片鱗
駆け寄った俺だが、誰もが見ても結果は明らかだった。
控えめに言ってもそれは人ではなかった。誰がどう見てもそれは人ではなかった。遠目で見ても理解出来る事実だが、近くで目にすると、それはさらに現実味を増していく。
辛うじて首と胴体が繋がっている人。全身が赤く血で赤く染まり、顔の表情すらも見えないほどに真っ赤に染まり、呼吸をしている様子はなく、全く体が動かない。それは人だった者の姿だ。
「凜奈……」
目の前にある人の姿をした者が、凜奈だという現実を受け止めることが出来ない。先ほど……ほんの一分前まではいつもの凜奈の姿だった者が、一分間という中で人形のようになった凜奈を受け止めることが出来なかった。
あまりにも現実離れした姿に変化していた。
召喚者などという存在自体も現実離れした存在なのだが、それでも俺は受け止めることが出来た。そういう人間とは違う存在が居るのだと……人間よりも遥かに強力な人が居るのだと、受け止めることが出来た。そして、受け止めた上で、俺は人間をやめて、召喚者として、願いを叶えるということを決意した。だからこそ今の俺が居る。
しかし、凜奈がこのような姿に変化したということは受け止めることが出来ない。事故などで、人間が可笑しな方向に曲がるというのはさほど多くはないだろうが、実際に起こることだ。だが、現実でも理解出来ない召喚者を受け止めることが出来たにも関わらず、今の状況は理解出来る物ではなかった。
俺達は召喚者として願いを叶えるために、他の召喚者と戦うことを決めた。初めは殺すつもりなど無かったが、いつのまにかそんな甘えは通用しないという事実を知った。だから、相手を殺すすもりでいつも戦闘してきた。
自分達も命を掛けて戦っているという自覚はあった。いつ、殺されても可笑しくない戦いだと思い、そして、想ってきたからこそ、色々なことをして強くなろうとした。
俺は殺される覚悟をしていたはずだった。相手と命を掛けて戦うのであれば、殺されても可笑しくはないと理解はしていた。だが、今、その覚悟は一瞬にして消え去った。
「おい、凜奈……」
願いを叶えるために、俺は戦争という命を掛けた戦いに参戦していたのだ。それは、他の参加者も同じで、自分の願いを叶えたいという想いを糧に、命を掛けて戦ってきたのだ。
その結果、俺達は自分達もの合わせて三つの魔術蒼石を所持している。二つは召喚者と戦い、そして打ち破ってきたからこそ持っているのだ。そして、今、〝呪縛歌〟も同じようにした。今までしてきた俺達と同じように、自分の願いをかけて、敵である俺達を殺そうとして魔法を発動させた。
そして、凜奈は死んだ。幼馴染でいつも隣に居た凜奈は、目の前に、血だらけで倒れている。俺はそれを受け入れることが出来ない。許すことが出来ない。今まで、俺もしてきたというのにだ……。殺す覚悟、殺される覚悟をしたと想っていたつもりだっただけで、実際は全くしてはいなかった。今、そのことが明らかになった。
「しっかりしろよ凜奈……」
血だかけで倒れている凜奈の肩を揺すった……だが、反応はない。体は、全く動かずに、体温は水のように冷たくなっている。
「なぁ……目を覚ましてくれよ……」
何度も肩を揺する。手には大量の血がついており、ねっとりとしている。強く、何度も何度も何度も何度も肩を揺する。揺すった反動で血が俺にも飛び散ってくるが、そんなことを気にしている暇などなかった。
受け止めることが出来ない。頭では何度呼びかけても、何度、肩を揺すっても、返事を返すことはなく、目を覚ますことはないと理解してるのだが、受け止めることが出来ずに、何度も呼びかける。まるで、迷子になった子供が母親を呼んでいるかのような、小さい声で何度も呼びかける。
