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約束(エンゲージ)  作者: 千歳瑠璃
呪縛歌
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決意

仕事が多忙で更新がかなり遅くなりました。申し訳ございません

 そう、選択は二つ有るが、答えは一つのようなものだ。


 俺個人の願いと世界のことなど比べるに値しない。俺が、〝みんな笑顔で居られる世界〟という異常な世界を望まなければ、世界中に居る七十億人もの人が滅びないで済むかもしれない。


 逆に、俺が望んで、願いを叶えてしまったら、世界は異常に変る。七十億人もの人が危険にさらされ、全て楽しいという感情に支配された世界になってしまう。


 仮に、仮に、仮に……全てを楽しいと感じてしまう世界では、それ以外の感情がないため、今では驚き、畏怖する行動でも異常な世界に変化してしまったら全てが〝楽しい〟になってしまうのだ。もしかすると七十億人の人が全て滅んでしまう可能性も、少なくはあるが、可能性がないわけでもない。


 今の世界は、不条理で理不尽で多い尽くされている。笑っている者の直ぐ横には泣いている者が存在する。幸せだと感じている者の隣には、死んでしまいたいと思っている人が居る。会社を立ち上げて、成功する者としない者。楽しいと感じている者の隣にはくだらないやつまらないと感じている者。


 この世界はあまりに残酷で、幸せを得るためには、成功するためには、笑うためには、誰かを不幸にし、誰かを失敗させ、誰かを泣かせてしまう世界。これは誰もが知っている事実で、これを覆すことが出来る人間など存在せず、人間を超越する召喚者でさへも出来ない。


 平等と言われている世界だが、決して平等ではない世界。全員が総じて幸せな生活や楽しい時間を過ごせる訳ではない世界。だが、幸せになれる人は自分の意思で行動することができ、楽しい時間を自分で創り出すことが出来る世界でもある。


 だが、俺の世界はそうではない。みんなが平等に楽しいという感情を得る代わりに、全てを失ってしまう世界になってしまうのだ。決して無駄ではない、悲しい、寂しいといった感情でさへも失ってしまう。


(誰が聞いても俺の世界は良くない……)


 確かに、誰もが幸せになれる世界とだけ聞くと、みんながそれを選ぶだろう。なぜなら、〝みんな〟というカテゴリーには自分も入っているためだ。他人の不幸を望む人が大勢居たとしても、自分の不幸を望む人はそう多くないからだ。


 好き好んで自分の不幸を望む人など、世界に病んでいるか、自殺したい人だけだろう。普通の感覚を持っている人は、自分の平和を否定などはしない。


(けれど、本当の意味を知ってしまえばそれは逆転する……)


 不平等な世界だとみんなが知っているが、何をしても楽しいという感情しかない世界など望まないだろう。挙句の果てには世界が壊れる可能性がある世界を望む人間は居ないだろう。


 自分が住んでいる世界が壊れる可能性など、普通に考えれば想像など容易に出来ないが、〝呪縛歌ナイトメアソング〟が見せた夢を見た俺なら想像が出来る。下手をすると冗談抜きで、世界が壊れる可能性があると。


 全て楽しいという感情しか無い人など、壊れているに等しいが、世界まで壊れるともはやどうしようもない。戦争の勝者としての願いであるのならば、取り消すことなど不可能だろう。


 それに、たぶんだが、俺も楽しいという感情以外ない状態になっているはずだ。そうなれば、この世界の異常性に気が付く者は存在しなくなり、加速的に事態が悪化する。


(そうなれば世界は……)


 世界が壊れるということは、人が滅亡するということだ。動物が住んでいる巣とは違い、世界が壊れると修復など出来ない。そして、人類もそのまま世界と終わりを迎えるに違いない。


 みんなが笑顔であって欲しいという願いをしたのに、終わりが終焉だなんて考えたくもない。そして、事態が加速的に悪化しているのにも関わらず、何も覚えていないという状況は絶対に無くさなくてはならない。


 そして、世界が壊れないようにするための方法はただ一つ。


「俺が願いを諦めること……」


 人間をやめて召喚者になる決心をしたのは一つの願いからだった。俺が持っている願いは決して普通では叶えることが出来ない願いだったから召喚者になったのだ。


 戦争に参加して勝者になり、叶えることが出来ない願いを叶えるためだ。そのためたら命すらも掛けることが出来る。


 だが、その願いは笑顔にしたかった人達を壊すだけの世界。全ての感情を殺して、楽しいという呪縛のような感情だけ残してしまう最悪の世界。俺はそんな世界を作るために……今まで戦ってきたのだ。


