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過去Ⅳ 運命

最愛で最も愛していた夫である白雪が亡くなってから四ヶ月は経過した。お葬式は白雪の身内とニコルのみで行われた小さな小さなお葬式だった。自分の最愛の人は白雪を大切に思うってくくれている人のみに見送られたのだ。


 数が多かった訳ではない。特別なことが起こった訳ではない。しかし、白雪は少ない身内に見送られたことに幸せを抱いていることは間違いなく、三年と少しという短い時間だが、毎日一緒に暮らしていたからこそわかるのだ。白雪は死んだとしても幸せだっただろうと。身内だけでお葬式をしたとしても幸せだっただろうと。


 彼はそういう人間なのだとニコルは心の底から理解でいるから。あの運命の日からずっと心の底にあった想いが……互いに通じ合っていたという事実があるから相手の気持ちを理解出来るのだ。だから言える。幸せに違いないと。


 しかし、極稀にだが、白雪が亡くなってから考えることがニコルにはあった。それは、自分との三年間は白雪にとって本当に幸せだったのかというニコルには理解することの出来ないことだ。


 心は通じ合って居た。互いに同じ想いを心に抱いていた。しかし、その部分だけはどうしてもニコルには伝わってこなかった。他の全ては手に取るように理解することが出来るのに、そこだけは霧が掛かったように見えないのだ。


 ニコルは幸せだった。自分の人生で最も大きな選択である、自由に生きる選択……名家である家に縛られず、自分の意思で自分の決断で前に進むことを決めたのは白雪と一緒に居たいという想いが、願いが存在したからだ。


 そんな家を捨ててまで一緒になりかった人と一緒に居たのだから幸せでないはずがない。今までを買って貰ったことより、白雪に貰った些細な物のほうが嬉しかった。今まで食べたどんな高級料理よりも白雪と食べた素朴な料理の方がおいしかった。そう思えるほどに白雪のことを愛していたのだから幸せに決まっている。


 

だからこそニコルには理解出来ない。自分のようなローラ家という箱庭で育ってきた自分と一緒に居て……様々な迷惑を掛けたのに一緒に居てくれた白雪は本当に幸せだったのかということを考えてしまうのだ。


 だが、本人が居ない今ではそのことを聞ける人は居ない。仮に誰かに聞いたとしても本当の気持ちなどは白雪にしか理解出来ない物で、他人から発せられる言葉では何一つ心に響かない。


「どうしたんだ?浮かない顔して……」


「なんでもないわ……」


 ニコルは白雪と過ごした家に居る。白雪が亡くなった今、自分の子供を育てていくには大量のお金が必要なので、子供見ながら出来る職に就いたのだが、今は忙しくて見ている暇がないのでローラ家の時からお世話になっているクリスに面倒を見てもらっている最中なのだ。


「最近、良く浮かない顔をしているが……何かあったのか?」


 最近とはたぶん白雪が亡くなってからだろうとニコルは予想した。最近は特に自分と居て白雪は幸せだったのかという疑問に駆られることが多くなってきたのでそのためだろう。


 折角就いた職……絵本を書くこともそのことが気になりだしたら全く集中出来なくなるため、こうして締め切り日が近くなると子供の面倒を見れなくなることが多かった。そのたびにクリスに見てもらって居るので、一生クリスには頭が上がらない。


「なんでもないわ……」


 こうして再び絵本を書くことに戻る。小さい頃絵がうまかったと祖父などに言われていたことを信じて絵本を書いてみたのだが、それがたまたまうまくいき、こうして職に就くことが出来たが、集中出来ない頭では絵本を書くことが出来ない。


 もし、この職を失ったら本当に当てがないのだ。最悪の場合一度捨てたローラ家にお願いしなくてはならないなどという事態に招かれるかもしれない。自分で決断したことを曲げるということは白雪とのことも否定するということになる。そんなマネは死んでも嫌だった。


 絵本に戻るが結局、集中出来ないために一休みするニコルは最愛の人との間に出来た愛の結晶である子供……キサラ・ローラと名づけたニコルと白雪の子供の面倒を見る。生後四ヶ月なので、立つことや話すことは出来ないが、玩具で遊んだり、表情が豊かなので見ているニコルが、仕事の疲れや悩んでいることも一瞬忘れることが出来る。


 だが、どんなに頑張っても白雪のことは忘れることは出来ない……いや、何があっても忘れることなどしたくないと考えているニコルだが、仕事に集中出来ないとどうしようもないので、困っている。


