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約束(エンゲージ)  作者: 千歳瑠璃
呪縛歌
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突然

 落ち着いた俺は凜奈と共に街に出ることになった。街の特集ということで放送されていたイベントに向かうために、準備を済ませた後に校門前で待ち合わせすることになっている。


 部屋を出る時に白雪にも本当に行かないのかと聞いたのだが、用事があるらしいので無理には誘わなかった。本当は白雪にも来て欲しかったのだが、俺の都合で連れて行くのも間違っているだろう。


 それとは別に白雪は前例として、一人で舞踏館に行くという危険な行動をしたので、一人にすると再び、危険な行動に出るのではないかと考えてしまうのだが、信頼しているので大丈夫だろうと思う。


 仮に事件を起した召喚者と戦うことになるうと、俺達は約束エンゲージで結ばれているので、異常を感じればすぐに気が付くだろう。そうすれば急いで駆けつければいいだけの話だ。


 校門が見える位置まで来ると、腰まで伸びた綺麗な黒髪を風になびかせながら壁にもたれている凜奈の姿が目に映る。凜奈が誘ったとはいえ、待たせるのは非常に悪いので俺は駆け足で凜奈の元に向かう。

「悪い、待たせたか?」


「うんん、全然まってないよ。着てから一分もたってないかも」


「そうか、良かった」


 人を待たせるという行為はあまり好きではない。自分が待つのであれば問題ないのだが、待たせるのは申し分けない気持ちになってしまうのだ。それは小さい頃から一緒に居る凜奈であっても代わりはない。


「うん!そんなことよりも早く行こう!!」


まるで子供のようにはしゃぐ凜奈は俺の手を掴んで走り出す。急だったので、転びそうになるが、体勢を立て直して、凜奈に引っ張られる。さすがに文句でも言おうとしたが、笑顔で走っている凜奈に何も言えずにただ走る。


 速さは人間よりも遅いぐらいだが、手を繋いで走るという行為だけで周囲の人の視線を集める。ただでさえ、凜奈と歩いていると周囲の男の視線を集めるというのに手を繋いでいたらなお更だ。


 凜奈も視線に気が付いているはずなのに全く気にしていない様子で走り、人が多くなってくると止まり、歩き出す。召喚者なので汗は全く出ていないが、繋いだ手だけは妙に熱く、そして恥ずかしい。


「おい、凜奈……」


「うん?」


 手を握っていることなど忘れているのか、何?といった顔で後ろを振り向く凜奈に視線で手のこと伝える。すると、一瞬で顔を林檎のように赤くさせ、手を離す。


「ご、ごめんね!全然気が付かなかった」


 小さい頃は良く手を繋いで走ったり、どこかに出かけたりなどしたが、さすがに高校生にもなって手を繋いで歩くのは恥ずかしい。小さい頃は意味など考えたりしなかったが、今では手を繋ぐ関係というのはどういう者なのか理解している。だから余計に恥ずかしく感じるのだろう。


「別に大丈夫だ。こんなの小さい頃から良くあるだろ?」


 だが、昔とは違うと理解していながらも、口に出す言葉は昔のこと。少し恥ずかしいという気持ちを隠して、昔にもあっただろ?など、どうでもいい事を言ってしまうのだ。過去は思い出として大切だけれど、大切なのは今なのにも関わらずだ。


 黙る俺達だが、決して悪い雰囲気は気まずい空気という訳ではない。長い付き合いのなかで、俺は凜奈の、凜奈は俺の考えを読めるのだろう。癖など全て知っている俺達の間では顔色の変化などで直ぐに気が付く。召喚者として本気で隠さなければの話しだが。


 表情を消されるとさすがに幼馴染とはいえ判断出来ない。人間は隠すことが上手な人と下手な人に別れ、上手な人はあまり嘘や変化を見抜かれないが、下手な人は嘘は直ぐにばれ、変化などは直ぐに見抜かれる。ようするに表情に出やすいや雰囲気で分かりやすい人と分かり難い人という訳だが、召喚者になると雰囲気事態が変化するから見抜けなったりする。


