事件
水瀬先生がフロウとの勝負に勝ってから二週間が経過した。北海道旅行もあれから特に何も起こらずに、無事に終了した。世界最強レベルの召喚者同士の戦いを見た俺達は北海道から帰ってきてから猛烈に練習をしていた。
魔術閉鎖空間で見ていた二人の戦いは俺の次元を超える戦いだった。能力が強いこともあるが、圧倒的に違う魔力の総量に、第三次開放という召喚者の高み、そして想いの強さ。すべてが俺達よりも上だったのだ。
第三次開放を使える〝世界融合〟という高み。ローとサクが言うには水瀬先生を合わせて、たった三人しか扱うことの出来ない召喚者の高み。魔術蒼石を持っていることから戦うのは必須と言える。
世界でトップ3に入る召喚者が、並の召喚者で勝てる訳などなく、いずれは魔術蒼石を三つ持っている白雪の元に奪いに来るに違いない。そうしたら戦うことは避けられない。なぜなら、俺達はなんとしても願いを叶えなければならないからだ。
全てを集めなければ意味が無い戦争において、数が増えてくるに対して、敵が強敵になっていくことは間違いない。〝世界融合〟を見た俺達は、水瀬先生が負けることなど考えられないため、いずれ戦うことになる。
望む、望まないとしても戦うしかない。世界最強レベルの召喚者が相手だろうと、負ける訳にはいかないのだ。死ぬということなど些細なことなのだが、願いが叶えれなれないというのは最も考えたくないことだ。
なので、俺達が勝ち抜くためにはとりあえず、強くなるしかないのだ。いづれ、戦うとこになるだろう水瀬先生にも勝てるほどに強く成長する以外は願いを叶える方法は存在しない。
学園には必ず行かなくてはならないので、平日は学園に行く前と、帰宅してから流れの使いかたや、魔術閉鎖空間を張っての実戦練習などを繰り返していた。土日などは一日だけ休みにして、他は全て練習に当てていた。
本当は休み時間などないほど切羽詰まっている状態なのだが、休養は召喚者にとっても大事な物なので、必ず一日は休みを取ることにしている。もし、襲われたりなどして、疲労困憊だったら死ぬ可能性があるためだ。
朝に以上に弱かった俺だが、召喚者になってから早く起きることが当たり前になってきたために、今では普通に起きられるようになっている。眠いには仕方ないことだが、そんなこと言っている暇はないのだ。
そして今日は一日休みである日曜日。習慣になりつつある時間に目を覚ました俺は部屋で一人で流れの練習をしていた。白雪と凜奈が居ないため、微量な魔力での練習になるのだが、やらないよりはマシである。
少しづつ溜める時間が短くなって来ているので、このまま練習を繰り返せば、実戦でも使用可能レベルまでは到達するだろう。しかし、まだ、そのレベルに達するまでは時間がかかる。
北海道で水瀬先生とフロウの戦いを見たから余計に時間が掛かることを自覚している。あの二人はもはや流れなどしているか感じさせなかった。それほどに自然に流れを使用できるレベルの召喚者。世界最強レベルの召喚者というのは伊達ではない。
「あの域まで達するのに何年かかるだろうか想像出来ないな……」
早くなって来ているとはいえ、まだまだ実戦では使えないレベルの流れ。並の召喚者であれば俺と白雪のコンビは負けることはないだろうが、戦争に参加している召喚者は総じて強い。俺達では勝てない敵ばかりだ。
そんな敵を倒さなければならないのだから、俺達は頑張るしか方法はない。じっとしているだけで強くなれる人間など居ないように、何もしないで強くなれる召喚者も存在しないのだ。
「だからやるしかない……いつ、殺し合いになるかわからないのだから……」
戦争にルールがあるといえば魔術蒼石を集めるという部分だけで、その他は全てルールなどは存在しない。いつ、襲っても問題などはありましないし、いつ襲われてもおかしくはないのだ。
殺し合いという戦争は相手に勝てば勝者ということになり、負ければ敗者。その他には無いもなく、最後まで勝ちの勝った者が、自身の願いを叶えるとこができるということになる。
