大変さ
先に歩き出した白雪に追いついた俺は、二人並んで駅に向かっている。動物園に行くためには電車を乗らなければいけないので、駅前に向かわなくてはならないのだ。
召喚者の力を使えば瞬時に行くことが可能だが、今日だけは完全に召喚者のことを忘れるという約束なので、普通に電車で行くことになる。白雪も理解しているからこそ、何も言ってこない。
駅前に行くのは四日ぶりだ。前回はニュースで取り上げられていたイベントに凜奈と二人で行くために駅前に来た。この辺りでは一番大きな駅なので、人の通りも多く、イベントをする場所としては最適だろう。
ショッピングモールから数十分歩くと、駅前に到着した。今日はイベントなどをやっていないので、前回よりは人通りがかなり少ないが、それでも人の行き来が激しい。仕事に向かう通勤時間などは、人が多すぎて、前に進まないほど駅の中には居るらしい。
「ここから三駅ほど先だから、とりあえず駅の中に入ろうか」
「ええ。ゆっくりしている時間はないわ」
時刻は三時手前なので、時間的には少しだけ遅い。そろそろ学園が終わる時間なので、のんびりしている時間はなさそうだ。動物園が何時まで営業しているのかさえ知らないので、急いだほうが良いだろう。 三駅あるが、駅と駅の間隔があまり開いていないので、時間は掛からないだろう。
「動物園に早く行かなければ」
「…………」
白雪は時間の心配をしているのではなく、単純に早く動物園に行きたいだけのようだ。白雪らしいと言えばらしいので、気にしない方向で行く。
駅の中には様々の物がある。各地に行くための改札は勿論のこと、駅自体がかなり大きいので、地下に色々買い物をする場所が兼ね備えてある。だが、近くにショッピングモールがあるので、食材などはあまり置いておらず、服や地域限定物などが売っている。
外装は鏡に覆われているというのが、第一感想だろう。夏など、太陽の熱を直接浴び続けている場合は、壁に触れると熱い。そこで、やけどをした子供がたくさん居る。なので、今、色々話し合いが行われていると少し前に見た。
中に入ると、他に用事がないので、直接改札に向かう。二人分の切符を買い、改札に切符を入れる。そして、動物園はある方面に行く電車の場所を探し、乗り場に行くためにエスカレーターを使用して、上に昇る。
「いつ電車は来るの?」
上に付いている時刻掲示板に目を向けると、今から五分後だった。人が大勢乗る駅なので、電車一本ずつの間隔は速い。田舎に行けば、三十分に一本や、一時間に一本という場所があるぐらいなので、五分というのかかなり短いだろう。
「五分も待つの?全力で向かったら五分も掛からないのに……」
よっぽど動物園が楽しみらしい白雪は五分が待てないらしい。提案した身としては楽しみにしてくれるのは嬉しいのだが、流石に焦りすぎだろう。多くはないとはいえ、時間はまだある。
「五分ぐらいすぐだから。だから、並んで待っていよう」
黄色い線の内側に並び、話をしていると、電車が到着する放送が流れた。しばらくすると、シルバーの色をしてる電車が俺達の前に止まり、乗り込む。時間的に乗る人が少ない時間なので、余裕で座ることができ、三つ先の駅に到着するのを待つ。
時間的に言えば、駅に到着するのは二十分程度だろう。その間、俺達は隣同士で座り、無言のまま過ごす。凜奈のように良く話しをするタイプではない白雪は基本的に黙っている。
ここまで来る時も必要以上の会話はしなかった。俺から話題を振ったり、話しかけると反応して話すのだが、ほとんど自分から話題を振ってくることはない。あっても召喚者絡みくらいだ。
五分ほど電車の中で無言で居る俺は、流石にずっと無言で居るのもどうかと思い話しかけることにした。歩いていたりすると無言でもあまり気にならないが、座って無言だと少し気まずい。
「なぁ、白雪…………」
触れ合うほど近くに居る白雪は、瞼が下りてきて、首が上下に揺れていた。もう少ししたら眠ってしまうと分かるぐら眠そうにしていた。
