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約束(エンゲージ)  作者: 千歳瑠璃
炎氷舞
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違和感

  元通りに変る世界の中で、一瞬だけ海人は声を聞いたような気がした。それはここ一年半ほど毎日のように聞いていた声で、海人が留年しないようにと頑張ってくれた恩人である先生……。


 水瀬先生の声だった。


 いつも通り変化なく、女の人とは思えない話し方の水瀬先生だった。白衣を着て、科学の授業をしている先生で、学園に通うのになってからお世話になりっぱなしの水瀬先生の声だった。


「今はまだ関わるな……」


 それは重く、何のことを言っているのかなど悩むまでも無く理解出来る声だった。


「今のお前達ではまだは早い……あいつを相手にするのも私を相手にするのも早すぎる……英雄ジークフリードごときに苦戦して、ローネが召喚者だという事実も見破れなかったお前達には早すぎる……」


 それは本音で、海人自信理解していることだった。あの男が水瀬先生を探していたということは、水瀬先生も召喚者であるという事実の裏返しでもあり、あれほどの圧迫感を放てるということも召喚者ではなければ出来ない。


 そして、〝瞬間凍結ゼロブリザード〟ほどの召喚者に目をつけられるということは水瀬先生もまた、あれと同等かそれ以上の召喚者であるという事実の裏返しである。


 世界が移り変わる……それは白い世界の中で、一つの紅い世界に移り変る。


「だから今は関わるな……お前達はまだ弱い……けれど才能は底が見えないほどにある。だから今は引け。関わるな……」


 世界は紅く移り変わる。それは〝瞬間凍結〟が見せていた雪が降っており、一面雪で銀世界になっていた世界とは逆の世界で、紅く、炎に覆われた世界だ

った。


 紅蓮……まさにそれが相応しいほどの世界で、一面が溶岩のような炎に覆われていて、炎に覆われた世界では地面以外の全てが燃えていて、物体は何一つとして存在しない。


 周囲には強烈な暑さに覆われているにも関わらず、その紅い世界の中心に居る水瀬先生は汗一つ流して居らず、顔はなぜかお風呂に入っているかのように心地よい顔をしている。これが水瀬先生が強く望んでいる世界だと一瞬で理解出来るほどの心地の良い顔……まさに快感にも近い顔で灼熱の世界に一人で立っている。


 そう、水瀬先生は一人だった。紅く、紅蓮に覆われた世界に存在出来る者など居ない。だから水瀬先生はいつも一人だったのだ。この世界で人が傍らに居ることなど不可能だから。


「お前達は約束エンゲージを結んだパートナー……常に一緒に居ることを誓いあった仲なのだろう?その約束を壊す必要なんてないはずだ。だから今は関わるな……」


 その声はもはや誰にも聞こえていない。水瀬先生の〝世界〟が完全に広がって、この世界に誰一人存在できないからだ。全て物はただ紅蓮に焼かれてその力を強くするだけだ。


「失うな。大切な人を……隣に居てくれる人を……私のようになりたくなければ……これが教師だった私が教えれる最後の事だ」


 世界は再び移り変わる。紅蓮の世界は一人の思いと同化するために生まれ、そして誰一人見えなくなる。


「最後ぐらい言うことを聞いてくれよ?霧沢……」


 元に戻る世界の中で海人は最後の言葉だけは頭の中に強く響いた。



**********






 暗い闇の中から意識が浮上するのを感じた俺は目を開いた。ここは飛行機の中で、乗った所までは記憶に存在しているのだが、いつの間にか寝てしまったようだ。


 夢の中で、妙に聞き覚えのある声に話しかけられたような気がするが、今になってはそれがどんな内容で誰の声なのか、などまるで思い出せない。


 俺は周囲を見渡す。飛行機の中には北海道に行くためにクラスメイト達が乗っていて、みんな初めていく者が多いので、その話題で盛り上がっている者も居れば俺のように寝ている者の居る。


 飛行機は雲の上を飛んでいて空は澄み渡っている。雲の上を飛んでいる時はどんな場合でも晴れていると聞いたことがあったが、乗ったことが無かった俺はそれを始めて確認する。そもそも、雲の上を飛んでいるのだから曇っていたり雨が降っているなどありえないことなどで、特に何かを覚えてり感じたりなどしない。


 隣に座っている凜奈は窓側に座っているため、外の風景を楽しそうに見ている。空の上に居るのだから風景が変るわけでもなにのに見ていて何が楽しいのか理解出来ないが、本人が楽しそうなので問題ない。


