではないわ。攻撃を回避出来ればね」
俺の勘違いは理解出来たが、もう一つ問題がある。
「それって、完全に俺が不利じゃないのか?」
実戦練習でもほとんど勝てないにも関わらず、反撃無しとなるとさらに厳しい。それに、白雪の速度は本気を出せば雷速に近い速度にまで加速する。武器の召喚をしなくてはそこまで加速しないが、それでも充分すぎるほど速い。回避も攻撃する時も圧倒的に有利なのは白雪だ。
「だから言ったじゃない。今回の特訓は海人にとっては過酷な物になるって。内容は同じだけど、今回の特訓は私の方が得意なの。けど、逆に海人にとってはかなり貴重な特訓になるはずよ。自身より速い者の攻撃を回避し続けるというのわ」
確かに、攻撃を回避するということは一切ダメージを負わないということだ。俺より速度は速い召喚者は大勢居る。その速度が速い相手の攻撃……一瞬で視界から消える白雪の攻撃を回避する特訓は貴重な物になる。
これからの戦争に大いに役に立つ特訓だと言える。逆に、速度が速い白雪に攻撃を当てることが出来るようになれば、それだけ戦いの中での先読みが出来るようになり、戦いを優位に進めることが出来る。一瞬で消える敵でも当てることが出来ればただ速いだけに変化する。けど、疑問もある。
「それだと、俺の特訓になるじゃないか?俺は白雪のような速度は出せない」
「それは理解しているわ。けど、私も特訓になるのこれわ」
「攻撃を回避し続けることがか?」
「ええ。確かにそれもあるけど、相手の方が速度が速いときって、海人ならどうする?」
「俺は……」
頭の中で想像する。相手が白雪のように速い速度で動き、襲ってくるとすれば、正面から行けばまず当たらない。相手の裏を掻く手段を考えるだろう。そして、予想出来ない攻撃を相手にし、速度を鈍らせて叩く。実際に経験を積んでからでは詳しい中身までは考えることは難しいが、それでも策を考えてそれを実行するだろう。
正面から攻撃しても、攻撃より速度は速ければ当たらない。裏を掻き、相手の死角から攻撃をしたり、様々の手段を考える。仮にうまく行かなくても再び新しい手段を考えて、攻撃を当てようとするだろう。それが、命を掛けた戦いで無くても……。
「なるほど。相手が考える策を予想して、それを覆す練習か……」
「そうね。相手は当たらない攻撃を当てようと色々考える。それは確実に予想外という形を狙ってくる。その予想外を消して、予想外ではなく、私が予想出来るようにする練習。仕草や一連の流れ。相手から不振な動きなどを見極める練習。相手が遅いから自分が有利だという考えを捨てるための練習を私はするの。これだとこの攻撃を回避し続ける練習も意味があるものに変化するわ」
戦いの中で一方的な場面になればその状況を打破しようと策を考えるのと同じで、当たらない攻撃を当たるようにするための策を考える。白雪はこれを予想して回避する練習をするらしい。
「それじゃ、早速やりましょう。まずは海人が私の攻撃を回避し続けて。目標は……とりあえず十分間でどうかしら?」
「わかった」
「絶対に攻撃はダメよ。体が隙を見つけたら反応するかもしれないけど、抑えて。相手が有利な場合の隙っていうのは必ず罠だと思って。自分で作った隙は問題ないけど」
「わかった。それで、もしも攻撃が当たればそこで終りか?」
「違うわ。当たれば私は追撃をかけるから、海人はうまく立て直して」
「了解」
俺は頬を一度強く叩いてから構える。それを見た白雪も構え、集中する。練習でもこれは実戦で使える物になる。だから真剣にやる。
白雪の攻撃を回避する特訓なので、瞬き一つせずに白雪を見据える。移動した瞬間から攻撃に耐用するためだ。一瞬で視界から消えるため、いつ消えたか判断出来なければ一瞬で直撃させられる。
