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約束(エンゲージ)  作者: 千歳瑠璃
炎氷舞
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融合

それはある幸せな日常から一転し地獄に落ちた日の出来事。水瀬は教師となり学校に行き、隆弘はもうすぐ小学生になる航を幼稚園に送ってから仕事に向かう。


 何年も続けてきた幸せな日常は朝までは何も変化もなく続いていた。隆弘と出会ってから本当に幸せだった水瀬。召喚者の身でありながら人間としての幸せを掴みかけていた……いや、掴んでいると信じていた水瀬は仕事に行きながら夜のことを考えていた。


 今日は隆弘と施説でであってから十年目の記念日になるのだ。さすがに仕事を休む訳には行かないので、夜になってから祝うのだが、学校側にも言って今日は早めに帰らせて貰うことになっていた。


 車に乗り、学校まで数十分の道のりを夜のことに想いを馳せながら運転し、到着すると同時に気持ちを入れ替える。教師という仕事は生徒に勉強を教えるだけの存在ではなく、学校では両親のような物なのだ。何かあったりすると守らなければならないし、何か考え事をしていると生徒も察知して聞いてくるのだ。


 時には他の教師にも心配を掛けたりする場合もあるので、気持ちを入れ替えなければ夜のことをずっと考えてしまうのだ。記念日というのは夫婦にとっては本当に大切な物など水瀬は思っている。


 自分の両親が仲が良かった時は結婚記念日や誕生日。出あった日など他の行事でもしっかり祝ったり、今までの感謝の気持ちを言ったりなど色々していた記憶がある。今、思えばああいうことをしていたから仲が良かったのだと理解出来る。


 車から降り、鞄を持って職員室に向かう途中で、朝早くから来ている生徒に挨拶をしながら歩き、少し歩くと職員室に入った。


「おはようございます」


 挨拶をしながら教室に入ると、「おはようございます」という挨拶を聞きながら自分の机に座り、今日の授業の予定を見る。


 水瀬は高校の教師になってから数年が経過している。しかし、他の教師からしてみればそれでも新人で、長い人で二十年教師をしている人だって学校には居るのだ。そんな長い人でさえも、毎日朝来ると授業の確認や、内容の予習などしている。


 新人である水瀬にとってそれは衝撃的な光景で、それを見て以来、授業の内容の予習などを毎朝会議が始まるまでするようになったのだ。いくら頭の回転が速い召喚者でも、長年やってきている人と比べると劣る場所もあるかもしれない。長年培った勘などはどうやっても水瀬には理解出来ない物なのだ。


 軽く予習が終わり、会議が始まると同時に他の教師達は立ち上がり、校長の話を聞く。それが終わると一限目の授業の用意を抱えて、自分が教える教室に向かう。


 今まで何年も繰り返してきた生活にはリズムが出来ている。学校までは比較的近い水瀬であっても朝早くに起きて家族の朝ご飯を作ってから学校に来るように、朝早くに起きている内にいつの間にか起きられるようになってるのだ。


 リズムというのは日常生活をする上でとても大切で、人は一度リズムが崩れてしまうと、召喚者である水瀬でも立て直すのは容易ではなくなる。なので、水瀬は毎日同じ時間に起きたりなどしてリズムを刻み続けているのだ。


 いつも通りに授業をして、部活も終わり、全校生徒が帰った頃に水瀬は帰宅する準備をする。今日のことは伝えてあるので仕事はまだ残っているが、それは後で自分がやるので関係ない。


「おつかれさまです」


 一言掛けてから職員室を後にして、水瀬は車に乗り込み、家に帰る。学校を出た水瀬の気持ちは完全に夜の出来事に移り変わり、運転しながら楽しみにしてし数十分の道のりを車で帰っていると、不思議な感覚を覚えた。


 それは人間の感覚ではなく召喚者としての感覚。詳しいことまでは理解出来ないが、何かよくないことが起こる感覚が全身を巡っている。そして、この感覚が当たることを水瀬は知っている。