 無言で歩いていく俺達はテレビを放送されていた街の中心部、駅前にやってきた。この辺り一帯では一番大きな駅になっている。


 普段から人が多い場所だが、今日はさらに人が多い。ニュースで取り上げられるほどの規模なのだから仕方ないが、今日が休日というのも大きな理由だろう。見る限り、家族連れが多く、時々、手を繋いでいる恋人同士の姿も見受けられる。


「すごい人が多いね!!」


 先ほどまで無言だった凜奈だが、さすがにイベントの様子を見ると元気が出たようだ。俺も無言で居るのは嫌だったので、嬉しい。


「ああ、本当に多いな……」


 賑わう駅前のぐるりと眺めると人が多すぎて何をやっているのか良く見えない。テレビ放送を詳しく見た訳ではないので、俺達はここで何をやっているのかあまり知らないのだ。ただ、凜奈が行きたいと行ったから来ただけといった感じだ。


 しかし、これほど人が多いとなると付いてきただけとはいえ、俺も気になる。


「とりあえず、行ってみようよ」


「そうだな」


 人が多いため、はぐれないようにしながら前に進むと、なにやら出店などがたくさん出ており、少し拓いた場所にはパフォーマンスの人達が何やらやっており、そこに多くの人が集まっている。


 俺達も見える位置まで行くと、どうして大勢の人が集まっているかということを理解した。パフォーマンスをしている集団は以前、テレビに出ていた集団だったからだ。


 黒い服を着た七人の男達がブレイクダンスというダンスをしている。その姿はまるで、どこか古代の武術のように見える。しかし、武術とは違い、男達のダンスは見ている俺達に魅せる物がある。それを口にするのは難しいが、引かれる物があるのだ。


「すごいダンスだね……」


「そうだな。なんか、カッコいいよな……」


 さすがにテレビに出てたことがある集団だけあって、ダンスがうまいのは当たり前なのだが、この人達はお客である俺達に楽しんで貰うということを前提にしながら自分達もダンスを楽しんでいるように見える。結果、それがキレが良く、見ているこちらも楽しいと感じるのではないかと俺は思う。


 数分するとダンスが終わると同時に大きな拍手が沸き起こる。周囲に人達は一緒に来ている人達とダンスの感想を言いながら楽しそうにしている。そして

、全身に汗を掻きながら拍手に手を振る七人の男達も笑顔になっている。


 そう、この駅前という全世界に比べると小さすぎる空間の中……今だけはみんなが笑顔になって、同じ物、同じイベントを体験して楽しいと感じているのだろう。それは俺がなんとしても叶えたい願いの縮小版だったのだ。


 みんなが平和で楽しく、笑いあう世界を作りたいという、不可能に近い願いを持つ、俺の願い。たった、一時かもしれないが、戦争という願いを叶える戦いの勝者として叶えた願いではなく、楽しいという想いで俺の願いは叶ったのだ。ほんの数分、数秒だったとしてもだ。


「俺はこれを永遠にするんだ……」


 それは周囲に居る人には聞こえない、けれど召喚者である凜奈にははっきりと聞こえる声の大きさで呟く。秘めている願いを大きく、そしてこれを叶えるためになら何でもするという決意もある。


 俺が一番世界で望んでいる物。それはみんなの幸せだと強く思わせる。そうすることで俺はこの決意を揺るがすことなく前に進むことが可能になる。胸の中にある熱が本物のように。


「そうだね。これを世界にするんだよね……」


 隣に居る凜奈は俺だけに聞こえる声で呟く。


「ああ。そうだ、絶対に形にする」


 戦争に勝ち抜くには絶対の覚悟は必要になる。それは他人の願いを潰し、自分の願いを叶えるという覚悟と、願いのためにならば誰を傷つけようとも前に進むという覚悟。


 それは召喚者……戦争参加者であれば誰でも持ち合わせていることだろうと思う。


 世界を壊そうとした英雄ジークフリードだって、自分達の願いを叶えるために世界まで壊そうとした。それは普通であれば絶対にしてはいけないことだろうが、心の強さは賞賛に値するだろう。