「少ししか時間ないけど、着いたら起してやるから寝て良いぞ」
「うん」
軽く返事だけすると、白雪は我慢していた眠気にみを任せ、瞳を閉じた。力が抜けた体を俺に持たれるように倒れてきて、白雪の顔が一気に接近した。テンポ良く呼吸し、眠っている白雪はとても可愛く、子供のように感じる。
(起きていても可愛いけど、眠っていても可愛いな)
まだ、生まれて間もない赤ちゃんのような無垢か顔で寝る白雪の頭を優しく撫でると、
「っ…ふにゃ……」
普段は絶対に発すること無い気の抜けた声を出した。俺がそれが少し面白くて、電車の中で少しだけ笑ってしまった。少ないならが乗って居る人の視線を感じたが、白雪の寝顔を見て直ぐに視線を戻した。
他人の心など読むことも理解することもできないが、顔の表情で理解出来ることもあった。それは、白雪を見た人達は少しだけ頬の筋肉が緩んでた。寝顔を見て俺と同じような気持ちを抱いたのだろう。
体は小さくても、大きな願いと強さを持っている白雪。ひとたび、戦闘になれば今のような女の子らしさが完全に消え、一人の召喚者に変る。今まで、何人も殺してきたであろう召喚者に変る。けれど、今だけは……。
「召喚者として戦っている時以外は女の子だ……」
時間にしてほんの十五分程度。俺は眠った白雪の頭を撫で続けていた。風のようにさらさらと透き通る髪は触り心地が良かった。
************
「白雪、着いたぞ」
白雪が眠っていたのは時間にして、十五分程度、仮眠にすら入らない時間だが、寝ないよりはマシだろう。肩に持たれている白雪の小さな肩を揺らし、声を掛ける。
「ずっと、寝てたら動物園にはいけないぞ」
その言葉で白雪は目を覚ました。目が棒のように細くなっているが、俺は乗り過ごさないように白雪を抱えるようにして、電車を降りる。少しだけ注目を浴びたが、仕方ないだろう。乗り過ごしたら時間的にも厳しくなる。
街からここまでは駅間隔が狭いが、ここから先は乗り過ごすと結構時間が掛かる。一駅を往復するだけで、街からここまでの時間経ってしまうので、乗り過ごす訳には行かないのだ。
「早く起きろ。じゃないと抱えていくぞ」
目を擦り、ふらふら歩いている姿は、少しだけ面白かったが、人の迷惑になるので、強引なやり方で起すことにした。俺の肩程度までしかない頭を少しだけ力を入れてチョップした。
「いた!」
大声を上げた白雪は涙目になりながら睨んでくる。頭を押さえているのが子供のようで微笑ましい。
「早く行くぞ。少しでも長く居たいだろ?」
新しく出来た動物園なので、ポスターなどが駅にも多く貼ってある。初めて来る人ように、動物園までの行きかたが書いてある掲示板や、地図を見ながら進んでいく。
「そうだけど、普通に起こしてくれてもいいじゃない」
「普通に起したけど、おきなかったからチョップしたんだよ」
街にある駅よりかなり小さい駅を出ると、そのまま道を進んだ。平日だけあって、人通りは少なく、車の通りも少ない。街に比べると田舎なこの場所は人口も多くないし、自然も多い。街中に木が生えていたり、花壇があったり……奥には大きな森があったりと、緑が多い場所だ。
田舎というのは、何もないイメージしかないが、こういう場所に久さに来ると、いいもんだと思う。住むには少し不便かもしれないが、遊びに来るならこういう場所もいい。
道を五分ほど進むと、動物園らしい動物が書いてある大きな看板が見えた。駅から少し歩いた場所にあるというのはかなり便利で、行こうと思えばいつでも来ることが出来る。
看板に近づくに連れて、白雪の歩く速度は早くなっていく。本人は気づいてる様子はないので、楽しみすぎて無意識に歩く速度が早くなっているのだろう。軽い駆け足のような速度だ。
看板には、ここから約五分歩くと入り口があると書いてある。道から少しそれは右に曲がり、動物園を目指す。平日なので、人はあまり多くない。けれど、新しく出来たということもあるのか、人が居ない訳でもない。
歩く道も綺麗に舗装されており、歩きやすい。何か別の建物を潰したり、あるいは何もない場所から作ったのだろう。
