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約束(エンゲージ)  作者: 千歳瑠璃
炎氷舞
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三度目

「なんだ一体!」


 先ほどまでサクと第三次開放トリプルアクセスの話をしていたので咄嗟に周囲を見渡し、召喚者の気配がないかを探りながら運転手の場所に向かう。


 俺達召喚者が使い手である者の渇望によって生み出された世界に居るということが仮説でも立てられたという事実は俺の警戒心を強めるには充分で、世界には俺達だけが巻き込まれたということは、周囲に居るクラスメイト達は無関係だ。


 だが、見ている風景が違う。感じている気候が全く間逆であるという事実はあるのだが、こうして同じ場所で共通の世界に居るということはここに居るみんなは幻でも幻覚でもなく本物なのだ。


 万が一に何かが起こり、大怪我や死ぬことになればそれは俺達が現実に帰っても同じ結果になっているのだ。何が起きたか慎重、そして警戒して物事を行わなければいけない。


「何があったんですか?」


 運転手はハンドルを持ったまま固まっていた。その姿はまるで、今までに始めて目にした物を見ているようで、俺は運転手が向けている視線の方向を向くと俺も固まった。


 先ほどから進んでいた街は完全になくなり、正面にはただ何もない平坦な野原……焼け野原が広がっていた。空港から出たばかりなのにも関わらず、何もない光景は異常だが、さらに異常な光景が目の前には存在した。


 街があったであろう場所からは現実ではありえない炎の柱が何本も地面から生えていて、その数本ある柱の中心に溶岩のような炎が視界全土に広がっていて、そこは言葉で表すのなら地獄だった。


 火山が噴火した時以上の溶岩の量に、太陽から放出されているプロミネンスのように地面から生えている炎の光景など当然誰しも見たことがない。召喚者である俺にも経験がないことを一般人である運転手が経験しているなどまずありえない。


 だが、そんなことよりももっと確かめることが存在した。


「炎や溶岩が見えますか?」


「あ?見えない訳ないだろ……こんな以上な光景……テレビですら見たことがない」


 俺は召喚者である白雪と凜奈に目を向けると二人共頷いた。それが意味することは、先ほどまで三人しか見えていなかった第三次開放(トリプルアクセス

)で見せて居る世界が人間であるクラスメイトにも見えるようになっているのだ。


「どうして……」


 俺がそう呟くと同時にバスは再び揺れに襲われ、左右に大きく揺れると同時に運転手はバッグでアクセルを踏み、急発進した。


 あまりに急なことでクラスメイト達からは悲鳴や批判の声が上がるが、俺から見える視線ではどうして運転手がバッグで急発進していたのか飲み込めた。


 周囲は柱のように上がる炎に、火山が噴火した以上に流れ出ている溶岩に覆われた世界はまさしく地獄で、その溶岩がバスに迫ってきたために運転手はバックをしたのだ。仮に運転手がバックをしなければこのバスは元から無かったかのように溶けていただろう。


 召喚者の勘で理解出来るが、この炎は普通の炎ではない。万物は全て触れた瞬間に溶かし、噴出す炎に飲み込まれると全て燃えるであろう。先ほどまで街だった場所が今は溶岩になっているのがその証拠だ。


 周囲に噴出す炎は人間であるとか召喚者であるなど全く関係なく、人間であろうが、召喚者であろうが、機械だろうが全て無かったかのように溶かすであろう煉獄は触れただけではなく、周囲にも熱を発する。


「暑い……」


 クラスメイトがそう言った通り、バスの中は先ほどとは違い、暑くなっている。その熱は急速に熱さから燃えるに変る勢いで、既に人間では耐えられる温度ではなくなっていく。


 声を出すことも出来ずに倒れていくクラスメイトだが、召喚者でも防ぎようがないこの熱さを人間である皆が耐用など出来る訳がなく、いつのまにかバスも止まり、周囲に焦げ臭い匂いが充満していく。


「海人!これはまずいわ!」


 白雪が叫ぶがそんなこと充分に理解している。周囲に漂う焦げ臭い匂いは段々と臭い肉が焦げるような匂いに変り、少しづつ溶けていく。


「みんなの体が……」


 急速に上がる温度にバスは溶けかかり、クラスメイトは焦げた肉のような匂いを発しながら煙に変り、見ている限り生きている者は居ないように感じなれる。


 バスが溶け、人は肉も溶けて骨も溶けて、原型などなくなり、いつしかドロドロの液体に変っている。召喚者である俺達はなんとか生きている状態なのだが、バスが完全に無くなり、煉獄が直接体に触れてしまえば一瞬で同じようになってしまうだろう。