 生まれた子供は日を増すごとに大きく、元気に育っている。特に悪い場所もなく、このまま行けば順調に成長して大きくなっていくだろうキサラ・ローラは可愛らしい顔で生み親であるニコルに手を伸ばす。


 それに答えるようにして手を伸ばし、一生懸命覚えた子供の抱き方で抱いて、優しく背中を撫でる。四ヶ月の子供は言葉を話すことは出来ない。ニコルの言葉など聞いても理解出来ないかもしれない。だけど、言葉にしなくても伝わる想いはあることを知っているニコルは抱きながら想いを込める。


 三年間傍らに寄り添って、短い時間だったけど共に歩んでくれた父親が居たこと、自分がその父親を心の底から愛していたこと。抱きかかえている小さな命より、亡くなった白雪の方が大切なこと。自分の想いとそして大好きな人である白雪との思い出をキサラに伝わればいいと思いながら優しく背中を撫で続ける。


 不意に、涙が流れる。意図して流した物ではなく、楽しかった三年間を思い出してしまったことにより無意識に涙が流れたのだ。大好きで愛していた白雪が亡くなってから四ヶ月。普通に生きていれば決して短くない時間だが、ニコルの心の傷を癒すにはあまりにも短い時間で、心の中心に居る白雪の笑顔はいつまでたっても消えることはない。


 現実はいつも理不尽で、幸せだった時に落とされる。名家に生まれて少し思えば直ぐに物が買ってもらえ、食べたいと思った料理は言えば出てくる。将来も安定して、お金持ちの貴族と結婚まで出来るニコル。だが、その全てを捨ててまで一緒に居たいと思った一人の男は今はこの世には居ない。認めたくないが認めるしかない。


 隣に居ないのだから認めるしかないのだ。そして、あの幸せだった三年間はいくら願っても決して戻ってくることなどないのだから。死んだ人が生き返るなど決して現実ではありえないからだ。


「白雪っ……」


 細く、嗚咽の混じった声が響く。瞳から流れるのは大粒の涙。そんなニコルを見て不思議そうな顔をしているキサラを心配そうに見ているクリスに渡したニコルは洗面所に向かう。


 いくら願っても戻っては来ない。楽しかった時間は永遠に過ぎたまま。だけど、その記憶を抱えたまま生きていくしかない。自分が死んだら誰がキサラを育てるんだという想いを抱いていた。それに、三年間で育んだ愛の結晶を潰したくない、失いたくないとニコルを思っている。


 洗面所から戻ってきたニコルの目は泣いた後のため、赤く腫れていた。しかし、泣いたために重かった心は少しだけ軽くなったニコルは生活をするために再び仕事に戻ろうした。


 だが、今まで黙っていたクリスは口を開く。


「やっぱり無理があったか……」


「……何が?」


 急に言われたために理解出来ないニコルは真剣に悩む。一体ないが無理だったのかと。確かにニコルはローラ家という箱庭で育ったお姫様だが、この三年間だは努力を重ねて母親になるために頑張ったので、このことは関係ないはずだと確信があるニコル。


 努力している所は何度を見られたためではなく、ニコルを応援して、料理などは活に必要最低限の家事は全てクリスに教えてもらっていたのだからニコルの頑張りは知っているはずなのだ。


「ニコル……私と一緒に来てくれないか?」


キサラを抱きかかえて玄関に向かうクリスについていくニコル。泣いた後なので少し落ち着いてからにして欲しいなど思いながら口には出せなかった。クリスの背中がそれを言わせてはくれなかったのだ。


 普段からまじめであるクリスだが、ニコルもこれほどまじめな……いや、真剣な眼差しをしているクリスなど見たことがなく、何かとてつもなく大切なことなのだろうとよ用意に想像が付いたからだ。


 ただ黙って歩くクリスの背中を追いながら歩くニコルは数十分歩くと、どこに向かっているか想像が付いた。それはニコルが最も大切な人を失った場所であり、最も大切な人との間に出来た子供が生まれた場所である病院だった。


 いい思い出と嫌な思い出が交差する場所である病院は今まで立ち寄らないようにしていたが、クリスはこの病院になにやら大切な用事が存在するらしい。ニコルをここにつれてくるということは想像以上に大切な用事だと理解したニコルは少し緊張した趣で病院内に入る。


 受付まで行き、クリスが話しを終えると、白雪の担当医が顔を出した。白雪は亡くなったが、担当医である男は自分達に出来ることを精一杯尽くしてくれたことを知っているため、軽く挨拶をする。