だが、一分程度経過しても凜奈は同じだった。目を覚ますことはなく、言葉を発することもない。体は手、足がなく、お腹には大きな穴が空いており、倒れている地面が見える。首も半分程度は胴と繋がっているが、半分は繋がっていない。少しの衝撃で、取れてしまいそうな状態。
そんな状態で声を発することなど、そんな状態で目を開けることなど、出来る訳がないことなど理解している。たとえ、人間より強度な召喚者でも、ここまで来るとどうすることも出来ない。治癒できる能力があるとしても、これはどうにもならないだろう。
しかし、受け止めることが出来ない。ずっと隣に居た幼馴染である凜奈が死んだことなど、すんなり受け止めることなど出来る訳がない。そんなに短い付き合いでもなければ、どうでもいい存在でもないのだ。そんな存在の死を受け止めることなど容易に出来ることではない。
「海人……」
白雪が悲しそうな声で呟くのが聞こえた。だが、今はそんなことを気にしている余裕など俺にはなかった。ただ、目の前の出来事が夢であるようにと祈ることで精一杯だった。
「凜奈!頼むから!!!」
まるですがるように体を抱きしめる。全身に血が付くが、今の俺は気になど全くしない。これは他ならぬ凜奈の血で、凜奈が先ほどまで生きていた証なのだから。生暖かい血がそれを何よりと証明している。
「哀れだ……殺しておきながら殺される覚悟をしていなかったなど……それに、死んでいるという現実を受け止めることを拒むなど……哀れで仕方が無い。今までお前達は一体何をしてきたんだ??これと同じことをしてきていたのだ!」
「うるさい!!そんなこと理解している!!けど、理解しているからといって!悲しくなくなる訳ではないだろ!!そんな簡単に受け止めることなんてできる訳ないだろ!!」
「だったら、いつまでも死体にしがみついているか??悲しいからと、受け止めることが出来ないからと、やるべきことを見失い、目標までも捨てて、死体と共に死んでいくか!?」
〝呪縛歌〟は殺した側だというのに、感情を表に表している。そして、まるで、自分を見ているかのような目で俺を見ている。彼女も過去に何かあったのだろう。でなければ、そのような目をすることなど出来ないからだ。だが……しかし、関係ない。そんなこと関係ない。今はただ、現実逃避がしたい。この現実からいち早くも逃げ出したい。
「海人……」
再び白雪が名前を呼んだが、俺はそれを無視する。反応してしまうと、もう、現実逃避することが出来なくなってしまう。なぜなら、白雪は既に現実を見ているからだ。
「海人……泣いても叫んでも……現実逃避しても凜奈は戻ってこないよ……凜奈は死んだ……」
「うるさい!!!!!黙れよ!!!!!!」
俺は後ろに立っている白雪を睨むように見る。その瞳には、今まで戦ってきた召喚者に向けた目。殺意をこめた目で、白雪を睨んだ。
「っ!」
一瞬だけだが、白雪は怯んだように見えた。そして、〝約束〟を結んだパートナーに、殺意を込められるなど想ってもいなかったのだろう、少しだけ驚きも入っていた。
「そんなこと、一番理解してるんだよ……」
瞳からは、大量の涙が流れる。今まで泣いたことなど滅多に無かった俺だが、今ばかりは涙が止まらない。いつも、隣に居た凜奈との思い出のように涙が溢れてくるのだ。
「だったら……やることは決まってるでしょ??」
白雪の瞳からは一切涙が流れない。最近仲良くしていたのに、白雪は泣く事すらしないのだ。薄情で、冷たい奴だと想うかもしれない、実際は俺も心の中では想っているかもしれない。けど、違うということも理解出来る。
白雪はとっくの昔に覚悟していたのだ。今まで……俺と出会う前にも何人もの召喚者を殺してきたのだろう。そして、殺すということはいつか、自分も殺される可能性があるということと、戦争に参加して、俺と凜奈が、殺されてしまう可能性があるという覚悟が。