 自分達の願い。目標を叶えるために他の他者は全て死んでもいいという覚悟、そういう想いを抱え、それを本当に実現しようとした心の強さ。並大抵の奴に出来る行動ではないだろう。願いを叶えるという強い想いを抱えているからこそ出来る行動。


 どっちが正しいかなど、頭が壊れている奴でも理解出来る。世界を征服したいなど考えていた魔女だって、頭の中では自分の行動が可笑しいことなど理解出来ていたはずだ。だが、それでも願った。


 正解と自分の願い。天秤に掛けて自分の願いに傾く人は決して多くはない。例えばそれが自分の全てを捧げても叶えたい願いとなれば、正解など簡単に傾き、そして、自分の願いに流れる。


 人間はやってはいけないことと、自分の願いを叶えるということを天秤に掛ければ、他人の反応が良い方に流されるが、それは心の強さは関係なく、叶える機会が無いためだ。


 人間には叶えられることには限界がある。一人が願ったところで、どんだけ努力を重ねた所で世界が変らないのと同じで、不可能なことが多すぎるのだ。海を上を歩くことが出来ない人間と、出来る召喚者。原理的には足が沈む前に次の足を出すという極めて簡単なことにも関わらず、それが出来ない。それが人間の限界。頭で理解していても実際に行動に移すことが出来ない。不可能だからだ。


 召喚者にもできることは限られている。人間より何もかも勝っている召喚者だが、出来ることと出来ないことがある。海を上を歩くことなど普通にある句より少し速度を上げれば可能だが、大きく影響する願いはどう努力しようが、どうしようもない。


 人間は自分の願いと周囲の反応を見て、流されるが、召喚者は叶えられる機会があるため誰にも流されない。戦争という召喚者同士での殺し合いによって願いを叶えることが出来るのだ。誰も叶えることが出来ない願いを持った召喚者は戦争にかける。自分の命も軽々と。


「他見て回ろうか……なんか、暗い話になってごめん」


 折角楽しみに来ているのに、結局はこのような話になる。俺達の日常生活はもはや戦争が終わるまではないと言ってもいいと思う。心は常に戦争や願い……そして守りたい二人のことを考え、人がたくさん居る場所では無意識に警戒をしてしまう。


 召喚者同士は魔力などで気が付くことが多くあるが、それは同等か下の召喚者の場合で、俺達よりはるかに強い敵の魔力には気が付くことが出来ない。相手も気が付かれないように隠すからだ。


 なので、イベントを見ていながら周囲の警戒を怠ることは絶対にしない。魔術閉鎖空間イージスがあるとはいえ、事件を起した召喚者のように空間を張ることをせずに現実で襲い掛かってくる召喚者も存在しているためだ。


 さらに、事件が起きた場所はここから近いの余計に周囲の警戒をしてしまう。それは自分の願いを叶えたいという想いと守りたいと思っている二人が大切だからで、こればかりは仕方ないのだ。


「大丈夫だよ。海人が望んでいる世界がどんだけ綺麗な世界か一瞬だけでも見れたから……それだけで私は充分だよ」


 俺の目を見ながら言う凜奈の顔は真剣そのもので、嘘や俺を庇っている様子もない。


「ありがとな……」


 いつも素直な凜奈の言葉だからこそ俺は素直に喜ぶことが出来たのだ。


「三人で実現させそうね!」


「そうだな。三人で願いを実現させよう!」


 仮に俺と白雪が戦争の勝者になろうと凜奈の願いを叶えることが出来る訳ではない。これはあくまでも戦争に選ばれた白雪とその約束エンゲージに選ばれた戦争参加者以外叶えることが出来ない。


