旅行
英雄との一戦を勝ち抜いた俺達の手元には魔術蒼石が三つ存在する。願いを叶えるためには後、十個必要で先は長いように感じられるが、期間などがない戦いなので気長にやっていくしかない。
そもそも、願いを叶える戦争は、選べれた召喚者の想いの強さで行われていると〝サク〟が言っていた。どういうものなかは理屈では理解出来ているものの本質では何も理解していない。戦争に選ばれた召喚者である俺達は何も知らないのだ。無知で、知識もない俺達召喚者はただ、自身の願いが叶うとう願望に負けて戦争に参加する。
知っている召喚者も存在するかもしれないが、そもそも戦争とは何なのか……誰が開催してどうやって願いを叶えているのかなど詳しいことは白雪や、ローなどでもわからないと答えた。
だが、明確に理解していることは願いが確実に叶うということのみで、願いが叶う仕組みも魔術蒼石に込められた桁外れの魔力が成し得る奇跡だと認識しているらしい。実際、英雄はたった一つの石で世界を破壊しようとしていた。
魔術蒼石の中に存在する桁違いの魔力も全てではないとしても体験した俺達は、そのすごさも知っている。しかし、魔力は人間には存在しない物だが、大量の魔力が集まるとなぜ、全てを超越した魔術……それは世界など簡単に征服でき、一瞬で人を殺すことなど簡単にしてしまう。死者蘇生などといった世界の摂理では起こりえないことも可能にしてしまう魔術。そんなもの普通に考えれば異常であるのは明らかだ。
もし、魔術蒼石が人の手で……召喚者の手で作られたものだとしたら、その召喚者は桁外れなどでは表せないほどの魔力を持っていたことになり、仮に何かの現象で出来たとしても、それほどの魔力が放出されればこの地球など存在しないはずだ。
何も知らずに召喚者達は踊らされているだけかもしれない。だが、心の底から叶えたい願いが存在する俺達、召喚者は何があろうと絶対に戦うことをやめる訳にはいかない。踊らされているだけだとしても、死ぬ確立があろうがなかろうが関係ない。ただ、叶えたい願いが存在して、守りたい想いが存在する。戦う理由などどれでもいい。
自分が叶えたい願いを叶えれるならなんでもすると初めて白雪と約束を結んだ時に決意したのだ。そして、二日前、英雄との対戦が終わった後、守られるだけではなく白雪を守ると決意したのだ。
勝てたのは白雪の流した雷があったからで、俺はただ、血だらけになっていただけだ。いつも、頑張るのは白雪で、自分は何もしない。そんなことは嫌だと思ったのだ。同じ、叶えられない願いを持ちながら結んだ約束……全てを一つにする。絆も同じく何もかも……たとえそれが死ぬ瞬間も同じになる死の契約だとしても、頼ってばかりでは意味がない。
約束が死の契約であろうがなかろうが、絆を結ぶためには必要なことで、今の俺達には絶対に欠かせないものなのだから気にならない。それに互いが互いを守って死ななければいいだけの話だ。
「ねぇ、海人!聞いてるの?」
学園には行かずに部屋で集まる俺達三人は二日前の英雄との戦いのことを話していたが、窓の外を見ているうちに違うことを考えてしまっていたため、話をまるで聞いていない。
「悪い……全く聞いてなかった……」
素直に謝る俺は、冷やかな目で見てくる凜奈に視線を戻し、正座を崩して机に肘を突く。そして、凜奈に目でもう一度話してくれと伝えると、渋々といった感じで口を開く。
「だから、ローネによると約束は死ぬ時も同じになるんだって……」
「それは聞いていた。だからどうしたんだ?」
「どうしたって……」
俺は凜奈がどうして約束のことについてそんなに言うのか理解出来なかった。厳密には何が言いたいのかは理解出来るが、そこまで深く考えていることが理解出来ないのだ。
俺達は既に約束を結んでいる。そして結ぶと同時に決意もしているのだ。何をしててでも戦争を勝ち抜いて願いを叶えると。自分の意思で決めた選択なのだ、今更どうこうなっても気にはならない。俺達は負けるつもりで参加している訳ではなく、勝者として願いを叶えるために参加しているのだから負けることなど考えても仕方ない。
