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約束(エンゲージ)  作者: 千歳瑠璃
炎氷舞
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決心

召喚者となった水瀬の日常は狂う。それは今まで普通の小学校一年生として生活してきた者にはあまりに過酷で、直ぐに変化になれることなど出来る訳がない。


 人は誰しも環境という物を持っている。それは何かをするときでも環境という物は大きく働き、一人ひとり同じ境遇でも環境までも同じになることは限りなくすくない。皆が違う家庭を持ち、違う感情を持った人間であるように、環境というのはそう言った全て物を左右する物で、いわばその人そもそもの全てを決めるための物なのだ。


 人間は強い弱いがあり、それは環境によって変化する物だ。貧乏な家でご飯さえロクに食べれない家で強い体になる訳もなく、必然的に病弱で弱い体にな

ってしまうように、環境は人間にとって大切な物なのだ。


 水瀬には小学校に通う一年生という環境があり、裕福な家庭で、両親に愛されて生きてきていたという環境がある。それは生まれて七年しか経過していない水瀬であるが、そういった環境で育った水瀬は他の環境に適用することが出来ない。


 家で毎日ご飯が出てきて、風呂に入れる人が、急に無人島などに捨てられると何も出来ないように、そういった環境は慣れと同一で、極めて難しい物なのだ。


 〝瞬間放火ゼロファイア〟として覚醒した水瀬は全てを理解していた。自分の身に何が起きたのか、どういった存在になったのかと、到底小学生では受け入れることが出来ない内容を全て理解したのだ。


 しかし、不思議と水瀬は悪い気分ではなく、恐怖もなかった。この場面で召喚者として覚醒したのは何か形のない物……運命のように感じている部分があったのだ。


 運命とは必然的にそう起こるなどを指す言葉だと水瀬は理解している。召喚者という人間には遠い存在は水瀬にとってアニメなどに出てくる怪獣と同じ筈で恐怖対象にも関わらず、こうなあることが運命のように感じていたのだ。


 鎌を持った男を殺した水瀬は罪悪感など全くなく、すんなりと殺したという事実を受け止めている。到底小学校一年生で人殺しなどすれば罪の意識など無いので何も感じないかもしれないが、水瀬はそれを自覚していながら何も感じなかった。


 それは朝ニュースをやっていた、殺されていた女の子を知った瞬間のようで、自分の身内に関係ない者が死んだところで悲しまないのと同じで、水瀬には罪悪感が欠片も無かった。それはまさしく召喚者の才能。殺すことを躊躇わずに出来ることは才能なのだ。


 殺した男は跡形も無く消え去り、魔術閉鎖空間イージスは会場され、いつも通りの公園に戻っていた。来た時には誰も居なかった公園だが、魔術閉鎖空間内に居た時に来たのか、大勢の友達がボールを蹴って遊んでいた。


 そして、水瀬の存在に気が付いた男の子が呼ぶと、みんな水瀬をことを呼ぶ。まだ、三ヶ月という短い時間しか過ごしていないにも関わらず人気がある水瀬だが、この時は後悔した。


 既に自覚してしまっているからだ。自分は召喚者で周囲に居る人間とはまるで違う。魔力を込めて目から炎が出せる人間が存在していないことなど、水瀬でも理解出来る。それが出来るのは人間ではないことも理解している。


 水瀬はそれが簡単に出来てしまうのだ。魔力を込めなければ発動しないというのが利点だが、もし、見ただけで炎を出すなどという能力であれば、この公園は一瞬で炎に飲み込まれていただろう。やろうと思えば手を振っている友達を燃やし殺すことも容易なのだ。


ここで水瀬は選択する。それは普通の人間として振舞って生きていくか、召喚者として人間と関わりを絶ちながら生きていくかという選択。水瀬はまだ小小学生で、親と断ち切ることは出来ないが友達とは関係を切ることが出来る。


 自分が傍に居れば周囲の人間に迷惑を掛けてしまうことは自覚していた。なんせ、少しまでも魔力のコントロールを誤れば、周囲一帯が全て炎に覆われてしまう可能性があるからだ。もし、そうなってしまえば一番迷惑が掛かるのは大好きな両親なのだと自覚している。


召喚者という存在が、同類であり召喚者をひきつけることも理解している。あの鎌を召喚した男に狙われたように、自分の近くに居れば被害を受けることも考えられる。


 しかし、水瀬はまだ七歳という子供で、周囲の助けなしではどう頑張っても生きていくことは出来ない。人間とは全く別の生き物になってしまっても、同じように疲労は襲うし、空腹だって襲う。傷つけたくないと思っている水瀬なのだから、お金無しでご飯を食べることなど出来ない。


(それに……)


 水瀬は自覚していたのだ。みんなと離れることなど不可能に近いと。


 思い出せば三ヶ月は楽しいことしかなかった。勉強も新しいことを学んでいるので楽しさを覚えるし、増えていく友達と楽しく遊ぶことは物凄く楽しいと感じている。両親は大好きで、友達も好きなのだ。離れたくない。