「案内してください……」


「わかりました。本当にこのタイミングでいいのですね?」


「はい。悩んでいるようですから……このタイミングしかないと思っています」


「そこまで言うのなら……わかりました。案内します……」


 ニコルには二人が話している内容を理解出来ない。しかし、ただ一つ理解出来ることがそれは自分自身のことを言っているとうことだけだ。ニコルは二人が話す空気と内容からそう察していた。


 担当医だった人が歩き出すと、クリスも一緒についていく。キサラだけは近くに居たナースに預けられて、三人で向かう。少し歩いているとまたもやどこに向かっているか察することができた。


 扉を開けて、真っ白な部屋が飛び出す。床に壁、カーテンにベットまでもが真っ白に統一された空間は病室だ。それも、白雪が亡くなった病室で、ニコルにとっては一番着たくない場所だった。


 最愛の人が息を引き取った病室は四ヶ月経過した今も病人は居ないようで、最後に使われたのは白雪が最後だと察する。この病室では何をすることもなくただ、寝ている白雪を見ているだけだった。たまに目を覚ましても三十分もしないうちに再び寝てしまうため、入院してからは話すこともほとんどしていなかったニコルと白雪。


 だが、ここも白雪と過ごした空間の一つ……嫌、もっと大切で、自分の最愛の人が人生を終えた最後の場所なのだ。再びこれたことに対しても喜びと、悲しさが入り混じる感情をニコルはどう表現していいのかわかならい。


 だた、言えることはこのニコルにとっては最後の聖域のような場所をまだ他人に侵されていなかったことに対して安堵と喜びを出だしている。ニコルにとってどのような状況で白雪と過ごしたか、ではなく、白雪と過ごした場所はどこでも大切な場所に変るのだ。


 潤んだ目で部屋全体を見渡すニコルは誰も眠っていないベットを見ると悲しい気持ちなる。この世界には本当に自分が愛した白雪という男の存在がないのだと実感させられるからだ。


「ここに何があるんですか?」


 何も聞かせれてないまま連れてこられたため、一体何をしようとしているのか理解出来ないニコル。ましてや、白雪のことを思い出して泣いていたニコルに追い討ちをかけるような真似は絶対にしないと信頼しているが故に気になるのだ。


 それにここにはあまり長くは居たくない。また、色々なことを思い出してしまうからだ。一つひとつの思い出は今でも宝石のように輝いているため、思い出のあるところに来れば嫌でも思い出してしまうのだ。


「これを見てください……」


 ベットの横にある小さな二段のダンスを開けると、そこには小さな手紙が入っていた。一体誰の手紙なのか理解出来ないため、不思議そうに顔をかしげるニコル。


「私はこの部屋にこの手紙が存在する限り、誰も部屋に入れないと誓った……見てください。ニコルさん宛ての手紙です……」


 その言葉で誰からの手紙か察することができたニコルはそっと手を伸ばすが、止めてしまう。緊張か、あるいは恐怖で手が震え、体が強張り伸ばした手が先に進まない。一体何がかいてあるのだろう?などといった感情より、先ほどまで心配していたことが頭によぎる。


 自分は白雪と一緒に居て幸せだったが、白雪は自分と一緒に居て幸せだったのかという疑問。白雪から伝わってくる愛を疑う必要などなかったが、幸せかどうかはまた別の問題だ。好きな人が傍に居ても辛い時や苦しい時があるように別なのだ。


「私達は内容は見ていませんが……まぁ、なんとなくは察することが出来ますけど」


 緊張か、恐怖で震えた手を無理あり動かし、手紙を掴む。裏は白紙だったので表を向けるとそこには〝柏原ニコルへ〟という文字が添えられていた。柏原は白雪の名前だ。つまり、この手紙には結婚したということが伝わってくるのだ。


 風切って中を開けるて目を通すと、直ぐにニコルは手紙を閉じた。内容は誰にも見えなかったが、かなり短い文だということは見た秒数で察することができるが、不思議なことにニコルは再び涙を流していたのだ。


 先ほどとは違い、不意に流れる涙ではなく、自分の意思で嬉しいと思った涙。嬉し涙が雨のように降ってくる。瞳から流れる透明な雫は本当に透き通っていた。まるで、白雪との楽しかった三年間が詰まったような綺麗な涙。


「白雪っ……大好きだよ……」


 流れる涙は洪水のように止まらない。しかし、ニコルの心は先ほどとは比べ物にならないほどに軽く、そして全てを信じることができる。自分が好きになった相手に間違いはなかったこと、白雪のことが大好きで愛していたこと。そして、何より、二人共幸せに感じていたことがニコルに何よりも嬉しかったのだ。


