意味
街を出た俺と凜奈は人間の速度で舞踏館に向かう。県外にある舞踏館だが、それほど距離が離れていないため、人間の足で向かうことが可能で、三十分ほどで到着した。
召喚者である俺達が人間の速度で走った所で、全く疲れないので三十分という時間で付くことが出来たが、普通の人であればもう少し時間がかかる。街の人達は電車やバスを利用して舞踏館に来ることが多い。
舞踏館は白い外装に丸い卵のような形をした大きな建物だ。県外かたやってくる人達が、公演などを開くぐらいんの建物なので大きいはずだ。俺はそんなのに興味が無いため、来たことがなかったが、テレビなどで見るより大きい。隣で凜奈も周囲を見渡している。
俺の記憶では凜奈は舞踏館に来たことがないはずだ。友達と何をを見に来たなら話は別だが、周囲を見渡しているという状況を見ても、近くにありながらも、一度も来た事がないようだ。
大きな建物なので、街外れに存在する舞踏館だが、公演がある時は人が大勢来ると聞いている。この前に公演があった時も大勢の人が見に来ており、そして大勢の人が一斉に死んだ。
普通の殺し方では不可能な殺し方……そんなことが出来るのは俺達と同じである召喚者という、人間とは別の生き物しかありえない。外傷も無しに人を殺す召喚者など、どんな奴なのかは全く想像出来ないが、召喚者であるという事実だけはゆるぎないだろう。
今まで見たことがない殺人事件であるこの事件は、警察などでの戸惑いも大きいだろう。なぜなら、どう対処したらいいのか全く理解出来ないからだ。殺人事件ということは間違いないのだが、方法が全く理解出来ない。外傷も無し、毒反応もないだろう。それなら人間というカテゴリーしか知らない人では、どう殺されたか、という所までは絶対にたどり着けない。不可能な殺人があったとしか、報道できないのだ。
もちろん、亡くなった遺族の人達からずれば、納得出来る物ではない。どうやって殺したかも理解出来ないのだから、到底犯人を捕まえるということは出来ないからだ。
もしも、万が一に犯人らしき人を捕まえたとしても、全く殺し方が理解出来ないため、すぐに釈放されてしまうだろう。どうやって殺ろしたか理解出来ない……それは殺したという確定が取れないのと同じ意味だからだ。
公演が無い時は静かであろう舞踏館には大勢の警察が居る。少し遠くから眺めている俺達は警察に姿を見られては居ないだろうが、ここに居れば色々聞かれそうだ。しかし、戻る訳には行かない。
県外とはいえ、三十分程度でいける距離にある舞踏館で、召喚者が出たということは戦う可能性が存在しているからだ。もし、戦争の参加者であれば確実に戦うことになるが、参加者ではなくとも、このまま人を殺しし続けるのならば戦う以外に方法はない。
みんなが幸せになれる世界を作りたいというヒーローのような願いを持っている俺は、人々を殺す存在を容認できる訳はなく、召喚者を殺すことさえも躊躇っている。願いを叶えるためにどんなことでもすると誓ったはずなのに、人を殺すということはそれでも簡単に出来る物ではないのだ。
だが、大勢を一斉に殺す召喚者を放置しておく訳にはいかない。今はまだ、舞踏館という範囲だけですんでいるが、街という範囲で人を殺すことが出来るとなれば大勢の人が一瞬で死んでしまう。そんなことは召喚者と戦うことになっても絶対に避けられねばならない展開だ。
召喚者と戦うということは命を掛けて戦うということだが、守りたい物や叶えたい願いがある場合はそんなこと気にしている暇はない。俺達は圧倒的に弱いのだ。
水瀬先生とフロウの戦うは世界中の召喚者の中でもトップレベルの戦いであることは違いないのだが、俺達は戦争の勝者になろうとしている。水瀬先生より強くならなければいけないのだ。
「海人?どうする??」
舞踏館の周囲を見渡していた凜奈だったが、今は警備の方に真剣な目を向けている。警察の数は百人と多いが、今こうしている間にも白雪が色々調べているはずなので、じっとはしていられない。
俺は約束に少し魔力を込めると、白雪がどこにいるかを理解した。予想通りに舞踏館の中に居る白雪だが、魔力などをほとんど感じないので召喚者と戦っているという状況はないようで安心した。