 考えれ見れば実に簡単な選択だったと自覚した水瀬。みんなと離れることは不可能と感じているのだから、離れることは出来ないのだ。なのだから、一緒に居る以外の方法はない。まだ、遊び足りないのだ。


 目の前に居る友達は笑顔で手を振っている。水瀬はそれを笑顔で手を振り返した。それは召喚者という化け物になっても、変らない友達と遊べるという感覚から出た笑顔だった。要するにこれから楽しみだったのだ。


 水瀬の決心はついた。召喚者になった今でも自分は友達と楽しく遊び、大好きな両親と一緒に暮らしていくと。その決断正解だと思い駆け出す。


 そして、友達の中に戻って、一人の小学生に変る。その選択が間違いだとも知らずに。






************







 

 事態が動き出したのは小学校を卒業し、中学校に上がってから一週間後の出来事だった。今まで何度も召喚者に襲われた水瀬だったが、〝瞬間放火ゼロファイア〟という強力な能力のおかげで苦戦せずに倒せてきた。


 召喚者として才能を持って生まれてきた水瀬はそこらに居る召喚者に負けることなど無かった。そのせいか、水瀬の名前は召喚者の中に知るものは皆無と言っても良く、行為的に狙われることは少なかった。


 特に無いもしていないのも関わらず、完璧に魔力を操り、流れも完璧にこなす水瀬はまさに召喚者になるべくして生まれてきた才能の持つ主だったのだ。しかし、水瀬はそれを自覚していながら普通の生活を望んだ。


 周囲の友達や両親と離れるのが嫌だという自己中な想いによって、人間として生きていく道を選んだ。だが、召喚者になるべくして生まれてきた水瀬が普通の人間のような生活を送れるなど不可能なのだ。


 小学校三年までは何とか押さえてこれたが、それからは明確に差が出る。召喚者に人間と似ているが、外見だけで他の全てはまるで超越したような存在なのだ。運動能力はいうまでも無く、気配の察知や頭の回転速度。予想能力など全てにおいて人間を桁外れに超越している。


 運動能力はいうまでも無く、人間など軽く超越している。頭の回転速度も異常で、周囲の友達とは明らかに出来が違う。さらに近づいてくる人の気配などは校内どこに居ても誰の気配でも察知することが出来た水瀬は、人間の友達からすれば超人だった。


 自分が人間ではないことなど教えた覚えはないのだが、年が上がると同時に水瀬の友達は少なくなっていき、中学校に上がるころにはほとんど友達は居なかった。


 両親などは心配をしたが、それを隠し、人間として生きていくことを決めた水瀬は諦めずに学校に通った。そして、中学校に通い、新しい友達を作ろうと奮闘していた水瀬に辛い出来事が起きた。


 それは新しく作った友達をほんの軽く、手加減して叩いたのだ。普通の人間なら痛みなどまるで感じないほどで叩いたにも関わらず、召喚者の水瀬の力は異常で、友達は吹き飛んだのだ。


 あまりに突然の出来事で何が起きたか理解出来なかった水瀬だったが、頭が冷えていくに連れて自分がした事の重大さに気が付き、体に鉛を詰め込まれたように体が重くなり悟った。


 自分は人間として生きていくことは出来ないと……。


 水瀬も理解していたのだが、人間と召喚者ではあまりに違いすぎるのだ。手加減して軽く叩いた積もりでも、時期に世界最強クラスと言われる召喚者になる水瀬が人間と同じ場所で生活するなど出来る訳がなかった。


 何もしていないにも関わらず、他の召喚者より強い水瀬は友達を傷つけたのだ。悪気があった訳でもなく、ただ普通に接していたはずだったにも関わらず召喚者と人間というの差があるのだ。ましてや、強い召喚者であればあるほどに人間との差は大きくなる。


 飛ばされた友達が何とか立ち上がると、水瀬の方を見た。その瞳には飛ばされた痛みから来る怒りは宿っておらず、自分とは違う何かに気が付いた女の子の恐怖の目だった。虫などを見た時とは違い、本当の怪物を見た時のような目。水瀬の心はその目でさらに磨り減り、友達だった人に何も声を掛けて上げられずにその場を去った。


 女の子は突き飛ばされてぶつけた場所は何もなかったが、水瀬に叩かれた場所は骨が折れており、その女の子が水瀬と話す姿を見たのはそれが最後で、この日を境に水瀬は学校に来なくなる。


 友達を突き飛ばして怪我をさせたことと、自分と友達との圧倒的な差を実感し、何もする気が起きなくなってしまったのだ。両親は勿論心配したが、部屋から出てくることはほとんどなく、料理を持って行く時程度しか合わなくなった。