「けど、約束という有名な儀式の本質ですら知らなかった私達だから、もっと深いなどがあるのかもしれないわ。この、戦争自体に関する深い謎だが……」
「それは俺も考えてた……魔術蒼石や戦争について……」
「約束のことがあるから知っている情報が全て嘘だということも考えられるわ……」
知っている情報が嘘というのはつまり何も知らないことと同じで、情報は戦いにおいていかなる無関係な情報に見えても勝利という結果に繋がる可能性があるため、少しでも情報が居る。極端な話、英雄と戦わなくても、ローネを三人で狙えば……などと、自分より格上の存在と戦わず、勝者になれた可能性だって存在する。
直接戦闘に関係がない情報でも、何かしらの結果に繋がる可能性が高い。くだらない情報だとしても知っていることと知らなかったことでは大きな違いがあり、それはやがて大きな結果に繋がる可能性だって存在する。
ならば、今までの情報が全て嘘で、本当の情報は何もしならない。だけど、相手は全ての情報を握っているとなれば、相手が自分より弱くても不利な状況なのは俺達になる。そんな状況で、相手の方が格上で、情報までも相手が持っているとなればますます不利になる。
「そうだな。だけど、俺達にそれを確かめる術は存在しない。ローやサクも知らないって言ってるし」
何か隠している気がするが、無理に聞いたところで答えてはくれないだろう。もし、聞いて答えてくれるのなら初めから知らない不利をする理由など存在しないからだ。それに、隠している内容も命に関わることではないはずだ。
本当に大事なことならば話してくれるだろうし、いつか知ることになる気がする。だが、それはまだ先に話しのような気もするので深くは聞かない。ローとサクも今まで戦ってきた仲間なのだから話してくれるまではいつまでも待つ。それが、戦争が終わった後でもだ。
「そうだな……仮に嘘だとしても関係ないだろ?願いが叶うという部分さえ本当であれば」
「そうね。私達はそのために戦っているんだもの。そこが嘘であれば問題大有りだけど、それ以外が嘘でも関係ないわ」
情報が大きな価値を持つ召喚者の戦いでは小さな情報……ローやサクが隠している情報も正直を言えば欲しいのだが、それでも俺達の意思に変化などないのだ。白雪は母親を蘇らせるため……俺はみんなが幸せなに暮らせる世界に変えること、戦争に参加する前から持っていた通常では叶えることが出来ない願いを叶えられるという機会がこの戦争なのだ。
限りなく難しい課題……勝者になるという条件付きだが、難しくても関係ない。何をしても、自分の命を掛けてでも叶えたいと願った願いなら自分から行動しなければ絶対に叶わない。機会があれば全力で手を伸ばす。でなければ叶わない願いなのだ。
人の蘇生など誰にも出来ないことと、世界から幸せなこと以外を取り除くという不可能な願いを叶えてくれるという条件だけ本当で、事実であれば他の情報など嘘でいい。ただ、どんなに不利な状態でも勝てばいいだけなのだ。
「私達には叶えたい願いがある……絶対に叶えるわよ?」
「ああ。当たり前だ」
俺の言葉に白雪は笑顔で微笑む。可愛らしい笑みは桜が満開に咲いたような笑顔で、俺は目を背けた。願いを叶えるということは最重要なのだが、俺は英雄との戦いが終わった後に決意したのだ。白雪を守ると……それも絶対に叶える。自分の命を掛けてでも、絶対に。
時計に目を向けると時刻は午前五時になったばかり。朝、早くに集まって話しをしていたのだが、いつも流れの練習をする時間になっていた。英雄には勝てたのだが、流れは未だにうまく扱えない。ただでさえ、弱い俺達は練習するしかないのだ。
「はぁ……二人とも頑張ってね?私も手伝えることがあったら何でもするから」