 急遽決まった北海道旅行だが、俺は結構楽しみにしている。自分が行ったことがない場所に行くというだけでなぜか楽しみになるのは俺だけではないはずで、その辺は人間も召喚者も同じだろう。


 俺は一番前に座っている先生を見た。そこに座っているのは男の先生で、長井先生という名前で、俺達の担任をしている。一年生の時も担任で、遅刻の回数で進級が危なかった俺を助けてくれた良い先生だ。


 担当は科学をしていて、学園では良く、腰まである白衣を身に纏っていて、生徒からも人気のある先生……。


(あれ?何かが引っかかる……)


 今までずっとお世話になっていた長井先生には失礼だが、どうして担任になっているのだと、いう違和感を抱いてしまった。俺の担任は長井先生ではなくて……。


「っ!」


 突然、割るような痛みが頭を襲った。何か思い出そうとしているのに、それが脳が嫌がっている……いや、そうさせないようにしているようにも感じられるような痛み。 


 続く痛みをどうにか耐えて、俺は忘れた。何に違和感を抱いたのか……どうして頭が痛かったのか……全て忘れてしまい、俺は再び隣に居る凜奈に目を向けるとちょうど凜奈もこっちを見て、目が合った。


「海人、起きてたの?」


「ああ。今起きたところだ」


「おはよう、海人!それより外の風景が綺麗だよ?一緒に見る?」


「いや……遠慮しておくよ」


 俺は答えて目を瞑ることにする。そして、頭の中で違和感を整理することにする。俺が感じた違和感は全て無くなってしまった……長井先生のことについてなど全て忘れてしまった。今は長井先生が担任だと頭の中で理解しているのだが、逆に言えばそれこそが違和感だった。


 一年半という長い時間を担任として過ごしてきて、留年しなかった恩人でもある長井先生をどうして頭の中は、長井先生が担任だと強く呼びかけてきているのだろう。普通なら自然と受け入れる筈なのにどうして、そう思い込ませるように頭は言っているのだろうか。


(普通に考えれば可笑しい……だって、お世話になった人を一瞬でも疑ったりなどしないはずだ……そう、長井先生は学園で最もお世話になっている先生なのだから……)


 なぜか痛みが起こった瞬間に全て合理的に理解させられた気分に陥っている。一番お世話になった先生を、頭は強くこいつは担任だと言い聞かせているのだ。つまり、それは何か特別なことがあったという裏返しだろう。


 俺の頭の中に呼びかけなければ長井先生が担任であるという事実を疑ってしまうという出来事があったのだろう。そもそも、何か変なのだ。何かが説明出来ないがこの世界は何か違う。


 それは思い込みなのではなく、頭がそう認識させているのとも違う……しいて言えば召喚者としても感覚がそう言っているのだ。この世界は何かが違うと叫んでいるのだ。


(人間の感覚なら馬鹿な事言うな……と一掃出来るのだが、召喚者の感となれば話は別だ)


  人間とは姿が同じなだけで、その他全ての器官が強化されている召喚者……それは頭の回転から第六感と言われる未知の感覚までもが強化されていて、当然人間とは別物だ。


 その感覚が違うといっているのだから無視することなど出来る訳がない。この感覚は無視などしたらもしかしたらとてつもない結果になりかねないのだから俺に出来ることは考えることだけだ……。


 だが、考えても違和感以外わからない状況ではどうしようもない。まさに違和感としかいいようがないのだ。何か特別なことが起きているという状況だけしか理解出来ない。だが、今の段階でそこまで理解出来ていれば問題ないはずだ。


 なぜなら、頭の痛みを起きた瞬間に違和感の正体など全て忘れてしまうということは、何を特別なことをしている相手は俺達に思い出させる気がないということになり、違和感すら消そうとしたほどなのだから違和感を抱けているだけでいい。


 俺は後ろに座っている白雪に目を向けた。白雪も窓側に座っていて、外の風景を無表情で眺めているが、特に違和感を抱いているという様子はない。仮に抱いていたとしても白雪なら言いに来るはずだ。


 隣に居る凜奈も楽しそうに外を見ているだけで違和感に気が付いて様子はなく、飛行機に居る召喚者で違和感に気が付けているのは俺だけという状況なので俺は違和感を抱けているだけで充分だと判断したのだ。