「俺は強くなられくてはならない……願いを叶えるためにも二人を守るためにも……」
いつまでも守ってもらう存在ではなく、二人を守ったり、時には助け合いながら戦争を勝ち抜いてきたい。迷惑ばかり掛けているのはパートナーとしては失格もいい所。男である俺が二人の前に立って戦いたいのだ。
それは男であるプライドとかはまるで関係なく、約束という近いを結んだ者同士がパートナーであるのだから、守るのは当たり前なのだ。プライドなど今更残ってなどいないし、邪魔になるなら捨ててもいい。けれど、二人の存在はそんな簡単に割り切ることなど出来ない。幼馴染と約束を結んだパートナー。どちらが大切など比べるとこは出来ないし、比較するとこさえも出来ない。
約束を結んだ当時なら、願いと白雪がどちらが大切かと問われれば間違いなく、願いと答えていただろうが、今は簡単に決めるとこなど絶対に出来ない存在になっているのは違いない。ここまで共に戦ってきたパートナーなのだから当たり前だが、それ以上に……。
「二人を守る。今はそれが一番大切なことだ。それが願いを叶えることにも繋がる」
今のままでは二人を守ることなど到底出来ない。凜奈とは互角に近いし、白雪は未だに格上。そんな二人を俺は守ることなど出来ない。守られる方が断然に多い状態であるほどに弱い。
けれど、今以上に強くなれば二人に守られることよりも守ることが出来る回数が増えるはずだ。結果的に二人を守るために強くなっていくと、願いを叶えることに少しだけだが近づいていくことになる。
「だから少しでも努力を……」
俺は目を瞑り、魔力の流れに集中する。速度の練習はまたこれからやるので今は魔力の練度を強くするための練習。微量な魔力でも、限界まで濃縮することができればかなりの差が出てくる。
今は集中して目を瞑らないと出来ないが、慣れてくると少しづつだが、濃縮された魔力を流れで活用することが出来てくるとサクやローなどが言ってきたため、毎日のように練習する。
魔力を無駄に使うことなく、高い出力をだせる方法で、燃費がよくなるのだ。二週間前に見た、水瀬先生とフロウは、普通に魔力を使用しても自身の最高練度の魔力を使っていたのだろう。だから毎回爆発的な魔力を感じ取ることが出来たし、威力も高かったのだろう。
そして、そこまで出来るようになったのは努力をしたからだ。努力せずにして召喚者は強くなることが出来ないということなので、俺も自分が出来る限りの努力はする。
一時間ほど魔力を濃縮する練習をし終わると、少しだけ休憩を取ることにした。高い集中力が居るため、普段以上に疲れるのだ。根をつめて練習をしたところで成果は出ないので適度に休憩を取る。
ベットにうつ伏せに倒れて、リモコンを手にとってテレビを付ける。まだ、朝が早いためニュースしかやっていないが、それを眺めていると、スポーツ関係だったニュースが、変化した。
それは県外の舞踏館で起こった大量殺人のニュースだった。情報によれば、昨日に公開していた公演が終了した後に内部に居た人が全て死んでいたという事件だった。
亡くなった人の数はおよそ六万人程度。外傷も特にないにも関わらず、全員が死んでいたらしい。舞踏館にも変化はなく、破壊された場所も特にないらしく、人だけが死んでいる状態らしい。
警察も外傷がないため、解剖したらしいのだが、特に異常は無しだったらしく、どうして死んでいるのか理解出来ないために殺人という形にしたらしいのだが、なんせ、殺し方自体が不明なために犯人についても何も把握していない。だから今は殺し方について詳しく調べているということだ。
「外傷に特に異常はない……意味がわからん」
普通の殺人がナイフで刺したり、首を何かで絞めたりというのが一般的に多いが、外傷に異常無しなど珍しい。争った後も無いということなのだから気味が悪いレベルだ。それに、舞踏館に居る人が全員死んだとなれば、個人の殺人ではまず無理だ。