 今まで召喚者として生きてきてなくても、体は才能ある召喚者の体。時々、色々ことを感覚で察知することは日常生活を送っている中でも頻繁に起こることなのだ。


 今までも感覚で捉えたことが外れたことは一度も無い。それも、他の召喚者絡みの出来事ではの話だ。今回も感覚で捉えたということは召喚者絡みの出来事なのだろうと推察する水瀬。今までは自分の感覚を信じて召喚者関係を回避してきたのだが……。


(クソ……)


 今回はどう頑張っても回避できないと感覚が言っているのだ。今までそんなこと無かったにも関わらず、大切な日に限って絶対に召喚者にぶつかると外れたことが無い勘が言っている。


(それも強力な召喚者とぶつかる……)


 この感覚が回避出来ないといっているのだから回避で出来ないと諦めて、車を走らせる水瀬。そして家まであと五分程度という場所まで来ると体が不思議な感覚に包まれた。


魔術閉鎖空間イージスか……」


 魔術閉鎖空間内に入ると同時に水瀬は周囲の魔力を探る。車を止めて、荷物を全て中に置いて動きやすい格好になる。


「魔力は思ったより高くないな……」


 空間内に居る召喚者の魔力を瞬時に完治した水瀬は相手の実力を瞬時に判断する。その結果、相手はどう頑張っても自分には勝てないという判断に至り、ゆっくりと接近する。


 水瀬は高い魔力に〝瞬間放火ゼロファイア〟という優れた能力を持っているから相手を弱く感じるが、一般的な召喚者ではかなり強い方の魔力を感じている。負けることはまず無いが、万が一にも備えて相手に気付かれないように接近し、体内でゆっくりと魔力を練る。


 そして、相手の近くまで行くと、そこには老人が一人立っていた。見た目では五十代後半と見られる白髪や皺などがあり、感じている魔力以上に弱く感じられる。


(けれど、油断は絶対に出来ない……)


 仮にも老人は召喚者なのだ。人間とは違い、自分を殺すことが可能な存在相手に警戒しないなど愚痴の極みだ。強い召喚者だからこそ、どんな相手にも油断はしないのだ。格下が相手でも作戦と能力の使い方で、格上を殺すことが出来ることを理解しているからだ。


気配を消して、ゆっくり近づいていく水瀬だったが、老人はまるでそれが意味の無いことだと馬鹿にするような笑みを浮けべて、水瀬の方を見た瞬間に説背筋が凍り付いた。


「なっ!なんだこれ……」


 水瀬は驚きのあまり声を上げてしまった。しかし、その驚きは当然のことだろう。


 先ほど感じていた魔力はまるで桁外れの魔力を感じとったのだから。それも他の召喚者よりとかそんな程度の低い話などではなく、今までに感じたことがない魔力の量。水瀬など塵に感じるほどの魔力。


 水瀬は勘などではなく、素直に勝てる相手ではないと悟り、逃げようと脚を踏み出そうとした瞬間、


「あっと、どこに行くんだ瞬間放火ゼロファイア


「!?」


 脚を踏み出す前に老人が水瀬の正面に笑いながら居たのだ。


(一体どうなっている……)


 召喚者の戦いで冷静差をなくしてしまえばそれで終わりだ。先ほどは桁外れの魔力に驚いたが、世界には水瀬より強い召喚者はたくさんは居なくて、居るのだ。目の前に居る召喚者がそれに入るだけでやることは対して変化はない。


 人間として幸せな家庭を持っている水瀬はこんな所で死ぬ訳にはいかないのだ。まだ、夢の途中で叶えられていないのだから相手が強いといっても絶対に敗北だけはしてはならない。


 正面に居る老人から地面を強く蹴った、後ろに回避した水瀬は殺気を込めて睨んだ。今まで水瀬が相手にしてきた召喚者の大多数が、睨んだだけで実力差を知り、命乞いまでしてくる奴も居たが、目の前の老人は殺気を軽く受け流している。