 仮に俺達三人が全てが違和感を抱けて居ない状況に陥っていればそれこそ大変なことになっていただろう。なんせ、誰も違和感に気が付かないといことはここに居るクラスメイトも含めた全員が、違和感の無い場所に戻れないからだ。


 その場合、相手は戻すつもりが無ければ違和感をある世界で、違和感無しと感じながら生きていかなくてはならなくて、それこそ相手の思うつぼで、何も出来なくなってしまう。


 だから今抱いている……頭の中で響いている違和感……召喚者としての勘を失ってはいけないことを再認識する。この違和感のある場所をどうにするには俺が必要不可欠なのだから……。


 考え事をしている間に北海道までかなり近づいたらしく、しっかり席に座り、シートベルトを締めるようにという案内が流れて、着陸の態勢に入る飛行機に騒ぐクラスメイト。


 その声を聞きながら飛行機は無事に着陸した。





*********








着陸した飛行機が止まり、俺達は飛行機から出るためにボーディング・ブリッジ……飛行機と空港を繋ぐ通路の中から外の風景を眺めた。初めて来た北海道の風景をどうにか目で収めておきたいと考えたのだが、さすがに空港の中なので飛行機以外に見える物はほとんどなく、直ぐに正面を向いて歩き始める。


 空港内に入り、荷物を受け取ってバスが来ているらしいのでバスに乗るために空港の外に出ると、長井先生から聞いていたのとはまるで別で、真夏の沖縄のような熱さだった。水着も居ても問題ないほど快晴で、北海道の気温とは思えないほどだった。


「海人……なんか全然寒くないわよ?」


「ああ。普通はこんなに暑くなることなんてないはずなんだが……」


 北海道の九月よ言えば、そこまで寒くなくてもここまで暑いことなんて絶対にありえないはずだ。肌寒いぐらいで、山岳などで初雪が観察させるぐないなので、俺達の街より……いや、一言で言えば夏のような暑さで、立っているだけで汗が滲み出てくるようだった。


 しかし、周囲の様子は俺達とは間逆だった。周りは上からパーカーなどを着て、みんな寒そうにしているのだ。


「海人!一体どうなっているの!?」


 背後から足音と共に聞こえる声で俺達は振り返ると汗を流している凜奈が向かってきた。


「どうしたんだ?」


「可笑しいでしょ!?こんなに暑いのにみんなは寒いとか言っているし……」


「そのことか……」


 可笑しいなどという現象ではないだろう。俺が見ている風景は太陽が高く上り、遠くを見ると陽炎が浮かびあがっているほど暑いのに、クラスメイト……人間であるみんなは寒いと言っているのだ。これは何か起きていると考えて間違いないだろう。


「見る限り、この世界を暑いと感じているのは私達召喚者だけ見たいだけど……」


 白雪の言う通り、召喚者である俺達以外はみんな長袖を着ている。これは何ならか魔法が関与している可能性が高い。それも召喚者だけには効果を発揮して普通の人間には発揮しないような魔法。


 英雄ジークフリードと戦った時は世界に出てきた〝古代の兵器〟は人間にも見えていたが、今回は人間には見えない。つまり、同じ世界や場所に居るのに感じている熱さなどが違うということだ。


 それに、今は熱さ以外区別が付かないが、もしかすると見ている光景事態が違うなどと言う場合も考えられるため、下手な行動は取らないほうがいいだろう。今、周囲に居るクラスメイトの中に召喚者が居ないとは限らないのだから。


 もし、召喚者と人間の感じている物、全てを変化などさせる魔法を使うのであれば、俺達以上に強いはずだ。強敵で在れば〝魔女狩り〟で魔力に敏感だといえ、気が付かない可能性が出てくる。


 それに…………。


「気のせいかもしれないけど……前にもこんなこと無かったか?」


 俺はこの出来事に見覚えがあるのだ。どんなことだったなど詳しくは一切覚えていないが、このような……周囲と見ている視線た光景が違った出来事が一度あったような気がして仕方ないのだ。


「え?私は覚えていないけど……白雪はどう?」


 考える素振りをしていた白雪は少しの間を空けたが、凜奈と同じく、


「私も覚えてないは……けど、海人が言うのだからあった可能性が高い。私達は魔力干渉に気が付きにくいけど、海人は〝魔女狩り〟のおかげで私達より気付きやすいから……もしかすると一度体験している可能性があるわ」