そして理解しているのだ。いくら涙を流しても、いくら後悔しても、いくら叫んでも大切な人……失った人は消して戻ってくることはないことを。それは、大切な人を失ったことがある者だけが理解出来る事。平和に暮らしてきた俺とは違い、過酷に生きてきた凜奈は全てを覚悟していた。言葉だけの俺とは違い、全てを理解して、そして戦争に参加していたのだ。
「けど、凜奈が……」
しかし、俺は白雪とは違う。今まで覚悟してきたと想っていたが、実際はそうでは無かったと発覚した。平和に生きてきた俺には、大切な人を奪われる悲しみや辛さ。殺される覚悟も殺す覚悟も一切出来ていなかったのだ。
ただ、自分の願いを叶えたいという欲望だけで、動いてきたのが俺なのだ。
「芸術は爆発。我はそれを理解している。だが、理解していながらも、それを否定する。しかし、否定してなお、それに魅せられた者の望みは爆発。私も、またその一人」
〝呪縛歌〟が歌を発しているのが耳に聞こえた。しかし、今は行動する気にもならなかった。ただ、凜奈の死体を守らなくては……これ以上、無惨な姿にしたくはないという思いだけで、凜奈を強く抱きかかえた。
「海人!!力を入れて!!!!!」
白雪が大声を上げると同時に、俺は無意識に全身に力を入れていた。それと同時に、強烈な衝撃が襲った。
「あっ!」
後ろから白雪に蹴られたのだと瞬時に判断は出来たが、衝撃で手放した凜奈の体は掴むことは出来なかった。急いで手を伸ばそうとしたが、俺はそこで異変に気が付く。
凜奈の体が、血の赤色だけではなく、黄色が混じったような光を放出していたのだ。
「一体何が……」
俺は理解出来ない現象に、腑抜けた声が出てしまう。だが、その瞬間、俺の目には受け止めたくない現実待っていた。見たくない、決して見たくはなかった光景が流れる。
「海人!伏せて!!!!」
白雪が叫ぶと同時に、凜奈の体はさらに強い光を放出した。そして、光は一瞬で姿を消し、巨大な騒音と共に、火の粉が飛び散り、俺は呆然と立ち尽くす。
熱い、熱い。初めの感想は熱いというだけだった。だが、瞬時に自分がどの状況に置かれているのかを理解し、俺は周囲を見渡すと、そこは火の海に変化していた。
いきなり火の海に変化した駅前で、俺は呆然と立ち尽くす。どうして、凜奈の体が光を放出していたのかを理解したからだ。そして、〝呪縛歌〟が、歌を歌った理由も同時に理解した。
「いつまで死体にしがみついている。いつまで、悲しみにくれている!本気を出せ!腑抜けた〝魔女狩り〟を殺して、魔術蒼石を手に入れても意味はない!!」
〝呪縛歌〟に声は、呆然としている意識の中でも明確に聞こえていた。たが、聞こえているというだけで、頭の中には入ってくることはなく、右から左へと流れていくような感覚だった。
俺は呆然と見つめる。先ほどまで凜奈の体があった場所は、火の海に変化している。それは、紛れもなく、〝呪縛歌〟が歌ったために起こった爆発だろう。この目の前に居る召喚者は、俺の大切な幼馴染を爆弾として使ったのだ。
「海人!!大丈夫!?しっかりしなさい!敵は目の前に居るのよ!!!!」
「………………」
頭の中が除々に真っ白になっていくのと同時に神経が研ぎ澄まされていく。そして、体の底からまるで火が吹き出てくるのではなかと勘違いするほどに熱と殺意が沸きあがってくる。
今までに感じたことのない、ドス黒い感情が、体を支配していく感覚に襲われる。それは、まさしく、殺意、憎しみ、恨みという不の感情だけが体を支配していくのと同じ状況だった。
ただ、目の前の存在にこの黒い感情をぶつけたいという想いと、このままではいけないという想いが、心の中でぶつかり合っている。まるで、天使と悪魔が体の中で喧嘩をしている状態のようにも感じる。
