正体
凜奈と海人が駅前で行われているイベントに向かったと同時に部屋に残ると決めた白雪は行動を始めた。
本当なら凜奈と海人にも来て欲しかったのだが、二人はまだ召喚者になって間もない。白雪に比べると月日が短いので、たまには休憩というのが必要だと思った白雪はイベントに行ってもらったのだ。
白雪達はこれで三つの魔術蒼石を所持している。他の召喚者がどの程度持っているのかはいまだに理解出来ないが、三つというのは多い分類に入るはずだと白雪は考えている。そして、私達の近くで大勢の人間を殺した召喚者が、戦争に参加しているかどうかは不明だが、参加している確率のほうが高いのは確実だとも思っている。
白雪達は今までに〝魔女〟と〝英雄〟という強敵をなんとか倒してきている。〝瞬間放火〟と〝瞬間凍結〟は別だか、それでも並の召喚者には負けないという自負がある。そしてそれは、襲ってくる召喚者も同じなのだ。
普通に考えれば白雪達は強い。前回の戦争の勝者となった武器を持っている二人なのだから強いと考えるのが普通だろう。しかし、戦争に参加している者はそうとは考えない。なぜなら白雪達よりも自分の方が強いという自身があるからで、白雪もそこは否定出来ない。
誰がどう見ても私達のほうが弱いというのは明確で、普通に戦えば間違いなく勝てない相手なのには違いないからだ。だが、それは戦争に選ばれた者達からで、普通の召喚者では簡単には負けない。
だからこそ、今回の事件を引き起こしたのは戦争の参加者である確率が高い。白雪は自分達に存在を知らしめるという理由があると思っているが、他にも理由があるかもしれない。
戦争に参加している召喚者でなければ白雪達が居ると理解している中で事件を起こす理由がないからだ。だから、この事件は戦争参加者が引き起こしたものだと思っている。
「だったらイベントなんて行ってる暇はないわ」
二人をイベントに行かした理由は休憩という理由もあるが、一人のほうが動きやすいからだ。仮に白雪達の居場所が知られていると踏まえると二手に別れさしたほうがいいというのもあるが、それもあまり効果は望めない。
だが、こうして二手に……それも海人達に作戦の内容を伝えないのにも意味がある。それは相手に内容を知られないためだ。
居場所が完全に割れていると考えれば必然的に話しをしたら聞かれる可能性が高い。だが、心の内までを読める召喚者というには十年間聞いたことがないので間違いないだろう。
「ローは一体どう思う?」
『私も聞いたことがないな……』
ガントレットが光ると同時に白雪の頭の中に声が響く。先代からずっと召喚者を見てきたローがそういうのであれば大丈夫だと安心する白雪。隠している秘密があると前に言われたことがあるが、信頼はしている。
それもそのはずだ。母親が殺され、召喚者になってから十年以上の長い月日を過ごしてきたのだから信頼しないほうが可笑しい裏切られた訳でもなければ嘘を教えられた訳でもない。ローは白雪に間違った情報を教えたことが無い。
それだけで、充分信頼に値する。それ以外にも共に戦ってきた仲間であるローを信頼しないなどという行為は断じてあり得ないことなのだ。命を掛けて戦ってきた白雪だから余計に信頼を寄せている。
「そう。それなら居ないのね……ならどこかで聞かれている可能性というのは充分にありえる」
『そうだね。その方が確率的に言えば高いだろ』
しかし、どこかで聞かれていたということは、近くまで接近を許していたということになる。そして、白雪や海人はその召喚者の接近にはまるで気が付かなかったという事実も重なる。
魔力に気が付かないだけではなく、存在自体も消して、接近を許すという事実だけでも白雪達と事件を起した召喚者の実力差が図ることができる。だが、そんなことは白雪本人も海人も充分に自覚している。
「とりあえず、もう一回だけ舞踏館に行ってみるわ。何か分かるとしたら舞踏館以外は考えられないし、今、調査している警察が万が一に何か掴んだら近くに居たほうが効率がいいし」
『うむ。わかった。私も分かったとこがあれば直ぐに言おう』
「ありがとう」
白雪は海人の部屋から出ると同時に周囲を探る。もしかすると召喚者が近くに居る可能性があるため、それを確認するために探ったのだが、気配はない。休日なので生徒の気配は感じられるがそれ以外は特に感じない。
気配を消している可能性も高いが、実力差があるため見つけることが出来ない。もし、近くに居るとしても白雪は自分には見つけることが出来ないだろうと考え、歩き出す。