「とりあえず、中に入るか……俺達の姿を見ている者は誰も居ないだろうし……人間では追えない速度で移動して中に侵入すれば、警察にもバレずに中に入ることが出来るはずだ」
「そうだね……それが一番良い方法だね」
「ああ。上の方から侵入するか……」
舞踏館から二百メートルほど離れた場所にある木に登り、そこから軽く脚に魔力を込めて、舞踏館の屋根に飛び移った。人間では捉えることが出来ないはずなので誰にも見られずに屋根に着地した俺達は、人間の視界に入る距離を考えて、行動する。
そして、近くに窓を発見した俺達は、開いていることを確認すると、そのまま中に侵入することに成功した。気配で察するに中には外ほど警察官が居ない様子だった。大勢の人が死んだ理由が不明なので、危険ということで中には人が居ないのだろう。
「とりあえず、中に入ることが出来たから……ホールに向かおうか」
白雪の気配もホールの方面からするので、気配を辿りにホールに向かう。警察に見られないようにするために、慎重に進み、ホールにたどり着くと、そこには誰一人、人間は存在していなかった。
さすがにホールには近づかない警察官。殺し方が不明なので、一番危険な場所には人員を配置していないのだろう。だが、そんな人間が誰一人居ない空間に白雪が居た。
白雪はじっと立ち尽くし、周囲を確認するように見渡すと、何かに導かれるように歩き出し、そして、舞台の上に立つと同時に立ち止まり、目を瞑って魔力を高めた。
静かに高める魔力は〝魔女狩り〟でなかれば感じることの出来ない小さな魔力。しかし、並の召喚者では出来ないほどの濃密な魔力を込める白雪は、ゆっくりと歩き始める。
歩きながらも高まっていく魔力に、何も言えない俺と凜奈は、白雪がしていることを黙ってみているだけだ。何をしようとしているのかは理解出来ないのだが、白雪のすることには意味があるはずだ。
高まっていく魔力が止まると同時に立ち止まっり、後ろを向いていた白雪が、不意に正面を向いた。目は瞑っているが、魔力は濃密なままで、並の召喚者にはできないレベルの流れを使用している。
舞台の中心に居る白雪はしばらくすると瞑っていた目を開いたと同時に、濃密な魔力の気配は、通り雨が引いていくかのように直ぐに無くなり、それが合図で俺は声を掛ける。
「一体何をやっていたんだ?」
事件に召喚者が関わっている事実に気づきながら、俺達二人に話しをしなかったのはと、問いかけたかったが、そんなことしても意味が無いので問いかけない。問いかけたところで、返って来る答えなど容易に想像できる。
「舞台を歩いたり、目を瞑ったり、開いたりしていたけど……」
小さく濃縮された魔力だったため、凜奈は気が付かなかったようだが、白雪は自身の魔力を使って、舞台を調べていたのだろう。何を調べていたかは知らないが……。
「魔力を探していたのよ……ここに来たってことはこの事件に召喚者が関与している可能性に気が付いたからでしょ?」
「ああ。少し気が付くのが遅れてしまったけどな……」
実際に気が付いたのは俺ではなく凜奈なのだが、今は重要なことではないので言わない。
「それで?無いかわかったの??」
「ええ、予想通り……この事件には召喚者が関与しているわ。ローと一緒に調べたから確実だと思うわ」
その言葉に集中力が一気に高まる。事件に召喚者が関与していることはほぼ確実だったが、確証を得るまではわからなかった。確かに、人間には出来ない殺し方だが、谷崎のように俺達召喚者とは別の存在である可能性も考慮しなければならなかったからだ。
普通の人間には召喚者などという選択肢は出てこないが、召喚者を知っている存在であれば、人間には到底出来ない殺し方で大勢が死んだとなれば、それは召喚者のせいではないのかと疑いを持つ。だが、召喚者であり、谷崎のように召喚者ではなく、召喚者の存在を知っている、不思議な存在も世界には存在するはずだ。
普通の人間のように見える谷崎なのだが、どこか普通の人間のようには見えない存在。それは召喚者という存在でも知っている者は多くは居ないはずだ。それを知っている俺だからこそ、召喚者という存在以外にも選択肢が出てきたのだ。
