激突
凜奈が部屋から出て行って十分ほどが経過した。未だに召喚者だということは受け入れられないが、受け入れるほかなかった。なぜなら他ならぬ俺自身が召喚者であるのだから仕方ない。
「どうして凜奈が召喚者だって気づいていたんだ?」
「気づかない訳ないじゃない。私と彼女は同じ存在なの。自分と同じ存在居れば警戒みたいなものが発せられるの。まぁ、警戒するほどではないけど、用心することに損はないでしょ?だから少しだけマークしていたのよ」
召喚者同士は直接出会わなくても自分と同じ存在だと感じ取れるということか。確かに見た目は人間と変らないが、体のつくりは明らかに変化している。気づかない訳がないという訳か。人間が人間と判断できるのと同じようなもの。
「それにこの町にはもう一人強力な召喚者が居るわ。彼女なんて比べるにも値しないほどの召喚者がね」
「先週の夜に戦っていた黒い影見たいな奴か?」
夜に散歩に行った時の光景を思い出していた。白雪は確かに黒い影と同等のように戦っていたように見えた。
「そうね。私にはまだパートナーが居なかったし、互いに探り合いだったけど、かなり強いと思う。そして戦争の参加者だったわ」
魔術蒼石を持っていたから探り合いを入れた訳か。同じ町に居る参加者同士だからいつか戦うのは必然的なもの。生死が関わる戦いの中で相手の情報は一番約に立つものだからな。
「だけど、今は海人が居る。今度戦うことになったら次は確実に仕留めるから覚悟しておいてよ。かなり激戦になると思うから」
「ああ。覚悟は出来てる。願いを叶えるためだから仕方ない」
「そうね。私達は全てを賭けて願いを叶えると決めた。だから、負ける訳にはいかないの。どんな相手にもね」
負けるというのは死ぬという意味だ。召喚者などゲームの中だけの話のように感じるが、ゲームのようにアイテムなどを使って死んだらすぐに蘇生するなんて絶対にありえない。だから、負ける訳にはいかない、誰であろうとどんな奴であろうとだ。
「今更だけど、俺なんかで良かったのか?正直言って俺の武器は約に立つかどうかわからないぞ?いや、絶対に約に立たないと思う。足手まといになるだけだと思うが……」
俺なんか白雪の足元にも及ばないだろう。一緒に戦うことになっても一方的に守ってもらう形になるのが目に見えている。それは白雪だって理解しているだろう。しかし、なぜ俺なんかと約束を結んだのか気になった。
「私は海人はすごい召喚者だと思うのよ」
「どうしてだ?お前の方がよっぽどすごいだろ」
「確かにそうだけど、私は覚醒してから十年ほど立ってるから歳月が全然違うのよ。今日覚醒した海人に負ける訳がないでしょ?」
覚醒してから十年立ってるだって……?それって、召喚者になった時はまだ五歳とか六歳の時ぐらいになる。白雪は命の危機になると覚醒しやすいと言っていたが、五歳、六歳の時から自身の命に関わる出来事が起きていたのか?一体、どんな暮らしをしていたらそんなことになるのか、平和に暮らしてきた俺にはまるで理解できない。
「そうだな……」
きっと事故ではなく、誰かに本気で命を狙われたのだろう。そして、今まで召喚者としての人生を歩んできたに違いない。一体どんな思いで歩んできたのか気になるが、簡単に聞けることではない。
「話を戻すけど、私が海人の存在に気が付いたのは先週の夜、工場で戦っていた時に気が付いたの。あの時は他の召喚者に気づかれない魔術閉鎖空間を作る時間がなかったから、人払いの結界を張っていたの。けど、海人は人の家に土足で踏み込んでくるように結界内に入ってきた」
普段からあの辺りは人が居ないので気づかなかったが、人払いの結界を張っていたのか。しかし、俺は土足で結界内に踏み込み、戦いを見てしまった。本来なら絶対に見ることが出来なかった戦いを。
「でも、初めは気にしてなかったわ。普通の人間だってことは瞬時にわかったからね。それにたまに人間が結界内に踏み込んでくることが何回か起こったから。だけど、海人は覚醒前だった。だから覚醒させたの」
「それのどこがすごいんだよ?」
「すごかったのは覚醒する瞬間よ。私は海人の武器から物凄い力を感じた。三日月雷鎌に匹敵する……もしくはそれ以上に強い力を感じたわ」
『うむ。私も感じ取ったぞ。今までに感じたことがないほど強い力を。』
「だけど結果は錆び付いた剣だった……」
「そうね。でも、強い力を感じ取ったのは確かなの。だから、まだ覚醒して早いから力を使いこなせていないだけ」
自分の中にそれほどの力が眠っているとは到底思えないが、白雪がそういうなら俺は何か持っているかもしれない。なので、力を使いこなせる時を期待せずに待つことにした。
『そういえば、お前。凜奈とかいう女が召喚者であることに気が付いていなかったのか?白雪を見たときはすぐに気が付いたのに』
そういえばそうだった。凜奈は俺が白雪を見る前から召喚者だっただろう。しかし、凜奈からは何も感じ取ることは出来なかった。そこには何かあるのだろうか?