 何度も死ぬと思う場面もあった。命を掛けて戦ってきた結果が、最悪の世界。言葉だけ聞くといい世界に思えるだけの世界。実際は地獄とあまり変らないような世界のために戦ってきたのだ。


「そんなことって……」


 今までの戦いが無駄とは俺だって言わない。召喚者になり、凜奈が召喚者であるという秘密を知った。もし、召喚者にならなければ一生その事実を知ることなく生涯を終えていたに違いない。


 召喚者になることで白雪という召喚者に出会う事が出来た。そして、約束エンゲージを結び、共に願いのために戦ってきた。初めは自分の願いを叶えるためだったが、今では白雪の願いも叶えたと思っている。


 そして、今まで戦ってきて、確かにその願いに近づいている。だが、だがだがだが……。


「いや、そうじゃない……気が付かなかった俺が悪い!」


 たぶんだが、白雪達は気が付いていただろう。俺が望んでいる世界の異常性に気が付いていただろう。だが、俺は全く気が付かなかった。


 事実として、全ての人が笑顔で居られる世界など異常しかないのだが、そこではなく、俺が想像している以上に異常な世界だったということに気が付いていただろう。


 命を掛けてまで叶えたいと願った願いにも関わらずに気が付かない……いや、そういう世界を創りたいという俺の中の想いが気が付かせなかったのだ。


 みんなが笑顔で居られる世界だと言葉だけ聞けばいい世界だ。俺はその言葉に……こういう世界にしたいという願望に負けていたのだ。少し考えれば気が付く事実なのに先入観で気が付かなかった。


 みんなが笑顔で入れれば平和になる。小さな子供が見るアニメや漫画などでは良くある展開。俺の頭はそんな平和になるというありえない部分……空想部分しか見ていなかったのだ。


「だからこんなことになってしまう……だから……」


 こんな究極の選択……願いを叶えるために人間をやめた俺。そして、叶えようとしている願いは世界を異常に変えてしまうだけの願い。望んだ物は全く手に入らずに、非現実ばかりは手に入る。


 平和な世界などというのは幻想でしかなく、造る方法など一切ないのだ。死者を蘇生させることは強大な力が働くが、俺の願いはそれ以上の力が働いてしまう。どちらも無理難題には違いないが、度合いが違い過ぎるのだ。


 強大な力を働かせようとしている……それも俺のような人一人の判断でしようとしているのだから、反動が出ても全く可笑しくはないのだ。強大な力には強大な反動が掛かるのと同じで、規模が広すぎる願いにも強大な反動が返って来る。それが、楽しいという感情に支配された地獄だ。


「そうなったらもう……」


選ぶ答えなど一つしか存在しない。一人の願いで世界を壊してしまうなどあってはならない出来事だ。諦める以外の選択肢が俺の中には存在していない。


 答えは決めた。もうそれしかないのだと自分の心に言い聞かせてから、正面に居る〝呪縛歌ナイトメアソング〟を見据える。俺が声を出して悩んでいる間もずっと無言を決めていた〝呪縛歌〟は、俺の決断が決まったことを察し、口を開く。


「そうだ……それでいい。みんなが笑顔で居るという世界を望んでいたお前らしい選択だ。誰一人として攻めることは出来ない。なぜならお前の選択は、世界を救ったのだから……」


 世界を救う。それは小さい頃見ていたテレビのヒーローがすることだ。テレビなどでは、みんなが笑顔になり、平和を迎える。一般人しか居ない世界で一人だけ強靭な肉体を持ったヒーロー。


 俺の選択は、そんなヒーローとは救い方が全く違うが、仮に勝者となった時に願いを叶える場面では世界が救われる。俺がこの願いを捨てさえすれば世界は救われるのだ。


「そうだ俺は世界を救ったんだ……」


 直接的に救った訳ではないが、間接的には世界を救ったのだ。世界が壊れるような願いを捨てたということで、俺が勝者になった時に世界が壊れることは無くなる。世界が救われた。そう思うことにする。


「俺は……」


 最後の決断をしようとした。自分が今まで抱えてきた願いを捨てるということを口に出そうとした瞬間。俺の頭の中に響くような声がした。


 初めは小さな声だったが、少しずつ大きくなり、そして聞き覚えのある声に変化する。


「白雪???」


 そう、頭の中に響いている声は間違いなく白雪の声だった。






***********






 海人の想いの迷宮にいる白雪は、感じなくなった海人の〝みんなが笑いあう世界〟という異常な世界を望む思いが少なくなってきているのを感じていた。


 どうやってここに入れたかなどは考えもしなかった。想いの迷宮などと言っているが、実際はただの何も無い場所かもしれない。だが、先ほどまでは確かに海人の想いを白雪は感じていたのだ。