爆弾など使用すれば殺すことは可能かも知れないが、争った形跡がないということはそう言った物は使用されていないと見るべきだろう。それなら毒という方法もあるが……。
「それも現実的ではないか……」
警察も馬鹿ではない。集団殺人で、外傷に傷がないとなれば毒を疑うだろう。それでも殺害方法が不明でわかっていないとなれば、毒殺という線は消えるだろう。
ニュースは少しだけ長く続き、そして、終わりを迎えた。奇妙な事件だったために少し真剣に考えてしまったが、これは俺がどうこう出来る物ではなく、警察が解決する物だ。召喚者である俺は召喚者絡みでしか活躍することは出来ない。
「さて……続きをやるか」
まだ、朝は早い。今日は休む日だとしても練習するしかない。自分達はそれほどに弱いのだから。
それから俺は朝食の時間まで練習をしたのだった。
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練習が終わると、部屋に凜奈が入ってきた。いつも通りに朝食を作ってくれる凜奈に感謝しながら手伝いをして、お皿に盛り付けた料理をダンボール机に移動させた。
周囲の気配を探ってみるが、今日はなぜか白雪の姿が見えない。気配も近くには無いので、どこかに行っているのだろう。
俺達は約束で結ばれたパートナーだ。真剣に探そうとすればすぐに見つかるが、白雪だって一人になりたい時があるはずだ。今がその時間かもしれないので、深くは探さない。召喚者であろうが、人間であろうが、心に傷を抱えたり、何かを想ったりする所は何一つとして変ることはない。
人間が誰かを好きになれるのと同じで、体という部分では根本的にことなるが、気持ちの面では全くの同じなのだ。だから、たとえ召喚者であろうと一人になりたい時が絶対にあるのだ。俺も同じで。
「今日は白雪はいないね……来ると思って三人分作ったのに」
初めは殺しあった二人は今は普通に接することが出来ているため、俺としては嬉しい。白雪はパートナーであり、凜奈は幼馴染という関係。どちらが大切かと聞かれれば答えることは容易ではない。そんな二人が喧嘩するのではなく、仲良くしてくれることは二人を大事に思う俺からすれば嬉しいことなのだ。
「まぁ、どうせお腹空かして帰ってくるだろうから残してやろう」
「そうだね。今日は完全に休日だから何しようが自由だしね」
普段なら練習があるため、自由な時間などほとんど取れない。俺も今日はこれから少し練習して後は休む予定だ。また、明日から全力で頑張れるように。
二人で料理を食べながら何気ない会話をする。学園での出来事や、授業の話。それは俺達が普通の学生だった頃には当たり前だった生活だけれど、今は少しだけ懐かしさを覚える。
今も学園に通っているが、普通の学生としての生活は送ってはいないだろう。昼休みなどは早くご飯を食べて、そのまま流れの練習をしたり、少しでも時間が空けば召喚者としての自分になる。
それは、人間の頃の俺だったらまずありえない生活で、学生の誰もが送ってはいない生活。戦争という命を掛けた争いをしている高校生などほとんど居ないに違いない。
「水瀬先生はどうしてるのかな??」
一旦箸を止めて、俺の方を見る凜奈。二週間前にフロウと戦った水瀬先生のことを覚えている生徒は召喚者である三人だけだった。それ以外は誰も覚えてなどおらず、存在が消えているように思えた。
「わからない……けど、いつかはきっと戦うだろう」
それは確信めいた物だった。そして、その時までには必ず強くならなくてはいけない。二人を守るためにはそれ以外に方法はないのだ。
「そうだね……あの時は逃してもらったけど、次は殺し合いになるよね……」
少し悲しそうな顔になる凜奈だが、それはどうすることも出来ない。召喚者として戦争に参加している者は総じて、何かしらの願いを持っている。それは俺達も同じで、白雪もまた同じだ。
絶対に叶えることが出来ない願いを抱えている召喚者は戦争の勝者になって願いを叶えたいと強く願う。十三人という数少ない中から選ばれる戦争の参加者。願いを叶える機会なにだから皆、全力で戦う。