 水瀬と老人の実力はこの一面だけでも明らかにだった。


「ほぉ……全く魔力も使用していなかったなにこれほどの殺気を放てるか……さすが〝瞬間放火ゼロファイア〟の中でも一番の才能の持ち主。鍛えれば歴代最強になれるか……」


 老人は水瀬を見ながら分析をしている。対して水瀬は老人の実力に対して何一つとして情報がない。魔力に関しては理解出来るのだが、格上の召喚者と戦うのにこれだけの情報では絶対に足りない。


「それで……やる気になったか?逃げなれないというのは理解していると思うが……生き残るには俺を殺すしかないぞ?」


 挑発的な笑みの老人に、


「わかってる。だからお前を殺す」


 情報がないため、威勢を張る以外に何もない水瀬。しかし、見つめられている水瀬はまるいで、老人に心の中までも全てを見透かされている気分に陥っている。


「それはまぁ……それなら少しだけ実力差を見せてやろう……」


 老人がそう言った瞬間に、世界が変化した。それはまるで、渦巻きのような回転している世界で、時間や空間、次元が全て合わさった道の空間。そんな空間に水瀬は居たのだ。


「ここは……」


 瞬間、水瀬は全身が死にたくなるほどの魔力を感じた。それは先ほど感じた桁外れの魔力が、蟻のように小さく感じられるほどの魔力で、咄嗟に目の前に居る召喚者の存在が理解出来た。


「お、お前は……」


「やっとわかったかね?」


 睨む老人から発せられる魔力は召喚者というカテゴリーを遥かに超越していた。目の前に居る老人が世界であるかのような存在感に、渦巻きのような見たことが無い空間。そんなことが出来る存在を水瀬は一人しか知らない。


「〝零世界〟……世界最強の召喚者……」


「正解だ。まぁ、ここまでして気が付かない奴は糞だがね」


 水瀬はただ絶望しかなかった。目の前に居る存在は自分がどうこう出来る相手ではない。対峙した時点で自分の敗北……死が確定してるような相手。召喚者であって、召喚者を超越している存在である〝零世界〟


 本来はこうして話しをしていることだけでも奇跡に近い。理由は、姿を見た瞬間に殺されるからだ。


「どうしてお前が私を……」


 水瀬は〝零世界〟が自分から他の召喚者を殺しに行くなどという話を聞いたことが無かった。喧嘩を売れば瞬殺で殺されるという話は耳に聞いたことがあったが、こんな怪物に喧嘩を売るほど馬鹿ではない。勝てないと理解している相手に喧嘩を売るなどただの自殺願望者と同じだ。


 人間として幸せに暮らしていた水瀬は〝零世界〟に喧嘩売るようなことなどした覚えはない。こうして直接襲われる理由が水瀬には全く見に覚えがないのだ。


「私は別にお前を殺しに来たわけではない……しいて言えば、お前の周りを殺しに着た」


 その言葉を理解出来ないほど水瀬慌ててなどいない。水瀬の周りといえば、掛け替えの無い大切な隆弘と航以外に思い当たる節は存在しない。だが、それを聞いて肯定できるほど落ちぶれても居ない。


 召喚者になる前はとても幸せだった水瀬の人生。友達にも恵まれ、優しい両親を持った水瀬だったが、召喚者になってからはそれが全て壊れてしまった。けれど隆弘と出会い、もう一度掴んでしまった人間としての幸せ。さらにそこに航という子供まで出来たのだ。水瀬は今が人生で一番楽しいと感じているのだ。


 両親と居たあの頃よりもずっと楽しいと、幸せだと感じている。それを壊すと……自分の大切な人を殺すと言われて黙って殺されるのを見ることなど水瀬には当然出来ない。自分が出来る限り……勝てる見込みは皆無だが、やるしかない。守ると決めたのだから。