ふと、浮びあがってくるのは、凜奈と出合った時のこと。家が近かったため、小さい頃からずっと一緒に居た凜奈と、初めて出会った日のこと。それは俺の人生の中で最も大切な出来事だったと言っても可笑しくないほどの出来事。
大勢居る人の中で凜奈と出会えたことは奇跡に近いと確信している。ずっと近くに居てくれて、落ち込んだ時は困っている時は直ぐに助けてくれてた存在である凜奈。何があってもずっと隣で笑顔だった凜奈に何度助けて貰ったかなど数えることは出来ない。
俺の人生の中で、一番長い時を一緒に居る凜奈は、家族のような存在で、兄弟のようにお互いのことを理解していたと思っている。そんな、相手との出会いを奇跡といわずになんと言えばいいかなど、俺には言葉に出来ない。
凜奈の笑顔が頭に浮ぶ。真っ白だった頭に少しだけ色付いていくような感覚。ずっと、一緒に入れると信じて病まなかった相手。家族のように大切で好きだった凜奈の笑顔が浮ぶ。
だが…………。
「もういい…………たかが、一人の身内の死で腐る召喚者など必要ない。殺す……」
その言葉が聞こえたのと同時に、頭の中に浮んでいた凜奈の笑顔が真っ赤な血で染まる。手、足、お腹に穴が空いたて、全く反応しない凜奈に変化する。笑顔だった凜奈はそこには居なかった。
その瞬間、俺の天使の悪魔の喧嘩は、悪魔が勝利した。
「たかが、一人の……身内だと……??」
発した言葉は、今までに発したことが無いほど、低く、黒い声だった。
俺は俯いていた顔を上げ、〝呪縛歌〟を睨むように見据える。ただ、それだけなのに、〝呪縛歌〟は咄嗟に距離を取り、戦闘態勢に入る。それだけ瞳に込められた殺気は異常だったのだろう。
「本当に大切だったんだ……家族見たいな存在で、出会えたことに感謝してもしたりないほどに……大切な存在だったんだ」
俺はゆっくりと立ち上げる。ふらふらとまるで、ゾンビが歩くような姿で立ち上がる。だが、決して、〝呪縛歌〟から視線を逸らすことはせず、殺気をこめながら立ち上がる。
「海……人?」
白雪の声に驚きと恐怖が混じったように感じられる。今、発している殺気は、睨んでいる〝呪縛歌〟だけではなく、後ろに居る白雪までも感じているのだろう。だからこそ恐怖している。今までに感じたことのない殺気だったからだろう。
だが、今は周囲のことに気を使っている余裕は無かった。〝約束〟を結んだパートナーである白雪のことも、今はどうでも良かった。だた、目の前に居る仇を殺すことが出来ればそれで……。
「お前は凜奈を……たかが、身内だと言ったな……?大切な存在だった凜奈を……『たかが』だと……?」
周囲には魔力が放出されている。魔力は俺の怒りに反応しているかのように、俺の周りを暴れている。殺気はさらに強くなり、真っ白だった頭の中は、沼のように黒く、どろどろと濁っていく。
「殺す!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
大声で叫ぶと同時に、体の内にある殺意、憎しみ、恨みが爆発する。それと同時に今までに感じた事がない魔力が、駅前に放出された。
「っ!!!」
後ろ居た白雪と、正面に居た〝呪縛歌〟は、魔力の波動で、吹き飛ばされる。地面に鎌を刺して、飛ばされる距離を殺した白雪と、魔法によって、見えない壁を作り出し、波動を殺した〝呪縛歌〟は同時に目を見開く。
「なんだ……この魔力……」
「うそ……ありえない……」
二人の顔に浮んでいる感情は、驚きと恐怖以外に無かった。なぜなら、俺は強大過ぎる魔力を放出しているから他ならない。世界レベルと言われた〝瞬間凍結〟と〝瞬間放火〟と同等の魔力を放出しているのだから、恐怖が浮びあがるのは当然だろう。
「ロー!どうなってるの!?何この桁違いの魔力!」