「海人、早く歩いて!」
周囲を見ながら歩いていると、白雪が走り出した。突然のことだったので、反応できなかったが、人と同じぐらいの速度なので、周りからは不振に思われない。なので、俺も白雪から離れないように走り、隣に並ぶ。
三分ほど走ると、動物園の入り口が見えてきた。黄色く、大きな門は新しく出来た場所のためとても綺麗だ。入り口から見ているだけだが、そこそこ大きな動物園なのだろう。
チケットを買い、動物園の中に入ると、白雪が目を輝かせていた。入り口近くには既に動物が居る。置いてあったパンフレットを開くと、奥に行くごとに大きな動物が居るらしい。
ここらか見える動物は、まだ小さい物ばかりだ。だが、それだけでも白雪は目を輝かせている。初めて動物園に来た小さな子供のようなはしゃぎぷりだ。
「閉店時間は八時か……さすがに閉店時間まで居ることは出来ないから、いく場所を決めてみて行こう。白雪は何が見たい?」
「海人見て!あれ、可愛い!!」
動物園を歩きながら聞いた俺の声は全く耳に入っていないようだった。左右に首を振り、ひたすらに動物を見ている。動物園ではメジャーは動物ばかりいるが、白雪からしたら楽しいのだろう。俺も白雪が喜んでいる姿を見るのは嬉しい。
いくさん居る動物を走りながら見ている白雪に、俺は頬を緩むのを押さえ切れなかった。普段、白雪は絶対にこんな姿を見せたりしないので、新鮮といえばいいのだろうか?言葉ではどういえばいいか分からないが、とにかく悪いことではなかった。
「白雪のためにきたんだし、あいつの好きに周らせてやるか」
動物は嫌いではないが、動物園に来る柄ではない。ここにきた理由も白雪が動物を見るのが好きそうだったので、来ただけだ。白雪が楽しんでくれればそれでいいので、俺は後ろをついていくことだけをする。
目に動物は片っ端から見ていく白雪だが、一つひとつに掛ける時間が長くない。なので、効率よく周るこが出来き、三十分ほどで、大型動物のコーナーにたどり着いた。
こそには熊や象。キリンやゴリラなどメジャーな生き物から、カバなども居る。驚いたのは、白豹が居たことだ。白豹は世界でも数百頭しか居ない動物だ。国内には数十頭しか居ない希少種で、動物園で見ることが出来る場所はほとんどない。
偶然、テレビで放送しているのを見ていたので覚えていた。インドの方面に生息している。
滅多に見ることが出来ない動物なので、俺は姿に引かれて白豹に近づく。虎と姿などは大きく変らないが、毛が白い。専門的な知識など一切持ち合わせていないので、これぐらいしか違いが分からないが、普段見ている虎とは違い、色が白いというだけでかなり見た目が変ってくる。
女の子が化粧をしているのとしている違いに似ている。色が白い白豹は普通とは印象が違う。化粧をしている女の子としていない女の子とでは印象がガラリ変る。
檻の前に書いてある説明を読んでいると、足音が聞こえてきた。振り返ると、白雪が走ってきている。
「海人、何見てるの?あっちに象とか色々居るわよ」
「こっちはかなり珍しいのを見つけたぞ」
その言葉に、首を傾げた白雪は、檻に視線を向けた。
「これって、白い虎?」
「ああ、世界にも数があまり多く無くて、珍しい動物だ。動物園で見れる場所なんてほとんどないぞ」
「へぇー、色が白い虎なのに……」
白雪は檻の中に居る白豹をまじまじと見る。檻に顔を近づけて見ているのは周りの人達に迷惑が掛かる。だが、真顔で見ている白雪だが、なぜか楽しそうに見えて止められなかった。
しばらく見ていると、足を折り曲げて床に寝そべっていた白豹が、ゆっくりと立ち上がった。そして、白雪の視線に気が付いたのか、こちらに顔を向けて、口を大きくあけた。その行動に周りの人達は少しだけ後ずさりをした。それほど、迫力がある光景だった。
「この虎、喧嘩売ってるのかしら」
「いや、それはないだろ……」
「ただの虎のくせに……」