 人間をやめて、召喚者になるという決意をした時の海人と同じ想いを、体全身で感じていた。だが、それが今は完全に感じられなくなって来ている。


 普通、人というのは自分が認知出来ない存在を恐れる生き物だ。だから幽霊や、人外な生き物を恐れる。それは人間から見た召喚者も、幽霊や人外とさほど変らないはずなのに、海人は自身が恐れるべき対象である召喚者になったのだ。


 今まで見たことも接したことも無かった、自分の理解の外に居る召喚者。漫画やアニメなどでは見たことがあるかもしれないが、実際に見たことある人間などほとんど居ない謎の生命態に海人はなったのだ。


 自分が抱えている願い。普通に生活をしているだけでは絶対に叶えることが出来ない願いを叶えるために、海人は人間をやめて、召喚者という過酷で辛い道を選んだ。そして、戦争という召喚者の中で選ばれた者だけが参加出来る戦いに参加し、願いを叶えるために命もかける。


 さらに、願っているのは自分の欲ではなく、他人に関すること。普通であればこんなこと出来る人間など居ない。だが、海人はそれをしたのだ。他人のために叶える願いに命をかけるという行為を。


 それはまさしく英雄的な行為。現代ではほとんど自分のことしか考えない人間が大勢居る中で、みんなが〝笑い合える世界〟という他人のために叶える願い。


 それは自分がその世界を望んでいるだけかもしれない。自己の望みを叶えるためかもしれない。だが、そんな思惑がある人物にそんな願いを願うことは絶対に出来ないと断言出来る。


「海人は自分のことよりも他人のことをいつも第一に考えて行動する……」


 いつだって白雪は海人に助けて貰ってきたと思っている。〝魔女〟の時だって一人では決して勝てなかった。〝英雄〟の時だってそうだ。決して一人では乗り越えられない中でいつも隣には海人が居た。


 それは海人が否定したところで、白雪がそう感じているのだからそれは事実なのだ。そして、海人もまた同じような想いを抱いているが、白雪も同じような想いを抱いているのだ。


「だけど海人は気がつかないわよね……仕方ないな」


 だって、まだ私よりも弱いとかそんなどうでもいいことを考えているから……と、白雪が誰も居ない空間で、誰にも聞こえないような声でそう呟いた。


「まぁ、別にいいんだけどね……けど、私は今まで助けられてきた海人の助けになりたい。そして、これからも……戦争が終わるその時まで、〝約束〟を結んだ同志として戦って行きたい。だから……」


 白雪は目を閉じて、深呼吸をすると同時に目を開ける。その瞳には決意と意思が込められている。


「これからも一緒に戦っていくには、ここで願いを諦めてもらう訳には行かない!」


 〝呪縛歌ナイトメアソング〟の世界に居る海人と凜奈。白雪の考えでは凜奈は邪魔なので寝ているだけと判断している。最も危険で、今後一番強敵になるかもしれない海人を消そうとしているのだろう。


 そう考えると、あの夢の世界で、願いを諦めてしまうとただではすまないと考えるのが普通だろう。しかし、今の海人にはそんなことを気にしている余裕はないと踏んでいる。


 そうなれば、寝ている凜奈には出来ないことを私がするしかないと決めた白雪。外部からの干渉であれば夢の世界を……海人の願いを戻すことが可能かもしれないからだ。


「そしてここはたぶんだけど〝呪縛歌〟も想定外の場所。どうやってこれたかは理解出来ないけれど……海人の想いを直接感じることが出来たこの場所でなら出来るかもしれない」


 先ほど感じた想いは今は全く感じないが、人間をやめてまでも叶えようとしていた願いを簡単に諦めれる訳がない。無理あり納得させているだけだろう。ならばその気にさせればいいだけの話だ。


 もう一度、〝みんなが笑い合える世界〟という異常な世界を望むように。


(海人……海人!海人!!!!!!!!!!!)


 白雪は、海人の想いの迷宮で叫ぶ。ただ、自分の声が届けばいいという願いを込めて。






***********






頭の中に響いている声は間違える訳でもなく白雪の声だった。今まで〝約束〟を結んだパートナーとして戦ってきた白雪の声を聞き間違えるだという行為は絶対に無い。


 そうなれば頭に直接語りかけてくるような声は白雪以外にありえない。


(どういう方法で話し掛けて来ているかは理解出来ないが……今はそこではない)


 好意的ではないかもしれないが、頭に声が響くということは何か意味があるはずだ。目の前に居る〝呪縛歌〟にそのことを知られないほうがいいだろう。


(海人!!聞こえている!?)


