二人で
召喚者の身体能力を無駄に使用した俺達二人は無事に学園から抜け出すことが出来た。一応、校門から出ることをせずに、人通りが少ない所を気配で探し、塀を乗り越えて外に出たのだ。
谷崎が展開したと思われる人払いの結界は、まだ展開されているので、保健室に先生などが来て、抜け出したことが見つかる心配はない。だが、谷崎が俺達が……白雪が急に決めた街に行くということを知る訳もなく、いつ解除されても可笑しくないので、見つかる可能性は高い。
別に見つかっても問題はないのだが、先生達に色々問い詰められるのが少しめんどくさい。急に学園に来て、周囲の声が届かないほど可笑しくなって、そして、学園から抜け出すなど、学園側からしても何を考えているの理解に苦しむだろう。
倒れたとはいえ、黙って学園を抜け出せば、それは立派な授業放棄になる。俺が通っている学園は進学校なので、勿論、こんなことをする生徒などは決していない。学園始まっての問題になるだろう。
季節は夏から変って十月を迎えている。十月というのは学園で最も大切な時期だ。二学期は、一学期と三学期に比べると学園に来る回数が多い。なので、授業の成績割り振りも高くなる。
谷崎に言われたとおり、俺はあまり頭が良くないので、一度の休みでも成績に影響を及ぼす。〝みんなが笑顔で居れる世界〟を創りたいと願っている俺だが、学園は卒業したい。
俺のために一生懸命勉強を見てくれた凜奈や、留年させないように頑張ってくれた水瀬先生のためにも俺は卒業したいのだ。
「どうしたの?何か考えている顔してるけど……」
「いや、別に対したことじゃない」
周りには木が多く、ほとんど人通りが無い。車も通らないので、まるで世界に二人だけかのような錯覚を覚えるほどに静かな時間。俺達は並んで歩きながら会話を続ける。
「まさか、召喚者のこと?」
ほとんど人通りが少ないとはいえ、万が一という可能性があるため、耳元で言ってくる白雪。甘い香りに心臓が早く動くが、ひとまず距離を取り、話を続ける。
「違うよ。もし、召喚者のことなら白雪に相談している」
「それじゃ、一体何を考えて……」
そこで、白雪の顔が急に悲しそうな顔に変化した。表情も暗くなり、俺は直ぐに白雪が何を想像したのか理解した。たぶん、凜奈のことだろう。
「別に凜奈は関係ないぞ?ただ、卒業出来るかどうか心配になっただけだ。まだ、二年だけど、一年なんて本当、直ぐに過ぎるしな」
戦争の勝者となり、〝みんなが笑顔で居れる世界〟を創れるかはまだ分からない。もしかすると、望む世界にが学園がないかもしれない。〝呪縛歌〟の夢の中ではあったが、あれが本当にそのまま世界になるかは勝者になり、願いを叶えなければいけない。だが、色々頑張ってくれたみんなのために卒業はしたいのだ。
〝そんなくだらないことを考えていたのか……戦争の勝者になれば、いくらでも後の事は決まる。ほとんどの人間は召喚者という人種が居ることすらも知らないが、一部の人間は知っている。そういう人間から進路関係では連絡が来るはずだ。誰しも、武器になる者を欲しがる。情報にしろ金にしろ、優秀な人材にしろそうだ。そして、召喚者は一番の武器になる。もし勝者になれば悩むほどの未来が待っている〟
「心を読めるから言わなくてもわかると思うけど、別にそういうことは……って、サクか、久々だな!」
サクの声を聞いたのはいつ以来だろう。初めの方は良く話しかけてきてくれたにも関わらず、最近は一切出てこなくなった。俺から語りかけても一切返事をしないので、少しだけ心配になっていたのだ。
〝魔女狩り〟という武器に宿る意識みたいな存在であるサクが、風邪で、怪我でどうにかなることは一切ないはずだが、今まで普通に出てきていたのに、急に出てこなくなると心配する。
〝そうだな。俺も色々と忙しいからな。だが、俺達はずっと傍に居る。〝三日月雷鎌に宿っているローだって同じだ。出てこないかもしれないがずっとだ。相棒が〝魔女狩り〟である限りずっとだ。だから、心配なんてしている暇があれば強くなれ。今以上に強くだ。〝呪縛歌〟との戦いで見せたあれよりももっと強く〟
サクの言葉からは何か色々な物が伝わってくる感覚がある。サクのことは大概理解出来る……心が繋がっているので理解出来るはずなのだが、何か細工をしてるのか本音を見ることが出来ない。だが、決して冗談ではないことは理解出来る。
強くなれ、という言葉を力強く言っているのもきっと理由があるはずだ。久々に出てきたにも関わらず、〝呪縛歌〟のことも知っているということは昨日までの俺の状態も全て見ていたのだろう。近くに居るという言葉は決して嘘ではない。