笑顔を向ける凜奈に俺と白雪は頷いた。俺はこの場に確かに強い絆を感じた。これからどんな敵がこようと二日前の英雄の時のように勝てると信じている。
「それじゃ、行くわよ。これからもっと激戦するはずだから……勝ち残るには強くなるしかないわ」
俺達は朝の気持ちがいい風を浴びながら誰にも見つからないようにそっと工場に向う。英雄と戦い、勝利した日以外は毎日のように行っている俺と白雪の出会いの場所。そして、召喚者になる運命が回り始めた場所に、魔力の流れを練習しに行く。
初めに比べると俺達に見違えるほどに出来るようになっていたが、それでも尚、実戦ではほとんど役に立たない。流れをうまく使えるようになると、一撃の攻撃力が、凝縮された魔力のおかげで上がる。昔のような雑な魔力移動の時とは比べ物にならないほどに。なので、戦争を戦うのに流れを取得するのは当たり前なのである。
工場に着いた俺達は各自、集中して流れの練習をする。練習が始めると誰一人話をしなくなり、緊張感が入った空気が流れ出すが、三人の中で一番出来ない俺は邪魔にならない程度のため息を吐く。そして、目を開けて、休憩する。
他に二人は集中しているので声を発することが出来ないため、黙っていると、不意に俺の周囲を一匹の虫が飛んでいることに気がついた。小さく、人の目には細部まで映らない程度の大きさの虫。炎を纏ったような赤い虫が周囲を飛んでいて邪魔だったので、捕まえようとすると、回避された。
「え……」
驚いた俺は声を上げてしまった。そもそも、召喚者の動きを回避出来るのは召喚者だけで、それは動物や虫に対しても例外は存在しない。捕まえるつもりでやったのに回避されてしまったので驚いたのだ。
「……何どうかしたの?」
「どうしたの?」
集中していた二人は同時に流れの練習をやめて声を出した俺の方を向く。一生懸命やっていた二人だったので、くだらない内容で邪魔してしまったことに罪悪感を抱きつつ、けれど本当をことを言えない俺は「なんでもない」とだけ言った。
「そう?わかったは……ってもう、こんな時間じゃない」
時計を見た白雪は凜奈にも時計を見せる。そして、俺達は練習を切り上げて、学園に向かう準備をするために部屋に戻った。帰宅途中に、小さく、虫のことはすっかり忘れていた。
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それれから三日が経過した。俺達は流れの練習をしてから学園に向かう。寮の前で集合した俺達はゆっくり歩き始めて校内に向かう。
校内に着いたら下駄箱で靴を履き替えて、教室に向かう途中に、見覚えのある光景が目の前に飛びこんできた。赤のラインが入った一年生の制服に、ダンボールを重そうに抱えているのは谷崎だった。最近見てなかった光景だが、谷崎は先生の頼みごとを手伝っているのだろう。
俺は白雪と凜奈に先に教室に行って貰い、谷崎が居る場所に近づいた。谷崎は近づいてくる足音に反応して俺の方を見ると、可愛らしい笑顔に変り、「霧沢先輩!おはようございます!!」と元気良く挨拶してきた。
「おはよう。また手伝っているのか?」
「そいうい先輩はまた手伝ってくれるんですか?」
ニコニコ笑顔を浮べる谷崎からダンボールを持ち上げると、横に並んで歩き出す。どうやら準備室に荷物を持っていくらしいので、準備室に向かう。そして五分ほど歩いていると横から視線を感じたので、横を見ると、谷崎がこちらを見ていた。
「どうしたんだ?」
「いえ……先輩も召喚者として強くなったなぁーとか思ったのですよ」
谷崎は理由は知らないが、人間でありながら召喚者という存在を知っている数少ない人物だ。この学園では俺達三人の召喚者の除くと、召喚者を知っている人間は一人だけだろう。もちろん、俺達が召喚者だという事実は知っている。数が月前に、白雪と凜奈が戦った居る途中に谷崎が手伝ってくれなければ凜奈は死んでいた。本当に感謝をしている。
「あの英雄を倒せる召喚者なんてそうそういませんよ?」