「私と戦うのか?勝てないことなど理解しているつもりだが……」


「あ、ああ。理解している。だけど大切な人だから負けると理解していてもやるしかない」


 周囲を見渡すが、そこは時間や空間。次元までもが混じった未知の世界。これは間違いなく〝零世界〟の領域。普通に戦っても勝てる見込みは皆無なのだから〝零世界〟の領域で戦えばそれ以上に低い勝率。しかし、諦める訳にはいない。


「そうか……では」


 水瀬は殺気を感じ、魔力を目に込めて炎を出そうとするが、そんなこと無意味だった。それよりも〝零世界〟が行動しており、水瀬は未知の何かに飲み込まれて、この世界の水瀬は一瞬で死んだ。




「っ!」


 目を開けるとそこは魔術閉鎖空間イージスの中だった。時間と空間と次元が混じった空間ではないく、水瀬が住み慣れている住宅街。そこに〝零世界〟と一緒に居たのだ。


「何が起こってるか理解できんだろ?心配するな。殺さないといったはずだ。お前のような才能の持ち主を殺すなどありえん」


 狂ったような笑みを浮かべる〝零世界〟は、手に桁外れの魔力を込めると同時に水瀬の目の前に空間が歪む。甲高い音を立てながら歪む時空から二人の人間の気配を感じた。


 それは自分にとって最も大切な二人の気配。間違いなどしないほど一緒に居た二人の気配は魔術閉鎖空間イージスという召喚者の世界に無理やり移動させられる。


〝零世界〟の能力は誰一人として詳しく理解している者は居ない。本人以外は全く能力を理解していないのだが、噂で広がっている能力では空間全てを操るとされているのだが、水瀬は今日で確信した。


 空間などという生ぬるい物ではなく、全ての時間と空間、次元までをも掌握する能力。先ほど確かに死んだはずなのに今。こうして生きている理由も簡単ながら説明できる水瀬。


 先ほどの自分は自分であって自分ではないのだ。どこかにある可能性という世界を使って、他の世界の水瀬を殺したのだ。だが、同じ人物である以上は記憶は共有される。


 だから先ほど居た空間のことを覚えているし、こうして感覚でだが、〝零世界〟の能力を察知することが出来たのだ。先ほど死んだ自分が能力を感覚で解析してくれたからだ。


「人間というのは儚く弱い生き物だ……我々召喚者とは絶対に同じ道を歩むことは出来ない」


 歪む空間から出てきたのは大切な家族である二人。その二人は家で水瀬と隆弘の祝いの準備を進めている途中で、〝零世界〟に空間と繋げられて強制的に召喚者の舞台に上がり込んだ。普通に生きている人であれば知るはずの無い世界に上がりこまされたのだ。


 急に家から近くの住宅街に移動させられた二人は突然の出来事に驚き、周囲を見渡して、水瀬の存在に気が付いた。


「一体どうなっているんだ……?」


 突然移動させられたことだけでも混乱しているのに、その場所には自分の妻が居たという状況にさらに事態が読み込めない隆弘は水瀬に聞く以外の方法をしらなかった。だが、本当のことなど言える訳ない水瀬は目を逸らして、背後に居る化け物に注意を向ける。


 自分で掴んだ人間としての幸せの象徴である二人をこんな場所で殺される訳にはいかない。本当に大好きな人が居なくなる悲しみは小さい頃に味わったのだ。もう二度と味わいたくは無い。


「どうなっているかは理解しなくてもいい。今からお前達が死ぬという事実だけを理解出来ていれば充分だ」


 そう言う〝零世界〟の手に魔力が集まる。今まで感じたことがない密度の魔力は手に集まっている分だけで今の水瀬の魔力を軽く越え、絶対的な差があると実感させられるが、それでも引くわけには行かない。守りたい物があれば自分で行動する以外に無いのだ。誰かが自分の大切な者を守ってくれるなどというヒーロー物のような展開など現実には絶対に無い。