「どうやって大勢の人を殺したかまではわからないけど、近くで大勢殺すことが出来る召喚者が居るという情報だけでも、今後の行動にも影響するでしょうから良い情報だと思うわ」
「そうだな。召喚者のせいという確証を得られただけでも十分だろう……武器の方は殺したかから想像とかすれば、案外、正解にたどり着ける可能性も高くはないが、あるだろうし……」
どんな武器を使うかという一番重要な情報が無いのは残念だが、強い召喚者であれば、自分の武器を悟られたりなどはしないだろう。であれば、今回の召喚者も強いという可能性が高い。水瀬先生やフロウレベルの召喚者である可能性も捨てきれないのだ。
「これからどうするかはまた考えましょ。武器がわからない以上は今まで通りに練習する他ないだろうし。継続は力なりって昔の偉人も言っているぐらいだから、これからも流れの練習とかを続けて、少しずつ強くなっていきましょう。私達は負けられないのだから」
他の召喚者が命を賭けて魔術蒼石を奪おうよするように、俺達のも命を掛けて、奪うしかないのだ。決して常識では叶えることが出来ない願いを叶えられる機会が訪れているのだ。
自分で一番大きな物を賭けずに叶えられる願いなど存在しない。夢は努力しないと叶わないのと同じで、願いを叶えるためには死ぬ覚悟で戦い、勝者となる以外の方法など存在しない。それは俺達だけではなく、戦争に参加している召喚者全員に言えることだ。
「そうだね。初めの頃よりもかなり強くなったし、このまま続けていけばさらに強くなれるよね」
初めて流れの練習をした時などは本当に出来るのかわからなかったが、今は時間はかかるが出来るようになってきているのだ。少しつづだが、時間も短くなって来ている。世界レベルの召喚者に対抗するには流れは絶対に必要なのだ。
水瀬先生やフロウはまるで息をするかのように自然に流れを使用していた。流れをしているかなど全く感じさせないほど自然に発動させていたのだ。あのレベルに達するまでは時間は掛かるが、それでもやるしかない。
「そうだな。一気に強くなる方法なんてないんだから、このまま少しつづ強くなっていく以外の方法はないだろう……ここに現われた召喚者が一体どのぐらい強いかなんて想像出来ないないんだから今まで通りやる……」
「いえ、もう一つわかったことがあるわ」
白雪の言葉に俺は口を閉ざした。今度戦う可能性がある召喚者の情報なのだから一つも聞き逃したりは出来ないからだ。もし、それで命を失ったりする可能性があるからだ。
「ここに現われた召喚者は武器まではわからなかったけど、高い魔力持っていることは確実だわ。あの、水瀬のような桁外れな魔力ではないのだけれど、フロウに匹敵するレベルの召喚者である可能性は十分に高いわ」
話しを区切り、呼吸をしてから、
「もし、魔力が低くて弱い召喚者であれば、まず、こんな大きな舞踏館に集まった大勢の人を一気に殺すことは不可能だから。それに外傷も無しに殺すとなればもっと不可能。大きな傷があったりすれば話は別だけれど、毒を使った反応も無いようだから、精神的に影響する武器である可能性と、大勢の人に掛けれる精神的攻撃である可能性を考えると、世界レベルの召喚者でなければ出来ないわ」
白雪は話す言葉はこの場所や事件の様子だけで判断した予想だけでしかない。だけれど、それは信頼しているパートナーの言葉であるため、全く疑いなくその通りだと思っている。
今まで、十年近く召喚者としてやってきた白雪は俺と凜奈の二人よりも大量知識と経験を持っている。そんな白雪が言うのだから、それは間違いなくそうである可能性が高いのだ。
「それにさっきのは予想だったけど、一番の理由は、私とローがこの場所で一瞬だけ高い魔力が使われたことを察知したからよ」
「予想よりもそっちの方が信じられるな」
「本当にね。予想なんていわなくてもそれだけで信じられたのにね」
俺と凜奈のことばに少し微笑む白雪。俺達三人の関係は確実にパートナーのそれになっている。いや、三人なのだからチームと言ったほうがいいのかもしれないが、三人が信頼しているのだ。