「単純に力の差じゃない?海人が見た時は私も含めて二人とも強力な召喚者だったから。あいつ一人では弱過ぎてわからなかっただけかもしれない」
『うむ。その可能性も捨てきれないが……どうにもわからないな。ただ、お前が強力な武器を召喚したことには代わりはない。だから、約束を結ぶ相手として選んだ』
「そういうことよ。決して誰でも良かったわけではないわ」
そう言い終わると、立ち上がり、部屋を出て行こうとする白雪。
「どこに行くんだ?」
「そろそろ学校でしょ?私は今後のためにやることがあるから。海人がここに帰ってくる頃にはまた戻ってくるわ」
部屋を出て行った白雪の言う通り、話いる間に結構いい時刻になっていた。俺は急いでお弁当を鞄に詰めて、いつもの時間になるまで部屋でテレビを見ていた。
********
寮を出るとそこには凜奈の姿はなかった。学園に間に合う限界時間まで待っていたのだが、全く来る気配がなかったので一人で学園に行くことにした。
この一年半、常に凜奈が隣に居たので一人で歩くのは少しだけ寂しい。そして凜奈が居ることは俺の日常にとって大切なことに改めて気が付いた。
校内に入り、一気に三階まで駆け上がり教室に入った。先に来ている可能性もあったので確認はしたが、凜奈の席には誰も座っていなかった。やはり、先ほど、白雪とのあれがあった傍から学校にはこないか。
自分の席に座り、鞄を横にかけた。
凜奈は俺が覚醒前だったことには気が付いているみたいだった。でなければ、最近必要以上に近くに居ることはなかっただろう。最悪の結果とは俺を召喚者として覚醒させないことだったのだろう。そして凜奈はどういう経緯で召喚者になったのかわからないが、それなりに前から召喚者だった。あれだけ近くに居たのに全く気が付かなかった。
今更ながら屋上で黒いローブに会った時に気が付いておくべきだった。凜奈は俺と同じように黒いローブが召喚者だと気が付いていたのだろう。だからあれだけ警戒して俺を守ろうとした。召喚者に近づきすぎると覚醒の時期が早くなる可能性があるから。
しかし、結局俺は召喚者として覚醒し、白雪と約束まで結び、自分の願いを叶えるために一番危ない戦争にまで参加することになった。それは自分の意思だからいいが、凜奈からしたら最も避けたい展開だっただろう。
それに凜奈のことだから俺に見えない所でも色々頑張ってくれていたに違いない。俺なんかのためにだ。
「本当に世話焼きな奴だよ……だけど本当にいい奴だ」
俺は誰にも聞こえない程度に呟いた。みんなが幸せになってほしいという願いには凜奈だって含まれているんだ。なのにご飯作ってくれたり、勉強見てくれたり。それに守ってもらったりしている訳にはいかない。俺はしっかり凜奈のことも守っていかなくてはならない。
そう静かに決意した所でチャイムが鳴り響いた。それと同時に水瀬先生が教室に入ってきて、HRが始まった。
「今日は夏目は遅刻か……」
出席を取り、今日の出来事を軽く説明したところでHRが終わった。しかし、凜奈は登校してくることはなく、お昼休みになり、職員室に向かった。
凜奈の部屋に電話をしてもらうためだ。俺も何度もメールや電話をしているのだが、返信は全く返ってこないし、電話に出ることもなかった。なので、部屋に直接掛けてもらおうかと考えたのだ。
しかし結果は同じで電話に出る気配もなかった。部屋には居るだろうけど、今朝のことで色々考えているに違いない。
仕方がないので教室に戻り、朝届けてくれたお弁当を食べて教室を後にした。なぜだか知らないが、屋上に行かなくてはならない感覚がした。いや、正確には誰かに呼ばれているような感覚だ。
屋上の扉を開けるとそこには先週のように人は居なかった。しかし、ベンチには白雪が可愛らしく座っていた。人払いの結界を張って人を呼ばないようにしているのだろう。