そう呟いた白雪の言葉が理解出来たのか、白雪に向かって口をあけ、吠えた。さきほどよりも迫力がある光景に、周りに居る人達は小さいながら声を上げた。
「やっぱり喧嘩売ってる……」
「虎、虎言うから怒ったんじゃないのか?あいつらと一緒にするな!見たいな」
「色が違うだけで一緒じゃない。灰色の猫と白い猫の違いと変らないわ」
興味を失ったのか、あるいは見飽きたのかわからないが、檻から離れていく白雪。俺も、充分見たので白雪の後に続き、最後に後ろを振り返った。白豹はこちらにお尻を見せ、尻尾をフリフリと振っていた。白雪が言っていたように喧嘩を売っているのかもしれない。
それから、動物園を見回った白雪は、不意に空を見上げた。空はオレンジ色に染まり、白い雲がゆっくりと流れている。そろそろ、日が沈みそうなので、帰る準備をした方がいいだろう。
一応、学園には門限がある。行きと同じように越えて行けばいいが、保健室から急に居なくなったので、門限近くには部屋にいた方がいいだろう。
「そろそろ帰るか……」
隣を歩いてる白雪を見ながら言った。
「そうね、日が沈みそうだし頃合ね」
オレンジ色に染まる空の下、俺達は並んで、動物園を後にした。
************
電車に乗り、俺達が住んでいる街に戻ってきた。空はすっかり闇に染まり、オレンジ色をしていた空の面影も無い。だが、空には星が輝いている。街中であまり綺麗には見えないが、それでも充分光り輝いている。
空は暗いときがない。雲で覆われているときは別だが、それ以外は基本的に明るい。太陽に夕日。そして、日が沈むと星と、色々な明るさが空を染める。
駅から出ると、夕食を買うために再びショッピングモールに向かう。時刻は七時と、人が多い時刻だ。
仕事帰りの人達で覆われる街は、昼間とは交通量なども違う。駅にはたくさんの人が居て、電車の中も座ることが出来なかった。ショッピングモールに向かう中でも人の多さは充分実感できた。
十五分程度掛けて、ショッピングモールにたどり着いた俺達は、食材売り場に行く。だが、そこも人が多く、レジにはたくさんの人が並んでいる。
「今日は何食べたい?といっても、お惣菜とかお弁当を買っていく形になるけど……」
俺達二人は料理を全く作ることが出来ない。白雪はずっと、料理など作る機会が無かったため作れないし、俺は隣にはいつも、料理がうまい幼馴染が居たので、自分で何か作ろうとも思った事が無い。
お皿を運んだり、洗ったりできるぐらいで、出来て卵焼きを焼けるレベル。小学生と何も変らないレベルで何も出来ない。なので、自分達で作るという選択肢ははなから除外している。
「別に何でもいいわ……けど、これからコンビニ弁当や、お惣菜をずっと食べるのも体に良くないから、今回は自分達で作ってみましょ」
「…………」
「なんで、こいつ何言ってんの?見たいな目してるのよ」
「白雪は何か作れるか?」
「全く作れないわ」
「こいつ言ってんの?」
何も作れないのに自分達で作るとか意味がわからん。確かに体には良くないかもしれないが、少なくとも俺達が作る物よりは遥かに体にはいいだろう。下手をすれば毒が完成するかもしれない。
「何も出来ないけど、これから作れないと困るからやりましょ。手始めに、誰でもまずくはならないカレーライスにしましょ。勿論、レトルトは禁止」
「なぁ、カレーって言うのは誰もおいしく作れるからこそ、工夫が必要だって凜奈が言ってたぞ」
「普通に食べれる物ならいいのよ。別に、凜奈ほど美味しいのを作ろうとなんてはなから思ってないわ。だって、不可能だもの」
「確かに、あれは簡単出来る物ではないな。小さい頃から一生懸命練習してからな……」
母親に教えて貰ったり、自分で料理の本を買って勉強したり、近くで見てきたから分かる。並大抵の努力では凜奈のレベルにはならない。才能があっても無くても変化はなく、作っている数や経験が違いすぎる。
「なんでもいいからとりあえず、カレーにしましょ。具を買いにいきましょ」