 頭の中に響く声から相当焦っているのは理解出来る。駅前で異常な魔力を感じて、来た白雪が倒れている俺達を見て焦っているのだろうか?理由は理解出来ないが、焦っているのはだけは理解出来る。


(どうした!?聞こえているぞ!!)


 胸の中で大声で叫ぶ。声に出してしまえば不振に想われてしまうので声には出さない。もし、白雪の声が聞こえるという事実を知られてしまえば違う対策を練られてしまうからだ。


(良かった……聞こえているみたいね……やっぱいここは想いがある場所だったんだ……)


 俺の言葉も白雪は理解出来ているようだ。そうなれば白雪は寝ている俺に直接語りかけているのかもしれない。


(想いがある場所ってなんだよ?)


(それはこっちの話だからいいわ。それよりもどうして〝願い〟を諦めようとしているの??)


 白雪の言葉に鼓動が一度だけ大きく跳ねた。どうやら白雪は何らかの方法で俺が〝みんな笑い合える世界〟という異常な世界を諦めようとしていることを知

ったようだ。


(白雪は知っているだろ??俺が望んでいる世界はいいものではないと……)


 そう、俺が望んでいる世界には未来がない。そこにあるのは異常な世界と、楽しいという感情に支配されて可笑しくなった人達だけだ。そして、最終的には世界が壊れる可能性もある世界。


 俺はそんな世界にしたくない。仮に、戦争に優勝できなくても、そんな世界のためにこれから命を賭けて戦っていこうなどとは絶対に想わない。人が不幸になるだけ世界など御免だ。


(知っているに決まってるじゃない。普通に考えれば分かるわ。想像している以上に異常な世界だということも)


 やはり知っていた。白雪は全て知っていながら俺に教えずに隣で戦っていたのだ。だが、それが哀れみや同情などではないということだけは理解出来る。教えてくれなかった白雪が悪いなどという言葉は絶対に出せない。それは気が付かなかった俺が悪いだけの話だからだ。


(そうだ。俺が望んだ世界は異常だ……だけど俺はそれに気が付かなかった!ただ、〝みんなが笑い合える世界〟だと誤解していた!そんな世界、絶対にありえないのに……)


(そうね。ありえないわ。人を服従させることだったら簡単に出来たかもしれないけど……感情を変えるだけだったら簡単に出来たかもしれないけど……〝みんなが笑い合える世界〟なんて不可能よ。一時的にそうなったとしても、直ぐに崩壊するわ。だって、それは〝楽しい〟という感情を全てのことに上書きしただけの世界。爆発して、人々が可笑しくなるなんて当たり前よ)


 そう、押し付けられた感情など本当の感情ではない。特に〝楽しい〟という感情に関しては人により千差万別なので余計にだ。百人が楽しいと感じても一人が楽しくないという展開もよくあることだ。


 面白い動画などを見ても批判する人が居るのと同じで、大勢が楽しいと感じるから全員が楽しいと感じる訳ではない。俺の世界は全て押し付けの世界。一つしか叶えることが出来ない戦争ではどうやっても俺が望んでいる世界にはならないのだ。


(だったら……)


 俺が言葉を言おうとした瞬間に、白雪の声で遮られる。


(だから何よ!海人の願いは人がどうこうなる程度で……世界がどうこうなる程度で変る物だったの!?私はたとえ世界で二人きりになってもお母さんの蘇生させて一緒に暮らすことを選ぶわよ!!だって……それが私の〝願い〟だから!叶えたいって心の底から想っているから!)


(…………)


(他人なんて関係ないわ。私は全てを捨ててでも叶えたいって想った。たとえ自分が死んでもお母さんだけには生きていて欲しいって願った!!そして今!こうしてその願いを叶えることが出来る機会があるなら!!諦めるなんて絶対にないわ!!!私の胸にある想いはそんな軽い物じゃないわ!海人もそうじゃなかったの!?)


 白雪はただ必死だった。俺はこんなに声を荒げている白雪を見るのは初めてで……それほどに今の俺の状況は白雪からしたら許せないのだろう。だって、俺は裏切りのような物だからだ。


 〝約束〟を結んだ時から命を掛けてまでも叶えたい願いを追ってきた俺達。だからこそこうしてここに二人して居るのだ。願いを叶えるために同じ召喚者を殺して、ここに立っているのだ。


 しかし、俺は願いを諦めようとしている。今まで一緒に戦ってきたこと無しにしようとしているのだから。


(私はいつまでも自分の願いを追い続ける。他人のことなんて気にしないで!!今までその胸に抱えてきた願いを追いかけて!海人は……海人は何のために召喚者を殺して!人間をやめたのかもう一度考えなさい!!それは自分の願いを叶えるためでしょ!だったら!!そんな世界が壊れるかもしれないなんていうどうでもいいことなんて考えないで!!あなたの願いはその程度だったの!?)