だから、俺ももう一度心に決める。覚悟を決めたと勘違いしていた俺だが、もう一度心に決める。今度は決して勘違いで終わらないようにもう一度心に決めるのだ。誰よりも強くなると。
〝ふっ、大丈夫そうだな。相棒は絶対に強くなる。俺が保障する。だから今日はデートを頑張れ!女の子を扱う時は大切にだ。そして、一人よがりな行為は絶対にするなよ。相棒も白雪も初めてなんだから〟
「なっ、何言ってるんだよ!するわけないだろ!!」
サクが何を言っているのか理解出来た俺は思わず大声で叫んでしまった。人通りが少ないといっても、流石に大声で叫ぶと不振に思われるので、周囲に気配がない事を確認すると、白雪の方を見た。
そして、頬が赤くなるのを感じる。叫んだにも関わらず、普通に前を見て歩いているのは誰と会話をしているのか理解している証拠だろう。それは、約束相手とは違うもう一人の相棒と会話をしているということを。
だが、こう見ると、白雪は本当に可愛い。今まで、ずっと戦争参加者と殺し合いなどをしていて、じっくり考える暇がなかったが、正面から見ても、横からみても可愛い。凜奈はどちらかと綺麗よりだったが、白雪は顔立ちが幼く、可愛らしい。
出合った当初から少しだけ伸びた白く、綺麗な髪に、白雪という名前にお似合いな雪のように繊細で、綺麗な肌。。全てが白雪という強く、可愛い女の子を構成していて……。
そこで、俺は首を大きく左右に振る。サクが言った言葉のせいで、普段考えないようなことを考えてしまった。きっと、さっき考えていたことはサクにも知られているだろう。
「どうしたの?私の方をずっと見て……それに。急に首を左右に振り出て……何かあったの?」
「い、いや。何もない……」
顔に熱が集まっているのを自覚した俺はすぐさま白雪から視線を逸らす。人の気配がない通りで二人っきり。先ほどのサクの言葉がもう一度頭に流れてきて……もう一度大きく首を振る。
「……ついに、頭が可笑しくなった?」
「そんな訳ないだろ……白雪には関係ないことだ」
さすがに、先ほど考えてたことを本人に言うなど羞恥でしかないので、言わない。たぶん、一生言うことはないだろう。
「そう、わかった」
興味がないのか、何かを察したのかは理解出来ないが、深くは聞いてこない白雪に少しだけホットしながら前に進む。街が近づいてくるにつれて、人の気配が増え、一分程度で大勢の人の姿を目に入った。
さきほどの二人の世界は壊れ、他の音も耳に入るようになった頃、不意に声が耳に入った。
〝守りたい人を見つけただろ?だったらいつまでも、くだらない願いに縋るなんてやめろ。こんなにも近くに、失いたくない、ずっと一緒に居たい、守りたいという存在がある。だったら、何のために戦うかなど相棒なら理解出来るだろ?〝みんなが笑顔で居れる世界〟なんていう心底くだらな願いなど捨てろ。お前のやることは、戦う理由は傍にあるだろ〟
「……?何か言ったかサク?心に直接話しかけてこなかったから周りの音で全然聞こえなかった」
だが、その問いかけにはサクは全く反応しなかった。そして、ゆっくり歩いてきた俺達は街に到着した。
***************
時刻は昼頃。平日ということもあって、人と通りはいつもより少ないが、それでも込み合っている。昼頃という事実もあり、スーツを着ている人が多く居るので、仕事をしている人達の休憩時間なのかもしれない。
勿論、まだ、学園に行っている時間なので、制服で歩いている人は一人も居ない。周りから完全に浮いている状態だが、そんなことを気にするほど、周囲に気をつける白雪ではないので、浮いているという事実に気が付いていないかのように平然としている。
まだ、学園に居る時間に街に居るということは、サボりだということは簡単に分かってしまう。警察などに見つかると、声を掛けられたりする可能性があるため注意をしておかないと、めんどくさいことになる。
広場から十分程度歩くと、街で一番大きなショッピングモールが見えてきた。街に住んでいる人達は基本的にこの場所で買い物をすることが多い。安いという利点もあるが、何よりもたくさんの物があるという点がいい。
東京などの都会に比べると規模は小さいかもしれないが、この周囲では一番大きなショッピングモールなのだ。この場所に来れば、食材だけではなく、家具や食器は勿論のこと、化粧品など様々の物が置いてある。