水瀬先生も俺達も同じで、絶対に叶えたい願いが存在する。それを叶えるためには他の参加者から魔術蒼石を奪い以外の方法は存在しない。だから全力で敵と戦うのだ。たとえ、自分の命を掛けたとしても叶えたい願いがあるから。
「そうだよね……仕方ないよね。そうすることでしか……殺しあうことでしか願いを叶えられないのなら、殺しあう以外の方法は存在しないよね」
俺の顔を見て察したのか、凜奈はそう呟いた。しかし、凜奈の言う通りで仕方ないのだ。これは戦争なのだから。
少し重くなる空気。居心地は良かった空気ななくなり、全て仕方ないと諦める俺達。昔、世界で戦争が勃発していたのと同じで、自分の願いや想いを突き通すには戦う以外の方法はないのだ。
召喚者という存在は、相手と殺し合うために生まれてきたといっても間違いではないはずだ。なぜなら、武器を召喚したりなど、どう考えても殺しあうために生まれてきたとしか考えられないからだ。
願いを叶える戦争という物があるのも大きな理由だ。
「……あ、そういえば、ニュース見たか??あの舞踏館の」
「見たよ。不自然な殺人があったていう……」
話題を変えたかったのだが、印象に残っている話題といえばこれしかなかった。殺人関係だが、水瀬先生といつか殺しあうという現実よりは軽い気がしてこの話題にした。なぜなら人は他人のことなどどうでもいいという考えが存在するからだ。
「そう。それだ。争った形跡もなく、外傷もない。けれど、舞踏館に居た人達は全員死んでいる……」
「まるで、集団自殺のようにも思えるけど……それはないかな。不自然な殺人。しかも、この街からそれほど距離が離れていない場所での殺人」
「凜奈??」
凜奈は顎に手をあてて、考え事をしている。幼馴染だから理解出来るが、凜奈が顎に手をあてて考え事をしている時は何か不自然なことなどに気が付いた時に考える仕草だ。
俺より、頭のいい凜奈は何かこの不自然な大量殺人で可笑しなことに気が付いたようだ。舞踏館に居た全員が死んだ事件。外傷も特に無しで、争った形跡もない。
ニュースでやってきた内容以外は何一つとして情報がない中で凜奈は俺とは違う……いや、警察とも違う考えを見つけたようだ。
「近く……そして、こんな事件があった日に居ない白雪……なるほど……警察が頑張っても無いも分からない理由がわかった」
「どいういことだ??」
人間とは言え、警察は事件を解決するに長けている集団だ。特に日本の警察は世界的に見ても優秀でだ。そんな警察ですら理解出来ないことを凜奈は解いたというのか??
「この事件は警察の管轄じゃない。たぶんだけど召喚者の管轄。舞踏館に居た全員を外傷無しで殺すことが出来る存在なんて、一つしか考えなれない。召喚者以外はありえない。今日に限って白雪が居ない理由が理解出来た。白雪はこのことにいち早く気が付いたから調べているんだと思う。近くに強い召喚者が居ると悟ったから」
どうして俺は気が付かなかった。そもそも、人間が人間を殺すときは道具を使う以外ではほとんど無理だ。首を絞めたりすれば外傷が残るので、この事件ではありえない。舞踏館という人がたくさん居る中で実行することは不可能に近いし、全員を殺すことなど不可能。
爆弾ではもく、毒物でもない。それでは人間は人を殺すことなど不可能だ。そうなればおのずと答えが出てくる。犯人は人間ではなく、俺達と同じ召喚者であるという答えに。
「海人でも魔力を感じなかったということは、水瀬先生ほどではないと思うけど、強者で間違いないはず。だから、白雪は今は居ない。強者である召喚者の情報を掴むために」
俺達はその結論に至ると同時に直ぐに、料理を食べて、準備をする。どうして白雪がそのことを教えてくれなかったのかは想像が付くが、その事実を知って一人でやらす訳には行かない。下手をすれば召喚者と戦う可能性だったあるのだから。
俺達は直ぐに街に出た。
読んでくださってありがとうございます!