 もう一度鼓動が大きく高鳴る。


 そんな訳ない。そんな訳ないだろう。俺だって命を掛けて!自身のことなんてどうでも良くなるほどに渇望していた。〝みんなが笑い合える世界〟という希望の世界を信じて戦ってきた。


 人間だった頃の俺は、自分の目の前で困ってい人を無視できなかった。何度も手助けなどをしたが何も変らない。少しでもみんなが笑顔になればと想って色

々してきたのに何も変化はなかった。


 ただの学生。しかもたった一人に人間に世界を変えることなんて不可能だ。みんなを笑顔に変える……それもずっと笑顔で居続けてほしいという世界を創るなんて不可能だ。誰がどう頑張ろうが現実では不可能だった。


 世界は理不尽で、悲しい事や辛い事など多く溢れており、笑っていることよりも苦しんでいる方が遥かに多い。俺はこんな世界がいやだった。みんなに笑顔で居てほしいと渇望していた。


 どうして生きている中で辛いことなどを経験しなければならないのか?どうして人生というのは理不尽のこうも平等ではないのか?容姿や家柄。声やスタイル。才能と馬鹿。全て同じ人間に与えられる物なのにどうしてここまで不平等に出来てしまうのか?


 しかし、それは仕方の無いことだと割り切るしかない。その人の特徴など割り切る以外に方法はない。だから、だからこそ、生きていて楽しいと感じる世界になって欲しい。それだけは譲れないのだ。


(俺だって!俺だって本当は叶えたい!けど、俺のせいで色々終わるのは違うだろ!!俺はそんな世界を望んでいない!!)


(望んだでしょ!!だって海人は!人間をやめて修羅の道に入った……それって、どうやっても誰か殺すってことを意味してるよ??海人は自分の願いを叶えるために犠牲を選んだ。召喚者……人間ではない未知の者を殺して……願いを叶えることを選んだわ。それは、召喚者一人の人生を……最低限戦争に参加している人数の人生を終わらせたのと同じよ?)


(…………)


(だからもう前に進みしかないわ。殺した召喚者は蘇らない。殺した過去はなくならない。けどそれは今まで殺してきた召喚者も同じだわ。自分の願いのために私達を殺そうとした。けど、そこには〝願い〟を掛けた戦いがあったからお互いに殺しあったのよ。その願いを捨ててしまったら海人は殺してしまった召喚者達に失礼よ!馬鹿にしているわ。私や凜奈のことも!!海人の願いを心から応援している私達のことも!!)


 鼓動が大きく高鳴る。それも今までで一番大きく、そして確かな想いの帰還と共に高鳴る。


 そう、俺には応援してくれる二人が居る。何を迷っていたんだ。ここまで戦ってきて、何も言わなかったのは、俺の願いを心の底から応援してくれていたら以外に何がある。俺は一体何を見ていた。


 世界が壊れる?〝楽しい〟という感情しかない世界??それがどうした!世界が壊れるなど知った話しではない。ただ、俺は自分〝みんなが笑い合える世界〟を見たいと想ったから人間をやめてまで召喚者になったのだ。


 それに、例え全ての人が俺の世界を異常だの罵っても関係ないだろう。今まで共に戦って来てくれた白雪。気が付いた時からずっと一緒に居た幼馴染の凜奈は肯定してくれる。


 それだけあれば俺は願いを叶えようとまた、戦争に参加出来る!


 崩壊する世界。願いを諦めないと決意した瞬間に〝呪縛歌〟の世界が崩壊を始める。


「馬鹿な!世界が崩壊するなど……?お前まさか、願いを諦めないのか!?」


 〝呪縛歌〟は、俺が願いを諦めないことに焦っているようだ。だが、そんなの関係ない。俺は前に進むためにも目の前に居る召喚者と正面から戦わなくてはならないのだ。夢の中に居る暇などどこにもない。


「ああ。当たり前だ。俺はこの願いのために生きているんだからな!!」


 光輝きながら崩壊する世界。俺が決意をしたことで保てなくなった世界が崩壊する。真っ暗な世界は、時間が歪むように捻じ曲がり、水滴が水面に落ちた時に発生する波が波紋ように広がるように歪む。


 そして、数秒後に、目の前が見えなくなるほどの光が点滅すると同時に世界は元に戻る。














 


 







 

















 




 

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