 静かに涙を流すニコルは白雪に誓う。大切な人、愛してやまない人に誓うということは一生の契約と等しく、それはニコルを縛る物になってもその契約を果たすということの意思表示。


 右手に嵌められた指輪をそっと撫でて、下でナースに抱えられているキサラを守って生きていくというそういゆ契約を白雪を大好きな心に誓ったのだ。




***********







季節はめぐり、五年の歳月が流れた。キサラは幼稚園に通い、ニコルは絵本の才能は発揮して、今は余裕を持って生活できるほどにまでなっている。近所との付き合いもうまくいっているため、不満などない生活を送っている。


 あの日、白雪が書いた手紙を読んでからニコルは一度も泣いていない。不安だった愛は確かめられたから。そもそも、不安に思うことなど皆無だったのにニコルは不安に思っていた時代があった。


 自分と一緒に居て幸せなのか……という愚問に悩んでいたのだ。だが、そんなこと気にする必要などなかったことに、手紙を読んでから気がついたニコルは最愛の人である白雪に負けないほどの愛を注ぎ込んでキサラを育てている。


「ママ!だっこ!」


 両手を広げてニコルに抱きつくキサラ。その姿はとても可愛く愛しさがこみ上げてくる。あの日、キサラを守って育てていくと決めた日からクリスに見てもらうのはやめ、両立してやるようになったニコルは、母親としても成長した。もちろん、週に一回ほど様子を見に来てくれるクリスには頭が上がらない状態で、過去の使用人とお姫様という関係は見る影もない。


 今や、仲のいい家族のように見えてしまうほどだ。互いに使用人とお姫様という仲にも絆や信頼があったためにこういう関係になれたのだろうと思うニコルは周囲に人々にも感謝している。


 幼稚園でキサラの世話をしてくれる先生や、近所に子供、母親など様々な人達に囲まれて、支えられて生きているということを実感したニコルは人間としても成長したのだ。


 そして、ある日。キサラを幼稚園に迎えに行って、家に戻ってくると同時にクリスが家にやってきた。


「どうしたの……」


 額に汗を滲ませて、息を荒くしているクリスを見て何か重大な出来事が起こったことを察したニコルは表情を引き締める。ここ五年間でクリスがこれほどまでに慌てた様子など見たことがない……いや、今までに見たことがないので緊張が走る。


「ニコル……今すぐ、出かける準備をしろ!ローラ様が……倒れた!」


「倒れた……」


 ニコルは一瞬だけ放心状態になったが、直ぐに用意を始める。家を捨てたとはいえ、自分を育ててくれた祖父が倒れたと聞いたら焦らずにはいられない。それに、もうニコルは失いたくないのだ。自分の大切な人を。


 直ぐに用意をして、家を飛び出したニコル。家の車をクリスに出して貰い、隣にあるロンドンに急ぐ。数十分ほど掛けて、ロンドンに戻ったニコルは八年ぶりに屋敷の門を潜る。


 八年間帰ってこなかった屋敷なのに、まるで昨日も来たように新鮮に覚えている。廊下は埃一つ落ちていないほど綺麗に掃除されており、母親になってニコルにはその大変さが良く理解出来る。今も屋敷には優秀なメイドが居るのだと理解出来た。


 廊下を歩き、祖父の部屋に向かう。除々に花瓶が大口になっていくにつれて肖像画などむ増えていく。それもニコルが出て行く前と同じで、祖父の部屋が近くなってること証である。


 五分ほど歩くと、大きな扉が現われた。ローラ家で一番大きな扉がある部屋は祖父……屋敷で一番権力を持っている者が使うというローラ家で代々そういう約束が存在するのだ。


 扉の前で立ち止まると同時に声が響く。そのこれは切羽詰っている声を出しながら足音が聞こえるのでニコルは周囲を見渡すと、そこには屋敷に居るメイドを統括しているメイド長の姿があった。


「クリスさん!大変です!!」


「……何があったんだ?」


 クリスはニコルの祖父から絶大な信頼を得ている。なので十年以上も世話係として雇っているので、屋敷の中に居る使用人の中では一番権力を持っているので他の者はクリスを頼るのだ。


「それは向かいならが話します。とにかく来て下さい!」


 クリスはニコルに視線を送る。それに気がついたニコルは頷くとメイド長と一緒にどこかに向かう。一人になったニコルは部屋をノックしたが返事がなか

ったが、扉を開ける。


「失礼します……」


 中に入るとそこも昔と変らないままだった。豪華な花瓶や肖像画などが飾ってあり、いかにも権力者という部屋をしているのも相変わらずで、ニコルは少し懐かしさを覚えると当時に白雪を思い出す。