 けれど、凜奈はそんなこと充分理解しながら俺達と共に戦ってくれる道を選んだ。共に練習して、命を掛けた戦いに参加してくれているのだ。


「本当にありがとな……」


 俺は凜奈にも聞こえないであろう声で呟いた。


「?何か言った??」


「いや、どこから見て回ろうかって」


 素直に伝えるのは恥ずかしいので俺は誤魔化すことにした。呟いた内容が本当に聞こえてかった凜奈は周囲を見渡して、どこに行くのかを考えている様子だ。


「まぁ、時間はたくさんあるし、歩きながらゆっくりと見て回るか」


「そうだね!考えてても仕方ないし!」


 俺達は集団から離れ、二人並んでイベントを回る。ブレイクダンスの人達が終わり、次の人達がやるのも気になるが、折角来たのに集団に混じってみているだけというのもあれなので露店がたくさんある駅の端のほうに向かう。


 露店の前まで行くと、様々なお店があることが確認できる。例えば、祭りなのでよくある、チョコバナナやりんご飴など定番な物が多く、特に目を引くものはないが、こうしてみんなが楽しんでいる雰囲気の中に居るだけで悪い気分や退屈な気分になったりはしなかった。


 何より、隣に居る凜奈がとても楽しそうにしているのが一番の理由だ。旅行に行った時は楽しい思い出になるはずだったのだが、水瀬先生とフロウの戦いに巻き込まれ、楽しい思い出を作るところが、自分達の弱さと、戦争に勝ち残る難しさというのを痛感した。


 それは確かに大切なことだけれども、旅行という当初の目的から外れたことだった。なので、こうして楽しんでいる顔を見るというのはとてもいいことだと感じる。イベントなどで楽しむのは久々なのだ。


「何か食べるのか?」


 ここに来る前に凜奈の料理を食べたので俺はいらないが一応聞いておく。凜奈は色々遠慮とかすることが多いからだ。


「うーん。私もお腹空いてないけど……せっかく来たんだし何か食べようかな?」


「何食べるんだ?あまり高い値段にならなければ奢るぞ?」


「別に大丈夫だよ?お金持ってきているし」


「いや、今日の昼食代だと思って受け取ってくれ」


 凜奈には食事の面だけではなく、色々なこともお世話になっている。学園でもお世話になることが多いのでほんの気持ちだ。こんなことで感謝を返せる訳ないのだが、俺も少しは何かしてあげたい。


「まぁ、深い意味は無いから素直に奢られてくれ。せっかく奢る断られたら俺の立場がない」


「うん、わかった」


 顔は全く納得した雰囲気ではないが、一応肯定してくれたので奢ることにする。まぁ、凜奈のことだから安くで、一つしか選ばないだろうが、そういう性格なので俺にはどうすることも出来ない。


 たくさんある露店を一通り見ていると、不意に凜奈が立ち止まった。それにあわせて俺も立ち止まると、凜奈はある方向を凝視しており、俺もその視線の先に視線を向ける。

 

 視線の先には他の店より小さなお店があり、そこには小さなアクセサリーが並んでいた。イヤリングやネックレス。果物が上に乗っている指輪や鉄のリングなど数多くのアクセサリーが置いてある。


 その中で凝視しているのはパンダのネックレス。鉄の鎖にガラスで出来た可愛らしいパンダが笑っているネックレスを凜奈は凝視していたのだ。


「欲しいのか?」


 我を失ったが如くパンダのネックレスに夢中だった凜奈は俺の言葉が聞こえていないようでずっとネックレスを凝視している。そんな凜奈の口から聞くまでもなくパンダのネックレスが欲しいのだろう。


 凝視している凜奈の顔が真顔なので、店員さんも若干困った様子だ。しかし、凜奈の頭の中では欲しいのだが、買うか買わないかという議論が続いているに違いなく、少しだけ見ていることにする。


 イベントとあって人が多く、止まって凝視している凜奈にぶつかりそうになったりする人が居るが、それにすらも凜奈は気が付かない。普通、召喚者であればぶつかることなどありえないのだが、それだけネックレスが欲しいということなのだろう。


 それから三分ほど経過した。さすがに店員さんもお店の前でずっと立たれているのは迷惑なようで、言葉には出さないが顔には出ている。それにこれ以上は人の迷惑になるのも悪いので、やめさせることにする。