「やっと来たわね?全く女の子を待たせる男はモテないわよ?」
「別にモテなくてもいいから」
「ふーん。可愛い幼馴染一人で十分?」
「そうだな凜奈だけで十分だ」
「あっそ」
一体何の用があるのだろう?こんな話をするために俺を屋上に呼び出す訳ないしな……呼ばれていないが。
「もう大丈夫のようね?」
「?一体何のことだ?」
「体よ、体!約束を結ぶ時、とてつもない痛みが走るって噂では聞いているから、今はどうだろうと思ったけど、全然大丈夫そうでよかったわ」
「あ、ああ……」
俺は驚いていた。白雪が俺のことを心配してくれていたことにだ。願いを叶えるためなら何でもするであろう少女が俺のことを心配してくれている。それはとてもうれしいものだった。
「ありがとな?心配してくれて」
「心配するのはあたりまえじゃない。私達はもう、他人じゃないのよ?家族より深い絆で繋がった者同士、助け合ったり心配するのは至極当たり前のことでしょ?」
「ああ。そうだな」
白雪は可愛らしい容姿に似合わない怖い奴なのかと俺は思っていた。まぁ、覚醒のためとはいえ命を狙われた相手なのだからしか仕方ないのだが、もしかしたら結構いい奴なのかもしれないと思った。
「それで本題に入るけど、あいつ……凜奈だっけ?学校に来てたの?」
「いや、来てなかった……連絡も取れない」
「そう。それは警戒しなくちゃいけないわね」
「どうしてだ?凜奈は絶対に襲ってきたりしないと思う。あんなに優しい奴がそんなことする訳がない」
小さい頃から近くにいた俺が言うのだから間違いない。いつも自分より俺のことを優先してくれたり、お弁当を作ってくれたり、他にも様々凜奈のいい所は見てきている。そんな凜奈が襲ったりなんてする訳がない。
「だからこそ、私を襲ってくるのよ」
「え?」
考えていることが顔に出ていたのか?それとも心を読んだのか?でも、そんなこと召喚者にだってできるはずがない。
「言ったでしょ?約束を結んだ者同士は家族以上に強い絆で繋がるって。それはお互いの思いが通じ合ってるって意味なのよ。だから多少なら海人の考えていること理解できる。そして、凜奈という女がどれだけ海人にとって大切なのかも。向こうも大切だと思っているから私を襲ってくるのよ。私を海人から引き離すためにね」
それは、大切な人を守りたいと思う気持ちと一緒っと、白雪は付け加えた。朝決心した俺と同じように凜奈のことが大切だから守りたいと思う気持ちと何も変らない。だから凜奈は白雪と命賭けの戦いをする。
俺だって凜奈が危険だったら守りたいと思うし、真っ先に行動するだろう。たぶんこの気持ちと凜奈の気持ちは何も変らない。
「まぁ、急には襲ってこないと思うけど、一応警戒しておくわ。それと、海人は覚悟をしておいて」
「覚悟?戦争に参加する覚悟ならしているぞ?」
「違うわ。そのことじゃない。大切な人を失う覚悟よ。彼女が襲ってきたら私も本気で対抗するから」
俺見たいな弱い奴でもわかる。凜奈が白雪には絶対に勝てない。もし、襲ったら間違いなく返り討ちにされる。そして、白雪は凜奈を殺すつもりでやるだろう。絶対に勝てない。
そして白雪は凜奈が死ぬ覚悟はzをしろと言っている。そんなこと出来る訳ないとわかっていながらも。
『言っておくが、情けで生かしたりはしない』
「そうね。ローの言う通り。それと、大切な人を失うことは想像以上につらいわよ。たぶん、海人の願いが変るほどのつらい思いをすることになるわ。後悔しないようにね?」
それだけを言い残し姿を消した。あんな悲しみに満ちた目は見たことなかった。白雪は既に大切な人を失っているのだろう。そして何度も後悔をしたに違いない。
そこで俺は察した。白雪が願う願いとは、失った大切な人の死者蘇生だといころを。だから、その人を蘇生させるためならば誰でも殺すと言っていたのだろう。それはあまりにも自分にとって大きすぎる存在だったから。