何百人収納することが出来るフードコートや、この街には少ないゲームセンター。電気系統もかなりの品揃えがあり、必要な物は全て揃う。最近は着ていなかったが、小さい頃は良く来ていた。凜奈も買い物を良くしていた。
「ここに来るのはローネ以来ね……」
「ああ、懐かしいな……まだ、俺達が今よりもずっと弱かった。ただ、願いを叶えたいという気持ちだけが先を行っている状態だった頃だ」
今でも俺達は弱い。このままでは戦争の勝者になることは出来ないだろう。だが、ローネと出合った頃に比べるとかなり強くなった。それは、実力だけではなく、精神……心のほうも強くなった。
「英雄は強かったわ。でも、今なら二人で掛かれば倒せると思うわ」
「勝てるよ。俺達は絶対に負けない」
居なくなった凜奈のためにも勝者にならなくてはならない。だから、もっと強くなる必要がある。強くなったとはいえ、今のままではダメだ。
「って、ダメね。今日だけは戦争の事を考えずに過ごしましょ!なんて、言っても休みなんだから!!」
「そうだな……足たら忙しくなる。だから今日ぐらいは何も考えずに居よう」
ゆっくり歩きながら話す俺と白雪。二人で居るといつも戦争の方向に話しが向いていく。これは、心の中で既に日常はないということを理解しているということだろうか?それとも、白雪と出会ってからの時間が濃いいのだろうか?それは、俺には判断することは出来ないが、きっと、後者だろう。
ショッピングモールの入り口を抜けると、そこには以前来た時と変らぬ光景が広がった。明るい色をした壁に電灯の光。ゆっくりとした音楽が流れる店内は活気で賑わっていた。
天井は高く、広い。時間帯が昼頃なので、サラリーマンと小さな子供を連れている母親の姿が多く見られた。勿論、制服を着ているのは俺達だけだ。
「なんとなく、ここに来たけど、どこか行きたいお店とかあるか?」
ここはかなり大きいので、端から端まで見るとなるとかなりの時間が掛かってしまう。別に、気になったお店を見ていくという感じでも問題ないが、決めた方が効率はいいだろう。
「逆に聞くけど、私が行きたいお店があるように見える?」
「…………」
俺の目には全くあるようには見えない。普通の女の子であれば洋服とかを見に行ったりすんだろうが、白雪に限ってそれはない。今まで服装を気に掛けるほどの平和な生活を送れていない白雪は、普通の女の子とは違う。
見た目は可愛い女の子なのは違いないのだが、服に関して言えば、動きやすさを重視するタイプだろう。男子で言うとずっとシャージを着ているようなタイプだ。
「海人は行きたいお店ないの?何か幼児があったからここに来たんじゃ……」
「この街で色々ある場所って言ったらここしかないから……別に幼児があった訳ではない」
周囲が賑わっている中、俺達二人の間に冷たい風が流れた。まるで、時が止まったような感覚。間違いなく、気まずさという空気だろう。
「どうして、ここに来たのか理解出来ないわ。てっきり、何か用事があるものだと思ってた」
「実を言うと全く無い。行く場所がここしか浮んでこなかった」
再び冷たい風が……と思ったらぐるるという可愛らしい音が響いた。周りを歩いていていた人にも聞こえたらしく、俺達の方を見ながら通りすぎていく。
「さっきの……」
隣に居る白雪に目を向けると、少し赤い顔で、お腹を両手で抱えていた。さきほどの無表情とは違い、恥ずかしそうにしている顔はさらに可愛く、俺は少しの間見惚れてしまった。普段の白雪も可愛いが、こういう女の子らしい表情になると余計に可愛く見える。
単に照れているというだけなのに、何故か白雪を見ていると鼓動が少しだけ早くなる。少し前から俺の中で起こった変化。それは、白雪が強いパートナーだけではなく、可愛い女の子としてみてしまうとうことだ。
一体、何が理由かは俺には分からない。体験がないので、頭が答えを出していないのだ。感覚的に言えば、公式を習っていない数学をしているような感覚、なんとなく理解出来るけどわからないという状態なのだ。
「お昼少しだけ過ぎているし、とりあえず、フードコートに行こうか?俺もお腹空いてるし……」
「うん……私もお腹空いてるから何か食べたい……」
頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに視線を逸らす白雪は、フードコートがある方向に向かって歩き出す。前に来た時のことを覚えているのだろう。エスカレーターで二階に上がり、フードコートたどり着くと、開いている席を探す。