「このままじゃ……」


 熱さにより声は段々と小さくなると同時に命も短くなる。火山の噴火口の中に居る以上の熱さに襲われて、体の肉が溶けて液体に変っていき、体の中にある液体が蒸発していく。


「もうダメ……」


 その声と同時に二人の気配が著しく弱くなるのを感じ、凜奈の魔力が完全に消える。


「こんな所で……」


 白雪が最後に発した言葉は、後悔の言葉だった。戦争に参加して勝者となり母親を生き返らせるという目標を叶えられないことに対しての後悔……それはあまりにも小さい声だった。


 二人の体が液体に変ると同時に俺も地面に倒れる。バスは完全に溶けて無くなり、俺は煉獄の中で倒れる途中に言葉を発する。


「無理だったか……」


 それは戦争の勝者となり、願いを叶えれなかった自分に言った言葉だったのか、それとも、大切で、それこそ命より大切だった二人を守れなかったことに対していった言葉なのか判断することも出来ずに煉獄に触れて蒸発すると思われた瞬間、


「いい加減目を覚ませ……」


 瞬間。


 それはまさに瞬間としか言えない時間の中で……俺が煉獄に触れて死ぬという一秒にも満たない時間の中で一人の男の声が聞こえたと同時に、周囲にあった煉獄全てが一瞬で凍りつき、世界が燃えさかる世界から間逆である凍てつく世界に変貌した。


 周りに居た俺以外の全てが凍りに変ったことを確認すると同時に目の前に一人の男が現われた。


 存在しているだけで圧倒的な存在感と、桁外れな魔力は召喚者として別次元の強さを持つと一瞬で判断でき、戦ったところで相手にもならないなど言わなくても分かるほどの実力者……間違いなくこの煉獄を凍らせた人物だ。


「ふん。いつも趣味が悪すぎる……」


 煉獄と同等の異常差を感じる凍りに聞き覚えのある声。いつしか理解出来ないが、前にも見たことがある世界だった。


「まぁ……もうどうすることも出来んか……」


 海人には何も理解出来なかった。だた、魔力の反応も察知できないまま、ただ、男に見られたというだけで体が瞬間的に凍結し、体の中にある臓器も完全に凍結して命を落とし、その事実を確認した男は呟く。


「また繰り返しか……」


 その言葉に反応するように世界は白く輝き、足元から崩れ去る。






*********








 気が付くと俺はバスの中に居た。飛行機で北海道にやってきて、空港でバスに乗り換え、ホテルに向かっている。


 バスの中には行ったことがない北海道を楽しみにしていクラスメイトと、担任である長井先生。そして、召喚者である凜奈は仲の良いクラスメイトの隣に座り、白雪は俺の隣に座っている。


 凜奈は話しかけてくるクラスメイト達を不思議な顔で見て、白雪と俺は互いに顔を見合わせる。そして、三人共同じことを思っているはずだ。


 一体何がどうなっているのだと……。


 このバスは第三次開放トリプルアクセスの使い手の地獄のような煉獄の世界で、全て溶けてなくなったはずだ。なのにどうして五体満足で存在しているのか……どうして死んだはずの俺達……。


 いや、バスに乗っている全員はどうして生きているのか……。


 高温によって溶けてなくなった体が元の状態に戻るなどということはまずありえない。解けた氷を再び固めても全く同じ形には戻らないのと同じように、元の原型が無くなった物を元に戻すなど誰にも出来ない。


 それは人間を超越する召喚者でも同じで、いくら身体能力が高く、魔法を使えるからといって、死者の干渉は出来ない。仮にそんな魔法が存在しても、この場に居る三人では出来ない。


 出来るとしたら魔術蒼石マテリアルブルーを全て集めて、願いを叶える以外には不可能に近い。願いを叶えるには後、十個の魔術蒼石が必要で、俺達の手元にあるのはまだ三つ。願いで蘇生させることは不可能だ。


「一体どうなっているんだ……」


 俺達には理解出来ない現象に悩んでも解決など出来ない。だが、一つだけい言えることが存在する。


「こんな風に悩むのは三回目ね……」


「ああ。前にもこんな経験したことがある」


 いつ下かは覚えてない……いや、この場合は記憶を消されているという考えの方が正しい気がする。召喚者である俺達が覚えて居ない可能性など、魔法により記憶を消されている以外思い当たらないからだ。


「だけど一体誰にやられた……」


 俺達は一度死んだ。煉獄の世界に溶かされて原型など全く留めずに死んだ。だが、なぜこうして生きている?どうやって、生き返った?そもそも、この現象を作りだしたのは誰だ?