だったら俺は悲しみに覆われた白雪のことも幸せにすることが出来るのだろうか?そんなことを考えていると予鈴が鳴ったので急いで教室に戻り、午後の授業を受けたが、上の空でまるで話が入ってこずに、授業は終了し、放課後になった。
HRが終了して生徒が一斉に帰宅する中に俺は一人、教室に居た。ただ何をする訳でもなく、これからどうなっていくのかを考えていた。
白雪は凜奈が死ぬ覚悟をしろっと俺に言ってきた。
しかしそんなこと絶対に無理だ。小さい頃からいた家族見たいな凜奈を失う覚悟。召喚者になった時、非日常など覚悟していた。しかし、凜奈が居ないことなど考えるだけで頭が真っ白になる。それぐらい俺達の距離は近いのだ。
「考えても仕方ないか……」
その声は誰も居ない教室に大きく響いた。そう、考えても仕方ない。白雪は俺にこう言ったのだ。後悔はしないようにと。
俺は凜奈を守る……みんなを幸せにしたいなどヒーローみたいな願いを持っているのだ。幼馴染一人守れないでみんなを守るなんて誰が聞いても出来る訳ないと答えるだろう。
後悔しないように……それは、もし白雪と凜奈が戦うことになったらどうにかして凜奈の死を回避させる。それ以外後悔しない方法などない。
椅子から立ち上がり、頬を一回叩いた。そう、やるべきことはもう決まっていたのだ。
教室から出て、俺は一人で寮に戻った。明日にはいつも通りの凜奈が隣に居ることを願って。
しかし、凜奈は学園に五日間姿を見せることはなかった。
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何が大切かなんて一人ひとり違い、それに掛ける思いの重さも違う。私はそう思っている。そして私は小さい頃からの幼馴染の海人が誰よりも何よりも大切だった。
召喚者として覚醒したのは五年ほど前……中学校の時だった。きっかけは本当に些細なもので、たまたま一人で帰っている時に酒に酔った運転手の居眠りで私は交通事故にあったことで覚醒をした。
死がトリガーで覚醒することが多い召喚者は、交通事故はメジャーな覚醒方法と言えるだろう。運転手や他の人達は速度が出ていた車に引かれて傷一人なかった私をみて驚いていた。それは超人を見るような目で。
超人とはあらがち間違っていなかった。私は召喚者になり、人間を超えた。いうならば人外になったのだ。見た目が人間なだけで、中身は怪物のように頑丈。現代科学では傷一人付かない体。そんな怪物になった。
しかし、一般的に召喚者は有名ではなかった。結界を張って、行動を行うことが多いため普通の人にはほとんど気づかれない。だが、召喚者同士は互いに魔力の波動のようなものによって気づきやすい。そして今までの日常生活に召喚者など非現実が居たことに気が付いた。
私は怖かった。ただ、海人と平穏だけど楽しかった日常を送っていきたかっただけなのに、そう願っていながら私自身で非日常になってしまった。海人と死によって永遠に合えなくなることに恐れて。
海人は本当に優しく、いつも私の傍に居てくれた。事故に合った時だって色々世話を焼いてくれてそのことは本当にうれしく、幸せな気持ちだった。しかしその反面、海人に自分は人間ではないという隠し事をしていることに罪悪感を抱き続けた。
覚醒から二ヶ月ぐらい経過したある日、私は魔術閉鎖空間の中で召喚者に襲われ、初めて武器を召喚した。相手もまだ実戦経験がないみたいだったので何とか撃退することが出来たけど、私は死にかけで、心はボロボロだった。
初めて物理的に相手に怪我をさせてしまったこと。そして海人と別れるぐらいなら相手を殺してしまおうと思ってしまったことなど色々重なり、精神的に病んでしまった時期があった。