だが、前回と同じように昼食時なので、開いている席は無い。全席埋まっているので、とりあえず待たなくてはいけないのだが、隣に居る白雪はお腹が空き過ぎているので、我慢できない様子だ。
席が空いていないにも関わらず、安くてボリュームがあるヤックの列に並ぶ。国民的ハンバーガーショップであるヤックは全国にある。どこの店舗で頼んでも大体同じ味が出てくるのではずれがない。
特にお金が無い中学生や高校生の間で人気で、学校帰りに小腹が空いたりすると寄ることが多いお店。夕食には向かないので、昼食として食べることが多いヤックには人が多い。
注文するまで、十分程度は時間が掛かりそうなので、並んでいたら席が空く可能性がある。俺も白雪の後ろに並ぼうかと思ったが、白雪に注文を頼んで、俺は席の確保をするほうが効率がいいということに気が付いた。
「白雪、俺は席の確保してくるから、注文頼んで言いか?」
「わかったわ。何がいい?」
「白雪と同じ物でいいよ。はい、持ってると思うけどお金」
白雪の分を出すつもりで二千円渡すと俺は席を確保するために、フードコートを見渡す。こんな所で使うのは正直、あれなのだが、召喚者としての感覚を研ぎ澄まし、空きそうな席を探す。
食べ終り、話をしている席の声を聞き取り、もう直ぐ空きそうだと判断した席に近づいていく。そして、空くまで近くで待っていると、席が空いたので、俺は直ぐに席に座り、確保した。
荷物があれば置いて場所取りするのだが、生憎荷物がないので座って待つ以外の方法がない。なので、白雪を待っていると、視線の先に白雪が歩いているのが目に入った。
まだ、少しだけ離れているが、ボードを両手で持った白雪が歩いている姿が見える。俺の気配を探り、近づいているのが理解出来る。安心して待っていると急に立ち止まった。
「一体どうしたんだ?」
俺は再び感覚を研ぎ澄まし、白雪が居るほうに感覚を向ける。すると、白雪は誰かに話しかけられていることがわかった。白雪が向いている方に視線を向けると、そこには柄の悪い男が二人立っていた。
どうやら声を掛けられた見たいだ。だが、普通の人間の言葉を気にする白雪ではない。言葉を発すことなく、無言で俺の方に向かってくる。だが、男達は諦めずに白雪の後を追うが……追いつかない。
よほど、お腹が空いているのか、少し早歩きになっている。そして、柄の悪い男達との距離を開けたまま、俺が座っている席に到着した。そして、ボードを机に置き、椅子に座る。
「同じの買ってきたわ」
「ありがと。それで、話しかけられていたけど大丈夫か?後ろから追ってきているぞ」
「大丈夫よ。なんか、一緒に楽しい事しようとか色々言われたけど、無視したし」
「普通に断ったらいいのに……」
「わ、私、お腹が空いているの。だから早く食べたい」
それだけ言うと包みからハンバーガーを出し、小さな口で食べ始めたのと同時に、白雪に話しかけていた柄の悪い男二人が隣になった。両方とも金髪で、服装は良く分からない言葉が書いてある服に、だらしなく下がったジーパン。手には髑髏が描いてある銀の指輪をしている。二十代前半だろう。
「ねー。無視するなんてひどいじゃん。俺達と遊ぼうよ。退屈させないから、ね?」
上辺だけの笑顔を向けてくる男に白雪はまるで反応を示さない。ただ、ひたすらにハンバーガーを食べ続ける。本当にお腹が空いてたんだな……。
「ねぇ?さっきからどうして無視するの??俺達話しかけてるよね?可愛いからって調子乗ってない?」
もう一人の方が、無視する白雪に怒りを覚えたらしく、口調が少しだけ荒くなった。だが、それすらも気にしない白雪は食べ終わったハンバーガーの包みを綺麗に折っている。そして、セットに付いているポテトを食べ始める。
フードコートには人が多いため、周囲から注目を受けている。だが、面倒ごとに一々突っ込んでくる人など存在せず、黙って様子を窺っている。もし、自分達がこの男二人に何かされるのが嫌なのだろう。
「本気でキレるよ?さっきから、食べてばっかで。耳聞こえてるでしょ?話し掛けたときこっち向いたもんね?」
だが、無視をする。いや、白雪には無視をしているという感覚はないだろう。勝手に一人で話しをしているという感覚に近いはずだ。一人事にいちいち反応しないのと同じだ。
「おい、いい加減にしろよ?」