 それまではずっと家族で会話をしながら楽しく料理を食べていた家庭は見る影も無く衰退している。そして、空気が悪くなった家庭が辿るのは壊滅の他は無く、数年の内に両親は離婚をして、水瀬は施説に預けられることになった。


 施説に預けられたのは高校入学の年齢だったが、中学校もロクに行っていない水瀬が行ける高校など皆無で、お金を出してくれる両親も居らず、住む場所も施設しかない水瀬は高校に通うことが出来なかったのだ。


 友達も居らず、両親も居ない水瀬は施説で与えられた部屋に閉じこもっていた。誰と関わることもなく、食べて、風呂を入って本を読んで寝るという生活を繰り返して一年が経過したある日、事態は水瀬にとっていい方向に進む。


 人間として生きていくと決めた水瀬だったが、友達も失い、両親も失った今でさえも人間として生きていくという覚悟だけは捨てていなかった。何もやる気がおきずに、ただ生きているだけの存在になっていたが、水瀬は一度も諦めては居なかった。


 普通の人間として暮らすという不可能に近いことを。


 施説にある一人の男がやってきた。それは水瀬と同じく両親に捨てられた青年で、見た目からして年上に見えるが、その青年は捨てられたという現実を受け止めて尚、明るく笑っていたのだ。


 水瀬はその笑顔に心を奪われた。まさしく漫画や本にある一目惚れという恋に落ちてしまったのだ。だが、ここでも水瀬は枷である召喚者という人間と似ているが、根本的に違う存在ということに悩んだ。


 人間としての幸せを手に入れた水瀬だったが、自分は人間ではない人間からしたら未知の怪物。もしかすると中学校の時のように触っただけで怪我をさしてしまうのではないかという悩み。それだけではないく、もしかすると燃やして殺してしまう可能性も考えられるのだ。


 そんな危険な存在が人間と恋愛なんて……という悩みを一週間ほど続けたある日、一目惚れした相手である隆弘たかひろが水瀬の部屋にやってきたのだ

った。突然きた好意を抱いている人に慌てたが部屋に入れて会話をした。


 水瀬にとってそれは祝福以外のない物でもなかった。初めて出来た好意を抱いている人と話すことだけでも嬉しく、幸せで絶対この人と一緒にないたいと心の奥から望んでしまったのだ。そして、強く望んでしまったら諦めが付かなくなる。


そして、その日を境に隆弘と水瀬の距離は一気に近づく。毎日にように会話をして、楽しい時間を過ごす内にいつの間にか水瀬は部屋に閉じこもることを止めて、小学校の時のように元気で明るい女の子になっていく。


 周囲の人間は水瀬の変化に驚きを隠せない様子だったが、隆弘だけはずっと隣に居てくれて、水瀬を元気にさせてくれた。そして、周囲の流れで恋人として付き合うようになり、高校を卒業する年になると二人は結婚を考えるようになった。二人はそれはそれほど互いを好きでおり、毎日のように結婚する約束をした。


 そして、水瀬は必死に勉強を重ねて、憧れていた教師になる夢を叶える。成長期になる生徒を見守る先生になりたいと想っていた水瀬は召喚者である頭の回転速度の速さを使い、普通の人より何倍も早い速度で内容を吸収して覚えたのだ。


 高校卒業年齢までになると力の入れ方なども完璧に扱えるようになっていた水瀬は隆弘に触れることが出来、二人は互いに職を見つけ、結婚してから数年で子供を授かり、生む決心をした。


 そして、子供を産んだ水瀬は生れて母親になり幸せの絶頂にいた。召喚者である自分が人間である二人と幸せな生活をしているという状況を何度も夢だと想い、頬を抓ったりなどしたがそれは現実だった。その度に喜びをかみ締めていた。


 子供の名前はわたるという名前をつけて、三人は幸せな家庭を気付いていた。それはまるで、水瀬がまだ普通の小学生だった時の両親との家庭のような温かさを持っていた。


 三人で暮らし始めてから数年が経過し、航は小学校に上がる年齢までになった。水瀬は教師とての知識を搾り、勉強を教えて、将来困らないように育てていこうなど考えていた。三人でよく出かけたりして近所でも仲のいい家族として通っていた。まさに水瀬が望んでいた人間としての幸せが満ちていたのだ。


 ある日が来るまでは。


 水瀬はこのまま人間として生きていけると思っていた。大好きな二人と一緒に暮らしていけると本気で思っていたのだ。しかし、そんなにうまく行くほど現実というのは甘くは無い。


 召喚者として才能を持って生まれてきた水瀬は召喚者になるべくしてなったのだ。そんな存在が人間としての幸せで生きていけるなど絶対にありえないことで、不可能なのだ。


 水瀬の幸せだった生活はある日を境につぶれる。まるで、自分達の家族がそうであったかのように幸せはつぶれる。そして、その日を境に水瀬は歴代最強といわれる〝瞬間放火ゼロファイア〟に変化し、世界最強クラスの召喚者になるのだ。


 



 


 


 

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