「けど、感覚だけだぞ?確実にあったという確証は俺の中にはない」


「それでも注意するべきでしょ?私も覚えてないけど何かあったというのだけは理解出来るわ……召喚者の勘でね。それに海人がそうかと思ったなら注意して、信じるわよ。私が海人を疑うことなんて絶対にありえないわ」


 その言葉に嘘は全く感じられず、俺は嬉しくなった。約束エンゲージを結んでパートナーになったとはいえ、信頼とは一緒に居た時間で得るものなので、白雪が俺のことを信頼してくれていると言う事実が嬉しかったのだ。


「召喚者だけしか認識できない世界という可能性もあるわ。もしくは、この北海道を全て包む一つの世界みたいな物があって、私達召喚者しか見えない世界という可能性もあるわ」


人間は魔術閉鎖空間イージスの中にも入ることが出来ないが、この空間は魔術閉鎖空間とは全く別……そもそも空間などではなく、世界そのものに感じる。魔力反応もなく、ただ暑い北海道の光景が広がっている世界……ローネのように夢を見せている訳でもないこの世界は俺が知っていることはでは特別な〝世界〟としか表現できないのだ。


 仮に、ここが元の世界で、クラスメイトが見ている寒い北海道が可笑しな世界だという可能性も考えられるが、それではなぜ九月の北海道はここまで暑いのかという疑問は拭えない。


 異常気象ではない限り真夏の沖縄のような熱さにはならないだろう。それならば俺達が見ている世界が可笑しいと考えた方が正しいのだが、そこは全く判断できない場所だった。


「とりあえずバスに乗ろうよ。私達三人だけ乗ってないよ?」


 凜奈の言葉に俺達は周囲を見渡すが、言う通り俺達以外はみんなバスに乗って待機している状況だったので、急いでバスに乗り、適当に席に座ると同時にバスが発進した。


 俺達三人は最後に乗ったため座る場所が離れてしまったため、この可笑しな現象について話すことは出来ないため、俺は魔法の媒体でもあるサクに話しかけることにした。


『この世界って本当の世界なのか?』


『いや、相棒が見ている世界は間違いなく可笑しな世界だ……それに、俺もこの世界を経験したことがある……だが、詳しいことはわからないが……』


『予想は出来るんだな?』


『そうだ。けど、確証は無い……いや、こればっかりは確証をもてるほうが可笑しい……』


 サクは先代の〝魔女狩り〟と共に勝者になった武器で、俺達のような召喚者より大量の知識を持っているだろう。そのサクが確証がないというが、俺達が考えるより何倍も確証があることに違いない。


『相棒は、第二次開放セカンドアクセスの上を知ってるか?』


『あることは知っているが……』


『たぶんそれだ……第三次開放トリプルアクセス……召喚者の中でも最も高みに上った者が使える世界。自分が強く渇望した世界を再現する魔法……世界中で使える者は十人居るかどうかわからないほどの少ない者が使用出来る世界。たぶんそれだ』


 第三次開放という単語は初めて聞いたが、サクが嘘を言っているようには思えなかった。ということは俺達……北海道を巻き込むほど巨大な世界を作れるほどの強者。そいつが俺達にこの暑い北海道を見せているということになる。


第三次開放トリプルアクセスは世界を渇望する。今は北海道という巨大な島全てを囲んでいるからこの程度の世界で済んでいるが、相手は本気になれば紅蓮の世界に変えることが出来るはずだ……相棒たちはそいつらに目をつけられた可能性が高い』


『目をつけられたって……』


 そこで気が付く。どうして初めて体験するはずの第三次開放トリプルアクセスの世界を一度体験したことがあるのかという疑問に。


『そうだ。たぶんだが、相棒たちは一度この世界に入り込んでいる可能性がある。だから目つけられた……最悪の結果だ』


 第二次開放セカンドアクセスを使える者と使えない者との差は海人だって理解している。使えない者は使える者には絶対に勝つことが出来ないといわれるほどの実力差が出るのだ。それと同じで第二次開放と第三次開放ではあまりに差がありすぎる。


『渇望した世界を作れる第三次開放トリプルアクセスを初めて使ったのは〝零世界〟という召喚者……だが、それとは世界が違うように見えるから〝零世界〟ではないはずだが……それでも細心の注意をすることは絶対だ。下手をすれば気が付いたら殺されている可能性があるから注意してくれ』


『ああ。わかった』


 

 乗っていたバスが信号で止まると同時に大きな揺れがバスを襲った。




 








 



 

 


 

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