 普通に走っていたバスが突然煉獄の世界に襲われて、そして全てを溶かした。その煉獄の世界……第三次解放トリプルアクセスによって生み出された渇望した世界は誰が生み出した物なのか?


 俺達を溶かして殺した風景を見せて一体何がしたい?そもそも、ここは本当に現実なのか?俺達が自覚していないだけで、実は死後の世界で、ここに居るみんなは既に死んでいるという展開はないのか?


 仮に死後の世界ではなく現実の世界だとしたら一体誰が煉獄の世界から出してくれた?一体何のために煉獄の世界などに俺達を呼んで、死ぬ光景など見せたのか。


 何が起きたかは理解しているが、肝心な場所だけの記憶は一切ない。そのため、真実に近づくことは一切出来ずに、もどかしい気持ちばかりが溜まっていく。


「全く思い出せないわ……」


 白雪が口にした通り全く思い出せない。煉獄の世界と第三次開放。そして、その世界は俺達を殺すことが出来る世界にも関わらず、殺さずに生かされた塔事実しかわからない。肝心な場所が穴だらけで全く繋がらない。ピースが足りないパズルをやっている気分に陥る。


 考えても全く理解出来ない出来事に嫌気が差し、外の風景を眺めることにする。先ほどの煉獄の世界のように突然変っても耐用できるようにという意味もあるが、流れる風景を見たいという思いもある。


 俺を合わせて、クラスメイト全員が北海道に来るのが初めてという状況で、周囲のみんなも楽しみにしていたにも関わらず、俺達のせいで召喚者に巻き込まれたことをお詫びしたい。だが、召喚者などと言う存在を全く知らないみんなに話した所で、馬鹿にされるのが目に見えている故にもどかしい。


映り行く風景は見覚えのある物が多い。初めて来た場所にも関わらず見覚えのある物が多いという状況は可笑しく、この光景を何度か見たことがあるという証拠になる。


(仮にどこかで見たことがある程度ならいいが……)


 頭の中……人間とは比べ物にならないほどの情報を収容出来る脳が、二度見たことがあると訴えている状況。そして、この後の風景がどんな形で何があるという位置情報すらも正確に把握しているので、ほぼ確実といっていいだろう。


「俺達は世界をループしている?」


 一度目がどうやって死んだか理解出来ないが、少なくとも二回目は第三次開放トリプルアクセスが作った世界で死んで、そして再び生きている世界に戻ってきた。いや、バスに乗った瞬間に戻ってきたのだ。


 ローネが一度目に見せた〝風読み〟としての能力ではないこの世界は、少なくとも夢の世界ではなく現実のなっている。ローネの夢は幸せな夢に飲み込まれたら目を覚まさないなどといった条約が存在したが、この世界は死ぬことによって繰る返す可能性がある。


「わからないわ……けど、少なくとも私達は二度死んでいるわ」


 人間であろが召喚者であろうが自分が死んだ後のことをどうにかすることなど、他人を蘇生させることより出来ない。死んでしまうという事実は、命を失うということになり、何も考えることが出来ず、何も行動に移せなくなってしまう。


 ならば、自分が死んでしまった後、どうするかよりは、他人を蘇生させることのほうが可能なのだ。


 もし、誰の助けもなく第三次開放の世界を抜け出せることなどいかなる召喚者にも不可能で、それが出来るものは人間でも召喚者でもなく、もっと超越した神に近い存在になる。


 だから繰り返しをさせている現況が存在するので、そいつを探せば止まる可能性がある。だが、記憶にある煉獄の世界……あの炎を自由に使える相手に勝てる見込みなど皆無に等しく、強敵だった英雄ジークフリードよりも遥かに格上になる敵。見つけ出した所で瞬殺されるだろう。


「あ!あれ見て!」


 クラスメイトの一人が叫ぶと同時に俺と白雪は反射的に召喚者の魔法か無いかが発動したと思い、周囲に気配を張り、魔力反応を探すが見当たらない。


「あのホテルでかい!」


 その声に張り詰めた糸が一気に和らぐのを感じた俺はクラスメイト達が注目しているホテルに目を向けた。そして飛び込んできたのは高いビルのようなホテルで、見た目だけで高級ホテルだと理解出来るほどだ。


 まだ明るいため殺風景に見えるが、夜になるとライトアップなどしたら綺麗になるのだと予想出来る。


「みなさん、僕達が止まるホテルはあそこです」


 長井先生の言葉に一気にテンションが最高潮に達したクラスメイト達は様々な感想を言い合う。この世界で死ぬ確立が高いという事実も知らずに。


 そして、バスはホテルまで進み、俺達は荷物を持って降りた。


読んでくださりありがとうございます

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