白雪は一体何が起こっているのかは理解出来なかった。海人が怒りに任せて魔力を放出したという所は理解出来るが、どうして桁違いの魔力……最強レベルの召喚者と同等の魔力を放出しているのかと言う点はまるで理解出来ない。
召喚者は才能など大きく影響するが、それでもこれは桁が違う。まるで、今まで海人が赤子のように感じるほどの魔力。十数年単位でもこれほどの魔力を放出するまで伸びることなどありえない。
言い方を帰れば、先ほど立てるようになった赤ん坊と、プロの選手を戦わせるよりも大きな違い。明らかに白雪には理解出来る枠を超えており、〝瞬間放火〟など世界レベルの召喚者以外では始めて感じる魔力の量だった。
(ついに片鱗だ……才能の。元々高い才能を秘めていたお前達だが、ついに覚醒したのだ……)
「才能??これが海人が秘めていた魔力なの?」
初めて〝魔女狩り〟を召喚した時点で、才能があることは理解していたが、ここまでの才能があることなど考えもしなかった白雪。自分など、圧倒的に越えている力はもはや理解出来る枠を超えている。
「お前、自分も殺したから死に覚悟できているはずだろ?的なこと言ったな??それなら……」
俺はひどく冷静だった。頭の中には違う自分が存在しているような感覚があったが、真っ白になっていた頭は、綺麗な海のように澄んでいた。そして、この状況も理解していた。
どうして、これほどの魔力を放出できるのか?自分がするべきことは一体?など、全てを理解していた。だからこそ、俺は構える。そして、右手を掲げて意武器を召喚する。
だが、それは相手も同じことだ。自分がするべきことなど最初から見えている〝呪縛歌〟には、一瞬だけ戸惑いの色があったが、今は迷いの無い目をしている。叶えたい物があって、戦争に参加している者の目だ。
「そう言ったが?」
抱えている本を開き、戦闘する態勢に変った〝呪縛歌〟はすっと視線を低くして、俺を鋭い目付きで、睨んでいる。いや、俺がどう動くかということを監視しているのだろう。
先ほどまでの俺なら警戒していただろうが、今はさほど気にはならなかった。そもそも、体の奥から湧き上がってくるこの魔力がある限り、負けることなどありえない。
そして、これが俺の本来の力なのだと理解している。怒りに任せて、放出しているだけなので、たぶんだかまた元の魔力に戻るだろうが、それでも今は目の前の敵を倒せる力があればそれでいい。
「それなら、お前も死ぬ覚悟は出来ているってことだろ?」
言葉と同時に俺は地面を強く蹴った。蹴る方の脚に魔力を込めて、地面を蹴った俺は一瞬で加速する。直線で加速するだけの単調な動き、だが、これだけで十分だった。
地面を蹴っただけ……だが、その加速速度は白雪を遥かに凌いでいた。雷速に近い速さで動くことが出来る白雪よりもさらに早い速度。普通の召喚者であれば目で追うことなど不可能に近い速度での加速。
それに〝呪縛歌〟との距離があまり開いていないので、相手からしたらさらに早い加速になる。
「周辺に襲うは、炎。空中に浮ぶは雷鳴と氷河。地面に這うのは岩石」
いかに〝呪縛歌〟だろうが、俺の速度は目では追えないだろう。だが、歌を歌いながら咄嗟に左に飛ぶことによって、回避した。勘といえば聞こえがいいかもしれないが、この状況で勘を頼りにすることがすごい。
「散れ!そして集結せよ!」
同時に駅前全てに炎、雷、氷河、岩石が出現する。炎は全てを燃やそうと全土に広がり、雷は上空から俺を狙いようにランダムで落ちてくる。氷河は地面から突き刺さるように出現し、岩石は操られているかのように俺を目掛けて飛んでくる。
だが、それでも足りない。これぐらいの攻撃では避ける事すらしなくても問題ない。
「当たると思うか?」
俺は動きを止め、剣を振るった。ただ、それだけだった。