人が多い食品売り場を、忍者のように人を避けて進む白雪を見失わないように、俺も進む。ここのショッピング売り場に来ることなどほとんどないので、商品がどこにあるのかわからない。
とりえあず、人並みを避けながら探していると、カレーには欠かすことの出来ないお肉売り場が目に留まった。今日は格安セールというものが実施されているらしく、いつもより値段が安い。
「たくさんお肉あるけど……海人はどれがいい?」
「どれでもいいんじゃないか?さすがにカレーに鶏肉は入れないから、安い豚肉でいいと思う」
「そうね、どうせ細かい味なんて私達には理解出来ないし……」
一番安いお肉を買うということに決定し、たくさんある豚肉かた一番安いのを持った。そして、次は野菜を探す。
人を避けながら進み、少し歩くと野菜コーナーが姿を見せた。そこには、普段良く見るようなメジャーな野菜ばかりおいてあり、数も多い。この中でカレーに使う野菜は少ないが、品揃えはかなり良いと分かる。
「海人は嫌いな食べ物とかあるの?」
「いや、特には無い。だから、基本的になんでも食べれる」
「私も大丈夫だわ。凜奈はカレーに何を入れていたの?」
凜奈のカレーは何度も食べたことがある。確か、初めてしっかりと自分で作った料理がカレーだったはずだ。その時はまだ、子供だったので味の違いなど今以上に理解出来なかった。
そんな、思い出のカレーを思い浮かべる。
「確か……にんじんに玉ねぎ。ジャガイモにお肉とメジャーだったと思う。隠し味に何か入れていたような気がするけど、さすがにそこまではわからん」
レトルトで食べるカレーとは格別だった。具はメジャーで普通のスーパーなどで売っている食材ばかりにも関わらず、美味しかった。味も深く、絶対に何かを入れていたはずだが、そこまでは聞いていない。ただ、物凄く美味しかったのは確かだ。
「普通ね。隠し味なんて凝ったことしたら失敗するから今回は普通に作りましょ。それでも、失敗す可能性があるわ……」
「ああ、そうだな。ルーと溶かして、普通に作るか」
近くにあったカゴに購入する食材を入れ、カレーのルーを買いに行く。ルーは直ぐに見つけることができ、急いでレジに並び、ショッピングモールを後にする。
時刻は七時半を回っている。門限は過ぎているので、学園の裏から誰にも見られないように中に入る。そして、寮監の目に映らない速度で移動し、寮の中にある部屋に戻ってきた。
急いで戻ってきたので、ショッピングモールから十分も経過していない。召喚者のことは忘れるということだったが、時間が時間なので、意味の無い場所で力を使った。
「お腹空いたな」
「ええ、だから早く作りましょ」
買ってきた食材を広げ、調理する準備をする。お互いに初心者なので、ほとんどわからないことばかりだ。
「あれ、包丁ってどこにあるの?」
「ここじゃないか?」
足元にある小さな扉を開けると、そこにはしょうゆなどの調味料がたくさん入っていた。備えが良いのか、非常用袋と書いてある袋があり、中には保存が利く食べ物と水が入っていた。
自分の部屋なのに、こんな物があるということ事態知らなかった。それだけ、凜奈に任せていたということなのだろう。
「包丁がないと出来ないわ。どうして海人が知らないのよ……」
「全部凜奈がやってたからな。俺はほとんど触ってない。ここに入学してきてから一度も包丁とか器具には触ってないと思う」
「じゃどうするのよ?野菜とか切れないわよ?」
「俺の〝魔女狩り〟か、白雪の〝三日月雷鎌(ライトニングムーン〟で……」
「この寮が真っ二つになるけど、それでもいいなら……」
結局、包丁の場所を探し出すだけでも二十分かかり、こんな俺達が普通のカレーを作れるはずも無く、味は凜奈に遠く及ばないところか、普通のカレーにも及ばないほどまずかった。
けれど、同時に美味しくもあった。いつもは作ってもらっている立場だったが、今回のは苦労して自分達で作った。だからなのか、味は美味しくないが、美味しかったのだ。
俺達は、今まで凜奈がしてくれていたことの大変さをもう一度確認することになった。