一ヶ月と短い間だってけど、放心状態になり、学校も休んだ。友達も初めの方はお見舞いに来てくれたけど、反応しない私を見て、来なくなった。だけど海人だけは何も気かづに夜遅くまで一緒に居てくれた。毎日私に話しかけてくれて、私はこれじゃいけないと思い、立ち直ることが出来た。
そして気が付いた。私には海人を守れる力がある。怪物のような力、召喚者の力でいつも守ってもらっているみたいに私も海人を守ればいいのだと、初めて気が付いたのだ。
私は結界を張らずに夜遅く、召喚者としての腕を磨いた。今度襲われた時のため、そして海人を守るために。そう思うと自分の力は意味があるように感じて。
そして、最近になって海人が覚醒前の召喚者だということに気が付いた。海人を覚醒させたくなかった。私と同じつらい思いなどせずに日常を過ごしてほしいと思っていたから。
だけど、そんな思いは虚しく覚醒してしまった。それも私などでは絶対に勝てないような相手に気に入られているようだった。
ただ、相手がどれだけ強い、自分では勝ち目がないとか関係なかった。私は海人を守ると決めたのだ。だから私は学園を休んでその準備をしている。海人に気づかれない結界をは張るために。
気づかれたら絶対に止めに来るから。海人に止められたら決心が鈍りそうな気がするから。だから私は彼女と二人で戦い、絶対に勝つ。それが、私に出来ることだから。
そしてついにその時が来た。準備は整った。私は彼女……白雪という女を海人の平和のために殺す。
*********
日が高くの上るお昼時に二人は対峙していた。魔術閉鎖空間の中で二人の召喚者が殺気を放って、お互いを見据えていた。
「やっぱり来たわね……しかも丁寧に海人には気づかれないように結界を張ったようだし。学園を休んでこんな無駄なことしてたんだ?」
白雪という少女の絶対的な余裕だった。彼女は実戦を何度も繰り返し、そして繰り返すたびに強くなっていった。召喚者の素質もそうだが、何より学習能力が以上に長けており、それため、異常な速度で力をつけていった。
自分より格上の相手も、動きを見て学び、そして勝ち上がってきた紛れもない強者。自分より圧倒的に格下の凜奈に負けるという選択肢は存在しなかった。
「来るに決まってるよ。来ないはずがない」
凜奈だって馬鹿ではない。自分が格下であることなど初めて会った時から気が付いている。絶対に勝てないということも。しかし、それぐないで引き下がる思いではなかった。
海人のことを一番近くで見てきた故、強い思いをもって白雪と対峙しているのだ。
「海人が一緒なら殺さないであげようと考えていたけど、いないなら本当に殺すよ?あなたにうろうろされるの邪魔だから」
それは絶対的な自信。白雪は手加減して殺さないことも出来るが、簡単に殺すこともできると言っているのだ。自分と凜奈はそれほどまでに力の差があると言っているのだ。
「私もあなたを殺す。海人の平和のためなら何でもする」
白雪には戯言のように聞こえているだろう。なぜなら、凜奈自身も無理だと理解していることを相手に向かって言っているのだから。だが、それは白雪がと海人が戦争にかける願いと同じ、強い思いがあるから言える言葉だった。
「なるほど……やれるならやってみせてよ。あなたが海人を大切だと思う想いを見せて」
「言われなくても見せてあげる……」
刹那、張り詰めていた空気が今まで以上に張り詰める。普通の人間がこの場に居たら間違いなく気を失うであろう、殺気が混じりあう。
無人で海人には察知できない空間。しかも、魔術閉鎖空間の中なので大暴れしても大丈夫、しかし、あの人型の影が監視している可能性を考慮して本気は出さないようにしようと考えている白雪。
それに対して初めから全力で行くと考えている凜奈。
二人の実力差は圧倒的に開いている。一年ほどではまるで埋まらないほどの差が開いている。凜奈はどう戦うなど戦略を立てている余裕はない。ただ、全力でぶつかるだけだ、と強い思いを持っている。そして、二人は同時に言葉を紡ぐ。