「っ!」
驚きに目を見開く〝呪縛歌〟だが、考えれば普通だろう。俺は〝魔女狩り〟という魔力を全て斬る魔法を使う召喚者なのだから、魔力を斬っただけだ。
ただ、その事に驚いている訳ではなく、単純に振るっただけで、発動している魔法陣を全て切り裂いたという点に驚いているのだろう。前の俺はそこまでは出来なかったが、今では普通に出来るようになっている。
「殺す!!」
地面を強く蹴り、加速する。先ほどとは違い、気配を完全に消し、変則的に動きを混ぜながらの加速。直線で突っ込んだ時は回避されたが、これでは勘でも回避することは難しいだろう。
だが、それでも〝呪縛歌〟は強力は召喚者。変則的に動きを入れて、完全に背後からの攻撃を右に回避することで避け、距離を取る。
「私は汝を呪う。そして、食べ散らかす。肉も骨も血の全て胃に収め……」
「無駄だ!」
剣を振るった反動で、〝呪縛歌〟が距離を取った方向に体を転換させ、左足を地面につけると同時に、足首に力を入れて、型をする時のように、縦に剣を振るう。
振るった剣で、詠唱中の魔法陣をかき消し、右足が地面に着地すると同時に、右足首も回転させるように力を入れ、左足で、地面を強く蹴り、空中に上がった。そのまま、空中で空気を蹴るような動きで、一回転して、〝呪縛歌〟が居る方向に突撃する。
しかし、それも回避され、距離と取られる。だが、ここまでの動作が遅いので回避されることは前提だ。普通に攻撃するのであれば空中に飛ぶ必要など皆無なのだが、ここでは攻撃するための動きではないのだ。
縦に回るように一回転。そうすると、相手からは顔が死角になる。そして、俺の顔が合った方面は白雪がこちらを見ている方向だった。なので、そこで俺は白雪に視線で合図を送ったのだ。
この動作が大きく、遅い動きは次の一手のための時間を作ったのだ。〝呪縛歌〟は俺一人に気を取られている。視線を一回でも外せば殺されるという認識を先ほどの動きなどで植えつけた結果だ。
目で追うことが出来ない動きをすることによって、注意をひきつける行動を取ったのだ。一度でも注意は外せば、俺は一瞬で殺すことが出来るという意思表示だ。
「くっ!!」
回避した〝呪縛歌〟は抱えている本のページを変えた。だが、その間も一切俺から視線を外すことはしなかった。普通であれば褒められた行為なのだが、今回ばかりはそれが仇となる。
注意をひきつけたことにより、白雪から完全に引き離したのだ。
俺は地面に着地すると、剣を再び構える。だが、これは威嚇の意味を込めての行動もあるのだが、本来も目的は白雪が動いていることを確認させないための動き。俺は白雪が元居た場所を体隠す形で剣を構えているのだ。
「開放しましょう、開放しましょう。その地獄から……。開放しましょう、その枷から……」
足元に浮びあがる魔法陣。剣を振るえば消えるのだが、俺はそれをしない。なぜなならこの時点で勝負は決まったからだ。
「っ!!」
〝呪縛歌〟から苦痛の声が上がると同時に、腹から〝三日月雷鎌〟が貫通し、真っ赤な血が滝のようにがなれていた。そして、白雪はその状態から雷を放出する。
「っぐはぁ!!」
全身が雷に焦がされて、口からは大量の血反吐を吐き、膝を付く。足が震え、力が入らないのだろう。
「いつの間に……」
「いつも間にもないだろ?俺と白雪は〝約束〟を結んだパートナーだ。二人で戦うのは当たり前だろ?」
俺は地面を蹴り加速する。そして、剣に魔力を込め、一振り。
「これで終りだ」
俺は首を一振りで斬り、〝呪縛歌〟の魔力反応は途絶え、つまり、死んだ事を意味した。
俺達はこれで、四つ目の魔術蒼石を手に入れたのだ。
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