差
フロウの回避場所などを予測した水瀬は一切の迷いもなくフロウを殺すために炎を放出する。触れた物全てを灰燼と化す炎を操る水瀬の目は炎と同じ真紅の色を放ちながら魔法陣を浮かべる。
一切の油断も慢心も命を危険になるということは先ほどの細氷の時に体験したので今度は確実に殺したという確証を得るまでは攻撃を続ける。
水瀬を合わせて三人しか存在しない〝世界融合〟の使い手になった水瀬は、自身が渇望した世界と融合をして、炎の魔人に変化をしていた。腰までの伸びた黒い髪が真紅に変ったことや、瞳が真紅に変ったことはそのことが理由である。
〝世界融合〟というのは第三次開放で外に放出した渇望を、もう一度自身の中に取り入れて、強い想いと共に爆発的に増幅されて自分自身が渇望した世界になる技だ。
強い想いで使えるようになる第三次開放よりさらに一つ上の高み。使える者以外は〝世界融合〟の方法すらも理解出来ないと言われている高みに上った水瀬はもはやフロウなど敵ではなかった。
放出した炎がフロウを襲うと同時に真紅の瞳に映った魔法陣が回転し、瞳に映っている全てが焼きつくされる。第三次開放の時とは質が変った炎は全てを灰燼と化す炎に変化したのだ。
水瀬の炎は物体以外を燃やすことは出来なかったが、今の水瀬は全てを燃やすことが出来る。フロウの細氷を燃やしたように、他の水や雷、土といった全てを燃やすことが可能であり、触れた瞬間に絶命する。一切も残らずに消滅するのだ。
油断が命取りになる戦いであることを自覚している水瀬はさらに一つの技を仕掛ける。先ほどとは比べ物にならない魔力を放出させながら足元に浮ぶ魔法陣が高速に回転を始め、停止すると同時に黒い炎に変化する。
「漆黒の炎よ……全てを燃やし尽くせ」
真紅色をしていた炎は一瞬で漆黒の色に変り、燃え続ける。真紅の炎は相手を灰燼に化す炎なのだが、漆黒の炎は狙った物体などが完全に燃え尽きるまで燃え続ける炎なのだ。
〝世界融合〟の使い手となった水瀬とフロウでは絶対的な差が空いているのだが、仮にもフロウは世界最強クラスの召喚者と言われるほどの強さを持っていることには違いない。先ほどの細氷のような予想外の攻撃をしてきたように、全てを灰燼と化す炎を防ぐ可能性があると水瀬は踏んだのだ。そして、対象を燃やすまで燃える炎に変化したのだ。
数々の召喚者の中で、漆黒の炎を使用することが出来たのは水瀬だけだった。初めて召喚者という存在が現われてから今まで、誰一人として使用出来る者は現われなかったのだ。水瀬が始めて漆黒の炎を使用した召喚者なのだ。その事実だけで、どれほどの才能があったかは言うまでもない。
「永遠に燃え続ける炎は存在しない……だが、全てを燃やすまでは炎は勢いを弱めることはない」
家事などで炎が燃やす物がなくなるまで消えないのと同じで、水瀬の炎は消えない。何をされても対象を……フロウを消すまでは消えることがない漆黒の炎はいまだに燃え続けている。
「隆弘……航……私は絶対に優勝するからね……」
言葉を発しながらも決してフロウが居る場所から目を逸らさない水瀬だが、勝利を確信していた。先ほどなで存在感が伝わってきていたのに対して今はそれほど感じない。それが意味することはつまり、終わりだということだ。
人間にも気配があるよるに召喚者にも気配は存在する。人間からしたら召喚者と人間の区別などまるいで付かないが、召喚者からすれば、はっきりと区別が付くのだ。フロウほどの召喚者になると魔力も隠すことが出来るが、今は漆黒の炎に焼かれていてそれどここではないのだ。だから勝利を確信していたのだ。
演技などしている暇はないから……存在感がなくなって来ていることを信じられるからだ。
見守る水瀬だったが、燃え続けてから一分経過したあたりで、漆黒の炎の勢いが弱くなってきて、そして、数秒後には完全に消えてしまった。燃え続けていた場所には誰一人居らず、ただ燃えた後だけが残っていた。
「殺したか……」
完全に存在感が無くなっていることを確認すると同時に、空中に蒼い石が浮かび上がる。
(魔術蒼石)
願いが叶う戦争で、勝者になるために必要な石。参加者だったフロウが死んだから、空中に現われたのだ。それにそっと手をかざすと同時に、蒼く光り輝き、水瀬は自分のを合わせて二つの石を獲得した。
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魔術閉鎖空間の中で見ていた三人は戦慄していた。決着が付いたと思われたフロウと水瀬の勝敗が逆転したということもそこには含まれるが、それ以上に自分達が倒さなければならない敵の強大さに。
第三次開放を使う水瀬にはどう頑張っても今の三人では太刀打ち出来ない相手であることは理解しているが、この僅か数分という中で、その差はさらに大きく開いた。絶望的なまでの大きな差に開いたのだ。
世界最強クラスだった水瀬はさらに強大な召喚者へと変貌してしまい、自分達が水瀬を倒せる確率はさなに激減してしまった。ほぼゼロといっても差し支えないほどに減ってしまったのだ。
水瀬がフロウより高みに上ったのは三人には理解出来ていた。何がどうなったまでは理解出来ていないが、急激に膨れ上がった魔力に、遠目から見ているだけで理解出来るほどの凶悪な炎。漆黒の炎などいまだかつて見たことも聞いたこともない。