数秒が経過すると、俺の視界から白雪が消えた。だが、消えた瞬間は見えたので、瞬時に目に魔力を送り、正面に突撃した。戦闘をしていて必ずしも、相手の死角から攻撃しようとすることを理解している。なぜなら死角からの攻撃は回避できないからだ。だから、俺は正面から突撃した。
回りこむように死角に移動しているであろう白雪の動きの裏を掻いたのだ。どんなに速度に自信があっても正面から攻撃をしてくる奴は居ない。だが、この方法は背中を相手に見せてしまうという欠点がある。だが、これは誘いだ。
相手に背中を見せるという行為は絶対にしてはいけない。召喚者相手に背中を見せて生き残れる訳がない。人間が熊などに背中を見せて逃走するのと同等のミスだ。だが、それが誘いであれば話しは別だ。
俺は相手が背後を狙ってくるという事実を知っている。ミスだと気が付いたが、反応出来ないことと、ミスだと理解していながらも背中を向けたということは大きな違いが存在する。
相手が背後を狙ってきたという覚悟と反応が出来るのが誘いの強み。白雪が背後を狙ってきた瞬間に行動を起す。攻撃出来ないこの特訓では、何も出来ないが、実戦であれば攻撃出来る隙を作ることが出来る。これは実戦練習なのだ。
白雪が先ほど言っていた、「相手が有利な場合の隙というのは必ず罠」という言葉を思い出すと、今は自分が作った隙になる。白雪が有利で作った隙ではないので、反撃が出来るのだ。だが、今回は出来ないので、完全に回避に回る。だが、隙を作る練習になるので、無駄ではない。
「甘い!」
だが、白雪は俺の誘いには乗らなかった。声が聞こえると同時に白雪は正面に居た。考えていたことと予想外の出来事に驚いたが、自動的に体が反応していた。
地面に鼻がつくほど伏せて、両手両足で地面を大きく弾き、後ろに加速した。
特訓の中で一度白雪の姿を見失ったという失敗を犯したため、今回は正面を向いたまま回避体勢に入ったのだ。正面に居た白雪から視線を逸らせば間違いなく袋叩きにされる。
一度狙い打ちさせれると体勢を立て直すのは至難の業だ。なぜならこの場合の主導権は相手にあり、必ずしも相手の有利な方に出来事が進む。一度回避しても結局袋叩きにされることは明白だ。
一瞬だ見えた白雪の姿が再び正面から消える。白雪が居た場所から距離にして数十メートルにも満たない。一秒未満で追撃が来る短い間合い居る。
俺は咄嗟に次ぎの回避行動を取る。流れは完全に白雪にある。俺は一度誘いを意図も簡単に見破られたので、今から策を考えなければならない。何も無しに回避し続けられるほど甘くは無い。
だからこそ、白雪も俺が策を考える前に叩いてくるはずだ。この数十メートルの間合いは一番危険な間合いなのだ。ここで回避をしなければ完全に袋叩きにされる。
袋叩きを回避するために俺は右に飛んだ。そして、白雪の姿を捉えるために元居た場所を視線を向けると、そこには白雪は居なかった。
「っ…!」
気が付いた時には遅かった。右に飛び上がっている俺は空中での回避は出来ない。完全に白雪の姿を見失ってるのでどこから攻撃がくるのか軌道を読めないので無理に回避することや、対策を考えることも出来ない。
だが、ここで慌てては白雪に袋叩きにされるので、俺はヤマを張り背後に掛けた。一番視界になり、回避することが出来ない背後から攻撃が来ると予測し、背後を向いたが、そこにも白雪の姿はなかった。
そして、地面に着地する瞬間……地面に足が着けば回避出来る可能性が出来ると頭に浮んだ瞬間に、正面から衝撃が来た。油断したことによる衝撃は思いのほか衝撃が来る。
だが、一撃を食らった所で地面に着地したので、逃れようと力を込めると、力をこめた右足に衝撃が来て体勢を崩す。踏ん張り、左に力を込めると次は左に衝撃。そして、完全に体勢を崩した俺は、一番なりたくなかった袋叩きにされ、十分間を終えたのだった。
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