今まで口調は荒くなっても手を出さなかった男が、ついに痺れを切らしたのか、白雪に右手を伸ばした。白雪もそのことは分かっているはずだ。普通の人間の動きなど召喚者である俺達には止まって見える。いつでも反応できるからこそ、反応を示さない。何かしたら、この場に居る人にばれないように殺すことだって簡単に出来るから。だが、俺はそれを理解していながらも、止めた。男が白雪に伸ばしていた手を。
「おい、なんだこの手は?今までずっと黙っていると思ったら、ここに来て彼女にいいところ見せようってか?」
「そんなことないけど……白雪に触るな。この子はお前みたいな奴が触れていい子じゃない」
俺の言葉に驚いた顔をする白雪が視線に入った。ほんの少しだけ顔が赤く染まってる。
初めて食べるのを止めた白雪は、男二人のほうに向き、口を開いた。
「ごめんだけど……あんた達見たいな奴と一緒に居る時間はないわ。今は、海人と一緒に居るの。だから諦めて」
掴んでいた男の手を離し、二人の男を見据える。顔は力んでおり、怒っているのが誰の目にも分かる。だが、怒った所で変りはない。白雪と出会う人間だった頃ならば、少しは恐怖を覚えたかもしれないが、今の俺には何も感じない。
なぜなら、何をしてもどうしても俺達には絶対に勝てないから。こういう柄を悪い奴たちは、喧嘩が好きなのだだろう。だが、同時に自分より強い者を見極める能力も優れている。だからこそ、あまり怪我はせずに、勝てない喧嘩はしない。
「ちっ、わかったよ」
そういいがら、後ろを向いて離れている男二人。それを見て周りの人達も安心したのか、俺達から視線を逸らし、食事に戻る。そして、俺も白雪と同じハンバーガーの包みを空け、口いっぱいにほうばる。
「絶対に当たらなかったけど……ありがとうね、海人。嬉しかったよ」
頬を赤くして言う白雪を見れただけでも、らしくないことをして良かったと心の底から思った。
**********
昼食が終り、フードコートから出ると、俺達は適当に歩くことになった。ショッピングモールは三階建てなので、全てを回ることは難しいが、気なるお店を見つけて入るということであれば、回ることが出来る。
だが、白雪も俺も特に買い物がないので、三階と二階はすぐに見終わってしまった。一階に向かうエスカレーターで、ローネを案内する時に来たことがある
ペットショップが目に入いった。
白雪も同様に目に入ったのかずっと凝視している。そいうえば、前回もパンフレットに載ってたペットショップを凝視していた記憶がある。服などにはまるで興味がないのに、動物には興味があるのだ。
「前回も行ったけど、ペットショップ行くか?気になってるみたいだし」
「そうね。海人が行きたいなら行きましょう。私は別に興味ないし……」
「はいはい。それならペットショップに行こうか。見るだけなら無料だし」
エスカレーターで一階のたどり着くと、早歩きで白雪が歩いていく。フードコートで、お腹が空いている時と同じぐらいの速度だ。興味がないと、恥ずかしいからか口ではそういっているが、早く行きたいということが丸分かりだった。
一階の一番奥にあるペットショップ。前回来たときと置いてある物の場所などが変っているが、明るく、可愛らしい内装をしている。犬や猫の置物や、動物着るようの服。エサや様々な道具、など動物以外にも色々置いてある。
勿論、犬や猫といったメジャーな動物から、テレビなどでしか見ることの出来ない少し珍しい動物。名前が分からないような動物など様々な種類の動物が売られている。
動物に直接触ることなどは出来ないが、檻や籠に入っている動物を近くで見ることが出来るため、白雪も無表情だが、様々な動物を見ている。人はあまり多くないので、俺は白雪が満足するまで待ってやることにした。
少し待っていると、ふと、壁に貼ってあるポスターが目に入った。そこには、この街から三駅ほど先にある場所に、新しく動物園が出来たというポスターだった。敷地も大きいらしく、ポスターを見ている限りでは様々な動物が居そうだった。
「おい、白雪!こっちこいよ!」
ガラスに顔をくっつけて動物を見ていた白雪は、俺の声で直ぐに近づいてくる。
「まだ、時間あるし、ここに行って見ないか?」
壁に貼ってあるポスターを指差して言う。白雪もポスターを見ると目を輝かせた。やっぱり、動物が好きなのだろう。覚えておこう。
「行く、行くわ」
「わかった。それじゃ、行くか。帰って来る時間とかもあるし、あんまり長く居ることが出来ないかもしれないが……」
と、言う俺を置いていき、ペットショップを早歩きで出て行く白雪の後を追った。
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