 もし、そんなヒーローのような者が居るのであれば、私は召喚者などにはならず、今も普通の人間の体で生活していたに違いない。けれど、召喚者になったことを恨んではいない。


 召喚者になり、両親が離婚しなければ隆弘に出会うことは無かったのだ。まさしく、召喚者になったことで隆弘と結ばれたのだから感謝すれど恨むことなど絶対に出来ない。それをしてしまえば今の幸せな気持ちが全て偽りに変化してしまう。


 水瀬は勝てるはずの無い闘いに挑もうと流れを使い、目に魔力を送った瞬間に全てが終わっていた。〝零世界〟が手に込めた魔力が住宅外全てを囲うと同時に次元が歪む。そして、歪んだ先に見えたのは新たな新天地である世界。


「物理的には殺さんが……この世界では死んでもらう。その方が希望が残っていいだろう」


 住宅街を覆った魔力とその先に見える新天地が一度だけ激しく光ると同時に世界が重なり合う。本来は別の空間と次元にある世界なのだが〝零世界〟の能力で重なり合うことがない世界を強制的に重なり合わせる。そして、その結果が二人のこの世からの消失だった。


 重なった世界が突然二人を吸い上げた。まるで、掃除機が塵を吸い上げる速さのような速度で二人は空中に見える新天地に吸い込まれると同時に世界の扉が閉じて、住宅街を覆っていた魔力は泡のように消える。


目の前に居た大切な二人も共に。


 まるで一瞬の出来事で何が起きたか理解出来なかった水瀬だったが、唯一理解出来ることがあった。それは、二人はこの世界に存在していないという最大の事実だけは理解出来ていた。


「よくも……」


 目に溜まった魔力で相手を燃やそうと考えた水瀬だったが、怪物はそれよりも遥かに行動が早かった。まるで、瞬間移動をしたような速度で水瀬の背後に周り、感覚で察知したため回避行動を取ろうとした瞬間に、地面に叩きつけられた。


「ぐはぁ!」


 頭から叩きつけられたため、少し視界が白く滲んでいるが、目の前に居る化け物の気配だけは決して見えずらくなることはなく、叩きつけられてゆっくり立ち上がると同時に口を開く。


「お前は召喚者としての才能は充分に持っている。人間などという下等な生物と同じ人生を歩むなど愚弄の極み。私が断じてそんなことを許す訳がない」


 そう言うと一拍置いて、


「憎いだろ?大切な人を奪われたのだから当たり前だ。殺したいだろ?感情を持っているのだから当たり前だ。だが、実力は全然足りない。殺すことなんてもってのほかで、一撃与えることすら不可能なほどの実力差が空いている。それを埋めた駆れば強くなれ。そして、もう直ぐやってくる戦争に希望をかけろ。勝者となればお前の大切な人も返ってくるぞ」


 その言葉に水瀬は〝零世界〟を睨んだ。


「おっと、自殺もするなよ?あの二人はこの世界から完全に消えた……意味は理解出来るだろ?」


 世界というのは別の次元や空間にも多数存在していうと言われているが、それは事実で、世界というのは数え切れないほど存在しているのだ。例えば、今こうして〝零世界〟に襲われている水瀬が居るように、普通に家に帰宅出来ている水瀬の存在しているのだ。


 そして、二人は世界を移動させられたのだ。別の空間と次元にある世界に飛ばされるということは、この世界では存在自体が初めから無かったことになるのだ。近くにあって遥かに遠い世界に移動させられたのだからこの世界の住人は一切二人のことを覚えている者は居ない。ただ、二人を除いて。


「私も覚えているがあの二人のことは何も知らない。しかし、お前は違うだろ?今までたくさんの思い出を二人と共にしてきたはずだ……お前が死んでしまえばあの二人は完全にこの世界から消えたことになる。良く覚えて置け」