「魔法召喚術式、魔法形成」
二人の足元から淡い光を放つ魔法陣が出現する。互いに強い風が吹き、魔力が流れ出す。
お互いに手を掲げると同時に白い光のシルエットが浮かびあがる。白雪のは三日月雷鎌と呼ばれる雷の鎌。そして凜奈のシルエットは丸い円盤のようなもの。それが四枚ほど出現する。
「我は雷鳴を司る者。我の願に具現せよ」
白雪の周りからとてつもないほどの雷鳴が迸る。シルエットは除々に黒い魔法が使っているような鎌に変化する。辺りに迸る雷鳴が黒い鎌を覆い隠し、雷の鎌に変化する。
武器の中ではかなり知名度が高い鎌を少女は両手で構えて、凜奈のほうに向けた。
「変幻自在に移動する者。我の意思によって具現せよ!」
瞬間、凜奈は持っていた円盤のような物を上に投げた。しかし、地面に落ちることなく空中で四枚の円盤が浮遊する。
凜奈が召喚した武器は近接中距離型武器、風斬円盤と呼ばれる武器だった。
大きさは陸上などで使う円盤より二周り大きいほどの武器。中心には穴が開いており、そこを持って投げ、外側の刃物の部分で攻撃する武器。中距離にも使えて接近戦にも使える便利な武器だ。
「……私の接近型の鎌では相性が悪いわね……まぁ、あまり関係ないけど」
鎌から大量の雷鳴が迸るのと同時に凜奈が動いた。空中に浮いていた四枚の円盤を持ち、二枚を白雪に投げて、もう二枚は自分でもって突進した。風斬円盤は召喚者の魔力に反応して自由自在に操ることが出来る。
白雪は飛んでくる円盤を華麗に避けて、接近してきた凜奈の攻撃もまるで止まっているものを避けるように華麗に回避した。中距離型の武器で厄介なのは自由自在に飛んでくる円盤と接近でくる召喚者の攻撃を同時に避けなければならないことだ。
だが、それも実力が均等していればの話だ。圧倒的実力差がある二人では凜奈の攻撃はまるで止まって見えるはずだった。
凜奈は持っていた円盤を白雪目掛けて投げて、空中に飛んでいる円盤も白雪の方に飛ばすように意識した。四枚の円盤に狙われた白雪は全て華麗に回避した瞬間、腹の辺りに激痛が走った。
「なっ!」
驚きのあまりに声を出してしまった白雪だったが、すぐに体勢を立て直して凜奈から距離をとろうとすると、前後から二枚ずつの円盤が襲ってきた。しかし、白雪は襲ってきた円盤の方に走りだした。そして鎌で円盤を弾き、雷鳴を大量に出し、凜奈に鎌を振るった。
自ら飛んでくる円盤の方に来るなど考えもしていなかった凜奈は少しだけ反応が遅れ、鎌自体は避けることが出来たのだが、周囲の雷鳴だけは直撃して、五メートルほど吹き飛んだが、すぐに立ち上がり、白雪に突進した。
空中に浮かんでいた二枚の円盤と手に取り、もう二枚で白雪に攻撃する。鎌で円盤を弾いたが、凜奈はすでに白雪の懐にいた。
「くっ!」
大型の鎌で素早く攻撃できる凜奈の武器は防げない。だが、実戦経験が豊富な白雪は、体操選手のような動きで背後に回り、鎌を振るった。それをギリギリ回避した凜奈は前を見ながら後ろに円盤を投げた。
至近距離での投擲なったが、そう来ることは予想していたので、体を捻るようにして回避し、一旦距離をとったが、凜奈はそれを許さずに一瞬で距離を詰めて攻撃を始める。型などはめちゃくちゃな攻撃だが、それ故に軌道を読みづらい。
だが、それも凜奈の筋肉の動きや目線などで場所を判断して回避した、背後から一枚の円盤が飛んできたが、それも体をずらして回避したかと思われた瞬間、白雪の横腹から赤く新鮮な血が飛び散った。
「なっ!」
それは今まで回避し続けた白雪にはなぜ、攻撃が当たったか理解出来なかった。白雪は回避したと思ったが、実は完璧に回避できていなかったのだ。
特に特別な技を使った訳ではない。ただ、円盤の大きさを変化させて、最小限で避けていた白雪に拡大した円盤が当たったのだ。