やはり谷崎は英雄が死んだということを知っている。そして、俺が殺したということも。
俺は今まで召喚者を殺さずに、魔法の媒体を壊していたが、英雄との戦いにそんな暇など無かった。白雪が流した雷と、微かに残っていた夢のおかげで、一瞬だけ出来た隙を狙ったのだ。余計なことなど考えていたら俺達は死んでいて、世界は壊れていた。
なので、殺すしかなった……など言いたくないが、勝てる方法がそれ以外考え付かなかった。それほどに緊迫した戦いだった。実力は遥かに上の英雄相手に殺さずに勝つなどという甘い考えは捨てなければならなかったのだ。
「先輩は間違っていませんよ。叶えたいもの、そして守りたい者のためには相手を殺すしかありません……自分が負ける、大切な人が死ぬという状況よりも絶対にいいですから……だから気にする必要は一切ないですよ。私達、人からすれば命の価値は平等ではない……それは先輩のような召喚者でも同じことですから……」
身内や関係がある人が死んだ時より、赤の他人や敵が死んだ方が悲しくないのと同じで、人によって命の重さは千差万別なのだ。決して万人が万人に対して愛や大切という気持ちを抱くことはなく、死んだら悲しむということはありえない。
可愛そうだという感情だけは感じるが、それ以外は何も感じない。他人が死んだところで日常生活には全く関わりがなく、自分の身内が死ぬとなると、日常生活にまで影響をする。
誰に対しても思いを抱くことはなく、自分にとって大切で関係のある人の命が優先的に大切になるのは、感情という物を持って生まれてきた人間にとっては至極当たり前のことだ。それは召喚者である俺も何一つ変りはない。
「ああ。ありがとうな……」
谷崎が言った言葉は全て本当のことで、嘘など一つもない。だが、仕方ないと理解していながらもそれを認めたくもない。俺はみんなが幸せに暮らせる世界にしたい。それのためらなば命など容易く掛ける覚悟があるため、認めない。だけど、確かに事実を言っている谷崎の言葉に少し、ほんの少しだけだが、救われた気がした。
しらばく歩くと準備室に到着したため、俺達は荷物を置いて、分かれる。そしてHRしているのを邪魔しないようにゆっくりと歩いて教室の前までやってきて、後ろの扉から入る。
「遅れてすいません……」
「霧沢!また遅刻だぞ!って、用件は凜奈に聞いているからいいが……私の苦労を増やさないでくれよ」
「すいません……」
俺は席に座ると視線を感じたので白雪の方を見ると、目があった。そして、白雪は桜が咲いたような満面の笑みを浮かべ、俺は視線を逸らした。なぜだかわからないが、心臓が加速し、顔が赤くなっていることを感じる。
もう一度視線を向けると、白雪は笑ったままで、少しだけ見つめていると……。
「霧沢!話をするからこっちを見ろ!桜ばかり見てないで、話を聞け!!」
「はい!すいません!」
急いで視線を水瀬先生に戻し、話を聞く体勢に入る。どうせ、いつも通りどうでもいい話なので、しっかりは聞かないが、水瀬先生はなぜか知らないが、そういうことには直ぐに気が付くため、聞いている体勢をとっておかなければいけないのだ。
「急遽決まったことだが、一週間後に三泊四日の旅行に行くことになった。二年生だけだが、しっかり準備しておくように……以上だ」
さすがに急すぎたようでクラスメイトもざわめいている。二年生になると修学旅行という大イベントが待っているが、それも時期的に速いため、旅行に行く理由がいまいち理解出来ない。
「疑問は理解出来るが……今日聞かされたから私も良く理解出来ていない……まぁ、修学旅行とは別なので、イベントが増えたと思っていたらいいじゃないのか?」
「どこにいくんですか?」
「北海道だ。北海道はでっかい……何を言わせる!とりあず準備をしておくように!!以上だ」
呆然とするクラスメイトはただ、水瀬先生が教室を出て行くのを見ていただけだった。
読んでくださりありがとうございます