「おい、凜奈。凜奈ーー」


 声をかけても全く反応しない。肩や背中を叩いてもいいのだが、これだけ周囲のことに気が付かない凜奈に触ると、驚いて大変なことになるのは目に見えているので、やらない。


 万が一に反射で殴られたりや投げ飛ばされたりなどしたら嫌だし。


「おーーーーい。凜奈ーー。迷惑だから行くぞ!」


 先ほどよりも少し大きい声で言ったが、全く反応なし、すでに五分程度停止したままになっているが、依然、凜奈の議論は終わる様子はない。さすがに迷惑なので、この凜奈をどうするかを考えるとある結論に至った。


 俺は、お店に並んでいるパンダのネックレスを手に持った。すると、凝視していた物が急に無くなったので、凜奈が驚いた顔で「あれ?ネックレスどこいったの?」と元に戻った。


「これ、欲しいんだろ?」


 パンダのネックレスを凜奈に見せると、息を吐いて安心した様子だった。他の誰かが買うのだと思ったのだろう。


「うん、けど、少し予算的に厳しいからやめることにした」


 そういう凜奈は少し悲しそうで、渋々諦めたのだと伝わってくる。


「だからいっただろ?俺が奢るって。今まで凜奈に世話になったことを思えばこんな値段大したことないから買ってやるよ」


 俺はそういうと凜奈が反対する暇も与えないまま店員さんに「これ買います」と言い、お金を払う。そして、袋に包んでもらい、受け取った瞬間に凜奈に渡す。


「ほら、大事に使えよ?」


 受け取った凜奈は一瞬で花が咲いたような笑顔になったが、直ぐに戻り、ネックレスを返してきた。


「これは海人が買った物だから海人のだよ?」


「男の俺がこんなネックレス持ってても仕方ないだろ?それにさっき、昼食代だって言っただろ?」


「でも、私のご飯はそんなに値段しないし……さすがに悪いよ」


 俺達は小さな頃から一緒なのだからそんな気を使ったりなどしなくていいのに凜奈は気を使う。滅多にそんな光景は見られないが、こうして、ある程度値段がする物を貰ったりすると遠慮したりするのだ。


「それは俺が決めるんだよ。凜奈の昼食はこれ以上の値段がするんだよ。食材とかそういう意味ではなく、味がいいから。だから受け取ってくれ、いつもおいしいもの食べさせてくれるお礼だから」


 再び凜奈に渡し、俺は歩き出す。凜奈も申し訳なさそうな顔をしているが、よっぽど欲しかったのだろう、これ以上は何も言わずに受け取ってくれた。


「ありがとう……大事にするね……」


 そういって大事に鞄に直す。小さい頃から一緒に居る凜奈だからこそ理解出来るが、凜奈が物を大切に扱わない訳がない。それもプレゼントや人から貰った物であれば余計に大切に使うことは充分理解している。


 なので、大事に使えといったが、心の中では大事に使ってくれると理解しているのだ。


「ああ。大事に使ってくれ」


 嬉しそうな凜奈の顔を見て、多少値段はしたが、プレゼントしてよかったと心の底から思えたのだった。






************







 夕日に照らせれる街は赤く染まっていた。それど同時に駅前で行われていたイベントが幕を閉じ、少しづつ人が減っていく光景を見ながら俺達は近くにあったベンチに座っている。


 さすがにイベント終了まで残っている人はさほど多くなかったが、それよりさらに人が減って、残っているのはイベントに参加してお店を出している人や見せ物をしていた人と他少しだけだ。


 学園でも去年に学園際などを体験したが、こうして祭りやイベントというのは終わると実に呆気ないもので、楽しかった時間というのはい嫌で苦痛な時間よりも何倍も早く感じる。


 流れている、体感している時間は全く同じにも関わらずに、自分の気持ち次第では時間というのは長くも短くも感じられるのだ。そう、同じ時間でも笑っている人と泣いている人が居るのと同じように。