「今まで同じ大きさの円盤だったから、あなたは最小限でしか避けない。無駄な体力を使わないために。だけど、あなたは勘違いをしていたの。それは私の円盤は小さく出来たり大きくできたりすることが出来ないって。それは今までずっとその大きさでしか攻撃しなかったから。まんまと騙されたわね」
「やってくれるじゃない……」
白雪の目には先ほどとは比べものにならないほどの殺気が宿る。白雪は手加減していた相手から傷を負わされて怒ったのだ。
『白雪、冷静になれ。こんなこと今まで何回もあっただろ。戦争に勝ち抜くための教訓だと思え』
そう、これは白雪が出来ないと勝手に判断しただけで、凜奈は出来ないなど一言も言ってないのだ。
ローの言葉に少しだけ落ち着きを取り戻したが、それでもやはり怒りはおさまらない。そして何より自分より格下だと侮っていた相手に一本取られた自分に何よりも怒りを抱いていた。それにーーー。
「想像以上にやるわね……それだけ海人を想う気持ちが強いってことね……」
『うむ。想いが大切なのは理解していたが、想像以上の強さだな。今のまま手加減していたら、いつ勝利するのかわからないぞ』
「そうね……私も舐めていたみたい。想いの強さを……凜奈が海人のこと大切にしているのを理解していながら手加減していた自分が馬鹿らしく思えるわ。だからーーー」
瞬間、白雪の足元に巨大な魔法陣が浮かびあがる。それは武器を召喚した時よりも明らかに強力な魔力の波動を出しながら、淡い光を放ちながらゆっくりと回転している。
「な、なにこれ……?」
凜奈は白雪が何をしようとしているのかまるで理解できない様子だった。だが、それもそのはずだ。白雪がしようとしていることは召喚者の中でも出来る奴はさほど多くない。そして出来る奴は大抵強力な武器と高い魔力を兼ね備えた、素質がある者だけだ。
「久々に自分の血を見たわ……そして私自身の甘さも。戦争に勝ち抜いていくにはどんな相手にも油断しない誓ったはずなのに、あなたにはそれを思い出させてもらった。だから、特別に見せて上げる、第二次開放をね」
第二次開放とは召喚者が、目指すもっとも高い位置にある者使えるものだ。自分の全てにおいて、もう一つの鎖を開放するこの技は高みに上り、召喚者として生きていくと決められた者のが使用することが出来ると言われている。
単純に、力が増幅するだけではなく、そこには一つの現象が流れ出す技なのだ。
眩い光を放ちながら高速で回転する魔法陣。白雪中心にとてつもない魔力が流れ出る。
「我の鎖を解き放ち、汝は時を待つ。雷鳴になりし者、我の力よ解放したまえ」
白雪が淡々と詠唱を唱える。それは力を解放するための第二の鍵になる。
「第二次開放、開放!」
刹那、白雪が居た周囲から蒼白い雷鳴が迸る。先ほどまで晴れていた空は台風の日のように暗くなり、雷が走っている。鎌は先ほどより一回りコンパクトになり、三日月型へと形状が変化する。
「こ、こんなのって……」
通常の状態でも力の差があったのにさらに開く力の差。先ほどだって白雪が油断して最小限の力しか出していなかったからまともに戦えていたが、初めから本気を出していたらほんの数秒で死んでいたのだ。しかし、それすらも超越する第二次開放を使われてはまもとに戦えるどころか、気が付いたら死んでいたなどもありうる。
今まで何度か実戦をしてきた凜奈だったが、ここまで強い魔力を感じたのは初めてだった……いや、今までの召喚者など比べるにも値しないほどの魔力に、凜奈は戦意を失いかけていた。
「さぁ、いくわよ。私に血を見せたんだから、あなた自身は血を見る覚悟があるのよね?」
刹那、凜奈の視界から白雪の姿が完全に消えた。体を魔術で隠したわけではなく、単純に召喚者である凜奈にも白雪の雷速に近い動きは捉えれなかったのだ。