 言葉を言うと同時に甲高い音を立てながら空間を移動して消えた〝零世界〟を前に動くことさえも出来なかった水瀬は、悲しみが襲ってくるが、決してなくことはしなかった。


 本当は泣きそうだったが、泣いてしまえば本当にあの二人が死んだことを認めてしまうからだ。他人の言葉を信じることなど愚痴の極みだが、信じて行くしか方法はない。水瀬から見て嘘を付いているようには全く見えなかったからだ。


「戦争……」


 十三個の魔術蒼石マテリアルブルーを集めると、全てを超越する願いを叶えて貰える戦い。選ばれるのはたった十三人という少ない数だが、〝零世界〟はまるで水瀬が選ばれるのを知っているような様子だった。


 とあれば、することはたった一つだけだ。強くなって戦争の勝者になる以外にない。


「私は強くなる」


 水瀬は自分が召喚者の才能があることなど理解していた。鍛えれば強くなることも。しかし、人間として生きたいと願ったからそこまでにはならなかったが、今は違う。幸せを取り返すためならば人間をやめるなど容易に出来る覚悟を持っている。


(体は初めから人間ではなかったがな……)


 魔術閉鎖空間イージスが解けると同時に移動した水瀬。そして、〝零世界〟が言っていた通り、僅か一年で戦争は開始され、水瀬は十三人の中に選ばれたのだ。


 そう、水瀬はたった一年という短い間で、世界最強クラスの召喚者になったのだ。







**********











 フロウの細氷ダイアモンドダストで氷付けにされてしまった水瀬は、完全に停止していたが、燃え続ける意識の炎だけは消えていなかった。今も消えることなく燃え続けている胸のある炎が水瀬を死なせはしなかったのだ。


 だが、体の時は完全に停止しているため、体を一ミリも動かすことは出来なかった。しかし、気配だけは察することは出来るため、フロウが近づいてきていることは容易に理解出来る。


(私は一体何をしている……)


 本当に、本当に大切だったんだ。自分に人間としての幸せを与えてくれた隆弘に、子供を育てる難しさを教えてくれた航は本当に水瀬にとって全てだったのだ。


 全てをかけてでも守りたいほど好きで、大好きだった存在で、自分は戦争の勝者になって二人と共に再び幸せな家庭を築くと決意を固めて、一年間という短い間で世界最強クラスと言われるほどに成長したのではなかったのか。


 強い想いが生み出す第三次開放トリプルアクセスも使えるようになり、ますます強くなった実感は確かに実在した。そして、フロウという宿敵の相手に負けたくないと思ったのではないか?


 自分の大切な者を守ってくれるヒーローなどこの世界には存在しないことなど子供の時から理解していた。だからこそ、自分で強くなって、大切な者を取り戻そうとしたのではないのか?


 なのに……。


(一体私は何をしているんだ……)


 フロウは確かに強い。それは対峙するまでも無く理解していて、油断など全くしていなかったのにそれでも足りないというのか?守りたいという想いは召喚者に強く影響するのではなかったのか?それなのにどうして私は負けた?


 意思は炎のように燃え続けているのになぜ体が動かない。どうして、油断して近づいてきているフロウを燃やし尽くして、魔術蒼石を取ることが出来ないのだ?


 どうして……。


 水瀬な一年前のことを無意識のうちに思い出していた。暖かで居心地が良かった家族を……幸せを一瞬で奪った〝零世界〟と初めてあった日のことを。そしてその時言っていた言葉を。


 〝零世界〟と私以外全ての人が二人の存在を忘れているという言葉を。


 調べては居なかったが、感覚で理解出来た。二人の存在を覚えている者が居ないという辛い現実を。航と仲の良かった友達までもが、居なくなったというのに何事も無かったかのように笑顔で居た風景を。見ていないはずなのに感覚で理解できたのだ。


(そうだ……私以外誰も覚えていない……幸せだった日々を)


三人で笑いあっった日々を覚えているのは水瀬だけなのだ。


 その時、ほんの僅かだが、指先が動いた。それは本人以外誰もわからないほどの僅かな動きだが、水瀬は動かなかった指先をほんの僅かだけ動かすことができたのだ。


(私は何をしている……取り返すんだろ?)