これから三人でずっと戦って、戦争の勝者になれるということを俺は心の底から信じている。白雪と凜奈も同じ思いだったらいいと言葉には出さないが、思っているのだ。
「とりあえず、この場所からわかることはもうないから、とりあえず部屋に戻りましょう。朝ごはん食べてないからお腹が空いて仕方ないのよ」
「わかった。私達はもう食べたけど、軽い物を作って三人で食べよ?一人で寂しく食べるより、三人で話しながら食べたほうが料理は絶対においしいから」
「ああ。そうだな……」
俺達三人の関係が、こんな感じで続くと信じているんだ。
**********
「この近くに居る召喚者は〝魔女狩り〟と〝三日月雷鎌〟だったのか。どうりで強い反応をすると思っていたら、前回の戦勝の優勝の約束か……」
大勢の人間が死んだ舞台の上で、一人の女が三人の様子を見ていた。白雪達は同じ空間にいる召喚者の存在を察知することが出来なかったのだ。変わりに女の方はこちらに向かってくる時に既に察知していた。それほど実力が開いているのだ。
女はこの場に居ることを誰からも察知されていない。人間である警察は勿論のこと、人類が生み出した機械という装置でも女の存在を察知することは出来なかったのだ。それは、三人の召喚者でさえも察知することが出来なかった。
「才能はあるのは言うまでもないか……しかし、まだ弱い。それに魔術蒼石を三つも抱えている」
女は戦争の参加者だ。左手を掲げると同時に一つの魔術蒼石が姿を現し、そして消える。
「まぁ、あの約束であれば相手に不足はないか。確かに弱いが、将来的に化けることも考えたら今、潰しておく必要があるか……」
女から感じる魔力は強大だ。水瀬ほどではないにしろ、世界レベルの召喚者であることは間違いない。そして、今の三人では到底勝つことなど出来る相手ではない。
「どうして、自分達が強い召喚者に狙われることなんて考えてないだろうね……あの感じでは」
どうして世界レベルの召喚者が魔術蒼石を一つしか持っていないかの理由など、三人は全く考えていない。それは単純な理由であるにも関わらず、願いという強い想いに囚われているからこそ気が付かない。
強い召喚者は強い願いを持っているが、それでも冷静なのだ。そして、戦争に勝ち抜くための効率なども冷静に考えれば一般人でも理解出来るレベルなのだ。しかし、三人は気が付かない。
世界をそのまま破壊しようとしていた英雄は一つあれば十分だったという理由もあるが、それよりも願いを叶える方法で一番早い方法を選んだ結果なのだ。だからこそ無理やり壊そうとした。機械の力を使って。
しかし、戦争の勝者になろうとしている召喚者はやはり効率を第一に考えるべきなのだ。水瀬やフロウレベルの召喚者でさへ、魔術蒼石を一つしか持っていなかった理由は単純に、多く集めた者を狩ればいいからだ。
多く持っている者から狩れば、それだけで戦闘回数は減るし、一気に集めることが出来るのだ。それに多く持っているということは他の召喚者から狙われる可能性が高いといことにもなる。
女は相当の相手でなければ負ける気がしていないが、先月、〝世界融合〟という第三次開放の高みに上った水瀬を相手にすれば勝てる見込みは少ない。多く持っていて、もし、襲われたりするば相当のリスクを背負うことになるのだ。
だが、無いも知らない、自分より弱い召喚者がたくさん集めてくれる状況であれば、強い者に狙われるというリスクを背負うよりかなり楽が出来る。それに一気に魔術蒼石が手に入るのだから一石二鳥のだ。
しかし、願いに囚われている海人と白雪はそのことに全く気が付かない。いち早く魔術蒼石を集めようとしているのだ。自殺行為になりかねないと理解もせずに集めてくれるのだ。
「だけど、さすがに前回の勝者だけあるな……頭の回転速度などは速い。それに才能を秘めている。将来的に化けそうなレベルの才能を秘めている」
女は三人の会話が終わると同時に移動を始める。ここで殺すことも可能なのだが、戦いというのは互いが全力を出せる場所でやる物だと思っている女は一旦引く。
「次に会う時は殺すかもしれないが……」
そう呟くと同時に女は姿を消した。
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