 ローラ家を捨てると決意させてくれた大好きな人……今はこの世には存在しないが、ニコルの心の中や記憶の中には白雪の存在は確実に居る。笑顔や怒った顔に困った顔、その全てがニコルの中には存在しているのだ。


 ベットに向かうと祖父が寝ていた。周囲に人は誰も居らず、今は落ち着いているのだと理解出来た。背中に背よって居るキサラが興味ありげに周囲を見渡しているので、下ろして自由にさせる。


 八年ぶりにみた祖父はかなり老いを感じさせた。昔は皺もまだ少なかったのにな、など考えていると、不意にノック音が響いた。


「あ、はい。入ってください……」


 使用人だろうと思った瞬間、部屋が何かに包まれるような感覚を覚えたと同時に一人の人が部屋に入ってきた。全身を黒いローブを被っていて、右手には細いレイピアを持っている者……他の人間とは何かが根本的に違うと感じさせるような空気。ニコルは瞬時に察することができた。目の前に居るローブは同じ人間ではないと。


 そして、魔術閉鎖空間イージスの中に居るということは祖父、ニコル、そしてキサラには召喚者としての素質があるということになり、黒いローブは驚いた様子だったが、直ぐに人間だと察したのだろう。


 人間と召喚者には根本的な違いが存在する。身体能力なども比較にならないほど変化すが、魔力があるかないかが一番の違いだ。召喚者……そして〝魔女〟である黒いローブには魔力を見極める力が存在する。それは〝魔女狩り〟よりは正確ではないが、それでも普通の人間……素質があるないなど、覚醒に近いなどといったのは見極めることができる。


「ママ、この人誰?」


 キサラが可愛げに首を傾げてニコルに近づこうとした瞬間〝魔女〟は魔力を媒体にして氷の矢を造形し、ニコルに向けて放つ。それは偶然なのかあるには覚醒が近いからなのか理解出来が、人間には回避することなど出来ない速度にも関わらずニコルは何とかは回避したが………そこまでだった。


 回避して立ち上がろうとした瞬間、レイピアで首を切られそのまま地面に倒れた。胴体と首が切断され、即死のニコル。周囲には大量の鮮血が飛び散り、近くに居たキサラにも鮮血を浴びる。


「……え?」


 キサラには何が起こったか理解出来なかった。本来召喚者の動きは人間には見えない速度のため何をされても認識できない。覚醒していないキサラ……それもまだ子供ならなお更だ。


 だが、キサラにも一つ理解出来ることがあった。それは五歳にしてはっきりと感じていた感情。自分の母親が目の前で殺されたこに対する憎しみという感情で、五歳の子が感じる物ではない。


 しかし、感じた。確かに憎しみという感情を。そしてそれは覚醒のトリガーとなり、向けられる殺気と交わり一つの魔法陣が浮かぶ。魔法陣は回転しながら速度を上げ、一定以上にまで上がると周囲に雷を放出させて一つの武器が召喚される。


 武器を見た瞬間〝魔女〟は目を見開く。小さな子供が持っている武器はあの戦争を勝ち抜いたとされる武器……〝三日月雷鎌ライトニングムーン〟だったのだから。


 〝魔女〟は戦うことを諦めて逃げることにした。まだ子供であるキサラを風で飛ばし壁に叩き付けた一瞬の隙をついて逃走した。これがキサラが召喚者になった初めての時だった。



*************


 あれから十年。様々な実戦を繰り返し、母親を殺した復讐をするために国を渡り歩いていたキサラは戦争に選ばれた。そして、母親を生き返らせるという目的のために約束エンゲージを結ぶパートナーを探す。


〝日本に行ってみたらどうだ?〟


 召喚者になってからずっと近くにいるローに言葉でキサラは日本に行くことにした。召喚者が最も早く出た国である日本は発祥の国とまで言われているのだが、今はただの平和ボケした国に変化している。


〝日本に行くのならば名前を考えないと……本名を明かすのはやめておけ〟


「わかっていわ……」


 考える素振りを見せるキサラだったが、直ぐに浮かんだようだった。


「桜白雪……これでいくわ」


 それは、桜のように満開の笑顔で笑うニコルと、父親である白雪から取った名前だ。


〝うむ。別になんでもいいが……それでは行くか〟


「ええ」


 そしてキサラ…・・・白雪は向かう。この後、運命に近い出会いがあるなど考えもしないで。








 


読んでくださりありがとうございました!

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