 時には起こったり、泣いたり、喧嘩したりなどしていたが、いつも大好きだった二人を……。


 僅かしか動かなかった指先がはっきりと動くようになる。だが、完全に殺したと思っているフロウはそのはっきりとした動きにすら気づかない。普段なら気が付くはずなのに気が付かなかったのだ。


 取り戻す……それに……。


 フロウは立ち止まり、手に魔力を込めた。しかし、フロウはミスを犯した。それは完全に油断していたことと、ゆっくりと歩いていたことだ。


 二人を覚えているのは私だけなのだから一体誰が……。


 悲しみに覆われた一年間。ずっと人間とて暮らしてきた水瀬はだんだん強くなっていく自分が少し怖かった。二人が知っている自分と変化していくということが。二人は人間のままで、自分は世界最強クラスの召喚者として、歩む速度が全く異なるのだ。


 しかし、そんなことなど気にしている暇などなく、一年で強くなった水瀬。普通なら一年で世界最強クラスなで上がることなど不可能に近いにも関わらず水瀬は一年でなった。


 それは元の生活をしたいという願望は勿論だったが、他の部分も勿論だった。家で準備をしていて、急に召喚者の舞台に上がらされて、そして無残に新天地という未知に飛ばされた二人の想いは……。


「私が死んだら一体誰が二人の想いを晴らんだ!!!!!!!!!!!」


 その時になってやっと異変を感じたフロウだったが既に遅かった。細氷ダイアモンドダストによって氷付けにされていた水瀬の体から炎が噴出し、して氷を一瞬で燃やす。


「なっ!」


 驚くフロウなど全く気にせずに、水瀬はある高みに上る。第三次開放トリプルアクセスという召喚者の高みに上ったものだけが使える渇望する世界のさらに上。それは水瀬を合わせて世界で三人しか使えない召喚者の高みに上る。


 フロウは噴出す水瀬の炎の性質が変ったことを察した。今まではフロウの氷と水瀬の炎が衝突すると白い霧が出て、相殺されあったにも関わらず、一瞬で氷を燃やしたのだ。ありらかに変化が出ている。


「私は負ける訳には行かない……二人のためにも……」


 噴出す炎はやがて、世界になり、そして一つに収束して、水瀬に集まる。そして、集まった炎と水瀬は一つになり、体に変化が訪れる。


 黒く長かった髪は炎と同じ色である真紅に変化し、瞳の色も真紅に変化する。そして、背後には全てを灰燼と化す炎を纏わせ、一つの世界は融合する。


「なっ……世界融合だと……?」


 フロウは驚きのあまりに声を出すので精一杯だった。だが、フロウが驚くのも無理はない。世界で水瀬を含めて三人しか使えないという点でも既に異常なのは理解出来る。それもあるが、第三次開放トリプルアクセスの上を行くということが一番の驚きなのだ。


 全ての覚悟を決めてもまだ足りない。命を掛けると誓ってもまだ足りない。守りたいと強く、強く願ってもまだ足りない。世界融合を使える者以外になり方が分からないのだ。


「ああ……これが世界融合か……なるほど、どおりで誰もなり方がわからない訳だ……」


 水瀬から漂う魔力は先ほどとばまるで別の物。第三次開放トリプルアクセスしか使えない者とは相手にならない。


「そんなことはどうでもいいか……お前を殺すことが出来ればそれで……」


 そう言うと同時にフロウは危険を察知して、氷を展開し、全力で右に回避した。水瀬は回避する方向など全て予想し、位置を計算して全てを灰燼と化す炎を放出した。


 




 

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