フロウと互角だった炎は一瞬で氷を溶かし、フロウ本人も完全に居なくなってしまった。三人共、フロウの魔力を感じて居ないので、死んだことは確実だった。それは覆しようもない事実で、第三次開放という世界で数人しか扱うことの出来ない高みに上った人物が、世界から姿を消したということの証明だった。
自分達が今まで戦ってきた召喚者とは次元が違うほど強い二人だったが、残ったのは皮肉にも今まで教師として接してきた水瀬だった。その意味することはいつか戦う運命にあるということだった。
他の召喚者が水瀬を倒すという選択肢も無いわけではないのだが、白雪と海人はその可能性は無いと感覚で理解している。今はまだ戦わなくても、いつかは殺しあうことになるという事実を。
正直なところ、今の二人ではどうすることも出来ない。それは近くで水瀬の力を見ていた二人の方が圧倒的に理解していることで、誰かに言われなくても知っていることだ。
自分達の力は自分達が一番理解しているのだから、勝てない敵など対峙した瞬間から理解出来ている。英雄の時も勝てないと何度も思ったが、結局勝つことが出来た……しかし、それはそんなレベルの差ではない。
人間が召喚者に勝てないとの同じで、水瀬には勝てないのだ。だが、別に二人が弱いからそうである訳ではない。今の水瀬に勝てる召喚者など五人も存在しないだろう。それほどに強いのだ。
「水瀬先生……」
海人は静かに呟いた。海人とって水瀬は一年生の時から担任でお世話になっている先生なのだ。それは召喚者という事実に気が付いたとしても変らずにそう思っている海人だったが、その感情が捨てなければならない。
次に出会うときは生徒と教師という立場など関係ないからだ。殺しあうことでしか自分の願いを叶えられない召喚者は、戦争という戦いに参加している以上は戦う以外に方法は無く、水瀬は海人達よりも強い願いを思っている。だからこそ、第三次開放を使用することも出来るし、その先の高みに上ることが出来たのだ。
「……倒せる気がしないわね」
感じたままに口に出した白雪だったが、事実で、今の白雪では奇跡に奇跡が起こった所で勝てる相手ではない。何をするべきか、守りたかった物は何なのかを理解している水瀬には魔術蒼石を持っているという事実だけで相手を殺すことに意味があるのだ。
それだけ強い想いで戦争に挑み、そして相手を容赦なく殺す。それは全てを受け入れて、自分以外の他の誰かのために願いを叶えてたいという想いを持っていなければ容易に出来ることではない。
誰かを想い、誰かのために渇望するからこそ召喚者は強くなるのだ。想いという物が一番反映する召喚者では、強い想いを持っている者が弱いなどということは絶対にありえない。強い者だからこそ強い想いを抱えているのだ。そして、それを叶えようとする強い想いで、他の召喚者を殺すのだ。
三人は髪が真紅色に変化した水瀬を一瞬たりとも目を離さなかった。水瀬は完全に敵なのだ。勝てないと理解していながらも、召喚者としても力が働いてしまい、水瀬の行動をずっと見てしまう。襲われないように。
サクとローは黙って考えていた。これから戦争に参加していくにあたって、水瀬と戦うことになるのは理解しているはずだが、今のままでは戦っても殺されるだけだという状況。二人を近くで見てきたからこそ、サクとローは考えて、そして、言葉を放つ。
〝相棒……これが召喚者の高みに最も上った召喚者の強さだ……第三次開放の高みに上った者の強さ……たった世界で三人しか扱うことの出来ない〝世界融合〟という高みに上った召喚者だ〟
三人は〝世界融合〟という言葉は知らない。そもそも、第三次開放も知らなかった三人がその高みのことなど理解しているはずも無かった。なので、サクとローは話す。自分が知っている〝世界融合〟のことに付いて。
〝あれは召喚者という中には当てはまらない者達が使う高み。渇望した世界を自分に取り込み、それと融合する高みだ。使い方などは全く解明されていない。高みの上った本人しか理解出来ないからだ〟
〝世界融合〟のことについてはあまりに情報が少ないのだ。使える者が少ないという点も理由に存在しているが、何より、発動条件がまるで解明されていないためだ。高みの上った本人以外は理解出来ないので、口に出すことは出来ない。たぶん、それは本人の心の奥に触れてしまうとこになるから。だから誰も使い方を理解していないし、使える条件も不明なのだ。
三人が口を割らない限り、今の段階では解明することは不可能となっている。しかし、目撃だけはされているので、一部の召喚者だけはどういった能力は理解出来ている。そして、その強さも。
〝今の相棒達では第三次開放という高み上ることも出来ない。そんな召喚者が勝てる相手ではない。けれど諦めるなよ?お前達はいずれ世界最強も超える才能を持っているのだから〟
サクがそれを言うと同時に水瀬は姿を消し、魔術閉鎖空間は解除されて普通の世界に戻った。召喚者が殺しあう世界ではなく、人間が住む世界に戻ってきたのだ。
そのことに気が付いた三人は、口を開くこともせずにホテルに戻った。
三人は絶対に今のままでは勝てないということを理解しているが、諦めては居なかった。三人には願いがあるのだから簡単に諦めれることではないのだ。特に戦争に参加している白雪と海人はなお更。
願いを叶えるためにどんなことでもすると誓ったのだ。今は勝てなくてもいつかは必ず倒すと胸に秘めている……
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