寮を出ると部活動をしている生徒とすれ違うが、特に変った様子はない。召喚者が近くに居るという可能性は少ないように感じる白雪だったが、警戒をしながら校門まで進むと、ひと気が無い場所まで徒歩で移動する。
校門から数分歩くと人の気配が全くない場所まで来た。小さな建物に囲まれた場所に居る白雪は、軽く跳躍をするとビ建物に上がり、強く地面を蹴ると同時に加速する。
人間の目では追えることの出来ない速度で移動する白雪は、建物などを足場にしながら空中を移動し、数分で舞踏館前に到着した。
「現状はさっきと変った様子はないわね……」
朝に来た時と特に変った様子は舞踏館。警察官の声を聞いても進展しない事件に色々な推察が挙がっているようだが、特に気にかけるような内容ではないので無視をする。
万が一に警察が何かを掴むという可能性は消え、自分で情報を集めることにする白雪は、近くに息を潜めて待機する。そして、警察の隙を見つけると同時に舞踏館の中に入る。
「とりあえずもう一度舞台に向かうわ」
『うむ。それがいいだろう。あそこで事件があったのだから何か情報があるとすれば間違いなくあそこ以外にない』
「ええ。けど、たぶんだけど大した情報はないと思うわ。朝調べたけど分けることはほとんどなかったし」
白雪は海人が来る前に少しだけ調べたけれど分かることと言えばここで魔力が使われたことだけだった。だからこそこの事件が召喚者の手によって起こったと理解出来た訳だが、これだけでは足りない。
最低でも相手が何を使うかと理解しなければ格上と戦うには情報が足りない。召喚者は情報が大切だと理解しているが、これは最も大切な情報で相手の魔法が何かを理解していなければ戦いにすらならない可能性がある。
弱い召喚者でも魔法が何かを理解していなければ一瞬の隙を突かれて負ける可能性がある召喚者同士の戦いでは相手の魔法を理解して、その魔法の弱点や隙を見つけて戦わなければいけないのだ。
白雪は召喚者だが、人なのは違いないのだ。恐怖心は勿論のこと悩むことや疲れることはある。人間と召喚者の違いは限りなく高い壁が存在するが、人との違いはさほど無い。
考えることで頭を使うし体を動かせば疲労が溜まる。情報というのはそういった恐怖心や疲労を限りなく少なくするためにも必要なのだ。
相手が何を仕掛けてくるのかなどを予想できれば恐怖心は減らすことが可能だ。相手が何を仕掛けてくるかを理解していれば動きや魔力を最小限にして相手と戦うことが可能だ。
人間とは限りなく高い壁が存在するが、人のように悩むことで疲労が溜まり、恐怖心で判断が遅くなることなどは召喚者とて同じなのだ。なので、情報というのは相手の戦うことにおいては特に重要で、どんな魔法を使うのはというのは特に重要なのだ。
「相手の魔法を予想することは出来る?」
『うむ。予想することは出来るが……』
「ええ。分かってるわ。予想はあくまでも予想。戦闘中に予想が正しいかなんて召喚者でさへ理解出来ないわ。けれど、予想が無いのと有るのでは大きな違いでしょ?」
『うむ。違いないな』
舞台には多くの警察が居るが、白雪は少し殺気と魔力を放ち、気絶させる。召喚者という存在は人間に見られると厄介なので、見られないように気絶させたのだ。
魔力を放ったが、体に影響は無い。気絶させるために放ったのであった、人間を傷つけるために放った魔力ではないからだ。
舞台の上に上がると同時に体の中で魔力を練る白雪。朝に来た時と同様に目を瞑り、周囲に魔力をばら撒く。これは相手の魔力を探る魔法ではなく、相手の魔力の質を探る魔法。
本来なら難しい魔法なのだが、魔力が高く、才能に溢れている白雪は少しだけ集中すれば出来るのだ。だが、高い魔力使うためどうしても他の召喚者に魔力を気が付かれてしまう。だが、それを防ぐ方法が一つだけ存在する。
「ローお願い!」
『うむ。了解した』
白雪がつけているガンドレッドが光を放つと同時に魔法陣が浮びあがる。ローは発動した魔法なので小さな魔法陣だが、それは召喚者には使うことに出来ない魔法である。
意識を持つ魔法だからこそ出来る芸当で、召喚者にはできない魔法。それは意識の切断の魔法。
意識の切断の魔法はその名前の通り意識を切断する魔法だ。簡単に言えば、魔法の契約者である白雪の意識を移動的にここから切断して違う場所に移動だせるという魔法だ。
召喚者というのは無意識化の魔力というのは察知では出来ない。それは英雄が白雪が無意識で放った電流に気が付かなかったのと同じように、他の召喚者……例えば約束で繋がった海人でさえも意識して察知しなければ気が付かれることはない。
