宿敵
そこは巨大な神殿だった。大理石で作られた神殿はとにかく巨大で、何百人単位の人など余裕で入ることができる大きさで、パティーなどを開くのには最適な大きさだ。天井は高くシャンゼリアがあり、綺麗に磨かれた神殿には傷一つ存在せず、埃の一つも落ちていなかった。
名画と思われる絵画を壁に掛けており、その絵画は不気味に笑っている。それと同じように笑っている男が神殿のち中心部……王の間に腰掛けていた。周囲には綺麗な女性をはべらせて色々させている。その女性達はただ作った笑顔を浮けべて居るが、瞳には恐怖が浮かんでいる。
それもそのはずだ。周囲に居る女性は普通の人間だが、王の間に座っている者は人間などという枠を超えた存在である召喚者……それも強力な魔力に強力な能力を持っている召喚者……それは〝魔女〟や〝英雄〟以上に強力な魔力を持っており、今は女性達が周囲に居るために笑顔を浮けべて居るが、どうしても気がついてしまう。
人間など無力な存在で召喚者には絶対に勝てないということに。笑っている男からはそれほどの存在感と魔力が吹き荒れている。普通の人間……素質も何もなく召喚者には縁がない人間でもなお、気がついてしまうほどに強力な魔力。
本人は無意識に放出しているために気にも留めていないが、近くに居る女性達はただ、男の言う通りに笑顔を浮べて動く。何を命令されてもどんに辛いことでも絶対に断れない。普通の人間に召喚者をどうすることも出来ないために逆らえない。
逆らってしまったら辛いと感じることも出来ないまま殺されてしまうからだ。神殿が建っている場所は暖かい場所なのに部屋を支配する空間は肌寒く、霜が存在するぐらいだ。何かをしている訳ではなく、中心に居る男からはただならぬ空気と押さえていても溢れる魔力。それに、冷気のような物が漂っており
、周囲の温度を下げている。
そんな中、一人の男が王の間に現われた。小さな身長に全身を厚い服で覆っている男からは魔力の反応を感じない。つまり、周囲に居る女性達と同様で人間と言うことになるが、普通の人間でも気が付く異常さを纏っている男を前にしても怯む様子はなく、むしろ。冷気を放っている男の方が一歩引いているようにも感じる。
厚い服を纏っている男からは何の異常さも感じないが、召喚者ということ知っていて尚、対峙して平然としている様子は、まるで召喚者である男よりも自分……人間である自分の方が強いと思っているようにも感じられる。
周囲に居る女性達は男のことを知っている様子で見ている。だが、そこには畏怖の表情はなく、むしろ憧れや、恋愛感情のような表情が見える。もちろん男は女性の視線には気付かない。
「それで、どうだった?」
冷気を放つ男は、周囲を一層冷やすような笑みを浮べて男に問う。周囲に居る人間はその笑みを浮べた男の異常さに全員が気負失うなか、正面で受けた男にはまるで普通の笑みに見えるほど清々しい笑みを浮べた。
「漂っていた魔力は〝英雄〟のものですね……古代の兵器を〝風読み〟が具現化していたのでしょう」
「〝英雄〟か……あいつは死んだのか?」
「はい。漂っていた魔力も消えましたし、本人の魔力も完全に消滅しました……後、〝英雄〟と約束を結んでいた〝風読み〟も死にました」
男は調べてきたことを淡々と……実際は出現した塔の周りに居た人間に混じっていたのだが、あの場には五人もの召喚者がいながらこの男の異常さに気が付くものは居なかった。つまり、そういうことなのだ。
漂っている空気や魔力が無いことは普通の人間と同様なのだが、圧倒的に存在感が違う。召喚者も普通の人間の何倍にも存在感があるのだが、この男はそれ以上……まるで万単位の人間が一人の男の中に居るような存在感。これを異常と呼ばずになんて呼べばいいのか。
冷気を放っている男……召喚者である男は目の前に居る男の異常性に気がついていながらも下で働かせているのだ。脅しても……もしかすると自身が本気を出しても勝てないかもしれないと感じさせるほどの相手を脅すことなど出来ない。だが、この男はそれをして、下で働かせているのだ。
並みの召喚者ではこの人間の異常さにすら気が付かない。だが、それは冷気を放つ男が気が付かなかった〝英雄〟よりも強いという裏づけであり、その男が危険と感じさせる人間など異常以外に何もない。
「〝英雄〟は確か強力な召喚者だったはずだ……そいつが負けたとなれば相手は強かったのか?」
「いえ、自分が見たときには〝英雄〟に勝てる実力は無いように見えました」
「〝魔女狩り〟……」
男は察したように呟いた。〝魔女狩り〟は言わずと知れている召喚者で、召喚者の中で知らない者は存在しないだろう。前回優勝した〝魔女狩り〟と〝三日月雷鎌〟の約束……だからこそ納得した。実力は無くても奇跡に近い何かが起きたのではないかと。
「そうです……」
「なるほど……だが、そんなことより確定が取れたな」
〝英雄〟が殺されたのなどどうでもいいように話を続ける。英雄とて決して弱くない召喚者だということは冷気を纏っている男や、存在感が強い男も理解している事実だ。だが、認めているからといえ、自分達より強いと聞かれれば否と答える。
魔術蒼石を集めるためには結果的に英雄とも戦わなくてはならない結果になっていた。ならば英雄が他の誰に負けて死のうが関係なく、一層弱い〝魔女狩り〟に持っていてもらった方が効率がいいのだ。
だが、冷気を纏っている男には英雄の死に対して意味が無かったよは思っていない。それどころか、今まで不確かだった情報の確定が取れたのだから死んでくれたことには感謝している。
「約束は絆を結ぶと同時に死の契約でもあるという情報の確定が取れた……これはなかなかの情報だ。世界でも知っている者はそう多くは存在しないだろう」
「そうですね……けど、それを知ってどうするんですか?」
そう、約束は確かに契約した片方が死ねば両方が死ぬという死の契約だが、それを知って所で対して変化はない。約束というのは絆のほかにも全て一つになることを意味しており、片一方が戦うのならばもう片一方も戦うはずだ。その時に両方共殺せば約束なんて関係ないと考える男だったが、冷気を放出している男は鋭く冷たい笑みを浮べた。
「それは秘密だ……ただ、下手をすれば面白いことができる可能性が存在するが……まぁ、今の俺には関係ないが、知っていて不便なことなどないだろう?」
「確かにそうですね……召喚者は情報が大切なので、知っているのと知らないのではかなり変化が出ます。それも、約束を結んでいる相手ならばなお更」
「そういうことだ……」
刹那、神殿が大きな振動に襲われ、二人は周囲を見渡すと同時に王の間に侵入者が現われた。赤い服を着ている集団は二人の男に魔力が込められた弾が装填されている拳銃向けたが、狙われている二人は苦笑いを浮べていた。それは、可愛そうな人間を見ている目で、まるで言葉も話すことも出来ない子供を相手にしているようだった。
「やはり……〝英雄〟が負けたという情報はすべに知っていたようだな……宿敵よ」
そこにいない誰かに呟くように言う男は拳銃を持っている男など居ないかのように立ち上がった。そして、人数が増えてうるさくなった王の間を出ようとした瞬間、ちらりと赤の服を着た集団を見た男。
瞬間、男の目には誰一人見えない速度で魔法陣が浮かび上がり、目に魔力を込めると赤い集団は一瞬で氷ついた。
「奇襲なんて掛けなくても俺から出向いてやるさ……」
そうだけ呟き、男は王の間を出た。
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