「今日はあがとね。付き合ってくれて」


「別にお礼なんていらないよ。俺も楽しかったし」


「うん!私もとても楽しかったよ!!」


 笑顔で言う凜奈の言葉は全く嘘を感じられず、本心から言っているのだと理解出来る。


「欲しかったネックレスも貰ったし……今日は本当にありがとうね」


 周りにも何人かがベンチに座って話しをしているが、どれも女と男という組み合わせで、恋人という関係である人達だろう。俺達はそんな中に混じっているのだから当然、周囲からは恋人として見られているのだろう。


 まぁ、事実はそうではなく、俺達は幼馴染であって恋人ではない。しかし、凜奈を大切に思う想いなら恋人と言う関係よりも強いとという確信だけは胸に感じている。


 周囲にいる恋人を馬鹿にしている訳ではないが、一緒に居る年月が違う。小さい頃から家族のようにして育ってきた俺達は恋人という関係より上に値するに違いない。


 では、何かと聞かれれば答えることは出来ないが、上なのには違いない。


「ねぇ?ネックレスここでつけてもいい?」


「ああ。つけてくれ」


 普段のお礼の代わりなのだが、自分でプレゼントしたネックレスをつけている光景をいち早く見たい。


「うん、少し待ってね?」


 凜奈は鞄から袋に包んだネックレスを取り出し、袋を破る。破るときも丁寧に破る凜奈だが、そこまで大切に思ってくれているという事実が嬉しい。


 袋からネックレスを取り出すと、それをつける。普段、凜奈がそういうアクセサリーなどをつけている光景など見たことがなかったが、さすが女の子で、すぐにネックレスを首をつけ、そして、それを見せて来る。


 赤い夕日にガラスのパンダが輝いてとても綺麗で、凜奈に似合っている。凜奈は大人が付けるような奴ではなく、こいった動物や果物など子供のような物が似合う。


「どう?似合う??」


「ああ。文句なしで似合ってるよ」


 言葉を聴いて凜奈は少しだけ頬を赤くして恥ずかしそうにしている。それは俺の言葉が嘘ではないと気が付いたからだろう。俺達はそれぐらい簡単に気が付けるほど小さい頃から一緒に居るのだ。


 イベントが終わった駅は静かだ。先ほどよりも人が減り、残っている人もそこまで多くない。見渡すとそろそろテントもたたんでおり、片付けも終わるのだろう。


「そろそろ帰るか……白雪も待っているだろうし」


「そうだね。朝に買出したし今日は買い物行かなくてもいいから、帰ろう!」


 買えると決め、二人同時に立ち上がると、不意に違和感を感じた。凜奈も感じたらしく、周囲を見渡している。


 だが、変った光景はなく、イベントに参加いた人は片付け。ベンチに座っている恋人は話しをしていると、先ほどから特に変った光景はなく、気のせいかと思った瞬間、脳に響き渡るような甘い声が聞こえた。


『人々も召喚者も、聖なる聖歌をあたえ給え』


 それは甘く、女の人の声だった。まるで全てを吸い尽くすかのような甘く、甘美な声が聞こえる。


『聖歌は祈りにならん、祈りは聖歌にならん。しかし、憎しみ、憎悪、苦しみは願いになる』


 声が聞こえているのは俺達だけではなく、イベントの片付けをしている人や、ベンチに座っている恋人同士も周囲を見渡している。おそらくだが、声が聞こえる原因を探しているのだろうと予想する。


 だが、声の主は全く見当たらない。


『願いはやがて希望になる。そして、希望とは泡沫であり、掴むことは出来ない。けれど、淡い希望を持たずには居られない』


 聞こえる声が詠唱だと気が付いた時には遅かった。俺達の体は全く動くことも出来なく、ただ、脳に響くような声だけが支配する。


『淡い希望。全てを無にさせる泡沫。今、詩に乗せて万人が信ずる夢を体現する。願わくば、人、総じて幸与えんことを祈り、希望を探し出す』


 言い終わると同時に駅周辺に居た全ての人、召喚者が意識を失う。


 




 

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