海人でさへ気が付かない無意識化の魔力に他の召喚者が気が付く道理はない。魔力を専門的に探る魔法を使う相手ならば気が付く可能性が無い訳でもないが、この場には居ない。なので、使用しても問題ないのだ。
だが、この魔法には一つだけ問題点が存在する。それは無意識になるので、敵が近づいてきたりなどすると全く反応出来ないという点だ。
科学兵器などであれば攻撃されようが全く問題がない白雪だが、召喚者からの攻撃を直撃するとそうも言ってられなくなる。召喚者を殺すための魔法が防御無し状態で直撃するのだから怪我どころでは済まなくなる。下手をすれば死ぬことにすらなりうるかも知れないのだ。
だが、白雪はこの場に召喚者は居ないと踏んで、ローに魔法を使用させたのだ。事件を引き起こした召喚者は海人の方にいるか、まだ仕掛けてこない可能性が高いと踏んだのだ。
それは先ほどばら撒いた魔力に反応が無かったからだ。あれは、召喚者に反応するように魔力をばら撒いたのだが、反応は無かった。つまり、この舞踏館に召喚者は居ないということになる。
無意識化の白雪は、ここで使用された魔力の質を探る。魔力の質というのは使用した魔法によって大きく変化する。例えば海人の〝魔女狩り〟で言うのであれば無効化する魔力が大きく働く。白雪のであれば破壊の魔力。
そしてここで使用された魔力は一般的な魔法ではないと推測したのだ。仮に破壊の魔力であれば外傷が残るためありえない。無効化する魔力などさらにありえない。
その他にも魔力の質は様々な系統が存在するのだが、主に人を殺すような魔法は破壊の系統に含まれる。だが、外傷が無いとなれば珍しい魔法である可能性が高い。
そう、白雪やローが考慮に入れない魔法である可能性を捨てきれないのだ。
『うむ。なるほどな……』
魔力の質を発見したローは呟いた。そして、魔法陣が姿を消すと同時に魔法は解除され、意識を取り戻した白雪は地面に座り、顎に手をあてて考える。
「見つかった魔法は系統は歌……」
白雪は召喚者として覚醒してから十年以上経過しているが、歌という系統を見たのは初めてだった。珍しい魔法系統という予想ははずれ、初めて見る魔法系統が出てきたのだ。
歌……。それは一般的には娯楽として知られている。好きな歌手の歌を聴いたり、自分の心境や実際に体験したことに似ている歌を聴くということは一瞬の精神安定剤として機能することもあれば、心を落ち着かせることも出来る。
歌というのは聞くだけでも充分娯楽の一つとして機能するのだが、歌うことによっても娯楽として機能する。好きな歌を聴くのと同時に好きな歌を歌うというのはストレス発散方法の一つでもあるだろう。
カラオケという娯楽が人気があるのもそれが楽しいからだ。テレビ放送に音楽番組が多数あすのは人間が音楽というものをどれだけ好きかということに繋がっている。
歌と言うのは人間の娯楽だ。だがかこそ、多くの人間が殺された系統に歌というのが出たと推測する白雪の考えを止める声が聞こえた。
『うむ。歌という系統に一つ心辺りがあるが……』
「それは一体何なの??」
『うむ。白雪にも一度だけ話したことがあると思うが、〝呪縛歌〟という魔法だ』
「それって……」
『うむ。かなり強敵なのは間違いないな』
白雪は一度だけ聞いた事があった。歌を歌うことによって戦う召喚者……〝呪縛歌〟という召喚者の存在をローから聞いたのだ。
歌というのは作る人の想いと歌う人の想いが重なって初めていい歌という物が作れる。そして、〝呪縛歌〟というのも普通の歌と同じで想いを使い発動する魔法だと。
ローも戦ったことが無いといっていたのでどのような魔法を使うのかは検討も付かないと言っていたが、歌を使う召喚者どというのを言っていた。そしてその召喚者は危険な存在だと。
『私の予想だが、早く二人に合流した方がいい。凜奈はあれだが……海人が危ない。白雪も知っているだろ、海人が望む世界の異常性を』
「ええ、知っているわ」
海人が望む世界はみんなが笑顔で居る世界。そう、それは本当に単純でみんなが笑顔で幸せで入れる世界を作ることだ。
『だが、それは異常だ。だからこそ魔術蒼石以外で叶えることが不可能なのだが……とりあえずいぞげ。下手をすると海人が壊れるぞ』
「っ!!!」
すぐに立ち上がり、移動しようとした瞬間、巨大な魔力反応を感じた。
読んでくださりありがとうございます!!!