十メートルほどあった距離を一秒もかからない速度で縮めた白雪は、凜奈の懐に入り、腹を上に蹴り上げた。
一体何をされたのかまるでわからない凜奈だったが、腹に激痛が走り、攻撃されたのだと理解した瞬間、上に上がっていた体はさらに殴られて地面に叩きつけられた。
殴られた場所は骨が何本も折れていることは瞬時にわかった。しかし、召喚者である凜奈はふらふらになりながらも立ち上がり、四枚の円盤を近くで空中に浮かせた。
そう、失いかけていた戦意は、今まで一緒に過ごしてきた海人との思い出によって再び戻ってきた。負ける訳にはいかない。自分が負けたら誰がやるのだと心を奮い立たせて、白雪を鋭く睨んだ。
「もう、あきらめたら?あなたじゃ絶対に勝てない。それぐらいわかるでしょ?」
挑発するのでもなく、馬鹿にする感じでもなくただ事実を淡々と述べる白雪。あきらめることは何もわるいことではないと思わせるような少しだけ優しい口調。しかし、初めから勝てないことなど理解していたが、簡単に諦めれる想いではなかった。
「私は諦めない!例え死んでも諦めたりなんかしない!」
二枚の円盤を飛ばし、もう二枚を持って突進する凜奈、だが、白雪はまたもや雷速に近い速度で移動したため、凜奈は標的である白雪を見失ってしまい、周囲を確認した瞬間、脇腹に激痛が走り、ビルに叩きつけられ、そのビルは爆発されたように粉々に粉砕してしまった。
「あなたは頑張ったわ。私相手に傷を負わせた。それは誰でも出来ることではないわ。だから、これで最後よ。諦めなさい、もし諦めたら情けで生かして上げるから、海人……私の約束相手に免じてね」
その言葉はまるで夢の中で悪夢を見た後のように……山で叫んだ時に発生する山彦のように頭を駆け巡る。海人は白雪と既に約束を結んでいた事実に。
「う、嘘でしょ……?海人は約束を結んだの……?」
瓦礫の山からゆっくりと出てくる凜奈はひどく驚いた顔をしていた。
「ええ。本当よ。私と海人は深い絆で結ばれたパートナーなの」
「絶対に、嘘だ!」
凜奈は爆発的に魔量を放出し、白雪に接近して右手に全ての魔力を注ぎ、白雪を殴ろうとしたがそれを片手で受け止めた。
「怒りに任せれば私に勝てると思った?感傷に浸れば強くなれると思う?そんなで強くなれたら私は世界で一番強くなってるわよ!」
大声を上げて再び蹴りを入れて十メートルほど吹っ飛んだ。風に飛ばされたゴミのように何回も地面に叩きつけられながら。
「あなたは自分がどれだけ恵まれているか理解していない。自分の大切な人が生きているだけで幸福だと思いなさい。それでどうするの?諦めるの?それとも死ぬの?」
服がボロボロになり、白い肌は血で赤く滲んでいた。それで、ゆっくりと立ち上がり大切な人の顔を思い浮かべる。そして気が付く。白雪を殺せば約束も破棄されることに。気が付いてしまえば答えはただ一つだった。
「私は、あなたを殺す!」
力強く立ち上がり、一枚の円盤を投げた。しかし、それを素手で受け止めた白雪は静かに言った。
「海人には私と同じ気持ちになってほしくなかったから、生かそうとしたけど、無駄だった見たいね。私と海人は絆で繋がったパートナー。悲しむのは見たくないけど、私があなたの代わりに寄り添っていけば言いだけの話」
先ほどまで素手で攻撃してたのは一言で言えば同情だった、大切な人を取られる辛さは理解していたから。だけど、それももうおしまいだった。
「じゃ殺すね?」
迸る雷鳴。光輝く鎌。瞬間、白雪の鎌は凜奈の首を確実に捉えていた。
(海人……あなたの幼馴染は本当に死んじゃうよ?後悔しないの?)
そう心の中で呟きながら……白雪は鎌を振るった。
読んでくさだってありがとうございます。こうしてほしいなど、駄目な場所があったら教えてくれると助かります。
これからも頑張りますのでお願いします




